追放された悪役令嬢と転生男爵のスローで不思議な結婚生活

ヒーター

紺と菫のラブラブな会話(:紺)


View.シアン


「ごめんって。イオちゃんが可愛くてつい、ね」
「そうか。可愛くて良かったなシアーズさん」
「おお、距離が遠くなっている……申し訳ございません、次からはそのような事が無いように致しますので……」
「いや、そこまでしなくても良いのだが……」
「友達だから許してくれる?」
「……それを言えば許して貰える訳じゃないぞ、シアン」
「はは、ごめんね。ところでお揃いの方は本当にはしてみない? クロとか喜ぶと思うよ?」
「それを言えば私がなんでもする訳じゃないぞ、シアン。……考えておこう」
「え、良いんだ」
「アプリコットとも話したが、やってみたいと思わなくも無いからな」
「おお、ついにイオちゃんが……!」

 軽口を言い合う私とイオちゃん。ちょっと前の拗ねも今は無くなり、気を張る必要が無い雰囲気のまま話が進む。
 なにか生産性のある会話という訳でも無いが、これはとても良い息抜きであり、楽しい事だ。イオちゃんもそう思ってくれたのなら嬉しいと思う。

――それにしても、去年の今頃には公爵家のお嬢様とこういう風に話せる日が来るとは思ってもみなかったね……

 私の中の貴族は、良いヒトも居るけれど何処か妙なプライドで見下す、というイメージが強かった。クロのような貴族は稀だと思っていた。
 だけど今は貴族の中でも最高位の身分の一家のお嬢様相手に、こうして気を使う事もなく、互いに素に近い状態で話し合う事が出来る間柄になっている。
 初めはクロの結婚相手が公爵家のお嬢様と聞いた時少し不安であったが、まさか今ではこうやって私と友達として日常を過ごせるほどになるなんて、世の中なにが起こるかわからないものである。

「あ、もしかして可愛いスリットをしたくなった理由って、今の身体の内に、という事も有ったりする?」
「……そういうのは分かっても言わない方が良いと思うぞ」
「お、図星だね。だけど良いでしょ、そういう事を話せる友達が居てもね!」
「……まぁ、そうだな。とはいえ、クリームヒルトやアプリコット辺りもそういった事は普通に話してくるとは思わなくもない……というか、私の周囲の女友達は気にし無さそうな者の方が多い気がする」
「確かにー。……はぁ。私もイオちゃんみたいに神父様と結婚してラブラブするのかな」
「ラブラブ、か……言いたい意味は分かるが」
「そうだ。イオちゃん、その時になったら参考に経験談を教えてもらうかもしれないからよろしくね」
「っ!?」

 私が何気なく呟いた発言に、イオちゃんが綺麗な姿勢を崩してこけかけた。
 私は身体を抑える体勢にはなったけど、大丈夫だと手で制してその場に留まる。

「け、経験と言われてもだな。そういった類は妄りに話すモノではないだろう?」
「ふふ、平民や冒険者の間では昨日はどうだっただの誰とはなんだっただの、話すのが普通なんだよ。そしてそれを参考に自分も望むんだよ!」

 まぁ大抵は話題として消費されたり、見栄だったりで参考になる事はほとんどないだろうけどね。それはそれである。今はイオちゃんを丸め込めればそれで良い話だ。

「た、確かに私も見て気はしたし、貴族のパーティーでも小さな声でひそひそと話しているのは見た事はあるが……」

 あるんだ。けど昔のイオちゃんだと嫌悪してその場を去りそうではあるけれど。

「ほらほら、話してくださいよ先達者! 三歳年上の私より経験があるんだぜと自慢して良いんだよ!」
「そういった類は自慢するものでは無いと思うが……それに、経験を知りたいのならレモンさんや……それこそマゼンタさんに聞けば良いのではないか? 彼女は経験豊富だと思うぞ」
「マーちゃんは私と性のジャンルが違うから駄目なんだよ」
「性のジャンルとはなんだ」
「ようは私がグイグイ責めてマトモに誘って互いに楽しみつつ出来ると思う? って事かな」
「…………そうだな」

 自分で言っておいてなんだけど、納得されるのも複雑である。
 というかマーちゃんは誘う時は誘うだろうけど、割と選り好みはするし、クロには誘っていると言うが私は誘っている所は見た事無い。だから言うほど経験豊富でも無い気がする。それに子供がいる親として責任感は持っていた気もするしね。

「……まぁ、参考になるのなら話しても良いが、あくまでも私の場合はこうであった、だからな。あまり鵜呑みにはしない方が良いと思うぞ」
「はーい」
「あと神父様はメアリー達が言っていた謎の言語であるベッドヤクザ……いざとなると強気のエスが強いだろうから、シアンは頑張れよ」
「っ!? が、頑張る……い、いや、神父様は優しいから大丈夫!」
「悪人相手にスイッチが入ってヒトが変わる様に、シアンが止めてと言っても止められないと言って攻めてくるかもしれない。ラブラブしたかったら、覚悟は決めておくのだな」
「そんな事は……」
「ありそうだとも思ったし、それもそれで悪くはなさそう、と思ったな?」
「うぐ……イオちゃん、私を揶揄って楽しい?」
「普段であれば私も言わないさ」

 イオちゃんはそう言いながら「してやったり」とでも言いたげに、イジワルな笑顔を作りつつ私を揶揄う。大抵こういった事はクロにしかしないのだけど、先程までのお返しだとでも言わんばかりである。……こうして見ると、イオちゃんって結構エス気が強いよね。ラブラブの際もそうなのだろうか。

「だが、シアンは告白が遅れて結婚も遅れて、可愛い可愛い弟の様な後輩に先を越されないようにする事だな」
「うっ。それは……流石に無いと思……無い、と……」
「……そこで言葉を詰まらせると私も困るんだが」

 無いと思いたいけど、スイ君ってなんとなく決めたら真っ直ぐな気がするし、シュネ君側の方はとても積極的な気がするし……い、いや、流石に無いよね! 私だって最高の告白をするのにそこまで臆病だったり照れたりしないはずだ!
 だから私はハッキリと「無い!」と宣言すればそれで良いはずで――

「わー、やめてマゼンタちゃん!? 僕の服を脱がそうとしないで!」
「そうはいかないよヴァイス先輩! 私をその気にさせたからにはすぐにでも実行! さぁ、私の愛を受け止めるが良い!」
「ちょ、お願いだからやめて! せめて自分で脱がせて! そうすれば覚悟も決まるから!」

 ――良いはずで……

「……シアン」
「……なに、イオちゃん」
「……大人になると“最近の若い子は進みが早いと思うようになる”と聞くが、その通りかもしれないな」
「……私達、まだ十代なんだけどね」

 私とイオちゃんは視線の先で起きていた光景を見て年寄りみたいな会話をした後。流石に止めるべきだと思い、二人でスイ君達の所へ向かうのであった。

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