追放された悪役令嬢と転生男爵のスローで不思議な結婚生活

ヒーター

不吉な予感(:紺)


View.シアン


 私の名はシアン・シアーズ。
 身長は百六十くらいで、体型は突出して言う事は無いような体型。瞳と同じ紺色の髪は、癖毛なので伸ばすと曲がってぶわっとなり大変な事になるし邪魔なのでそこまで長くは無い。
 勉強は子供に教える程度には出来る方だけど、そこまで優れてはいないし、勉強するよりは身体を動かしたりする方が私は好きだ。
 私はそんな、シキという地の教会にてシスターを務める、恋をする何処にでも居る女である。

「あ、シアン。おはよう。すまないがマゼンタを呼んで来てもらえるか。そろそろ朝ごはんだってな」
「おはようございます神父様。分かりました」

 恋をする対象は、朝食をする姿をずっと見て居たくなる様な男性であるスノーホワイト神父様。雪のように白く綺麗な髪、背が高く、笑顔は柔らかくて癒され、家事スキルに優れるとてもお優しい男性だ。特に料理はとても上手くてシキの中でも一、二を争う。
 恋する対象、とはいえ私の片想いなのではなく、以前ちょっとしたキッカケから付き合う事になり、今は両想いの彼氏彼女の関係での同棲生活中である! ……以前から教会に住んでいるのは私と神父様だけだったので、以前も同棲生活と言えば同棲生活なのだろうが、晴れて付き合い始めてからの生活は大きい変化なのである。なんだか変わらない気もしないでもないが、あらゆる感情に鈍い神父様との仲は確かに進展しているのである。

「それとヴァイスもおはよう。食器を並べて置いて貰えるか?」
「おはようございます。分かりました、神父様」

 とはいえ、今は二人きりの同棲生活をしているという訳でも無い。
 神父様に言われて食器を並べ始めたのは、先程まで私と一緒に朝の祈りを捧げていたスイ君。
 私と違って癖の無い綺麗な白い髪に、私なんかよりキメ細やかでとても白い肌。可愛らしくも凛々しい顔達は、世の女性を虜にするだろうと思える私の後輩修道士見習いだ。
 性格は素直で真面目、彼も料理が上手で私にとっては弟のように可愛く思える存在だ。最近は早くも後輩が出来たので、未熟ながらも先輩として頑張ろうと意気込んでいる。
 ……ただちょっと困ると言うか謎な所がある。私や後輩の子が近付くと何故か顔を赤くして距離を取るのである。白い肌の影響かすぐ顔が赤くなるのが分かるのだが、熱がある訳でも無いし……謎である。
 神父様は理由が分かっているようなんだけど、教えてくれないし……まぁ、男の子にしか分からない特別な事、というやつなのだろう。私は変わらず接してあげれば良いはずだ。

「では、呼んできますねー」
「ああ、頼むぞシアン」

 彼氏である神父様。弟のようなヴァイス君。そして最近……というか昨日からさらに新しい子がこの教会に増えた。

――部屋に居るかな、マーちゃん。

 名前はマゼンタちゃん。私が付けたあだ名はマーちゃん。
 優しくて人当たりが良く、クロが言っていたメアちゃんのように社交的で、神父様とスイ君にも好感触な優しい性格。
 フワッとした長めの桃色に近い赤髪に、優しく妖しい紫の瞳。
 身長はヴァイス君よりちょっと低いくらいの小柄で、細いというよりは引き締まっている言える四肢を持つ華奢な少女。
 その特徴からリムちゃんの様な“守ってあげたくなる女の子”という表現が似合いそうだけど、彼女の場合は違う。

――なんというか、大人の様な頼もしさもあるんだよねー

 彼女を女性、女子、婦女といった表現で表すとしたら間違いなく“少女”なのだが、何故か不思議と大人のような魅力もある。無垢であるが濃艶というか……不思議な色香があるのだ。

――クロやイオちゃんに事情は聞いているけど……

 とはいえ、大人の様な、というのも色香がある、という私の感想には別に荒唐無稽という訳でも無い。
 詳細は聞いてはいないが、彼女はフォーちゃんと同じ夢魔族サキュバスと呼ばれる存在であり、とある理由で若返っているそうだ。だから大人の色香を覚えるのも間違いではない。
 元の年齢や彼女が何者なのかは聞いていないが……紫の瞳と名前から推して知るべし、というやつだろう。

――とはいえ、友達の女の子として接するけどね。

 しかし今の彼女は私の後輩であるシスター仲間のマーちゃんだ。
 過去になにがあったかは知らないし、いざという時の対策とかもクロから聞いてはいるが、私は服装の趣味を共有できる後輩兼友達が出来たとして彼女と接するつもりだ。彼女も敬われる事を望んでいる様子はなさそうだし。
 彼女に対する不安なんて、神父様に惚れてライバルとなりやしないかとか、魅力的なマーちゃんに神父様が目を奪われないかとか、スイ君に変な事を教えないかとかくらいだ。

――特にあのスリットの可愛さで、神父様やスイ君が惑わされなければ良いけど。

 あとは私には無い無垢さと色っぽさ、そしてスリットで可愛いに惑わされないようにしなくては。
 スイ君も年頃の男の子だし、あの優しさと距離の近さには注意しないと――ん、なんだろう。何故か“お前が言うな”的なお告げを受けた気がする。……気のせいか。私とマーちゃんは違うタイプだしね。

――さて、ともかく今日はマーちゃんが来てからの初めての朝!

 昨日突然来て、スリットをどう入れるかと相談し合ったり、部屋をどうするかとか互いの紹介とかでバタバタしていた。
 今日は改めて友好を深めたり、神父様やスイ君ともキチンと話したりする重要な日だ。

――そしてダブル可愛いシスター服デビュー!

 なによりも私と同じ可愛いシスター服でシキで活動が出来る!
 マーちゃんもスリットシスター服を気に入ってもらったし、教会関係者特有の下着無しに最初は抵抗があると思ったけど大丈夫そうだったし。むしろ「開放的で新感覚!」と良い反応だった。
 今日は生憎のどんよりとした雲模様ではあるが、シキで思う存分振舞う事が出来る。ふ、ふふふ、皆がどんな反応をするか楽しみだ……! 特にマーちゃんは可愛いし、可愛いの相乗効果が生まれる……!
 ……けど何故か神父様とスイ君は複雑そうだったんだよね。スイ君に至っては初対面のマーちゃん(スリットシスター服着用)に顔を赤くしてたし……まぁアレは初対面の女の子に照れていたんだろう、多分。

「マーちゃん、起きてるー?」

 ともかく、同性のシスターと一緒に過ごすというのは数年ぶりだ。私は楽しみの気持ちを心に抱きつつ、マーちゃんの部屋をノックする。

「はーい、どうぞー?」

 すると部屋から返事が返って来た。どうやら朝起きるのは苦手な子ではないようだ。
 私は返事をされたので扉を開け、中に入ると――

「お、似合ってるね。流石はマーちゃん!」
「ありがとね! シアン先輩も朝から可愛く決まってるよ!」
「ありがとう!」

 そこにはシスター服に身を包み、可愛らしい笑顔で出迎えるマーちゃんの姿があった。
 スリットから覗く太腿や足……うん、可愛くて良い!

「マーちゃんは可愛くて神父様が魅了されないか心配だね……」

 可愛いが、ここまで可愛いと神父様がマーちゃんの魅力に魅了されないか不安だね……その辺り神父様は鈍いので安心と言えば安心な所は有るけど、最近私のスリットのエ――……ではなく、可愛さにも惹かれているみたいだしね……

「神父君? シアン先輩神父様の事好きなの?」

 あれ、昨日言っていなかっただろうか。
 私は神父様への好きだという想いを語る――と朝食が冷めてしまうので、好きという事と、最近付き合い始めた事を簡単に説明した。

「へぇ、という事は私が頑張らないとね。シアン先輩の分も働けるようにならないと!」
「? その心意気はありがたいけど、なんで急に?」
「? それはまぁ、神父君と最近付き合い始めたんでしょ?」
「うん」
「一般的につわり中で働くの難しいからね。酷くなる前に私が働けるようにならないと!」
「ごふっ!!!??」

 私は今までにない勢いで心を乱した。
 な、なにを言っているんだろうかマーちゃんは!?

「ま、まだそれは無いから大丈夫かな。うん、まだ不要な心配だよ、うん、まだ」

 私は動揺しつつも、まだそういう事は無い……というか有り得ない事を告げる。まったく、マーちゃんは気が早いにも程がある――

「……?」

 ――……あれ、なんだろう。私に否定されたマーちゃんの表情はなんというか……?

「そうなんだ。まぁ辛い時が有ったら私に言ってね。その時とかその前の時とか、私はアドバイス出来るからね!」

 ……いや、気のせいかな。マーちゃんはなんか読みづらい時があるから、先程のもその一種だろう。

「ま、まぁその時の参考は多い方が良いからね。その時はお願いね」
「うん! ところでシアン先輩はなにしに私の部屋に?」
「あ、そうだ。朝食の時間だから呼びに来たの」
「朝食……。あ、そっか、そんな時間か。じゃあ一緒に行こうか」
「……うん」

 ……なんだろう、今の妙な間は。まるで“自分がこの時間に朝食を食べる”という事が繋がらなかったかのような間であった気がした。
 ……さっきから変だね、私。多分マーちゃんの妙な発言に戸惑って思ったより動揺しているんだろう。
 今は神父様の作る美味しい朝食を皆で食べて、今日のマーちゃんデビュー日を彩る事を考えるとしよう。

「それにしてもシアン先輩」
「どしたのマーちゃん?」

 そして彩る事を考え、朝食の場に向かおうとした時に呼び止められた。
 私はマーちゃんの方を向くと、そこに居たのは――

「今日からシキで過ごす訳ですが――皆で幸福になるよう、頑張りましょうね」

 ――そんな不吉な予感がする言葉を言う、妖艶な笑みを浮かべる彼女の姿であった。

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