追放された悪役令嬢と転生男爵のスローで不思議な結婚生活

ヒーター

とある夫婦が料理をして


「ハッハー! 父上達に呼び出されて出て以降一週間ぶりに戻ったぜシキ! ところでクロ、麗しき令嬢がシキに滞在中と聞いたんだが、何処に居るんだぜ!?」
「お帰り妹に言いようにされていただろう愛に生きる男。恐らくその御方は宿屋に居るだろうが、彼女はやめておけ。お前になびく事は無い」
「やってみなくちゃ分からないんだぜクロ! 試す前からやめる様な男に愛は語れないんだぜハッハー!」
「そうか。じゃあ止めないがその女性はお前がシキに来る原因になった女性の義理の御息女だ。聖槍を邪槍にしないよう気を付けてくれ」
「オーケー、分かった。俺は彼女の滞在中瞑想で気を静めているぜハッハー」

 午前はシキを周りながら領民達と今の様な世間話をしながら意見を交わし合い、昼食を摂りながらシキに来た市参事会の方と打ち合わせをした。
 打ち合わせが終わり市参事会の方を見送った後、大地の神と話し合いと言う名の模擬戦を行っていたという四日ぶりにシキに帰って来たロボを捕獲し将来の母親候補に差し出した。

「ク、クロクン! アアアアアノ、ワタシハマダ結婚スルト決マッテイル訳デナイノニグイグイト来ラレタリ、ルーシュクンノ好キナ所トカ聞カレルノデスガ、助ケ――」
「頑張れロボ。嫁姑問題は嫁ぐ中でも重要な問題だ。今の内に仲良くなってく事をおススメするぞ。ではなロボ!」
「クロクン!?」

 ロボは既に娘扱いかの様な接し方に戸惑い俺に助けを求めたが、将来のためだから逃げないようにとロボに言って俺は逃げ……もとい説得して親子(候補)水入らずにしてさしあげた。多分この後には戦うか温泉に入るだろうと思う。

「アンバーさん、お疲れ様です。夕食までおやすみになって良いですよ」
「ふふ、ありがとうございます……ですが御主人様の香を嗅がせて頂ければすぐに回復をするのですが」
「はい、すぐに回復しなくて良いので休んでください」
「御主人様が冷たい……その冷たい香も良い……」
「アンバーさんって性癖に関して結構強いですよね」

 ロボを生贄――もとい話す機会を与えたついでにその母親候補に装飾や色の好みを聞いておき、市参事会の方と打ち合わせをする前に採寸以外に少し借りたいと言われたので貸し出していたアンバーさんを回収し、ロボを差し出すまでロボの母親候補にある意味では振り回されていたアンバーさんに夕食まで休みを与え、バーントさんにフォローをお願いした。

「最近はバーントとアンバーに任せきりで作っていなかったからな。偶には私が料理を作るよ」
「おお、それは嬉しいですね。俺も手伝いましょう」
「ありがとうクロ殿」

 そしてヴァイオレットさんが「偶には料理を作りたい」という要望により夕食の準備に取り掛かったので、俺も手伝う事にした。
 最近は……というか、バーントさんとアンバーさんを雇ってからはずっと彼らに任せていたので少々久しぶりの料理である。
 俺は料理の腕に関してはそれなり程度であるので作ってくれるのはとてもありがたいのだが、偶には料理を作るのも悪くない。むしろヴァイオレットさんと並んで料理とか素晴らしいと言えよう。

「そういえばエメラルドのやつ、コーラル王妃とそれなりに仲が良くなってみたいですよ」
「ほう、こう言ってはなんだが意外だな」

 そして料理の準備をしながらヴァイオレットさんと会話をする。
 刃物を扱っている時などは話さないが、炒めたり下拵えしている時を見計らっての会話である。

「どうやらお父さん……グリーンさんの件で色々あったみたいなんですが」
「ああ、確かスカーレット殿下が生まれた時に、マゼンタ様の助産師であった、だったか」
「はい。その辺りは複雑なのであまり聞きませんでしたが、それなりに上手く落ち着いたそうです。それでその後スカーレット殿下の付き合っている者として好きな所は何処かと聞かれたそうですが」
「……エメラルドのやつは“そもそも付き合っていない、あっちが勝手に言っているだけだからそんなものあるか!”と言いそうだな。そしてグリーンさんが胃を痛めそうだ。あ、そっちの白い皿を取ってくれ」
「白ですね。そうですよね、思いますよね」

 俺もヴァイオレットさんの心配に同意しつつ、バーントさんとアンバーさん達によって綺麗に並べられた食器棚の皿の中から白い皿を四枚取り出した。
 エメラルドは偶に思い出したように敬語を使う時もあるし、面倒にならないように畏まった態度もする時もあるが、基本は口が悪い女の子である。そう心配するのも無理は無いというものだ。

「ですけど、付き合っていないという事を前提に、好きな所と嫌いな所を素直に言ったそうです。皿どうぞ」
「ありがとう。だが嫌いな所?」
「ええ、嘘偽りなく、“嫌だというのにくっ付いて来るのはヒトとしてどうかと思う”とか素直に答えたそうです」
「それは……大丈夫だったのか?」
「ええ、むしろその両方を聞いてコーラル王妃は“娘を殿下ではなく個人として素直に見ている”と、スカーレット殿下を個人として仲良くしてくれているのだと、気に入ったそうです」
「ほう、それは良かったな」
「ええ、とても良かったです。これからどうなるかはエメラルド達次第ですが、まずは一安心、ですね」
「そうだな。彼女らの恋が成就する事を願おう」

 俺は卵をときつつ、ヴァイオレットさんは皿を脇に置いて野菜の仕込みを再開する。
 個人的にエメラルドとスカーレット殿下の仲の良さに関しては、正直言うと恋愛というよりは親友の類の関係に見えるのだが、互いに恋愛した上でヴァイオレットさんの言うように、恋が成就するのならそれに越した事は無い。俺もエメラルドの友人としてそう思う。

「ああ、そういえば恋の成就を願う相手で、ある意味では一番不安なブラウンなのだが」
「俺達よりある意味では恋と愛の違いを理解していたという意味で不安ですか?」
「若干それもあるが、違う。年齢差などの事だ」
「年齢差といっても、エメラルドとスカーレット殿下とそう変わりませんよ? ……まぁ気持ちは分かりますが」

 エメラルドとスカーレット殿下は九歳差。ブラウンとフォーンさんは十歳差だ。年齢差で言えばそう変わらないのだが……ブラウンの方が七歳なので、前世で言うと入学した小学生に高校生最高学年が恋をしているという、色々規制が入りそうな間柄である。
 まぁスカーレット殿下の方も社会人が中学生に――やめよう、危険な話題な気がするし、この手の話を考えると俺は中年が高校生に手を出した類になるし。愛があれば年の差なんて関係無いさ! ……クリームヒルトの初恋キャラ作品で言うと江戸川コ〇ンに本気の恋をする毛〇蘭姉ちゃん……よし、やめよう。

「それで、ブラウンとフォーンさんがどうされたんです? あ、卵どうぞ」
「ありがとう。仕込みが終わったから、これを煮ておいてくれ。で、年齢差はともかく宝石の話があっただろう? それで、もっと強くなろうと鍛えているらしくてな」
「煮込み了解しました。ですが、良い事ですね。好きな子の前で格好つけたい、というやつなんでしょうね」
「そうだな。それで……明日コーラル王妃との戦いを取り付けたらしい」
「……頼むのは身分を隠しているというのも有るでしょうが、子供故の恐れ知らず、というやつなのでしょうね」
「……だろうな。まぁシキの領民に身分の恐れを期待するのは難しいだろうが」
「難しいというほどでは無いですが、期待は不可能でしょうね」
「その言い方の方が酷くないか? おっと、中火中火、と」
「こっちは強火で沸かした後に弱火でコトコト、と」

 殿下達が大集合したあの時ですら、アイボリーやカーキーなど一部を除きいつも通りを貫いた奴らだ。王妃という立場だろうと我を貫くのは目に見えている。
 今回も含め相手があまり気にされない方ばかりなのが幸いだが、相手に甘えるのも良くは無いだろう。一応改めて注意喚起はしないとな。……ま、それでも今回の事はブラウンに軽く注意はするが、幼い子の恋路を守るためだ。大人である俺がフォローしてあげよう。

「しかし、ブラウンもそうですがこの一年で色んな奴らの恋愛を見ている気がします」
「確かに。私も見ている気がするよ。とはいえ、去年の今頃はそういった類を否定していたからかもしれないがな」
「はは、では俺は否定を肯定に変える事が出来た男、という事でよろしいですか」
「お、クロ殿がそう言うとは珍しいな」
「この一年で俺も成長しているんですよ。……うーん」
「どうした?」
「こっちの煮物ですが、どの皿に盛り付ければ良いと思います?」
「そうだな……あちらの青と白の皿が良いのではないか? これだ」
「ああ、確かに見栄えがよくなりそうですね。ありがとうございま――」
『あっ』

 ヴァイオレットさんが食器棚から小皿を取り出し、俺は受け取ろうとして――ふと、手と手が触れ合った。

「…………」
「…………」

 意図しない接触に俺達はふと固まり、

「さ、さぁ、料理の続きをしようかクロ殿!」
「そ、そうですね。話しながらでは危険ですから、集中しましょう!」

 なんだかぎこちない空気と会話がキッチンの中に広がった。
 今更あの綺麗な指に触れた程度で照れる間柄でも無いのだが、なんだろう、この感情は。
 意図しない接触になんだか妙な照れを感じると言うか、妙に心臓の鼓動がやかましく聞こえると言うか……そうか、恋の話をしていたからつい変に意識してしまっただけだ。そうさ、そうに違いない。すぐに会話も出来るようになるはずだ!

「…………」
「…………」

 けれどヴァイオレットさんも意識……照れを感じているのか、会話が続く事は無く。なんだか妙な意識をしつつ、嫌ではないちょっと緊張した空気がキッチンを支配するのであった。
 ……ああ、本当に心臓の鼓動がやかましく聞こえる。

「……ねぇ兄さん」
「どうした妹よ」
「今まであれだけ見せつけるのに、ちょっと触れ合っただけで照れるという光景を繰り広げる、御主人様と御令室様の照れるポイントが分からないのだけど」
「ふ、まだまだだな妹よ。俺も分からん」
「分からんのかい兄さん」
「ああ、分からん。だが予想をするなら……」
「するなら?」
「意識してするのはともかく、無意識の接触はまだドキドキするのではないか?」
「……付き合いたてのカップルかなにかかな?」
「……まぁ新婚だし、間違ってはいないだろう」
「でも意識しても後で照れる事あるよね」
「あるな。新婚だから初々しいのだろう」
「だね」

 そしてそこのこっそり覗いている双子従者。やかましいぞ余計なお世話だ。
 ……否定は出来ないがな。

「追放された悪役令嬢と転生男爵のスローで不思議な結婚生活 」を読んでいる人はこの作品も読んでいます

「恋愛」の人気作品

コメント

コメントを書く