追放された悪役令嬢と転生男爵のスローで不思議な結婚生活

ヒーター

王妃の休日_10(:珊瑚)


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「しかし、久々のサウナは良い物だった。水風呂か雪原が無いが残念だったが」
「申し訳ございません、あくまでもあの建物がサウナとして機能するかどうかが今日の課題であったので……」
「ああ、すまない、責めている訳では無いんだ。水は私が魔法で出したし、その後温泉で汗も流せた。私にとっては充分だったよ」
「そう言って頂けると助かります」
「それに温泉も良いモノだった。お陰で娘達に会うのに汗臭く無くて済む」
「娘? スカーレット殿下とシキでお会いにでも?」
「いや、将来の娘候補だ。……そうだ、クロ君」
「なんでしょう」
「将来の娘候補であるクリームヒルト君だが、兄君としてどのような子かを知りたい。一応会ってはいるのだが、君の口から聞いておきたい」
「そうですね……性格面で言えば誰にでもグイグイ行く性格で場の雰囲気を明るく――」
「妹に良い印象を付けたいのは分かるが、私が知りたいのは“本質的”な話だ」
「…………。性格が明るいのは間違いないですよ。ですが実際は臆病で寂しがりな子です」
「ほう」
「なにせ前世で私が道を踏み外しそうになった時、私が自分の傍から居なくなるのが嫌なのと私に構って欲しくて、六歳にて大人数十人ぶっ倒してきましたから」
「それは本当に臆病で寂しがりなのか」
「ええ。自分が構って貰えないのは“自分が弱いからだ”と思って、強さを証明すれば良いと思っただけですよ。……まぁ実際は私が早熟だったクリームヒルトに女の特徴が出て、母の面影が見えたので避けたという兄として最低な行動だったわけですが」
「母?」
「父親候補が数人いて育児放棄して半年ぶりに帰って生まれて数日の妹を渡してそのまま去る母です」
「大体分かった。クロ君も苦労していたようだ」
「子供と認知して住む所を提供していただけマシですよ」
「確かにそうかもしれんが……それで、他に彼女について教えてくれないか?」
「一を聞いて十を行動でき、AからZ……別の事を思いついて行動できる才能を有し、それでいて何故出来たかを理解せずにやっている子です」
「……複雑な評価だな。天才だと言っているのには変わりないようだが」
「褒めていますよ。才覚で言えばヴァーミリオン殿下やメアリーさんに負けず劣らずな事は確かですし。ただ――」
「ただ、凡人が躊躇う事を躊躇わず、出来てしまう、か」
「え。は、はい。そうですね、その通りです……?」
「確かに彼女はあらゆる面で優れているようだな。バーガンティーが彼女の在り方に惚れたというのも分かる程にな」
「そのように言って頂ければ、かつての兄として嬉しいですっ」
「……本当に嬉しそうだな」
「? はい、とても」
「しかし才能がある、という意味ではクロ君、君も似たようなものでは無いのか?」
「私は運動能力を除けばクリームヒルトに勝てる要素なんてほとんどありませんよ。情けない話ですがね」
「なにを言う、君は領主として立派にやれているだろう。なにせこのシキを楽しい領民達で賑わせているのだからな。これはクリームヒルト君では出来るか分からない才能だろう」
「そのような過分な評価を受ける事が出来、嬉し――え、楽しい領民達……?」
「それにクロ君は服飾の才能も有ると聞く。そう考えると、クロ君は誰かを支える才能に優れているのやもしれんな。実際――」
「?」
「……実際、君は自分が褒められるより、自分の好きな相手が褒められる事を喜ぶタイプのようだからな」
「……そうでしょうか?」
「そうだとも。自分の外見を褒められるより、妻や子の外見を。自分が着飾るより、誰かを着飾らせるのが好きな男だよ、君は」
「……そうかもしれませんが、私は私を褒められる事も好きなのですが」
「フ、そうだろうな。君がそう思うのなら、そうで良いと思うぞ」
「なんだかズルい言い回しですね」
「あ、そうだクロ君。君にお願いがあるんだが」
「露骨に話題を逸らしましたね……なんでしょうか」
「贖罪云々はこれからの互いに今の自信の立場で、立派で正しいと思う事していくという事に落ち着きはした訳だが」
「そうですね」
「私の王妃という立場とは別に、コーラル……リア個人として頼みがある」
「はい、なんでしょう? 私に出来る事であればなんなりと」
「よし、じゃあ戦おう」
「……はい?」
「君は我が親友、マゼンタ・モリアーティの全盛期と言える肉体の状態と戦い、互角以上の結果を残したと聞いた。それを聞いて私は黙っていられん。――やろう」
「やろう、じゃないですよ!? 貴女様と出来る訳ないじゃ無いですか!?」
「立場など関係無い、私は君とやりあいたいんだ! さぁ、互いの全力を持ってぶつかり合おうではないか!」
「む、無理です、貴女様のお身体に触れるなど!」
「戦う者としてそのような事は関係無い! それに互いの身体はもう大体見合っただろう! 今更遠慮するな!」
「遠慮しますよ!」
「出来るのならなんでも出来ると言っただろう!」
「なんでもとは言ってないですよ!」
「くっ、強情だな、クロ君は……!」
「なんだか不当な扱いを受けている気がしますが……難しい話ですよ、コ――リアさん」
「……本当に出来ないか? 無理を言っているのは分かるが、私はやり合うのが好きでな。休みなのだから息抜きに思い切り身体を動かしたくて……」
「う。……今日の仕事が終わり次第でも良いでしょうか」
「! よし、良いぞ!」
「本当に好きなんですね」
「ああ。やはり強き者とするというのは良いものだからな」
「リアさんにそう言って頂けるのなら私も嬉しいですよ。では場所は――」

「……楽しそうな会話をしているな、クロ殿」

「む?」
「え、ヴァイオレットさん、いつの間にそちらに?」
「クロ殿がそちらの女性と楽しそうに会話をしている辺りからだ。具体的に言うと、そちらの女性が“やろう”と言ったあたりだ」
「あ、あの、ヴァイオレットさん。目が怖いのですが、何故そのような目で私達を……?」
「……ふ、気にする事ではないぞクロ殿。クロ殿は世界一魅力的な男性だ。多くの女性を虜にするだろう」
「はい?」
「……だとしても、そちらのリアという女性!」
「む、私か。なんだろうか、ヴァイオレット君――もとい、奥方」
「互いの身体を見合った仲と言ったが、私達はそれ以上にもっと見合っている仲だ!」
「ほう」
「ヴァイオレットさん!?」
「そして仕事が終わり次第、今日は私はクロ殿と夜の花を見に散歩する予定だ!」
「え、初耳ですが」
「今言ったからな。と、ともかく。貴女は魅力的な女性であり、クロ殿を魅力的に思うのも無理はないだろうが、私の愛しの旦那様を――褥に誘うのは遠慮願いたい!」
「なんの話ですかヴァイオレットさん!?」
「言っていたではないか、や、やり合おうとか、ぶつかり合って身体に触れるとか。……クロ殿、私よりもっと大きな胸が好きなのか……?」
「誤解ですよ!」
「でも、クロ殿は誘いに応じて……」
「誘いの意味が違いますから! それに俺はヴァイオレットさん以外に身体を許す気は有りませんからね!?」
「そ、そうか。それなら良いのだが……すまない、気が逸ってしまっていたようだ」
「……奥方、一つ聞きたいのだが」
「?」
「君は今、私がクロ君に男女の夜の誘いをして、クロ君が了承したと思ったんだな」
「そう――ですね」
「……つまり今の君は、奪われるのが嫌で嫉妬した。夫が了承しても、それを否定したかった。例え夫の意志に意を反してでも止めたかった、という事だな?」
「ええ、そうなりますね」
「……なるほど。クロ君、やはり今日の所は試合はやめておこう」
「え、良いのですか?」
「ああ、良いとも。今日は妻へのサービスの日にしてあげなさい」
「は、はい。分かりました」
「ではな。ご両人。滞在するしばらくの間、よろしく頼む」
「はい、それでは。……行きましたね。なんだったんでしょう」
「さぁ、クロ殿に分からぬならな、私には分からないな」
「それもそうでね。ではヴァイオレットさん」
「? なんだろうか、クロ殿――クロ殿!? な、なにを!?」
「お姫様抱っこです」
「な、何故それを急にしたのかと聞いている!」
「え。可愛らしい嫉妬をする妻に安心感を与えるため、そして逃げられない様にするために抱えて、このまま愛を語りながら屋敷に行こうかと」
「このまま!?」
「はい。俺が他の女性と関係を持つ事を疑った妻に、そんな事は無いと証明するために―ーずっと近くで語り続けるので、覚悟してくださいね?」
「う―ーでは、私も語り返すが、それでも良いか?」
「望む所です」
「そうか。……では、ゆっくり遠回りしつつ、帰るとするか」
「ええ、そうしましょうか。ゆっくりしなくては、語りつくせませんからね」



「……なるほど、アレは例え私が若返った姿で誘惑したとしても、入り込む余地は無いな。……ハァ。若さは眩しいな」

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