追放された悪役令嬢と転生男爵のスローで不思議な結婚生活

ヒーター

王妃の休日_5(:珊瑚)


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「本当に良いのかい、私で良ければクロ君を紹介するのに。戦う良いキッカケになると思うよ?」

 シキに着き、馬車を降りた後。
 王妃としてではなく、冒険者リアとして馬車で様々な事を話したシュバルツ君は、自身の商売道具が入っている大きめの鞄を手にしながら尋ねて来た。

「構わない。こういった類は自分で解決すべき事柄だ。宿屋の場所を紹介されただけでもありがたかったよ。それにまずはシキも見て回りたいからね」
「それなら良いけど……必要で有ったら言って欲しい。ヴィな君をViな私がシキの案内をする事でより良いBiが生まれるだろうから、私はいつでも引き受けるからね」
「ああ、ありがとう。君に事前に教えて貰った情報を頼りに自分の足で見て回るつもりだが、必要だったら頼むとするよ。では良いを!」
では!!」

 私が手を振ると、シュバルツ君も美しい仕草で手を振り返しながら教会へと去っていった。なんでもまずは弟に会いに行き、姉弟で色々と話し合いたいそうだ。
 馬車の中での短い間の会話ではあったが、彼女とはそれなりに仲良くなれた。文字通り親子ほど年齢の離れた子ではあったが、商人という職業柄なのか話が上手くて馬車の中で退屈せずに済んだ。こういった出会いも旅の醍醐味というやつなのだろう。……王妃という立場としては良くは無いが、偶にはこういったのも悪くない。

――ところで、良い美とはなんだろう。

 彼女につられて私も使ってしまったが、良い美が生まれるとか一体なんなのだろう。去る時の台詞もなんだか違和感があったが、彼女が言うと自然なモノとして受け入れてしまっていた。
 美しさに自負を持つ女性なので、自然と言葉にも“美”が溢れてしまっているのだろうか……?

――と、そうじゃない。シキに来た目的を果たさなくては。

 仲良くなった彼女の事はともかく、私は私の目的を果たさなくては。
 明らかに元は表の仕事をやっていなかっただろう宿屋の主人夫婦にも、私の正体がバレる事無く宿屋を取る事が出来た。ならば次にする事。それは――

――子供達の好きな相手を直に見なくては……!

 そう、我が子達の好きな相手がシキに居るのだ。それを母として確かめなくてはいけない。
 クロ君の事に関してもキチンと向き合わなければいけないが、その前にまずは将来の義理の息子や娘候補を自分の目で確かめなくては。
 以前の騒動の際には私がやらかした事も有りあまり接する事が出来なかった。ので、今回はキチンと会って話しをしたいし、私が見ているという前提無しの日常の姿を見ていきたい。
 愛する我が子達の事は信用しているが、なにせ恋関連だ。私が恋をしたゆえに暴走して目が曇っていたように、我が子達には見えないなにかを抱えている可能性だってある。
 それを見極めるためにも、クロ君に会うよりも先に我が子達の恋人(※ではない)を見定めなくては……!
 ……余計なお世話の、親が関わるな案件なのかもしれない。けれど大体三年ぶりくらいの折角の休日なので、将来の我が子候補と話したいと言う気持ちがあるのである。……そして良い子であったら「息子や娘を良い方向に成長させてくれてありがとう」と告げよう。それこそ余計な事かもしれないがな。

――さて、まずは……エメラルド君、か

 正直言うのならデリケートな部分が多いスカーレットの好きな相手であるエメラルド君より、最初に産んだ子でもあるルーシュの好きな相手であると言うロボ君を見ておきたいが、なんでも彼女は空を飛ぶので会う事が難しいらしいのでまずは彼女からだ。

 エメラルド・キャット。
 十三歳の酷く痩せた少女。左利き。
 右腕には自身で行った毒実験の影響で、治らない程の傷痕と毒の痕があるため常に包帯を巻いている。
 自傷をする死にたがり、という訳では無く、毒を打ち消すための薬を作るために自らの身体を使っているようだ。
 それは親が止めても聞かないらしく、いつかは万能薬を作る事を本気で夢を――いや、本気で作ろうとしているある意味では真っ直ぐな子。
 薬師としてはとても優秀で、今すぐ首都の研究所に入っても戦力になるとローズが“とある現地協力者”から聞いたとの事だ。
 ただ……王族に迎え入れるには、言葉遣いや礼儀作法などにとんと疎いらしい。性格的に合わないらしく、研究所に誘われたとしても「絶対に行かん!」と断言する理由は、「人付き合いが面倒。なんで研究をするのに誰かの気をつかわにゃならんのだ」と言いのける子だ。

――スカーレットの恋が一番難しい相手だろうな。

 性別もあるが、その他にも相手が色々問題がある。
 情報を聞くだけでも縛られる事をトコトン嫌う子なのだという事が分かる。仮にスカーレットが男だったとしても、王族に迎え入れるのは難しい。

――とはいえ、情報はあくまでも情報だ。

 百聞は一見に如かずという言葉があるように、まずは彼女の人となりを実際に見て判断した方が良いだろう。
 そして私は彼女の居るシキに来ているのだ。彼女が居るだろう薬屋にまずは行って様子を確認し、その後に我が子になる候補の彼女と心を通わせて――

「ふへ、ふえへへへへへへへ、良い、良い痺れだ。良い吐き気だ。私の中で毒が反応し合って新たな感覚が目覚めるのを感じる、ふ、フヘヘヘハハハハハハハハハ!」

 ……なんか、居る。
 なんだこの子は。なにやら薬研や粉末を前に、怪しげな事を言いながら笑っている少女が居る。
 まるでなにかの中毒者のようだ。良い笑顔な所が特にそう思わせる。
 そうとなるとこのような中毒者を私は王妃として放っておく事は出来ない。なにせこのような震えながら幸福そうな笑顔になるものなど十中八九マズい代物である。我が愛する国にそのようなものが広がらぬように、この少女を調べなければ――

「怪我は! 憎むべき友達だ吐けこの馬鹿女ぁ!」
「ぐふっぉ!?」

 そして調べようと一歩踏み出した瞬間、私よりも早く近付いた男が見事な蹴りを少女の腹部に食らわせた。躊躇いの無い見事な蹴りである。
 蹴られた少女は衝撃でナニカを吐いて……え、なにが起きている?

「お、お前は! 年若き女の腹を思い切り蹴るとはついに畜生になり下がった変態医者!」
「蹴られるような事をしているからだろうが愚患者が! いい加減に毒を喰っては興奮する痴女行為を止めんか馬鹿薬師が!」
「馬鹿馬鹿言うなこの変態が! 吐かせるとしてももっといい方法があるだろう、痕が残ったり大切な機能が損なわれたらどうするつもりだ!」
「そうだな、緊急処置とはいえ蹴りは手荒すぎた。よし診せろ。俺が医者として責任をもって治す。捲くって直接見せろ」
「チッ。……ほら。痛みはもう無いが、私の腹は大丈夫か?」
「……よし、大丈夫だ。後お前は痩せ過ぎだ。もう少し太らんと毒の実験も上手くいかん。もっと食え」
「大きなお世話だ。……まぁこちらも悪かったな。つい我慢できずに調合して喰ったんだ。次はお前がすぐに蹴らないと駄目だと思うような状況は作らないようにする」
「まず毒を喰うのをやめろ」
「それはお前に怪我を前に興奮するなと言っているのと同義だ」
「お前の毒と俺の怪我への気持ちを一緒にするな腕以外は壊滅な馬鹿薬師!」
「なんだとこの腕だけが取り柄の変態医者!」

 ……なにが起きているのだろう。仲が良いのかどうかよく分からない光景を私は見ている。
 周囲もなにやらいつもの事のように眺めているし、ありふれた光景なのだろうか。

――シキでは個性的な者達が多いと聞くが……

 ヴァーミリオン曰く、シキの者達は治めているクロ君に同情を覚える程には変わ――個性的な者達が多いと言っていた。
 確かにこの地の複雑な立場は、下手に触れる事が出来ないと私も知ってはいた。そしてそれはここ数年のクロ君の力により変わってきていると我が子達から聞いた。
 そして我が子達がシキに抱く共通の感想が、「個性的な領民が多い」という事。
 その事を思い出し、私は周囲を見てみると――

「クククククク! カナリア君、実に、実に良いキノコだよ……! このキノコの張り具合は正に至高の領域だ……!」
「ふふふ、エルフである私であればこの程度おちゃのこさいさい。へそで茶を沸かす……!」
「ニャー。ニャー……?(それなにか違くない? というかカナリア)」
「どしたのウツブシちゃん」
「ニャニャー……?(オーキッドが持っているキノコと同じキノコが、カナリアの後頭部に生えて……?)」
「ふふふ……ふふふふふふふふ!」
「ククク……クククククククク!」
「え、ちょっと待って、なんかマズい事になってる!? ええい、ネコクロー!」

 ……怪しげな青年(?)。後頭部にキノコが生えたエルフ。なんか喋っている猫。

「おお、新しい刃物……やはりブライ君の刃物は一味違う……!」
「ああ、そうだね妻よ……これならもっと斬る事が出来る……!」
「だが、なにか迷いを感じる気がする。そうは思わない夫?」
「そうだね。そこも良い感じに落とし込めているが、なにか違和感があるね。ブライ、なにか迷い事でもあるのかい?」
「……天使が。グレイと言う名の少年の天使成分が足りない……! 少年は何処にいる……やはり俺自身が少年になる事が近道なのでは……?」

 ……刃物を身に纏っている女性。斬る事に興奮している肉屋っぽい男性。少年への愛を叫ぶ鍛冶師。
 他にもウサミミを付けた中年男性。
 顔だけ土から出して野菜と一体化しようとしている男性。
 その他、首都であれば守衛などが駆け付けそうな色んな奇行に走る皆々。

――なるほど、個性的……

 我が子達が言っていたが、確かに個性的な子達が多いようだ。やはり聞くだけなのと、自分の目で見るとでは感想が違ってくる。
 ……こうして実際に目にすると、なんというか――

――楽しそうだな。休日は良い感じに過ごせそうだ!

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