追放された悪役令嬢と転生男爵のスローで不思議な結婚生活

ヒーター

王妃の休日_1(:珊瑚)


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 私は何処にでもいる様な女であり、この国では王妃を務めている。
 私には愛する夫がおり、愛する子もおり、大切な臣下達と、国民達が居る。
 その全てを愛しており、私は私なりに愛情を注いできた。
 血統により愛する事が出来ない娘や息子も居たが、私の愛は伝わっていたと思う。
 会う機会は少なく、私自身の多忙もあり会話は少ないけれど、私にとっては大切な家族だ。
 ……上手く接する事が出来ない時は有れども、大切な家族だ。

――しかし私は間違えた。

 血の繋がった娘の心情を読み取れきれず。
 血の繋がった息子の奔放を受け止めきれず。
 血の繋がらない娘を愛そうとしたが愛しきれず。
 血の繋がった息子の行動を理解出来ず。
 血の繋がらない息子を愛そうとしたが愛せず。
 血の繋がった息子の素直さに心を惑わされ。
 血の繋がった娘の心を受け止めきる事が出来なかった。

 私はそんな自身の感情を上手く処理しきれず、国母という立場でありながら私情で周囲に多大な害を被らせた。
 母としても、王妃としても、妻としても。私は不合格で失格である。
 そして多くのモノを喪ってまでも行った私の企みは、新しい風をもたらす若き国民達によって失敗に終わった。
 そのような結末をもたらした私のような老害は、私のしでかした事柄の後始末を行った後に前線を退き、大人しく裁かれて罪を背負って生きて行くべきなのだろう。

「罪を背負って生きて行くなら、後始末が終わった後も大人しく王妃として働いてください。というか、そんな事する暇あったらもっと子供わたし達と心を通わせてください御母様。貴女も殴りますよ?」

 ……しかしそのような事を私の愛する娘であるローズが許さなかった。
 正確には夫や他の息子達も同じような事を言っていたのだが、率先して言って来るのが、現在私の執務室にて微動だにしない姿勢でこちらを見て来るローズなのである。

「……あの、ローズ。貴女は実は殴るのは好きだったり……?」
「私は殴るのは大嫌いです。そのような大嫌いな事をさせるような御母様でない事を願いたいのですが、どうなのでしょう」

 基本的に無表情、無感情、淡々と仕事を熟して、淡々と話す故に母である私も偶になにを考えているか分からなくなるローズではあるが、今のローズの心情は読み取れる。表情筋は相変わらずピクリとも動かないが、私に対して怒っている。
 私のした事を考えれば当然だが、それとは違い「弱音は許さない」という表情である。

「……分かっているよ、ローズ。息子達だけではなく、クロ君達や……メアリー君達の厚意によって、私は取り返しのつかない罪を取り返しのつく過去にしようとしている」

 私が未だに王妃としての立場で居る事が出来るのは、私が罪を犯した際の被害者達による厚意によるものだ。私が罪の意識を覚えているのならば、彼らが次世代として世の中に台頭していくための地盤を固めるべきなのだろう。
 今私がろくに引継ぎもせずに失脚すれば、そちらの方が彼らにとっては迷惑なのだろうから。

「だが、罪の意識には苛まれるんだよ。……こう言ってはなんだが、私はカーマインの罪を認めきれずに癇癪を起こす様な女だからな。心は強くない」
「はい、そうですね。御母様は反省すべきです」
「……ハッキリ言うね、ローズ」
「事実ですから」

 ……事実は事実であるし、否定出来ないので反論はしないが、相変わらずローズは正論というべきか、相手の痛い所を的確について来る。
 レッドや他の息子達のようなカリスマ性とは違う、空気を引き締める帝王。百戦錬磨の雰囲気。……子供の頃からこうであったのは、私達や弟達を見て「私がしっかりしなくては」と思ったが故だろうか。親として申し訳ないとは思うのだが、ローズにはどれだけ助けられた事か。

「しかしローズ、良いのだろうか。私に半月も自由な時間を与えて。貴女の時間が……」

 そして今日からさらにそのローズに負担をかける事となる。
 理由は私の公務が今から半月……十五日も無くなるのである。当然私がしないだけで、国としての仕事が無くなる訳では無いのでその分周囲の負担となり、負担はローズも被る事になるのだが――

「良いもなにも、私が望んだ事でもあるのです。御母様は今までが休みなしのせいで追い込まれ過ぎていたのですから、少しは羽を伸ばしてくださいという事です」

 ……当のローズがこの調子な上に、レッドも息子達も、挙句には事情をあまり知らない宰相達も私に休めてというのだ。
 理由はカーマインの件も含めてずっと忙しかったから精神的に追い込まれ、あのような馬鹿な行動をしたから少し休めとの事である。そしてリフレッシュや夫、息子達との交流に使えというのだ。
 息子達は息子達で公務や学園で忙しいのだろうが……恐らく私が行けば時間を取るだろう。レッドもこの休みの最後三日間は空けるというし、「仕事はさせん!」とでも言わんばかりなので私も休む事になったのだが……

「私は国母として仕事をしていただけの上に、休む時は休んでいたのだから、そこまで言われる程では……」
「では、御母様。最後に休んだ日は?」
「新年のパーティーの次の日は休んださ」
「五ヶ月近い前の日のその日は、私の夫の証言により執務室で働いていたと聞いています。私の夫には明日が休みと嘯いていたようですが」
「……そういえばそうだったかな。えっと、その前は――」
「国立記念日、学園設立記念日、終戦記念日。それぞれの次の日は休みとなっていましたが、働いていたという証言があります」
「…………」
「御母様。私達を騙して働くのは楽しいですか?」

 ……ローズの視線が痛い。
 無表情で瞬きをせずにこっちを見ているのでとてもいたたまれない。
 確かにずっと休んでいなかったし、ここ数週間はカーマインの件の裏工作もあったし、ここ一年はモンスター討伐もなにもなかったからな……だからこそ前の戦いで全力を出せたのが凄く楽しかったわけである。

「……追い込まれていたのだろうか」
「はい。ですから精神的に追い込まれたんですよ。休む事も覚えてください」
「……はい、お言葉に甘えて休む」
「はい。それでは今からご自由に行動されてください」

 母と子というよりは王妃に仕える秘書のように、あくまで事務的に礼をするローズ。
 相変わらずの無表情で、綺麗な所作で、感情が読み取り辛くて……よし。

「ローズ。私は今自由な時間だな?」
「はい」
「そして罪を反省するのならもっと子供達の心を通わせろ、と言ったな?」
「はい」
「よし、ではまずはローズと話し合いの場を作りたいのだが、構わないか?」
「はい。私は構いませんよ」

 自由な時間ならば、母として愛する子供達と接するとしよう。
 母として失格な私ではあるが、失格したからと言ってこれから母として接しない、という選択肢は良くは無いだろう。
 私はこの休みを使って子供達と心を通わせ、あの地へと赴きある事を学び羽を伸ばした後、最後に夫と心を通わせるとしよう。

――今までの私は正面からぶつかるのを避けていた。

 不安定だった私は、これからは母でありながらもこの国の王妃として強く、そして追い詰められない余裕を持てるようになろうと心に近い。
 そのためにまずは、子供達と心を通わせる。そのために私は休みのために行動するのであった。







「という訳だ、スカーレット、ヴァーミリオン。今までの私は大きくなっていくお前達と、血が繋がらないという理由で正面から心を通わせようとすらしなかった。だからこれからは親子として過ごすために――全力で私と戦闘をするか、風呂場で裸の付き合いかをしよう」
「しよう、じゃないです」
「話し合うのは良いですが、なんでその二択なんです」
「え……!?」
『何故心底不思議そうにされるのです!?』

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