追放された悪役令嬢と転生男爵のスローで不思議な結婚生活

ヒーター

楽しい学園生活_3(:灰)


View.グレイ


「グレイ君。私はどうしても自分の想いを我慢できないの。君の優しい笑顔、分け隔てなく接してくれる性格、努力を怠らない姿勢。どれも私を夢中にさせてくれる」
「ありがとうございます。そのように言って貰えて嬉しいです」
「でも、君には好きな子が居て、彼女に夢中なのも知っている。私に――平民の私に想いをぶつけられるのは困ると思う。けどグレイ君――いえ、グレイさん。私のこの溢れんばかりの想いは止められない。……私の想いを受け止めてくれる?」
「それはつまり――」
「ええ。――殴り合いよ」







「という訳で、護身符を使用した殴り合いにおける友情の深め合いをしてきました。とても楽しく、有意義な時間でした!」
「そ、そうであるか」

 放課後、疲れるまで護身符を使用した殴り合いを私はしてきた事を、偶然出会って服が汚れていた私を心配したアプリコット様に元気よく報告した。
 初めは私がなにか良くない事に巻き込まれたのではないかと不安がっていたようだが、私の“自分と親しい間柄と殴り合って親睦を深めて親友になりたいという相談を受け、相談に応えた”という報告を聞くと安堵の表情を浮かべてくれた。何故か困惑もしているようであるが。
 しかし実力伯仲の、思う存分気持ちを伝えあう殴り合いというのは初めての経験だ。父上が以前「偶には自身の最高の力を確認したほうが良い。そして上手く力を出せれば気持ち良いぞ」と仰っていましたが、まさしくこの事であると実感出来た。

「そして終わった後には遺恨無く、熱い友情の握手を交わしました……今後三年間、良い友人兼ライバル関係を築けそうです。私めもそういった相手が欲しかったので」
「ティーなどでは駄目であるのか?」
「魔法も含めれば良い関係だとは思うのですが、純粋な運動能力では私めは彼にまだ及ばないので……同程度の身体能力のライバルが欲しかったのです!」
「はは、なるほどな。それは良かった」

 歩きながら目的地に向かう私達だが、アプリコット様はそう言うと小さく笑って歩きながら私の頭を撫でてくれる。殴り合いによって髪が汚れているのであまり撫でられたくは無いのだが、相変わらず撫で方が絶妙で心地良いのでつい委ねてしまう。
 ちなみにだがフューシャちゃんも運動能力は高いのだけれど、彼女は殴り合うのを好まないのと触れられるのを良しとしないので、殴り合うライバル関係ではない。そしてアプリコット様は殴り合うのは苦手……というより、運動方面がそこまで得意では無いのでライバルというのは難しい。

「しかし、意外であるな。グレイはそういったライバル関係を求めていたとは」
「はい。アプリコット様とシャル様の関係性が羨ましかったので。高めあうライバルをもっと欲していたのです」
「あやつと我か……確かにライバルではあるな」

 アプリコット様とシャル様は以前から因縁があったが、学園に入ってからも良いライバル関係が続いている。
 魔法有りの戦闘でよくバトルをしており、切磋琢磨し実力を高めていく戦いぶりは見物客を増やしていき、学園の名物になりかけている程良い試合となっているのである。それを見て私もあのような相手が欲しいと思ったのである。……生徒会の先輩の皆さん相手だと、私はまだ実力不足ですからね。
 それが今回良いライバル兼親友を得る事が出来た。そして目指すは魔法でアプリコット様に並び立ち、そして――

「目指せ、身体能力バトルの父上かクリームヒルトちゃん! です!」

 である。学園を卒業する頃には、父上と渡り合って成長を実感させるのが学園生活の運動面の目標である。そのためにも父上かクリームヒルトちゃんのようにならないと駄目なのである。

「あの両名を参考にするのはやめた方が良い。運動面で目指すのならば……それこそシャトルーズめが良いと思うぞ」
「そうなのですか?」
「うむ、あの両名は天賦の才能の類であるからな。対してシャトルーズめは、天賦の才は多少はあれども、自身の長所を理解した上での鍛錬に裏付けられた努力の男であるからな」

 アプリコット様は撫でるのを止め、シャル様をそう評価した。
 戦いの後は色々と言い合って喧嘩する事も多い両名ではあるけれど、アプリコット様はシャル様を相当評価しているようである。

「まぁ、目指す相手はグレイが決めるべきであるから、今のは我の意見と思って流しておくと良いぞ。しかし、運動と魔法の力を高めるのにかまけて、本分である勉学を忘れぬ事だ。特に宿題はな」
「それは勿論です。勉学方面では母上を目指しておりますので!」
「む、そこはメアリーさんやクリームヒルトさんなど、主席候補ではないのだな」
「? はい。その御二人方も尊敬はしています。が、母上の学力は日々の積み重ねの賜物です。努力をされているあの御姿を私は好きなので」

 母上は生まれ持った能力も高い御方であるが、努力を欠かさず目の前の事を一歩一歩積み重ねていく御方である。その御姿を私は見て来た私はその在り方が大好きなので、母上のようになりたいのである。

「……そうか。それは良い事だな」
「はい、目指せマザコンです!」
「何故その言葉をチョイスした。母が目標で良いであろう」
「?? ですが、母上を大好きで、母上と離れられない事をそう言うと聞いたのですが」
「間違ってはおらぬが……やめておけ」

 よく分からないが、アプリコット様がそう言うのならばそうしよう。マザコングレイは封印である。

――む、闘技場に着きましたね。……あ、そうです。

 私達は学生寮に向かっていて、今は闘技場の近くを通っている。
 早く戻って喧嘩の汗を流し、服を着替えようとしていたのだけれど、ここに来たのならば――

「アプリコット様、一緒にシャワーを浴びませんか?」
「っ!?」

 そう、一緒にシャワーを浴びる事が出来る。確か控室の傍に個室のシャワールームが有ったはずだ。男女兼用であったはずであるし、アプリコット様も運動をしていたので、汗を流すために私と一緒に女性学生寮に戻ると言っていた。
 それならば汗を流す目的は共通しているのだから、久方ぶりに一緒に入りたい。最後に一緒に入ったのは……確かエメラルド様やブラウンさんと一緒に温泉に入ったのが最後であったか。

「……グレイ。男女があまり肌を晒し合うものでは無いぞ」
「ですが以前も入っておりましたし、それに……伸び始めた髪も手入れをしたいです」

 アプリコット様の眼帯はまだ取れないが、髪は伸び始めている。以前と比べると短いが、やはり私はあの綺麗な髪を洗ってさしあげたい。

「グレイよ。我は成人したし、グレイも男女の……性教育は受けたであろう」
「はい。神父様がシアン様のスリットから覗く太腿を見る視線がエッチイ、というやつですね?」
「その言い方はやめたほうが良いぞ。……受けたのならば、妄りに身体を見せあうのはだな」
「? ですが、その際に聞いたのですが、父上達のような夫婦間、シアン様達のような恋人間ならばあまり問題は無いと聞きます。私めはアプリコット様の事が好きなので、問題無いはずです!」
「その理屈はおかしいぞ。ともかく、我はグレイと一緒にシャワーは浴びん」
「え……アプリコット様は私めの事が嫌い……なのですか?」

 子供同士ではない男女の場合、裸同士の付き合いは恋人間のような好きな者同士のであるのなら問題無い。そしてアプリコット様が断るという事は、私の事を……

「違うぞ!? 我もグレイの事は――好、好き、である、ぞ」
「ほ、本当ですか!?」
「と、当然である。だが裸を見せるのは羞恥が――」
「なにを仰るのです。アプリコット様のお身体は余すところなくお美しいです。シュバルツ様風に言うのならば、アプリコット様の身体に恥ずかしい所などは無いです!」
「う、うむ、当然そうであるな! 我の身体は研鑽の賜物。綺麗な身体である!」
「はい! なので恥ずかしがる必要は無いのです! 髪も眼もお身体も、私めは美しく思います!」
「うむうむ! さすがは我が弟子、分かっているのではないか!」
「はい、ですから恥ずかしがる必要など無いのです!」
「そうであるな!」
「では問題無いですね。行きましょう、アプリコット様。久しぶりにお背中と髪をお流しします!」
「うむ、弟子の手入れは素晴らしいからな。存分に――む?」
「では行きましょうアプリコット様。今日は闘技場も静かですし、ヒトもあまりいらっしゃりません。ですが他の利用者方が利用される可能性もありますし、早く行きましょう!」
「待、待てグレイ。やはり――ぬうぉっ!? 弟子よ、引っ張るな! く、何故引き離せずに引っ張られる……!?」

 それは当然アプリコット様よりも私の方が力が強いからである。
 さぁ、久々のアプリコット様のお身体を洗う事が出来る。お風呂でない事は残念だが、出来る限りアプリコット様のお身体を綺麗にしてみせる!

「グ、グレイ、話を……!」
「ふ、ふふふふ、腕が成りますね……!」
「ああ、従者モードになっている。話を聞かない状態であるな……! あ、ぬ、待――」

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