追放された悪役令嬢と転生男爵のスローで不思議な結婚生活

ヒーター

楽しい学園生活_1(:灰)

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 私が身を置かせてもらっているアゼリア学園。そこでの学園生活がとても楽しい。

 今までとは違う見方と、今までとは違うそれぞれの強さを持つ方々。
 シキの方々と比べると控えめな性格の彼らだが、私の知らない知識を有し、私が今まで接してきた尊敬すべき方々とは違う価値観を教えてくれる。
 魔法・学問・運動技術・歴史解釈。学問と運動はついて行くのは少々大変な時もあるが、新しい事をするのは楽しいので苦ではない。

「我が思うにこの魔法陣の失敗は、内側に魔力の回路を足す事が失敗の原因とされているが、違和感がある。そうは思わぬかティーよ」
「はい、私もそうは思います。一つの意味を持つ基本魔法陣の、魔力の流れを堰き止める様なものですからね。ですが、それは今まで話し合われた上で不可能とされている事柄ですね」
「だがそこを突き詰めれば、新たな魔法も作れるのではないかと思うのだが」
「そこは難しいと言うよりは、剣の扱いに鞭の応用を使うようなものですよ」
「新たな魔法ではあっても、使える代物ではないという事か……」

「……フューシャちゃん様、アプリコット様達が話されているのはどういう意味なのです?」
「えっと……“基本設計図”になにかをたしたら……“基本”という意味が無くなるけど……足した回路も魔力の流れには……変わりないのだから……やり方では……基本を強化できるのでは……という事……かな」
「おお、なるほど」

 それになによりも、大好きなアプリコット様や、入学からより話すようになったティー君とフューシャちゃん。彼女らと一緒に学んでいくという事は、今までの私には無かった経験だ。
 シキで父上や母上などに学問を教えて貰った事は有るのだが、その時とは別種の楽しい経験、というべきだろうか。私の実家ではない遠い地にて身を置いて勉学に励んでいる、という点が今までとは違う楽しさの要因かもしれない。

『――、――――』
『――――。――』

「…………」
「? ……どうしたの……グレイ君……」
「いえ、なんでもありませんよフューシャちゃん様」
「そう……?」

 しかし、楽しい事ばかりでもない。
 学園に通い始めた最初の頃は問題も多くあり、その問題もまだ解決していない事が多い。
 以前の妹大戦争でもそうであったが、今も身分差が大きいにも関わらず親しく話している私達に良くない視線を向けられている。
 私は元々本来の入学年齢ではない、首都で評判が良くない両親が居る、というのがあるので奇異の視線を向けられるのは分かっていた。けれどそれでも、この視線は……なにか、イヤだ。
 貧民街スラムに居た頃に、偶に来た清潔な衣服に身を纏った方に向けられた視線よりはマシではあるが、あまり好ましくない視線というのは私でも分かる。
 アプリコット様には以前、

『こういった視線は実力と行動で見返すしかあるまいよ。それでも良くない視線を向ける輩にはなにをやっても無駄だ』

 と仰っていた。
 私もそれに同意はしたものの、やはり居心地は悪い。
 ティー君達の兄君であるヴァーミリオン様を始めとした生徒会の皆さんよって、直接文句を言う方々は今はあまりいない。
 それでもやはり……

――シキの方々と違って、“大人しい方々”が多いのですね。

 と、思わずにはいられない。
 ……まだ学園に来てからそんなに時は経っていないが、シキが懐かしく思ってしまう。ティー君もフューシャちゃんもとても良い方々であるし、王族という身分の方でありながら私達を友達と称してくれるのが、せめてもの救いだろう。

「ところで……その“ちゃん様”は……なに……? 前まで“フューシャちゃん”と呼んでいたのに……」
「いえ、アッシュ様に“仲が良い事は良いのですが、人前で殿下達に気軽すぎる”と注意をされまして。なので人前では様付けをしようかと」
「なるほど……そういう事なら……良いかな。急に距離を……置かれたのかと……思って……。人前でなければ……普通に呼ぶんだね……?」
「はい。プライベートでは親しみを込めていつも通りに。いわゆるプライベートの禁断の呼び合いというやつです」
「その言い方は……やめた方が良いかな……?」
「? では、王族の方と放課後の秘密の関係、という感じでしょうか」
「それも……やめた方が良いよ……」

 何故だろう、ピッタリな表現だと思うのだが。しかしフューシャちゃんが何故か頬を染めてやめた方が良いと言うので、素直にやめとこう。
 学園生活は楽しいのだけど、父上と違って私の知識の少ないが故の不用意な発言を止める理由をハッキリ言ってくれない方が多いのが悩みである。







「さぁ、では出来るだけ適性の近いグループになって教え合うように」

 今日の午後から授業は先輩方に魔法の指導を受ける授業だ。
 アゼリア学園には優秀な教師は多く居ても、全員が全ての魔法を教えられる訳では無いし、適性を持つ先生が常に空いているわけでもない。
 なので今このように魔法適性の近いモノ同士でグループを作り、同じく適性の近い先輩方が指導役として魔法の技術や実践を教える事がある。

「それでは後輩達、早速始めようか」
『イエス、ヴァーミリオン殿下!』
「……畏まりすぎだ。俺の事は今はただの先輩として扱え」
『アイアイサー!』
「……分かって無いな」

 例えばあちらはヴァーミリオン様が教えていらっしゃるグループ。
 ヴァーミリオン様は基本全属性扱えるのだが、その中でも火と光魔法が適性が高いので、光魔法を教えるグループだ。
 ヴァーミリオン様に直々に教わる機会などそうないため、あのグループは人気が高い。多少適性が無くても入ろうとする方々も居る。ちなみに先程先生が「出来るだけ」と言ったのは、言っても聞かずに殿下など人気の方々に教わろうとする事が多いためである。一応人数制限はかけて、平等な人数になるようにはしているのだが。

「では、私達も始めましょうか。ティー殿下、フューシャ殿下、グレイ君」
「はい、よろしくお願いします、メアリー先輩」
「ふふ、はい、よろしくお願いします」

 そして私達が教わるのはメアリー様である。
 メアリー様も性格と教え方の上手さから人気は高いのだが、一年ルナ組の指導の場合は私達三名に教える事が多い。
 理由はメアリー様があらゆる魔法に適応出来る事だ。
 まず私は基本六属性全属性適性があり、どれが得意と言う訳でも無いと言うのが理由だ。例えばアプリコット様のようにある程度は他属性の魔法は使えても火と闇に適性が高い、というのが基本であるので、私はメアリー様が一番近い適性なのである。
 フューシャちゃんも似たようなものらしく、本人曰く“小さな魔力でも奇跡的に効果が大きくなってしまう”だそうだ。その事を何故か嫌な事のように語っていたのが不思議だったのを覚えている。
 ティー君は単純に、戦闘で絶大な効果を発揮するレベルの雷魔法を使える存在が他には居ないからだそうだ。雷魔法はそれほど希少であるのである。

「異なる属性を同時に扱う場合、このように切り替える事が重要です。似た適性であるが故にこその区分けしての同時使用、ですね」
「こんな方法が……あるんだ……」
「切り替えと区分け……難しいですね」
「雷魔法の魔法陣のこの場所に指向性を持たせる紋章を書き記す事で、より効果的な魔法が放てます。こちらは単体でも普段の雷魔法の時にも便利ですよ」
「なるほど……参考になります」

 とはいえ、雷魔法も含めてすべてにおいて私達の上を行くメアリー様は凄いという他ない。
 火と闇に関してはアプリコット様の方が上手であり、クリームヒルトちゃんも雷魔法は扱えるそうだが、それでも教えを請えば分かりやすくかつ能力が向上する返答を返してくれて、優しくも厳しい素晴らしい指導をして下さるメアリー様は尊敬に値する。最初に会った頃は母上の事も有り少々嫌な感じはしたけれど、今は素晴らしき先輩である。

「……ところでティー殿下。コインを親指で弾いて、それを弾として打ち出す技とか使って見ませんか? 超電磁――レールガンって言うんですけど……」
「? どうやるのでしょう」
「はい、まず――カエルを好きになります」
「よく分かりませんが、それは必要でないと思うのです」

 だけど偶に妙な事を言いだす事もある。この様子はどことなく父上……クロ様を彷彿とさせるものである。

「コホン。レールガンはともかく、今教えた事をやってみてください。一度皆さんで教え合って、分からない所が出るか、出来たと思えば私に言って下さい。そこから私がまた教えますんで」
『はい!』

 しかし妙な事はともかく、メアリー様は教え方も上手くて自主性を重んじる御方だ。
 ただ与えるだけではない指導方法はまさに先生や指導役として素晴らしいだろう。

「ふふ、では頑張ってくださいね。…………」

 けど、今日は何処か様子がおかしい。やる事はやってくださり、いつもの様に優しい御方なのだが……今日は気が付くとある御方を目で追っている。
 恐らく本人的には無意識なのだと思う。そして昨日までの無意識にチラッと見てしまうというものではなく、無意識に目で追って考え込み、気付かれる寸前まで見ている、というのが今のメアリー様の状態だ。
 相手の事が気になってしまうかのようなその様子はまるで――

――母上が父上を見ている時のようですね。

 そのように、思ってしまうのである。





備考 メアリーが三名だけに教える理由
適正や身分差もあるが、フューシャの“運”の影響で、他の一年に避けられるのが多い。

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