追放された悪役令嬢と転生男爵のスローで不思議な結婚生活

ヒーター

とある学園生女性陣の相談_5(:白)


View.メアリー


 断って良い。
 私に自分の価値を見出して欲しい。
 ……私には他に、好きな男性が居る。
 様々な情報に困惑し、混乱し。なにが真実なのか、本音なのか。
 分からないことだらけの告白の中。
 それでも彼の告白の言葉だけは本気であると理解し。

「お気持ちは嬉しいです。ですが、貴方の手を取る事は出来ません」

 静かに、力強く。
 持てる私の感情と誠意を込めて。私は彼の告白を断りました。
 何度やっても慣れる事の無い断りの返答。それがいつもよりも心に深く突き刺さりつつ、沈むのは相手にとっても失礼であると分かるので、心を強く持ち、目を逸らさない事も含め私の返答とします。

「……そうか」

 彼は騎士然とした面持ちと差し伸べた手と傅くポーズをやめて、一歩下がりつつ立ち上がります。

「真摯に断ってくれてありがとうメアリー。これで私の気持ちに一区切りをつける事が出来た」

 シャル君の表情は告白を断られた事による悲痛の表情ではなく、まるで日常の延長線上かのような普段の様子で感謝の言葉を述べます。

「シャル君、私は――」
「メアリー。言っておくが私に後ろめたさは感じない事だ。私は断られて嬉しく思っているからな」
「……嬉しく、ですか」
「そうだ。むしろこちらが告白をし、明日から変な空気を作るのではないかと不安になる程だ。変になるようなキッカケを作った私を恨んで良いくらいだ。フ、むしろそうではないかと内心では緊張しているくらいなんだぞ」

 シャル君は冗談のように言いますが、私はそれに頷いたり、笑って空気を和ませるという事も私は出来ません。
 私は彼の――

「メアリー、私が何故今告白をしたかは分かるか?」
「……そうですね。私も気になっていました。何故急に私に告白を?」

 ……シャル君は分からず、告白前の会話の続きをするかのように、夜空に浮かぶ月を見ながら私に語り掛けます。
 月明かりに照らされる彼は幻想的であり、やはり絵になるという表現が似合います。

「それはな。メアリーのポンコツぶりに拍車がかかったからだ」
「……はい?」

 え、シャル君はなにを言っているんです?
 ポン、コツ……私が? 確かに私はポンコツと言える行動をして来たとは思いますが、そんなにハッキリと言われる程にポンコツなのですか? というか拍車がかかったってなんです!?

「元々メアリーのポンコツぶりは垣間見えていたんだが、最近――」
「待ってください」
「待とう。なんだ?」
「元々ってなんですか。私そんな垣間見える様な扱いだったんですか? そんな様子があったと?」
「そうだな……私は乙女ゲーム? というのはよく分からないんだが、私の【一閃】の事は覚えているか?」
「ええ、よく覚えていますが」

 シャル君の【一閃】。それはカサスにおけるシャル君の基本技であり必殺技でもある抜刀術です。
 私がまだこの世界をゲームの世界と認識していた頃、ゲームと同じ流れになるように“主人公ヒロインがモンスターに襲われ危機的状況の時に、覚醒して技を習得する”という状況を作り出しました。主人公ヒロインの代わりに私がその立場にはなりましたが。
 ……私はこれから危機的状況に陥ると分かって来ながら、モンスターの領域に踏み入って、危機を作ったのです。反省すべき事であり、やってはならない事でした。ですがそれを今何故……?

「あの時のメアリー。ゲームの状況を作り上げたと思っているようだが、アレ素でモンスターに襲われただろう」
「いえ、そんな事は有りません。私は分かっていてあの状況を」
「そうか。では“昨日の雨で土がぬかるんでなんか楽しいですね!”と言いつつ浮かれて、気付いたらモンスターの近くに居た、というように見えたのは私の気のせいか」
「……気のせいです」
「モンスターに気付いた時の“あ”という表情も気のせいだった様だな」
「…………気ノセイデスヨ」
「ロボ嬢のようになっているぞ」

 ……気のせいです。ええ、全てシャル君の気のせいですとも。
 私はあの状況を作るためにシャル君と一緒にあの場所に行きました。確かに途中で楽しくて忘れたような気もしない事も無いですが、気のせいです。

「私はな。メアリーに有る疑惑を持っていたんだ」
「……なにがでしょう」
「メアリーは無意識に行動すると皆から称えられる聖女となるが、意識したらポンコツなのではないか、とな」
「それは聖女も含め誤解ですね。私はポンコツと言われる程ではないと思いますよ?」
「そうだな。私は最近、ポンコツ疑惑ではなくポンコツ確信を得た」

 そうだな、という相槌はなんだったんですか。私の言葉に同意したはずなのに前後の言葉が合っていませんよ。

「メアリーは最近好きな相手を意識した。故にポンコツになった。あぁ、本当に私の好きな相手はポンコツで可愛らしい」
「…………」
「そしてこのままでは駄目だと思った。このままではポンコツに拍車がかかり、ポンコツのまま好きな相手に妙な態度を取る。そのために私は告白をするならばこのタイミングしかないと――」
「ポンコツポンコツ言わないでください! 最近の私の何処を見てポンコツか言ってみてくださいよ!」

 なんだか逆ギレっぽいですが、ここはハッキリ言わねばなりません。具体的行動を示さずにその評価は心外です!

「……そうだな、強いて言うなら恋するメアリーを見たからだろうか」
「……その恋と言うのがまだ分からないのですが。誰相手なんです?」
「既に気付いているのではないか? 気付いた上で、目を逸らしているように見える」
「分からないですよ。本当に」

 ええ、本当に分かりません。シャル君がなにを言っているのかも。誰の事を言っているのかも。
 ……とある彼を思うと、不整脈が起きる事と関係しているような気はしますが、私の気のせいなのでしょう。

「そうか、分からないか。ならばそれでも良い。だがなメアリー。これだけは忘れないでくれ」
「……なんでしょう?」
「私は告白し、失恋してでもメアリーに気付いて欲しかった事がある」
「私に価値があるという事と、私が恋をしている、という事ですか」
「そうだ。貴女は私が叶わぬとも失恋そうするに相応しい価値があるという事と――」

 シャル君は変わらずこちらを見ないまま。

「――ヴァーミリオンに恋する貴女はとても美しいのだと、伝えたかった」

 だからこそ私に恋をしたのだと。
 シャル君は何処か寂し気な笑みを浮かべつつ、告げたのでした。







「……さて、スカイ。居るんだろう」
「気付いてたんだ」
「今ふと、な。ずっと見ていたのか? 幼馴染の告白を見ているなど趣味が悪いな」
「私が見ていたのは友達の方。何処かの幼馴染が告白して傷付いたらフォローしないとな、って思っただけ。痛みには鈍いけど、なんだかんだ優しいからね、あの子」
「どちらにしろ告白を見るのは悪趣味だ。騎士として――」
「はいはい、良くないんでしょ。分かってるって。酷い事と分かっていても、騎士以前としても人間として、ね。けど私がそうせざるを得ない状況と思って」
「……軽蔑されても見ている必要があった、か」
「そういう事」
「それで? 傷付いたであろう友を心配しなくて良いのか?」
「あっちは大丈夫でしょ。今日一日は自分の気持ちに悶々としてそうだけど、それよりも――」
「俺を心配しているなら、それこそ放って置け。独りになりたい時もあるんだ。それが気遣いというモノだろう」
「やだ」
「やだ、って、お前……子供か」
「子供や」
「何故そんなに自信満々に……」
「で、良いの? あんな風なアドバイスをして。もしかしたら気付かないまま、チャンスだったのかもしれないのに」
「見ていたのなら聞いていただろう。私と付き合う事になったアイツは、もう私の好きなアイツではないという事だ」
「面倒な性格ね。分かっていたけど」
「分かっているならわざわざ言うな。……だが」
「だが?」
「私はフラれる事を覚悟していた。当然そうなるべきだと、アイツが好きな相手について気付いて、結ばれて幸せになれる手助けを出来るならそれで良い、とな」
「だからわざわざ告白して、このままじゃ気付かないだろう気持ちに気付かせたんだよね」
「そうだ。賭けに近い事だと分かりながらな」
「それで? それで良い、と思ったのに、どうしたの」
「そうだな。……思ったよりも」
「うん」
「……思ったよりも、失恋というのは辛いのだな、とな」
「…………」
「は、覚悟し、手助けになるためにとやった癖に、いざハッキリと断られるとコレだ。ああ、クソ。なんだこれは。こんな感情になるなんて思わなかった。こんな事になるのなら、俺は今まで通りに――」
「目を逸らしていた方が良かった? メアリーがヴァーミリオン殿下を好きだけれど、その事に気付いていないという事を」
「……いいや。それは、月日と共に辛さが増えるだけだ」
「そう。それを言えるのなら、良かった。……ねぇ、シャル」
「……なんだ」
「今週末、何処かに飲みに行かない?」
「……は?」
「アンタ覚えてる? 私がフラれて、落ち込んでいた時の事。成人したのにまだ一緒にお酒を飲み合っていないから、飲みに行こうって言ったの」
「覚えてはいるが……」
「じゃああの時の提案を今受ける。フラれた者同士、飲んで愚痴を言い合おっか。幼馴染同士なら互いに遠慮要らないでしょ」
「……フラれた者同士、か。俺はお前の長年の想いと違って、たった一年の――」
「どっちも初恋でしょ。長さは関係ないし、その痛みは初恋を破られた同士しか分からないって」
「……そうだな。飲むのも良いかもしれないな」
「そ。アンタ真面目なんだから、偶には酒を飲んで忘れるくらいの羽目を外しなさいって。どうせ――」
「騎士になれば外せなくなるのだから、学園生である今の内に、か」
「そ。勿論やりすぎは禁物だけど」
「そうだな。……ふ」
「え、なに。なんで急に笑ってんの」
「いや、あの時と逆になったと思ってな」
「私がフラれたのを確信した時?」
「そうだ。そしてお前と話す事で、少し楽になった」
「それはどうも。これで私の時の恩は返せたからね」
「なんだ、恩に着ていたのか」
「一応ね。で、どうするの? 飲みに行くの?」
「……そうだな。それでは、幼馴染の愚痴を聞いてくれるか、スカイ?」
「ええ、幼馴染の愚痴を聞くし、幼馴染の愚痴も聞いて貰うからね、シャル」

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