追放された悪役令嬢と転生男爵のスローで不思議な結婚生活

ヒーター

生徒会の恋馬鹿男共_3(:朱)


View.ヴァーミリオン


 グレイの真っ直ぐすぎる恋愛感情を受け、ティーを除く俺達は眩しさを感じていると昼休みが終わる所であった。全員がそれぞれの紅茶を飲みほした後カップを洗い、生徒会室を出ていき、施錠を確認する。

「それでは先輩方、お昼からも授業を楽しみましょうねー。行きましょう、ティー君。今日は訓練場でバトルです!」
「バトルと言うか、魔法講座だけどね。それでは皆さん、また生徒会にて!」

 そしてグレイが授業を“楽しむ”という表現を使う事に、俺はあのような純粋さはとうに失われたので、俺のように無駄に達観ぶった人生観を抱く事無くグレイにはこのまま真っ直ぐに学園生活を過ごして貰いたいと思いつつ、大切な後輩達と別れるのであった。

「些細な嫌いを大きな好きで埋め尽くす、か。……アレって、下手をしたら押しつけだよね」
「恋愛なんてそのようなものだろう。押しつけだからとなにもしないのは、自身の臆病を隠すための愚者の戯言だ」
「ははは、バッサリ切り捨てるんだね、シャルくんは。でも確かに、私個人としてはいい加減キミ達にもあのくらいの行動をメアリー様に向けて欲しいモノだよ」
「エクル先輩も言いますね……ですがあのような行動は付き合っているからこそ意味を成すモノ。意味を成す行動になる様にする……土台から作らないと駄目ですね」
「土台と言うか基礎かな。まったく、我が妹は幸せになりそうだというのに、私の崇拝する相手はいつになったら結ばれるのやら」
「本当に煽るよね、エクル先輩……まぁ、押し付けかもしれないけど、そうしないと駄目なのは確かかもしれないけどね。自分に自信を持たないと……」

 グレイの真っ直ぐな物言いにより、すっかり自身の顔の事よりもこれからどうするかと前を向くようになったアッシュ達。どうやらティーと同様に「今の自分を高めて好きになって貰おう!」という事になったようである。

「それじゃ、私もこれで。ああそれと、今日は放課後に王城に呼ばれてるから、生徒会には顔を出せないからよろしくね」
「王城? 前の王妃様の件で? でも僕達は呼ばれてないし……あ、前世関連?」
「うーん、それらとは別件みたい。なんか私の流通を使って取り寄せて欲しいものがあるみたいだよ。多分クリア教関係だと思う」
「そういうのは言って良いのでしょうか……」
「心配ありがとうアッシュくん。でも別に構わないと思うよ。それじゃ、勉学と恋愛に励めよ若人達!」
「一つ違いだろう」
「ははは、色々含めて私の半分以下しか生きていないから若人だよ! ……あ、違う、三分の一以下だ。……五十路かぁ……孫が居てもおかしく無いのかぁ……」
「自分で言って自分でダメージを受けるな」
「受けて無いよ。世の中の五十路に若い肉体だと自慢したいくらいだよ」

 エクルはよく分からない自信を持ちながら、三年の教室へと向かって行った。相変わらずエクルは読めないと言うか、人生経験の差があると感じられる。……メアリーの事になるとそうは感じられなくなるが。

――しかし、クリア教関連、か。

 恐らくはあの件だろう。俺も呼び出されてはいるので、放課後には行かねばならないのだが……気が重い。
 以前王城で公務をしていた時はメアリーの避けられの件が無かったため多少の無理も出来たのだが、今この状態であの件に関して触れるのは精神的にも疲れる。……ただでさえ、呼び出されている理由があのヒトの件で、あのヒトは俺に……やめよう、考えるだけで気が滅入るのなら考えるべきではない。

「どうした、ヴァーミリオン。やはり公務の疲れが出ているのか?」

 内心の気の滅入りが表に出ていたのか、シャルとシルバがなにやら話しながら教室に向かう中、アッシュが小声で砕けた口調で尋ねて来た。
 ……駄目だな、表に出るとは王子として情けない話だ。アッシュが近侍バレットとしてではなく、友として心配している辺りがより心配されるような事である事を示している。ありがたくはあるのだが、気を引き締めなくてはな。

「心配しなくて良い。少々……とても疲れる相手をしなくてはならない事が出来てな」
「……ヴァーミリオンがそこまで言う相手とは……私を外してまでしている件か?」

 基本公務を行う時は、近侍であるアッシュも傍に控えている。だが夢魔法……母さんの件はアッシュにもまだ話せない秘中の話である。なにせあの場に居た俺達を除くと、姉弟にすら秘密とし父上と母上しか知らぬ話だ。
 アッシュも気にしているのは隠す気も無いようだが、深くは探りを入れない。信じて俺の判断に任せる、という感じなのだろう。

「そう思ってくれて構わない。……それに、共和国も大変だろうからな」
「共和国……大変だな、ヴァーミリオン」

 知らぬ者からすれば脈絡のない繋がりの会話。だが、俺達にとっては繋がり深いと言える会話である。
 共和国。我が王国とも隣接している、君主を持たない歴史が比較的新しい国。
 母さんが嫁いでいる国でもあり……先日、とある重要な一家の親子が事故死したのをキッカケに、小さな混乱が起きている。
 共和国の体制上、政治上で重要な一家が無くなっても王国程影響は少ないだろう。だが、その一家は共和国に大いに貢献していた一家であると同時に、事故死を免れ生き残ったとある女性が国民から厚い支持を得ていたのである。
 聖女とも聖母とも呼ばれた……メアリーのようなその女性が、夫と息子の事故死をキッカケに表に顔を出さなくなったため、彼女を支持していた国民、及び大臣達が混乱。公式には傷心のため療養中、としているが、心配の声が後を絶たない状況のようだ。

「母さんが関わっている件だから大変なのは仕様が無い。……それに、本人にも会ってはいる」
「…………」

 深く内容は話さないが、アッシュが外れている件は母さんが関与している事を隠さずに言う。
 そう、会ってはいる。そして母さんは共和国に戻ってはいない。
 母さんはあの若返った姿のままなので共和国に戻り、説明が難しいというのも有る。罪を犯した以上は贖罪をしなければならないというのも有る。……あのままの価値観のまま、共和国に戻るのは良くないというのも有る。

「ヴァーミリオン、今回の――」
「たった一人に」
「?」

 だが、なによりも重要な事が、一つある。

「……たった一人の女を犠牲にして、全てを任せていたツケが回ったという話だ。……事故ではない事故死が起きたような国に、母さんを戻せるモノか」

 今起きている混乱も、戻って来て欲しいという催促も、俺と父上達は無視して最低限の処置だけでしている。
 母さんにあのような夢魔法を使わせるキッカケを作った国に戻らせるほど、俺は親子の情を失ってはいない。……あのような、母さんをメアリーの慣れの果てのようにした挙句に、心の支えとでも言うべき存在を奪った国に、同情は必要ない。

「……そうか。それがお前の決めた判断なら、正しいのだろうな」
「それで良いのか?」
「これでも生まれてから傍で見て来たからな。その程度は信じられる。……それに一人が居なくなれば駄目になる様な国に、同情する事などほとんど無いですからね」

 アッシュはいつものような口調と、にっこりとわざとらしい笑顔を浮かべてこれ以上の追及を止めた。
 この件に関して触れるのは、相応の機会が会った時であると判断したのだろう。……あるいは少し話させる事で、最近疲れている俺の鬱憤を晴らさせようとしただけなのかもしれないが。ともかく、その距離感が今はありがたい。
 …………。

「……これは独り事だと思って欲しいんだが」
「?」
「俺が疲れているのは、共和国の特使の相手や催促などでも無いんだ」
「はい?」
「……何処かの母親が、今まで会えなかった分と言って甘えて来るのを対応するのに疲れるんだ……」
「そ、そうですか……」

 共和国で起きた事や、事情が事情であるので無碍には出来ない上に、気付けば仕事を代替してくれるお陰で遅れは無い。
 だが、俺よりも若いのではないかと思う外見と行動で、甘えて来る母さんを相手するのは……こう、疲れる。
 もう少しで首都を離れる事にはなっているが、疲れるし、気が滅入るのである。

「それで気疲れしたから、メアリーで癒されたいのだが、メアリーには避けられているしな」
「あぁ、アレは私の勘違いでは無かったんですね。……なにをやったんです?」
「俺が聞きたい」

 もし分かれば対応のしようがあるのだが、心当たりがないので困っているのである。母さんの夢魔法の件、とも思ったのだが、どうやら違うようなのである。……いや、思い返せばあの夢魔法を解こうとした時からなにか様子がおかしかったような気がするが……

「気付かぬ内になにか……以前の城での騒動の際に、王城で着替えるメアリーを覗き、それがメアリーにバレたとか」
「してない」
「ベッドに押し倒そうとして逃げられたとか」
「お前、俺をなんだと思っている」

 大体それで思い当たる節がないと言った暁には、俺はただのヒトでなし以外の何者でもないぞ。

「気にする事は無いと思うぞ、ヴァーミリオン」
「それはどういう事だ、シャル?」

 俺達が言い合っていると、いつの間にか立ち止まってこちらの話を聞いていたシャルが気になる事を言って来る。

「気にせずとも、ヴァーミリオンが思っているような嫌われ、避けられ続けるという事は有るまい。ただ今は時間が必要、というだけだろうな」

 そう言うシャルの表情は何処か大人びたような、覚悟を決め終わっているかのような。今までのシャルとは違う、達観した表情であった。
 ……シャルはこういった時に嘘を吐ける正確でないことは知っているが、どういった意味なのだろうか。

「では、行こうか。無駄話をしていると授業に遅れる」

 気にはなるが、既に教室に歩き始めたシャルはこれ以上答える気は無いようだ。
 相変わらず背筋が伸びて静謐とも言えるその背中は何処か……

「なんていうかさ、シャルの奴……最近変わったよね」
「ええ。退学騒動の前後から変わっては来ていましたがさらに変わった気がしますね」
「でも、なんだろうねあの変化。分からないんだけど、あまり認めたくない感じがする」
「そうですね。私も不思議とそう思います」

 アッシュとシルバが言うように、何処か変わったのは分かるのだが、具体的にどのような変化があるのかは言語化が難しい。
 そして俺も同じく認めたくないと言うか、あのようにはなりたくないという腹立たしさもある不思議な感情になっているのだが、なんとなく思う事がある。

「……月並みな言葉だが、恋に関係している気がするな」
「あ、確かにそうだね」
「そう思いますね」

 そして俺の言った言葉に、二人共同意をしつつ。
 午後からの授業に遅刻しないようにと教室に向かうのであった。







~その日の放課後~


「あれ、シャル様こんにちは。どうされたのです、このような場所で」
「昼ぶりだな、グレイ。なにをしているのかと問われると悩むが……そうだな、グレイに言うのも良いかもしれない」
「?」
「すまないが己が行動を言語化する事で、少し落ち着きたいんだ」
「はい、私めで良ければ聞きますよ」
「実はな、これから愛の告白をするんだ」
「!? ええと、それはつまり……」
「ああ、私……俺の想いを、伝えるんだ」
「私めに……?」
「……何故そうなる」
「私めに言うのも良いかもしれない、と」
「……確かに言ったな。すまない、言葉は難しいな。グレイにでは無い」
「であれば、誰に告白を……? まさか、ついに――」
「そうだ。――メアリーに愛の告白をするんだ」

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