追放された悪役令嬢と転生男爵のスローで不思議な結婚生活
生徒会の恋馬鹿男共_1(:朱)
View.ヴァーミリオン
「申し訳ありません、ヴァーミリオンお兄様。ご休憩中かとは思いますが、どうしてもお聞きしたい事が有りまして」
「構わない。なんだ、ティー?」
とある日の、お昼休みの生徒会室。
俺は実の母と育ての母が起こした問題の後処理や処遇(ついでに隠蔽)で忙しく、ここ数日王城で公務に詰めていたためあまり休めていなかった。
ローズ姉さんの「学生の本分は勉強です」という計らいにより、早めの段階で学園に戻れはしたのだが、戻れば戻ったで、“ちょっとしたトラブルが王城であった”という事に興味を示したり、こちらの気を使ったり、ご機嫌取りをして来る他の生徒や教師などの対応で忙しかった。
そして最近明るくなった気がするフォーン会長の厚意により、他の生徒や教師が足を踏み入れにくい生徒会室で、仕事もせずに、どうしても気になる事を考えつつゆっくりと休憩をした訳だが……
「ヴァーミリオンお兄様。私はイケメンなのでしょうか」
「どうしたティー」
などという事を、腹違いの弟であるバーガンティーことティーに聞かれるのであった。
最近フューシャやグレイ、アプリコットなどと共に生徒会役員となったティー。俺の血統を知った上でも、真っ直ぐいつもの様に接してくるので不安になったほどの優しき弟。あまりにも真っ直ぐなので騙されやすくて心配であり、実質そのせいで俺が学園に入る前数年は周囲の口車に乗せられて、フューシャを除く姉弟達とあまり接しなかった弟。
そんなティーが生徒会室に入るなり、生徒会の男勢しか居ない事を確認してから真剣な表情で言ってきた言葉が、先の質問である。……どういう状況なのだろうか、これは。
「私は真剣なのです、お兄様」
俺も含め、グレイだけはよく分からずティーの分の紅茶を優雅に入れているが、生徒会室メンバーの男性陣(今回は流石に会長はいない)が、どう反応すれば良いかと戸惑っていると、ティーは真剣な表情でさらに聞いて来る。
「私は第四王子という立場である以上、他の皆さんに同じ質問をしても、私に気を使い醜くとも優れているといった答えが返って来るでしょう。ですが……ですが、それでは駄目なのです。私は正直な意見が欲しいのです!」
……詳細は分からないが、ティーは真剣なようだ。
民の前に立つ者である以上は、象徴としての美醜は重要だ。それが国の顔である王族であればなおさらである。そのため美醜を気にかけるのは悪い事では無いだろう。
家族にその意見を求める……のは、俺ならば贔屓目無しで評価してくれると思ったのかもしれない。ならば素直に言うとしよう。
「ティーは間違いなく顔が整っている。身長は高め、身体は鍛えられ余分は無く、それでいてしなやかな四肢。王国の紅き宝華の名は健在と言って良いだろう」
これは偽らざる本音である。ティーは世辞は必要無いほどに顔が整っており、全体を見ても華やかと言える。
柔らかな線と、白く綺麗な肌、美しい髪と瞳。これらはその辺りの自身の外見が優れていると評される女性よりもキメ細やかで綺麗である。
身長が伸び、体格が男のようになる前は、服を変えれば女性と思われてもおかしくなかった外見は、成長した今でもティーを充分に外見だけでも周囲を惹き付ける魅力があるだろう。ちなみに王国の紅き宝華はティーの渾名である。性格も含め周囲に色めき立たせる、という事だ。俺の紅き獅子とは違ったベクトルの褒め言葉である。……紅き獅子が褒め言葉なのかは微妙だが。
「だからお前の周囲が外見を優れている、と評しても、それは素直な感想と言えるだろう。疑問に思う事無く、自信を持つと良い」
俺の異名はともかく、ティーには自信を持ってもらわねば。
俺達王族の男兄弟の中で唯一と言っても良いほどに、明るく真っ直ぐな可愛い……血の繋がった、弟。
恐らく最近恋をしたので、ふと相手に喜んで貰えるような外見なのだろうかと思い、気にしているのだろうが、兄として自信を付けさせて――
「あぁ……やっぱりそうなのですか……!! 良い事なのでしょうが、今はその評価が憎いです……!」
そしてティーは、ショックを受けて項垂れた。
……なにを言っているのだろうか、この弟は。
「ティー君、どうされたんです。優れているというのは良い事なのでは? あ、どうぞ紅茶です」
「ありがとう、グレイ。でも今は……あ、美味しい。また腕をあげたね」
「ありがとうございます」
最近より仲良くなり、公共の場以外ではティー君と呼ぶようになったグレイが、紅茶を渡しつつよく分からない事を言うティーに質問をする。
……というかよくこの状況でお茶を出せるし、飲む事が出来るな、この二人は。
「ずず……あぁ……美味しい……」
「あの、ティー殿下。差し支えなければ、先程の発言に関し質問させて頂いてもよろしいでしょうか」
このままではティーが紅茶を飲み、グレイが喜んで空気が緩んでいきそうだったので、最近グレイに紅茶の淹れ方を教わっては追い越そうと目論み、悉く失敗しているアッシュが代表して尋ねた。
「あ、はい。アッシュさん。なんでしょう」
「今の会話を聞きますと、ティー殿下は自身のお顔が優れているのを良くは思っていないようなのですが……」
「はい。ちょっと理由が有りまして……お父様とお母様に頂いた、この顔と身体には誇りに思っているのですが……このままでは……このままでは……!」
紅茶を飲み干し、グレイに感謝しつつ無詠唱無魔法名水魔法で生徒会室に備え付けの布巾を濡らしてカップを拭いてからグレイにカップを渡した後に、真剣に悩む表情をするティー。相変わらずのヒトの良さである。お陰で深刻さがあまり感じられないが。
「このままでは、イケメンが苦手なクリームヒルトさんに避けられてしまうんです!」
「なんと!?」
そしてティーの発言にグレイは驚いた。
……恐らく他のメンバーは内心で「えー……」と思った事だろう。表情でなんとなく伝わって来る。
「クリームヒルトちゃんはイケメンが苦手なのですか!?」
「いえ、好きではあるそうです。お兄様達を見ては“ひゃっふぅ!”になると仰っていました」
ひゃっふぅになるとはなんだ。
「なるほど、ひゃっふぅになるのですね。ならば良いのでは?」
「いえ、“眺める分にはひゃっふぅなんだけど、彼氏にするには違う。なんか疲れるし”という情報を聞きまして……」
「なるほど?」
「あー……そういえばクリームヒルトのやつ、そんな事言ってたな……」
「やっぱりそうなのですかシルバさん!」
そう言えばそのような事をティーと会う前のクリームヒルトは言っていた気がする。
あくまでも遠くで称えたり眺めたり、会話する程度、友達が良いだけであって彼氏にはしたくない。なによりも疲れる、と。
結局は自分よりも強い相手が傍に居て、「この人と並び立ち、追い越してみせる!」という気持ちを常に起こしてくれる相手が良いと言っていた。それが難しいとも笑ってはいたが。
「けど、言っていたの大分前だし、今のアイツなら心変わりしているんじゃない?」
「うんうん、我が妹は変わったからね。ティーくんが相手ならそれも当てはまらないと思うよ? ね、シャルくん?」
「何故私に聞くんだ」
「ほら、前の依頼」
「……そうだな。アイツも変わってきている、と言うのは確かだ。……ですからティー殿下も気にされる必要は無いかと」
そしてシルバ達の言う通りで、あくまでも過去の話だ。
クロ子爵の話を聞く限りでは色々と心配であった弟の恋路ではあるが、今の様子を見る限りではあまり問題無いように見える。精々クリームヒルトが素直になりきれるかどうか、と思う程だ。
後は……初々しいので見ているこっちが恥ずかしくなる時がある、という事くらいだろうか。
――……最近の俺とは違って、ティーは上手くやっているようで羨ましいな。
なにせ俺は最近、好きな相手であるメアリーに――
「ですが、その話をされていたのは最近のメアリーさんとでして、同意も――」
「詳しく話してくださいティー殿下」
「うん、必要なら紅茶のお代わりを淹れてあげるよ」
「その通りだ。兄に話してみせろ、ティー」
「メアリー様の事ならばどのような事であろうと聞きたいね。教えて?」
「え? え!?」
よし、メアリーに関してならば聞き逃せない。
もしもメアリーが美形が好きでないと言うならばその時は――どうしようか。流石に父上と母さんに貰った顔を戻らない程変えたく無いので……よし、その時はメアリーから見て俺が美形でない事を祈るとしよう。
「…………。よし、私めは皆さんの分の紅茶を用意いたしましょう。多分お昼休みは使い切るでしょうね」
備考 王子達の異名・渾名
ローズ : 紅き古代技術の女神
(優秀であり、隙と遊びが少ないため)
ルーシュ : 紅き神の代行者
(愛武器の十字剣と武力が優れているため)
スカーレット : 紅き堅牢たる貴婦人
(何者も寄せ付けない雰囲気と美貌を持つため)
カーマイン : 紅き方舟
(彼の下ならばあらゆる事を成し遂げられると評されたため)
ヴァーミリオン : 紅き獅子
(過去最高の神童と謳われ、孤高のため)
バーガンティー : 紅き宝華
(女神の如き美しさと真っ直ぐな性格のため)
フューシャ : 紅き毒花
(幸運に愛され、女神の生まれ変わりと評されたため。蔑称)
「申し訳ありません、ヴァーミリオンお兄様。ご休憩中かとは思いますが、どうしてもお聞きしたい事が有りまして」
「構わない。なんだ、ティー?」
とある日の、お昼休みの生徒会室。
俺は実の母と育ての母が起こした問題の後処理や処遇(ついでに隠蔽)で忙しく、ここ数日王城で公務に詰めていたためあまり休めていなかった。
ローズ姉さんの「学生の本分は勉強です」という計らいにより、早めの段階で学園に戻れはしたのだが、戻れば戻ったで、“ちょっとしたトラブルが王城であった”という事に興味を示したり、こちらの気を使ったり、ご機嫌取りをして来る他の生徒や教師などの対応で忙しかった。
そして最近明るくなった気がするフォーン会長の厚意により、他の生徒や教師が足を踏み入れにくい生徒会室で、仕事もせずに、どうしても気になる事を考えつつゆっくりと休憩をした訳だが……
「ヴァーミリオンお兄様。私はイケメンなのでしょうか」
「どうしたティー」
などという事を、腹違いの弟であるバーガンティーことティーに聞かれるのであった。
最近フューシャやグレイ、アプリコットなどと共に生徒会役員となったティー。俺の血統を知った上でも、真っ直ぐいつもの様に接してくるので不安になったほどの優しき弟。あまりにも真っ直ぐなので騙されやすくて心配であり、実質そのせいで俺が学園に入る前数年は周囲の口車に乗せられて、フューシャを除く姉弟達とあまり接しなかった弟。
そんなティーが生徒会室に入るなり、生徒会の男勢しか居ない事を確認してから真剣な表情で言ってきた言葉が、先の質問である。……どういう状況なのだろうか、これは。
「私は真剣なのです、お兄様」
俺も含め、グレイだけはよく分からずティーの分の紅茶を優雅に入れているが、生徒会室メンバーの男性陣(今回は流石に会長はいない)が、どう反応すれば良いかと戸惑っていると、ティーは真剣な表情でさらに聞いて来る。
「私は第四王子という立場である以上、他の皆さんに同じ質問をしても、私に気を使い醜くとも優れているといった答えが返って来るでしょう。ですが……ですが、それでは駄目なのです。私は正直な意見が欲しいのです!」
……詳細は分からないが、ティーは真剣なようだ。
民の前に立つ者である以上は、象徴としての美醜は重要だ。それが国の顔である王族であればなおさらである。そのため美醜を気にかけるのは悪い事では無いだろう。
家族にその意見を求める……のは、俺ならば贔屓目無しで評価してくれると思ったのかもしれない。ならば素直に言うとしよう。
「ティーは間違いなく顔が整っている。身長は高め、身体は鍛えられ余分は無く、それでいてしなやかな四肢。王国の紅き宝華の名は健在と言って良いだろう」
これは偽らざる本音である。ティーは世辞は必要無いほどに顔が整っており、全体を見ても華やかと言える。
柔らかな線と、白く綺麗な肌、美しい髪と瞳。これらはその辺りの自身の外見が優れていると評される女性よりもキメ細やかで綺麗である。
身長が伸び、体格が男のようになる前は、服を変えれば女性と思われてもおかしくなかった外見は、成長した今でもティーを充分に外見だけでも周囲を惹き付ける魅力があるだろう。ちなみに王国の紅き宝華はティーの渾名である。性格も含め周囲に色めき立たせる、という事だ。俺の紅き獅子とは違ったベクトルの褒め言葉である。……紅き獅子が褒め言葉なのかは微妙だが。
「だからお前の周囲が外見を優れている、と評しても、それは素直な感想と言えるだろう。疑問に思う事無く、自信を持つと良い」
俺の異名はともかく、ティーには自信を持ってもらわねば。
俺達王族の男兄弟の中で唯一と言っても良いほどに、明るく真っ直ぐな可愛い……血の繋がった、弟。
恐らく最近恋をしたので、ふと相手に喜んで貰えるような外見なのだろうかと思い、気にしているのだろうが、兄として自信を付けさせて――
「あぁ……やっぱりそうなのですか……!! 良い事なのでしょうが、今はその評価が憎いです……!」
そしてティーは、ショックを受けて項垂れた。
……なにを言っているのだろうか、この弟は。
「ティー君、どうされたんです。優れているというのは良い事なのでは? あ、どうぞ紅茶です」
「ありがとう、グレイ。でも今は……あ、美味しい。また腕をあげたね」
「ありがとうございます」
最近より仲良くなり、公共の場以外ではティー君と呼ぶようになったグレイが、紅茶を渡しつつよく分からない事を言うティーに質問をする。
……というかよくこの状況でお茶を出せるし、飲む事が出来るな、この二人は。
「ずず……あぁ……美味しい……」
「あの、ティー殿下。差し支えなければ、先程の発言に関し質問させて頂いてもよろしいでしょうか」
このままではティーが紅茶を飲み、グレイが喜んで空気が緩んでいきそうだったので、最近グレイに紅茶の淹れ方を教わっては追い越そうと目論み、悉く失敗しているアッシュが代表して尋ねた。
「あ、はい。アッシュさん。なんでしょう」
「今の会話を聞きますと、ティー殿下は自身のお顔が優れているのを良くは思っていないようなのですが……」
「はい。ちょっと理由が有りまして……お父様とお母様に頂いた、この顔と身体には誇りに思っているのですが……このままでは……このままでは……!」
紅茶を飲み干し、グレイに感謝しつつ無詠唱無魔法名水魔法で生徒会室に備え付けの布巾を濡らしてカップを拭いてからグレイにカップを渡した後に、真剣に悩む表情をするティー。相変わらずのヒトの良さである。お陰で深刻さがあまり感じられないが。
「このままでは、イケメンが苦手なクリームヒルトさんに避けられてしまうんです!」
「なんと!?」
そしてティーの発言にグレイは驚いた。
……恐らく他のメンバーは内心で「えー……」と思った事だろう。表情でなんとなく伝わって来る。
「クリームヒルトちゃんはイケメンが苦手なのですか!?」
「いえ、好きではあるそうです。お兄様達を見ては“ひゃっふぅ!”になると仰っていました」
ひゃっふぅになるとはなんだ。
「なるほど、ひゃっふぅになるのですね。ならば良いのでは?」
「いえ、“眺める分にはひゃっふぅなんだけど、彼氏にするには違う。なんか疲れるし”という情報を聞きまして……」
「なるほど?」
「あー……そういえばクリームヒルトのやつ、そんな事言ってたな……」
「やっぱりそうなのですかシルバさん!」
そう言えばそのような事をティーと会う前のクリームヒルトは言っていた気がする。
あくまでも遠くで称えたり眺めたり、会話する程度、友達が良いだけであって彼氏にはしたくない。なによりも疲れる、と。
結局は自分よりも強い相手が傍に居て、「この人と並び立ち、追い越してみせる!」という気持ちを常に起こしてくれる相手が良いと言っていた。それが難しいとも笑ってはいたが。
「けど、言っていたの大分前だし、今のアイツなら心変わりしているんじゃない?」
「うんうん、我が妹は変わったからね。ティーくんが相手ならそれも当てはまらないと思うよ? ね、シャルくん?」
「何故私に聞くんだ」
「ほら、前の依頼」
「……そうだな。アイツも変わってきている、と言うのは確かだ。……ですからティー殿下も気にされる必要は無いかと」
そしてシルバ達の言う通りで、あくまでも過去の話だ。
クロ子爵の話を聞く限りでは色々と心配であった弟の恋路ではあるが、今の様子を見る限りではあまり問題無いように見える。精々クリームヒルトが素直になりきれるかどうか、と思う程だ。
後は……初々しいので見ているこっちが恥ずかしくなる時がある、という事くらいだろうか。
――……最近の俺とは違って、ティーは上手くやっているようで羨ましいな。
なにせ俺は最近、好きな相手であるメアリーに――
「ですが、その話をされていたのは最近のメアリーさんとでして、同意も――」
「詳しく話してくださいティー殿下」
「うん、必要なら紅茶のお代わりを淹れてあげるよ」
「その通りだ。兄に話してみせろ、ティー」
「メアリー様の事ならばどのような事であろうと聞きたいね。教えて?」
「え? え!?」
よし、メアリーに関してならば聞き逃せない。
もしもメアリーが美形が好きでないと言うならばその時は――どうしようか。流石に父上と母さんに貰った顔を戻らない程変えたく無いので……よし、その時はメアリーから見て俺が美形でない事を祈るとしよう。
「…………。よし、私めは皆さんの分の紅茶を用意いたしましょう。多分お昼休みは使い切るでしょうね」
備考 王子達の異名・渾名
ローズ : 紅き古代技術の女神
(優秀であり、隙と遊びが少ないため)
ルーシュ : 紅き神の代行者
(愛武器の十字剣と武力が優れているため)
スカーレット : 紅き堅牢たる貴婦人
(何者も寄せ付けない雰囲気と美貌を持つため)
カーマイン : 紅き方舟
(彼の下ならばあらゆる事を成し遂げられると評されたため)
ヴァーミリオン : 紅き獅子
(過去最高の神童と謳われ、孤高のため)
バーガンティー : 紅き宝華
(女神の如き美しさと真っ直ぐな性格のため)
フューシャ : 紅き毒花
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