追放された悪役令嬢と転生男爵のスローで不思議な結婚生活

ヒーター

子供達の恋愛観_3


「ロボお姉ちゃん、きせいじじつ、ってなに? それを作れば僕もフォーンお姉ちゃんといっしょになれるの?」
「エ゛。ええと、なれるかもしれマセンが、ワタシ達未成年は合意以前に犯罪になりマスネ。相手が」
「そうなんだ。じゃあよく分からないけど、やめておこうー」
「そうした方が良いデスヨ」

 ……あの夢空間の時のフォーンさんを思い返すと、可能性が――よし、大丈夫。フォーンさんは立派な生徒会長でサキュバスだから大丈夫、うん。

「……あ、もしかして前にシアンお姉ちゃん達から教わった、だんじょのいとなみ? 的な感じの奴なの? どうなのロボお姉ちゃん?」
「エ゛。エエト……ソレハ、ソノ……」

 おお、ロボがブラウンの質問に、顔を出している状態にも関わらず普段のようなよく分からないカタコト口調になっている……!
 そして今はロボの外装ではない素の表情が良く見える訳だが……結構顔に出やすいタイプなんだな、ロボ。境遇を考えればこうして表情に出せる、というのは喜ばしい事なのだろうが。
 って、そんな事を思っている場合じゃない。止めないと。

「あ、じゃあもしかして、ロボお姉ちゃんが裸を見せた相手のルーシュお兄ちゃんは捕まるって事なの?」
「――――」

 あ、マズい。ロボが処理落ちしたかのようにフリーズしている。

「え、ブラウン君。それってどういう……」
「うん、実はねヴァイスお兄ちゃん。このあいだ首都に行ったときに、ロボお姉ちゃんがきゃすとおふで身体部分をパージして、裸をさらしたんだって」

 ブラウンの言っている件は、あの戦いの後に起きた謎の現象の事だろう。俺達の下着が消失したのも含めて、フューシャ殿下が物凄く謝ってきた、あの。……思い返すとアレは本当になんだったんだろうな。

「ロボちゃん……?」
「誤解デス! 言い方に悪意を感じマスヨ! というか誰から聞いたんデスカ!?」
「私だ」
「エーメーラールードー!!」

 ロボが名前を伸ばしながら言い、詰め寄る。まるでその様子は年齢相応……いや、年齢より幼く見えるほどに、子供のようであった。

「悪かったと思っている。首都での話をブラウンを含む子供達に聞かれて、つい下着消失も含め謎の現象が起きたと口が滑ったんだ……許してくれ」
「許しまセン。ですからワタシはエメラルドが首都で男性に絡まれて、スカーレットクンに助けられた件を言いマス」
「なっ――!? 何故それを知っている!?」
「フ、ワタシの情報網を舐めないでクダサイよ!」
「え、なにそれロボちゃん、僕聞きたい」
「元々ワタシタチは各々の相手と遊ぶ予定だったんデスガ、諸事情が有り遊ぶのが難しくなったのデスガ、帰る最後の方にデートを――」
「話すなロボ! それ以上は――ええい、放せヴァイス! くそ、お前見た目によらず力強いな!」
「エメラルドちゃんが弱いだけだよ。続きをどうぞ、ロボちゃん」
「エエ、スカーレットクンが所用で外れた時に、エメラルドが買い物をしたんデスガ、薬草の粗悪品を掴まされ、文句を言ったら男性に絡まれて、助けられたんデス。その時はぶっきらぼうだったんデスガ、後からぶっきらぼうに“さっきの礼だ”と言って――」
「あー、わーー!!!」
「うるさいデスヨ」
「うるさいね」
「くそ、この性悪コンビめ!」
「エメラルドに言われたくないデス」

 ……こうしていると、先程は違和感があった年齢も相応しくすら思える。やはり同年代と一緒に過ごすというのは良い事なのだと改めて思う。シキは子供がそこまで多くない……というか、癖が強い成人が多いからな。

「――そしてスカーレットクンの向けられた笑顔に、エメラルドは顔を背けて“馬鹿みたいだぞ”と言いマスガ、その頬は確かに赤く――」
「ロボ、お前何処から何処まで見ていたんだ!?」

 というかエメラルドのやつ、知らない間にそんな親交を深めるイベントが起きていたのか。コーラル王妃の件で不機嫌と言うか何処か虚無感があったスカーレット殿下が、別れる間際にはやけに上機嫌だったのはそういった理由があったんだな……なんだかんだ仲良くやっているようでなによりである。

「ねぇ、クロお兄ちゃん、ヴァイオレットお姉ちゃん」
「どうした、ブラウン?」

 ロボとエメラルドが、首都であった互いの恥ずかしい恋愛イベント(?)について語って自爆し合っていると、ブラウンが俺達の所にやって来ていた。
 てっきり自爆とはいえある意味恋愛話なので、愛に興味を示して聞いているのかと思ったが、あまり琴線に触れなかったのだろうか。

「恋愛ってむずかしいんだね。エメラルドお姉ちゃんはあまり興味なさそうだったけど、今見るとなんだか……」
「楽しそう?」
「うん、楽しそう。あんなに生き生きしているというか、目が楽しそうなの、あたらしい毒を食べて“しんきょうち”を見た時いらいだと思う」

 それはどうなんだろう。俺とヴァイオレットさんは思ったが、黙っていた。

「たぶんアレが愛……恋愛なんだよね?」
「そうだな。色んな形があって、色んな見方も出来る」
「だからブラウンも自分なりの答えを探した方が良いと思うぞ」
「うーん……」

 俺の探す、という発言に悩む仕草を見せるブラウン。
 ちょっと七歳には難しい問いだっただろうか。でも普段は気付けば寝ているような子が、寝ずに真面目に考えているんだ。少しは難しくとも、真正面に応えるとしよう。

「おくりもの……」

 そしてふと、ブラウンはなにかに気付いたかのように呟いた。恐らく先程ロボが言った、エメラルドがスカーレット殿下にお返しとして贈り物をした、と言う所に引っ掛かったのだろう。

「そうだ、おくりものをしよう! ねぇ、ヴァイオレットお姉ちゃん」
「どうした? 女性がなにを受け取れば喜ぶか知りたいのか?」
「うん。女のひとって、宝石ほーせきをあげたらよろこぶんだよね!」
「む」

 その認識は間違ってはいないと言えば間違ってはいない。いないが、ヴァイオレットさんは宝石の類はあまり好きではない……と言うよりは、そこまで重きを置いていない。
 あくまでも身に着ける者をはかるための代物、見栄を張るための物と思ってしまっている。一応は綺麗とは思ったり、俺が贈ったら喜んではくれるのだろうが……あまりこの質問に語る事は出来ないだろう。

「ああ、好きな相手にプレゼントされたら喜ぶと思う。だが、無理に高価な代物を贈って見栄を張らなくても会長……フォーンお姉ちゃんは喜ばないだろう」
「そうなの?」
「お金さえあれば手に入るモノよりも、ブラウンの想いが籠ったものを喜ぶヒトだからな。フォーンお姉ちゃんは」

 背伸びをして身の丈に合わないモノを買う必要は無い。ヴァイオレットさんはそう言って微笑んだ。……余計な心配だったかな。というか失礼な心配だったかもしれない。後で改めて心の中で謝っておこう。

「でも……でも、僕は贈りたいな」

 しかしブラウンはヴァイオレットさんの言葉を聞いた上で、贈りたいと言う。それは反発心から言っているのではなく、もっと心の底から思っているような言葉であった。

「どうしてだ、ブラウン?」
宝石ほーせきって――宝石は綺麗だよね」
「む、あ、ああ……?」
「フォーンお姉ちゃんは貴族だし、僕には分からない重責があったり、多くの人の視線に晒されると思う。ただでさえお姉ちゃんは見られる事に慣れていないのに」
「そう、だな……?」
「そして宝石を身に着ける時は、より重責があって見られる事が多い公の場とかパーティーとかの時。そんな気の張る時に、綺麗な宝石は“心の寄る所”として安心感が湧いてくると思うんだ。この綺麗さに相応しい振る舞いをしよう、宝石の輝きに負けないようにしよう。……それが例え見栄であっても、自信のないフォーンお姉ちゃんが自信を持ってくれるのならそれで良い。だから僕は、見栄を張れる宝石を贈りたい、かな」

 ブラウンはいつものような話し方ではなく、外見の年齢に相応しいような大人びた喋り方で贈りたいという気持ちを俺達に伝えた。
 ……なんというか、ブラウンは俺達が思っている以上にフォーンさんの事を好きで、よく見ているのかもしれない。

「……前はとっても綺麗だから好き、と言っていた気がするけど、ブラウンは色んな部分も含めて好きなんだな」
「うん、がいけんはたいせつだけど、いろんなことをふくめて、フォーンお姉ちゃんがすきになったからね」

 なんか急に子供のようになっていないか、ブラウン。大人びた物言いの反動か。反動なのか。

「それに、僕はフォーンお姉ちゃんを好きだけど、しあわせになってほしいからね。ヴァイスお兄ちゃんみたいに、相手のしあわせを――あ、そっか。わかったよクロお兄ちゃん、ヴァイオレットお姉ちゃん」
「なにがだ、ブラウン?」

 再びなにかに気付いたかのような表情になり、今度は年齢相応な無邪気な笑顔を作るブラウン。こういうのを見ると、やはり子供なのだと――

「うん、相手のしあわせをのぞんで、自分にもお返しをのぞむのが、恋! 相手がしあわせになってほしいとのぞんで、お返しをのぞまないのが、愛! 僕はそう思うから、がんばってフォーンお姉ちゃんを愛するね!」
「お、おぉ……頑張れよ、ブラウン……」
「あ、あぁ……頑張ってくれ、ブラウン……」
「うん、がんばる!」

 ……もしかしなくても、この子達の方が恋愛観は大人なのかもしれない。

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