追放された悪役令嬢と転生男爵のスローで不思議な結婚生活

ヒーター

まずやるべき事(:紺)


View.シアン


 クリア教執行官。
 それは教会内部で犯罪を裁くための役職に着いた教会関係者。
 寄付金の横領や、職務放棄といった不正を裁く事も有れば、悪魔に身を売った輩……怪物と称される相手の審問を行う事もある、クリア教内の秩序を保つための存在だ。軍で言うと憲兵に近いだろうか。
 ……正直言うと、あの何処かの司教達の犯罪を分かった上で見逃していた輩も居るので、あまり良い印象は無い。全員が全員そういう訳では無い、というのは理解している。……そしてこの執行官の男は……

「軍の方々、あの白い髪の修道士見習いが件の相手です。捕縛をお願いします」
「了解しました」

 そしてクリア教内部でも捕縛するための専門の部門はあるのだけど、今目の前にいる相手のように軍部を引き連れて捕える事もある。これはクリア教が国教であるが故に、国の軍部・騎士団が協力しているのである。

「お待ちください、執行官殿。急に現れて俺――私の所の修道士を急に捕縛するなど、一体どのような理由があってでしょうか」

 そして捕縛しようとする軍人から、スイ君を庇うように間に入る神父様。
 理由は……先程の言葉から大体予想はつくのだが、敢えて聞くのは納得がいっていないからこそだろう。神父様は感情には疎くとも、不条理には厳しい性格だ。
 だけど……

「理由はそこの修道士見習いが悪魔であるという疑いがあるからだ。そして先程悪魔の気配も感じられた。理由は充分だ」
「ですが、同行でなく捕縛とは。いささか性急ではありませんか」
「遅くなってからでは駄目なんだ。危険の可能性がある以上は捕縛し、取り調べる。そこに問題があるというのか、神父」
「既に悪と見立てている事が問題なんです」
「こちらとて危険な職務をしているんだ。互いの安全の観点からして当然の処置だと思って欲しい。……あと、神父」
「はい?」
「……まずは自身の心配をしたらどうだ。その有様で庇われても、被害者が精神操作されて庇っているようにしか見えんぞ」
「え。……あ」

 うん、それは私も思った事だ。神父様の傷は塞ぎ、多少は洗い流したが、今の神父様は大怪我を負って血だらけの格好のようである。お顔は優しい神父様であるが、知らないヒトから見たら怖いと思われるのも無理は無い。

「執行官、そして軍の方々。彼は職務を全うする、見習いとはいえ敬虔なる修道士ブラザーです。善良でありこの土地にも馴染んでいる彼を異端の鬼と称し、捕縛するのはこの地を任されるシスターとして見過ごせません」
「シスター・シアン……」

 だからここは私が前に出て庇うとしよう。
 ……私的には大丈夫で無害だとは思ってはいるけれど、スイ君には本来なら討伐対象である吸血鬼の血が混じっている。それに先程の事も考えると、少しでもこの場を乗り切るために動かないと。

「……え、貴女は修道女の格好コスチュームをした、水商売の御方ではないのか?」
「……腰回りや太ももからして、このような色んな意味で罪深いシスターは居ないかと……」

 どういう意味じゃい。

「軍の方々、落ち着いてください。今の問題はそこではないので。……それで、シスター・シアン」
「なんでしょうか」
「貴女がその者を敬虔であると思うという事と、此度の捕縛の問題は繋がらない。鬼……悪魔の可能性があり、私の目にはその者が血に反応して邪悪な魔の力を発露させているように見えた。そしてその者……ヴァイス修道士見習いには特異体質の報告も無い。ならば罪を犯す前に捕縛し、事実確認を行うという選択を執り行うのに問題があると私は思わない。……以上だ。これ以上の問答は捕縛後に行わせて貰う」

 くそ、正論腹立つ。
 だけどこれ以上ここで色々言うのは私達を不利にするだけだ。心情的にはどうにかしてヴァイス君を引き渡すのを伸ばしたいけれど……

「私を庇ってくれてありがとうございます、神父様、シスター・シアン。私は彼らに着いて行きます」
「でもスイ君……」
「執行官の言う通りにしますよ。大丈夫です、問題が無いのなら無事解放されるはずですから。……もし、駄目ならば、私はクリア教の信仰をしてはならない、そのような男であった。それだけです」
「スイ君……」
「ヴァイス……」

 ……スイ君は何処かで思っている。自分は他の相手とは違う所があり、それが必ずしも受け入れられるものでは無い、と。
 だから先程から厳しい目で見て来る執行官や、侮蔑の目でしか見ない軍人に従う事を選んだ。……受け入れてくれている、私達に迷惑をかけないように。

「……軍の方々、彼の捕縛をお願いします」
「はい。――フン、最初から大人しく従っていれば良いモノを……どけ、神父に修道女」

 軍人は私達を手で払うようにしながらスイ君近寄り、魔力を封じる手枷と共に捕縛した。……そのスイ君の綺麗な白い腕に触れて捕えようとする腕に蹴りいれてやろうか。

「……では、これより審問を行う。教会を使わせて貰うが、その間のお前達の教会の出入りを禁ずる。なにか必要な場合は見張りの者に申し出をし、許可を得る事。許可が無い場合は裁かせて貰うからそのつもりで居ろ」
「待ってください。俺達を追い出して彼を審問、審理するのは納得いきません」

 敬語ではあるが、一人称が俺に戻っている神父様は疑問を持つ。
 私達が住んでいる場所を追い出し、勝手な事をされるのだ。納得いかないのも当然と言えば当然である。

「お前達は現在不在の領主代行をするために、領主の館を借り受けていると聞いている」
「え? え、ええ、そうですが……」

 ……クロが不在という事を知っている?

「ならば居住に問題はあるまい。必要なモノがあるのなら、それを持ち出すまでは待ってやる」
「い、いえ、そこが問題では無いのです」
「くどい。それとお前達にも彼が異端だと知った上で匿っていた罪がある可能性もあるという事を忘れるな。半刻までは待つが、それ以上は待たん。……では、教会に案内しろ、神父」
「……はい」

 交渉の余地が無い物言いに不満を持つ神父様だが、今は素直に従ったほうが良いと判断したのか大人しく従う事にしたようだ。

「ああ、いや。このまま二人に来られるのも問題だな。……シスター・シアン」
「はい?」

 私もそれに着いて行こうとしたのだけど、一歩踏み出そうとした瞬間に執行官は私の方を見て来た。
 相変わらずの厳しい表情ではあるけど……

「お前達が協力して彼を逃す算段を付けられても困るからな。お前は付いて来るな」
「なっ。執行官殿、そのような事を俺達は――」
「可能性がある以上は封じるだけだ。か弱きシスターの方について来て貰ったほうが良いかもしれんが……神父はその格好をどうにかせんと駄目だからな。一旦帰ったほうが良いだろう」

 ……あれ、これってもしかして……?

「そして先程言ったように、お前達にも容疑がかけられている訳であるから、シスターは大人しく屋敷に行っているんだ」
「執行官様、であれば私が彼女に……」
「まずは教会に行きましょう。場所などの把握も大切ですし、彼女独りでどうにかなるものでもありません。それに彼が大人しく捕まるとは限りませんからね。安全のためにも万全の態勢で教会に行きましょう」
「は、はぁ……執行官様がそう言うのなら……?」
「はい。それでは行きましょう。……シスター、分かったな。お前は、大人しく、屋敷に行っている事だ。その後は見張りを立てるからな」
「……はい」

 執行官はそう言うと、私を置いて神父様の案内でスイ君を連行していった。

――さて、と。

 神父様は血だらけで、着替えとかしていると時間はかかるし、案内にも時間がかかる。
 そしてその後神父様は見張りの軍人と一緒に屋敷へと来るだろう。その後は下手に動く事は出来まい。 

――けど時間もあるし、まずは……

 そして私には図らずも時間が出来た。
 色々と時間がある。そのためにまずは……

「……醜醜醜bububu……まずは我が子達に協力してもらって教会を襲撃……いや、それだと美しきヴァイスが……だったら美の特攻を……私の美しきに気を取られている内に……」

 ……まずは、シューちゃんを落ち着かせるとしよう。

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