追放された悪役令嬢と転生男爵のスローで不思議な結婚生活
変わらない日常と(:紺)
View.シアン
シキでなにか妙な所は無いかと見回りしている私達。
しかし相変わらずのいつものシキの光景だ。
ブン君は眠りながら動植物と戯れたり。
レモちゃんは四肢を外して地面から暴れる相手を拘束したり。
ブシちゃんはパンダの姿で震脚を放ち、イエローさんのコリを解したり。
オー君は影から出現して怪しげに笑って身長が三メートルくらいになったり。
殺し愛夫婦は夫を妻が剣で突き刺した後抱きしめ合って愛を囁いたり。
という、特に変わらない日常だ。
リアちゃんが居ないのが気になるけど……たぶんキノコを探しに行っているのだと思う。
「平和だねー」
「平和ですねー」
ともかく、シキは今日も平和である。
気温が暖かく、眠くなる様な心地なのでこのまま微睡みのまま眠りたいくらいだ。
「そういえばふと思ったんだけど、さっきアイ君を見た時、シュネ君は出て来なかったよね」
「え? ……あ、血に反応しなかったか、という事ですか。シュネーは新鮮な混じりけの無い血なら少し反応する程度らしいですよ」
「混じりけの無い?」
「え、ええ、ようは綺麗な血、という事らしいです」
なんだか誤魔化しているような気もするけど……話さないという事は大丈夫なのだと思うとしよう。あるいは私には話辛いという事かもしれないし、神父様にそれとなく聞いて貰うとしよう――う、それはそうとちょっと眠いな……駄目駄目、きちんと見回りしないと……!
「ふぁ……ぅ」
「シアンお姉ちゃん、眠いなら夕食まで寝ていても良いですよ? 見回りは私がしますし」
「ううん、大丈夫。この程度は平気―……って、そういえば今日神父様が食事当番だけど、戻って来るかな」
「どうなんでしょうね。帰らなければ私が作りますが……そういえば、以前から帰らなかった時はシアンお姉ちゃんが代わりに作ったんですか?」
「いや、帰って来ないと分かったらクロの家にたかりに行ってた」
「シアンお姉ちゃん……」
ダメ人間を見る様な目で見ないで。だって自分だけが食べるんなら、正直野菜とかキノコを生噛りした方が楽だし、独りで食べるより皆で食べたいんだもの。クロやレイ君と一緒に食べると楽しかったんだもの。
「それはともかく、今はスイ君が居るからたかりにはいかないよ!」
「は、はぁ。……クロさんのためにも、料理、頑張らないと……」
「おお、後輩が哀れみ視線で私を見て来る……」
「そ、そんな事は――あ、神父様ですよ」
「何処!?」
神父様の目撃報告に、私はすぐさまスイ君の視線の先に顔を向ける。
するとその視線の先には……
「あ、シアンにヴァイス、すまない、勝手に出てしまって。今帰ったぞ」
『血だらけ!?』
額から血を流し、服の所々に血をにじませている神父様が居た。
「い、いや、これはほとんど返り血だ。心配はいらない」
「なにがあったんですか」
「いや、言うほどの事では――」
「なにが、あったんですか」
「……少し離れた場所までヒトを案内して色々したんだが、その帰りに血だらけの女性を見つけて、治療した後急いで担いで帰ったらモンスターに襲われている女性を見つけ、庇いながら戦って、モンスターの血を浴びて……」
「そして血を拭くよりも早く、女性達を休ませねばと思ってそのまま彼女らが泊っている宿屋に行き、安静を確認した後、碌に治療をする事無く今私達と出会った、という事ですか」
「……はい」
神父様は気まずそうに目を逸らした。恐らくこの後私に説教を喰らうと思っての目逸らしなのだろう。
……自分を顧みずに誰かを救う神父様は大好きだけれども、流石にこれは説教しないとだめだね。けどその前に……
「まずは治療しますよ。ほとんど返り血、という事は神父様の怪我も混じっているんでしょうし……そして清潔のためにお風呂に入って貰います。良いですね?」
「あ、ああ、分かった」
「スイ君に綺麗に洗って貰い、そしてその後に……説教ですからね。……良いですね?」
「……はい」
私の言葉にシュンとなる神父様。どこか可愛らしいと思うが、まずは治療をしないと。
水魔法で傷口付近を洗い流して、浄化して、応急手当として塞ぐ。とりあえず強化今ではこれで良いだろう。
「まったく、領主代行をしているのに、相変わらずなんですから……どうせ、案内も頼まれたから、内容も聞かずに承諾して案内したんでしょ。そして言われるがままに……」
「う……すまない。困っているみたいだったから、つい言われるがままに素材を取ったり、探し物を手伝ったりしていて……」
「謝って欲しいんじゃないんです。私は誰かのために頑張る神父様が好きなんです。ですけど、自分を大切にして欲しいというだけなんです。つまり謝って欲しいというよりは、自分を大切にして欲しいという事で……いや、でも謝って欲しい事になるのかな、これ――って、どうされました?」
「……い、いや、なんでもないぞ」
「?」
あれ、神父様がなんだか照れているような……?
いや、そんなはずは無いだろう。別に私は変な事は言っていないし……居ないよね? ……なんか好きって言ったような気がするけど、気のせいだ、うん。
「はい、簡易治療は終わりました。それではまず教会に帰りましょうか」
「あ、ああ、そうだな」
「スイ君も一緒に――スイ君?」
私の正直な気持ちが言葉に出てしまったかもしれないという事は置いておくとして、まずは教会に戻ってちゃんとした治療をして清潔にしないと、と思っていると、ふとある事に気付いた。
「……ハッ、――ふぅ、……フゥ……!」
それはスイ君の様子がおかしかった事。暴れる前兆という訳ではないが、目が少し以前の暴走した時のような状態になっているような……?
「大丈夫、スイ君――!」
「ヴァイス、なにか――」
「……ふぅ、大丈夫です。ごめんなさい。自覚してから初めての事だったので……」
とりあえず私と神父様は大丈夫かとスイ君に駆け寄ると、スイ君は落ち着いた様子で私達に笑顔を向けた。
……うん、いつものスイ君だね。無理をしているという訳でも無さそうだ。
「初めてって、一体……?」
なにか起きたのだろう。もしかして血に反応をしたのだろうか? でもさっきのアイ君にはなにも反応を示さなかったし――あ、もしかして綺麗な血とやらに反応を……?
「そこのお前!」
そして私達はその怒声に反応し、スイ君を庇う形をとりながら声の方を向く。
そこに居たのは数名の軍らしき格好の男達と、神父様とは違う種類の教会関係者の服を着た男が一人。
格好からしてこの男は――
「お前が報告にあった異端の鬼だな。捕縛させて貰う!」
――怪物を取り締まる、クリア教の執行官だ。
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