追放された悪役令嬢と転生男爵のスローで不思議な結婚生活

ヒーター

味方で良かった(:灰)


View.グレイ


「ははははは! どうしたどうした。この程度馬鹿弟子なら片手一つで解決できる錬金魔法だぞ! ほーれ、ざっぱーん!」
「な、なんだこれは、水が渦巻いてごぼぼぼぼぼぼぼぼぼ」
「安心しろ、それはセンタッキと呼ばれる錬金魔法道具! 使用後には綺麗になるぞ! 大丈夫、水中で気を失っても私が生き返らせるからな!」
「こ、この、狂人めが――」
「おっと、右腕が取れた。イランからやる」
「へ――ごふらっしゃあ!?」
「スマン、それ右腕じゃなくって右腕に模した爆弾だった。安心しろ、私の右腕はあるぞ!」
「くっ、一旦部屋に逃げ込め! この部屋には武器が――」
「あ、その部屋は」
「え?」
「え? ……きゃぁああああああ!?」
「うわぁあああああ!? なんで半裸の男が大量にいるんだ! あと可愛い声上げるな!?」
「おいおい、男女差別かお前。可愛い声を男があげても良いだろう。ちなみにその部屋は王城の中にある共同風呂の更衣室だぜ!」
「は!? そこはこことは大分離れた場所だろうが!」
「はははは、私が錬金魔法で扉を繋げたからに決まっているじゃないか! はーい、という訳で、いってらっしゃーい。」
「ちょ、身体が勝手に!?」
「私が開発した錬金魔法で作った、スイトルクンだ。勝手に足が運ぶようにし、中に入った所――扉を閉めて、はい、接続解除。するとあら不思議、中に入った皆が消えちゃいました! よし、それでは行こうか、皆!」

 味方で良かった。
 精鋭の方々らしき方々を、お一人で対応した挙句、文字通り消した光景を見て、恐らく私達は共通の認識を持ったであろう。
 ……もしゴルド様が敵であったのなら、私では太刀打ちできないだろう。アプリコット様ならいけるだろうが。

「というかこれ、私達を捕まえる相手以外にも、純粋に反乱分子を抑える相手も来てません?」
「……そうであろうな」
「そして私達も同じように暴れている一味扱いされかねませんかね」
「……そうであろうな、顔を隠してはいるが、気休めであろう」

 確かにこの調子だと、ゴルド様が王城に襲撃を仕掛け暴れているように見えるので、私達を襲おうとしている方々の他にも事情を知らない警備の方々が来ているだろう。
 そしてゴルド様が作られた仮面で顔を隠しているとはいえ、私達も暴れるゴルド様の味方。つまりは王城を襲撃するクーデター扱いでは無いだろうか。

「安心しろ。その仮面には軽めの認識阻害をかけているし、他にも安全になる策がある!」
「碌でも無い事な気がするが、その策とは?」
「記憶を弄れば良いんだよ」
「…………そうか」

 あ、アプリコット様が「予想通りではあるが、しないと今後がな……」といった表情をしている。顔は見えなくてもなんとなく分かってしまう。
 あと記憶を弄るとはなにをするのだろう。聞いてみたいのだが、何故かアプリコット様に止められる気がしたので、やめておいた。

「ところで、王城を出る前に寄る所とは何処でしょう?」
「私達はそう言われて付いてきてはいますが……」
「それは……どこだろうな?」
『は、なにを仰るんです!?』

 ゴルド様が行くがまま付いてきた私達である。しかし行き先が分からないという発言にバーント様とアンバー様は同時に驚いた。流石は双子だ、驚き方が同じで、タイミングも同じで少し面白い。

「騒ぐな。場所というよりは人物を探している。だから何処という訳では――お、早速居たなスカーレット。久しいな!」
「え、ゴ、ゴルド!?」

 ゴルド様はバーント様とアンバー様の文句を無視し、周囲を見渡すと目的のお相手……スカーレット様を見つけて笑顔で手を振りながら駆け寄っていった。対するスカーレット様は戦う体勢であったのだが、予想外の相手の登場に戸惑っている。
 あと、何故か傍らにはエメラルド様も居る。あの表情は……「面倒な相手と訳分からん相手を見つけた」という、アイボリー様に見せる表情と同じである。

「なんか騒がしくて、エメラルドに良い所を見せようとしてやる気満々だったところ私ですまないな! すまないが私達のために攫われてくれ!」
「は、え、な、何事!? というかその仮面の子達はなに!?」
「スカーレット。あいつらはアプリコットとグレイと……トンーバとバンアーだ」
「バーントです」
「アンバーです。……いえ、もう今はその名前で良いです」
「お、おお、よく分からないけど、貴方達がこの変態錬金魔法使いに巻き込まれた、というのは分かるよ」

 何故スカーレット様は今の反応で分かったのだろう。
 しかし、名前……確かにこの場では偽名を考えたほうが良いかもしれない。私の場合は……よし、クレコットにしよう。父上と母上とアプリコット様を繋げた名前だ。良いかもしれない。

「さぁ、という訳でスカーレット、今現在私達は王族に追われているんだ。だから大人しく人質――ではなく、王族の楯として攫われろ」
「言い直した意味ないでしょそれ。……まぁ、後ろの子達が付いて来ている以上は理由があるんだろうけど……エメラルド、良い?」
「構わん。……というより、カナリアが気を失って運ばれている以上は、理由も聞かずに引き下がれん。という訳でスカーレット、私では先程の疲れも含めコイツらに着いて行けないから、運べ」
「お、おお。嬉しい申し出だから一応そうするよ」

 スカーレット様に運ぶようにお願いするエメラルド様。何故かは分からないが、疲れているように見える。まるで戦いの後のようであるが、なにかと戦ったのだろうか。
 そういえばアプリコット様は疲れていないだろうか。
 …………。
 少々疲れているようだ。いざという時は私がアプリコット様を運ばなくては……!

「……しかし、殿下誘拐か。我達極刑にならぬか?」
「きっと大丈夫ですよ。スカーレット様ならば後で説明してくださります」
「……そうだな。今はそう思うしかないな、グレイ」
「今の私めはクレコットとお呼びください」
「? ……ああ、偽名か」

 すぐに気づくとは、流石はアプリコット様である。

「それで、合流したい相手というのは彼女だけで良かったのだろうか」
「一応ヴァーミリオンも回収したいが……まぁ、今は無理だろう」
「無理? 先程クロさん達と一緒に居た所を見たが……やはりクロさん達の身にもなにかあると?」

 アプリコット様の発言に、私だけでなくバーント様とアンバー様にも緊張が走る。
 それは考えていなかった訳で無い疑問だ。私達にこのような追手があるのならば、もしや……という事。

「あー……一応あるにはあるんだろうが、そっちは馬鹿弟子が二人に、アホも居るから大丈夫だろう」
「アホ?」
「国王」
「…………。い、いや、その発言はともかく、なにかあったのならば今すぐ駆け付けたいのであるが!?」
「大丈夫だよ。それよりもお前達は自分の身を心配しろ。今回の一件の首謀者は、“クロ・ハートフィールドと親しき者”と、“スカーレット”と“ヴァーミリオン”を排除しようとしているヤツだからな」
「……なに?」
「え、私も?」

 ゴルド様の発言に、先程までとは違う緊張が走る。
 父上を逆恨みしているのならば、父上と親しき相手を狙うのは分かるが……スカーレット様やヴァーミリオン様も狙っている……?
 それは一体何故だろう――いや、待て。それならば……

「だから私達は身の安全を――」
「待ってください、ゴルド様」
「どうした、グレイ」
「今の発言が事実ならば……もしや、シキにもこのように襲い掛かっている方々が居るのでは?」
「だろうな」

 私がふと過った疑問に、あっさりと肯定するゴルド様。
 そして皆様も緊張とは違う空気が張り詰める。

「そっちは安心しろ。シュイとインがワープしながら高速で向かっている。私達は私達で、安全を確保しつつ、この件の首謀者を捕えれば良い。……まぁ、捕えた所でなにか出来る訳でも無いがな」
「っ、それしか……出来ないのですか……!?」

 それが私の出来る最善だとしても、やはり歯痒い思いをしてしまう。
 シキの方々が……あのお優しきシキの皆様がまた危機に晒されているというのか。

――そんな事は……許せない。

 カナリア様の事を含めて、今回の一件の首謀者は絶対に……!

「弟子よ。気持ちは同じだが、今は落ち着け」

 私を敢えて弟子と呼んだであろうアプリコット様は、私の頭に手を置きながらそう言ってきた。
 先程とは違う、宥める様な置き方だ。

「なに、シキの皆々の心配は要らん。我は我達の心配をし、成せる事を成すのだ」
「……何故、心配はいらないと」
「ふっ、決まっているだろう。例え武力による抑えつけだろうと、権力による圧力だろうと――」

 アプリコット様は仮面の下でいつもの様に不敵に笑うと。

「シキがその程度で屈するはずがなかろう?」

 確信にも似た、信頼の言葉を言ったのであった。

「追放された悪役令嬢と転生男爵のスローで不思議な結婚生活 」を読んでいる人はこの作品も読んでいます

「恋愛」の人気作品

コメント

コメントを書く