追放された悪役令嬢と転生男爵のスローで不思議な結婚生活

ヒーター

溜め込んでいた?(:菫)


View.ヴァイオレット


「俺はずっと悩んでいた。勝てていたと思い込んでいた入学当初も、実は手加減によるものだったのではないかと!」
「なんの話ですか!」
「メアリーとの戦いの話だ! 最初の頃は俺が勝っていただろう!」
「出会い頭に“奇妙な格好をしているな、女”とかぶっきらぼうにツンツンクールぶってた頃ですか!」
「そ、それを言うな!」
「汚れると周囲が五月蠅い中、錬金魔法の道具を手に入れるために入学早々土塗れになった私を見て羨ましかったんですよね! だから他の女の子は適当にあしらう中、強めの言葉を使ったんですよね!」
「や、やめろ、あまり思い出したくない! というかその話ではないだろう!」
「強かったですものね! 最小の動きで最大の効果をもたらす動きばかりで負けてました!」
「だが、今の強さを考えると、メアリー、あの時は手加減していただろう!」
「…………」
「どうした、答えられないという事はやはり――」
「……ょ……が……よ……」
「なんだ、聞こえないぞメアリー!」
「テンションが上がっていたんですよ!」
「!?」
「(前世でプレイしたゲームの)学園に通う事が出来て! (イベント通りに)行動したら思ったようになって! 授業で私がやられた時も(ゲーム通りの)勝利の決め台詞や魔法を放つ時の特殊台詞を言うんですよ! そんなもの試合に集中できるはず無いじゃ無いですか!」
「な、なんの話――はっ! そういう事か。だがやはり手加減していたという事では無いか!」
「対人戦に慣れていなかっただけです! あの時の私はアレが戦闘力の最高値です! 強くなったのは皆さんのお陰なんですよ! ありがとうございます!」
「どういたしまして! ……いや、違う!」
「言葉では足りないんですか! 欲張りですねヴァーミリオン君は! なんですか、バチクソに抱いて欲しんですか!」
「バ、バチ……? そういう意味ではない! 手加減でない事は分かったが――強くなるお前に置いて行かれているという事は変わりない!」
「王族魔法を使って強くなっていけば勝てるでしょう! それに先程のように封殺を使えるのなら、私なんかより強くなります。私では出来ない芸当で――」
「王族魔法目くらましからの【水中級魔法ウォターカッター】!」
「え、危ない!? ――ふっ、避けられませんから見様見真似の封殺リフレクション!」(パシィン!)
「…………」
「…………」
「やはりメアリーには出来るではないか!」
「ぐ、偶然です! 中級魔法だから出来たんです!」
「メアリーはいつもそうだ。涼しげな表情でいつもヒトよりも遥かに優れた事をする。ルーシュ兄さんの封殺も今日見てすぐに出来ていたようにな!」

「……オレも見様見真似で弟達に混戦の最中に技を模倣されている訳だがな……」
「……ルーシュクン、シッ、デスヨ」

「……だったらなんですか。ズルいとでもいうつもりですか?」
「素晴らしいと言いたいだけだ! 俺の惚れた女はそうでなくてはな!」
「え、あ、ありがとうございます!? ……じゃなく、それで良いんですか!?」
「良いに決まっているだろう。そうでなければ並び立とうとも、越えようという気にもならない! ――だからこそ」
「?」
「だからこそ、美しく気高い俺はメアリーを好きではなく、愛するようになったんだ!」
「愛!?」
「愛!」
「い、一方的な愛はストーカーの始まりですよ!」
「メアリーは俺の事は好きではないのか!」
「好――い、今は関係無いでしょう!」
「関係大アリだ! メアリーが俺を好きでなければそもそも俺達は何故戦っているんだという話になるだろう!」

「クリームヒルトさん。物凄く今更な事をヴァーミリオン兄様が言っている気がします」
「あはは、気にしたら負けというやつだよ」

「好きなのか、嫌いなのか!」
「……そういう事をこの場で聞いて来るヴァーミリオン君は嫌いです!」
「そうか。であれば意地でも勝ってやる!」
「今の会話で何故その結論になるんですか!」
「メアリーに意識させるためだ!」
「だから何故――」
「まずメアリーは馬鹿だ!」
「!?」
「美しく、可愛らしい一面もある中、メアリーは馬鹿と言えるだろう!」
「なんですか急に!?」

「おい、お前の弟がトチ狂ったぞ。魔法の使い過ぎか?」
「昔、私と居る時はあんな感じだったよ。多分」

「そんな馬鹿であるメアリーを意識させるためには――お前よりも強くならなければならない!」
「その心はなんです!?」
「世界を善くしたいと願うメアリーの共に歩める男が居るのだと! メアリーの隣にはメアリーと同じ事が出来る男が居ると知れば、メアリーは意識せざるを得ないはずだ!」
「そ、それはそうかもしれませんが……今でも充分意識してますよ!」
「嘘を吐くな、救い馬鹿!」
「救い馬鹿!?」
「メアリーの意識しているそれは、ただ世界の全ては美しいと思っているから意識しているだけのモノだ!」
「え、ど、どういう意味です!?」
「特別に大切なモノが無いから、平等に全てを美しいと意識している倒錯マゾヒストだ!」
「倒錯マゾヒスト!?」
「俺はその中でも特別になりたい。だから俺はお前の背中に辿り着き、追い越して嫌でも俺を見るようにしてやる!」
「…………」
「だからこの戦いでは俺が勝って――」
「言いたい事を言ってくれますね、この被虐サディスト!」
「被虐サディスト!?」
「分かった様な口ばかりきいて! いつもそうです、私を好きだのなんだの言って私を祀り上げますが、偶像を崇拝しているだけのようにしか思えないんですよ!」
「な、なにを急に……!?」
「私を見ていないくせに、私を分かった気にならないで下さいという事です! なーにが平等に美しいと思っているですか。平等にどうでも良いような応対をしていたヴァーミリオン君に言われたくありません!」
「それはメアリーと会う前だけだ! 俺はメアリーと会って変わった、周囲を見るようになったんだ! メアリーのお陰で世界が明るく……」
「……なら」
「?」
「なら、私だって皆さんと出会ってそうなったとなんで思わないんですか!」
「!?」
「空っぽだった私が大丈夫だったのは、皆さんが居てくれたからなのに! この世界は生きているのだと思った時、明るく見えて、やった事に苦しんだのは皆が居たからなのに! なんで貴方は……」
「メアリー……」
「それに私はシキの教会の地下で、ヴァーミリオン君に受け入れられた時からとっくに……」
「メアリー?」
「…………ええい、もう面倒くさいです! 勝った方が正しいという事で良いですね、この捻くれ第三王子!」
「捻っ!? ――ああ、それで良い。元から勝つ事が俺の目的だからな! いくぞ、救い馬鹿で愛すべきメアリー!」
「愛とか軽々しく口にしないでください!」
「自分の気持ちに嘘はつけない!」
「喧しいです!」

 ………。
 ………………さて。
 途中から戦いの中の会話というよりは、愚痴の言い合いのようになっていくヴァーミリオン殿下とメアリーの会話。
 話しながらも互いに繰り出す魔法は、既に個人対個人の域を超えており、ドラゴンとドラゴンがぶつかり合っているような状況である。審判で比較的近くにいる国王陛下の御身が心配である。
 ……それはそうと、今この状況で言える事があるとしたら……

「両者共、ストレスが溜まっていたのだろうか……?」
「色々互いに言いたい事は有るようですね……」

 という事である。

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