追放された悪役令嬢と転生男爵のスローで不思議な結婚生活

ヒーター

最終戦の前置(:菫)


View.ヴァイオレット


「さて、バーガンティーの無事……ではなく、恋に酔った状態を確認出来た所で最終戦だ」
「お父様!?」

 という、冗談なのか本気なのか分からない国王陛下の言葉と、観客側の場所でローズ殿下達に“ご褒美”について問い質されているバーガンティー殿下の発言を聞きつつ。王族伝統の戦いも最後の一戦を残すのみになった。
 なお、クリームヒルトとバーガンティーの一戦は、勝負不成立となった。
 ルーシュ殿下の時のように、また次の戦いに活かせとの事である。
 二人の絆を感じ取り、好きな者同士で居る事を優先させたのか。あるいは引き裂かれるかもしれないという可能性を見えた時に見せたクリームヒルトのあの目が原因か。……恐らくは前者だとは思う。

「最後はヴァーミリオン、そしてメアリー・スー嬢だな。メアリー嬢、魔力は大丈夫か?」
「はい、回復しました。お気遣い痛み入ります」

 “錬金魔法を使用したため、少しでも魔力を回復させるために最後に回す”という理由で最後になった、ヴァーミリオン殿下とメアリーの一戦。
 最後という事と、この一戦が最も戦い辛いだろうという事もあって、私達にも緊張が走る。

「時にクリームヒルト。ヴァーミリオン殿下とメアリーの戦績は?」

 私はバーガンティー殿下と一緒に観客の場所に、ロボやエメラルド、ルーシュ殿下やスカーレット殿下も誘いながら来たクリームヒルトに尋ねる(ちなみにバーガンティー殿下が問い詰められている間は、意味深な言葉を言って笑っていた)。

「あくまで模擬戦だけど、二:八ニハチか、三対七サンナナって感じかな。あの五人の中ではヴァーミリオン殿下が一番勝率が高いよ」

 この場合のヴァーミリオン殿下の勝率は七や八ではなく、二割から三割の方だろう。そしてあの五人とは、ここに居るエクルを含めた私の決闘相手の五人か。
 大いなる精霊の力を使役するアッシュ。
 剣の腕前が達人クラスのシャトルーズ。
 魔法の腕前が王国でも最高クラスのエクル。
 特殊な魔法で大いなる威力を持つ魔法を操るシルバ。
 という、既に学園どころか王国内でも戦闘能力が高い四人。

――そして、あらゆる面に優れたヴァーミリオン殿下。

 戦闘、魔法、学力、その他実務など。あらゆる面で高水準を誇り、殿下達では最も総合能力が高いのがヴァーミリオン殿下だ。“最も国王に近い紅き獅子”などと評されるくらいである。

「ヴァーミリオン君。分かっているとは思いますが、手加減は無しでお願いしますね。貴方らなら王族魔法も十全に使えるでしょう」
「……分かっている」

 そして隠してはいるが、王族特有の魔法の扱いに関しては殿下達の中でも群を抜いている。
 魔法が殿下達の中で最も優れ、調子が良くなっていたバーガンティー殿下ですらこの場で扱えない最上級王族魔法を使う事が出来るヴァーミリオン殿下。
 殿下達で戦えば、強者であるルーシュ殿下やスカーレット殿下とも五分に近い形で戦える。

――だが、それでもメアリーに対しては分が悪い。。

 しかしアッシュ達四名でも、殿下達の中でも実力があるヴァーミリオン殿下でも、メアリーには負ける。
 好きな相手に力を出せない、などという事は無いだろう。
 先程クリームヒルトは二割か三割と言ったが、それはあくまで模擬戦の話であり、試合の内容を客観的に見た場合の実力差を言ったのだと思う。

「うん、さっきのは本気のメアリーちゃん相手だったら、という評価だよ」

 要するに、試合の内容としては……五名がメアリーの本気を引き出せていない状態での戦いだった、という事だろう。

「とはいえ、メアリーさん自身に手加減している自覚は無いだろうがな」
「あはは、だろうねー」
「どういう事だ、クロ殿?」
「いついかなる時も本気と思っているという事ですよ」

 クロ殿(泣いたのがバレぬように離れていたが、充血が収まったようだ)曰く、メアリー意識的に本気を出していないという事ではないそうだ。
 メアリーも侮って本気を出していないのではなく、本人も自覚が無い所でその時の戦いを本気と思っている。実力をセーブした戦い……というよりは、もっと別のモノ。つまり、

「多分戦いを楽しんでいるんだと思うよ。身体を動かすのが楽しいだろうからね」

 というのが、前世からメアリーを知っているエクルの意見である。

「メアリー様は自由に動く身体を動かすのが好きだからね。強い相手と戦うと笑顔が零れるクリームヒルトとは違う戦闘の楽しみ方さ。切磋琢磨を長く楽しみたいんじゃないかな?」
「あはは、エクル兄さん。その言い方だと私が戦闘狂のようだよ」
「うん、そう言っているよ」
「黒兄、黒兄。エクル兄さんは酷い事言うー」
「狂戦士と言われないだけマシと思え」
「ヴァイオレットちゃん、ダブル兄が虐める!」
「はいはい。そういう時はバーガンティー殿下に甘えると良いと思うが」
「それすると、いざという時のご褒美のありがたみが減るかな、って」
「……成程」
「ヴァイオレットさん、その成程はなんの納得です」

 それは勿論、クロ殿と積極的に接するよりは、偶に離れるとクロ殿もありがたく感じるかな、と思ったからの納得の“成程”である。
 ……いや、駄目だな。私の方が耐えきれそうにない――と、話が逸れたな。

「それでは、互いに準備が整ったようだから、始めるぞ」

 む、いかん。メアリーの手加減云々は置いておくとして、今は目の前の戦いを見なければ。……どことなく国王陛下も、私達が集中しきれていないのを見て改めて言った気がする。これ以上気は使わせまい――む?

――ヴァーミリオン殿下の様子が……?

 おかしい。
 集中していないという訳ではなく、戦闘が始まる前の独特の緊張感はある。
 だが妙に……おかしい、という表現が似合う違和感を覚える。これは昔……

「では、ヴァーミリオンとメアリー嬢の勝負――」

 まるで昔の私と接していたような雰囲気で……?

「――始め!」

 そんな私の疑問を余所に、勝負開始の合図が為される。
 先に動いたのは――

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