追放された悪役令嬢と転生男爵のスローで不思議な結婚生活

ヒーター

組み合わせ発表


「そう声を荒げるな。良いか? 私とて、私の国で優秀な者達が育っていて嬉しく思っている」
「それが何故俺――私達と貴方達が戦うという事になるのですか、父上」
「私達は王族として優秀さに自負を持たねばならない。そしてその中には当然武力も含まれるわけだが」
「……はい」
「そして優秀な者達が現れたのだ。王族として競い合いたいと思うのは当然だろう?」
「だろう、じゃないです!」

 俺達を代表してツッコんでくれるヴァーミリオン殿下。ありがとう、殿下。俺達ではこれ以上ツッコめないので、貴方が代表して言ってくれるだけでもありがたいです。普段の冷静さは何処へいったという感じですが。

「わざわざ邪魔が入らない場所を用意し、互いに全力を出せるようにしたんだ。この用意があるお陰で、先程“強さの証明なら私がします”と言っていたスカーレットが、騎士団の一件で橋渡し役になったんだ」
「スカーレット姉さんが……?」
「ふふふ」

 国王の言葉に何故か不敵に笑うスカーレット殿下。恐らくこの中では一番テンションが高いだろう。

「ふふふ、私やルーシュ兄様が、あんな血湧き肉躍る戦いをただ見ているだけだと、不思議に思わなかった?」
「思ってました」
「思っていたよ」
「思いました」
「思ってたね」
「思っていました。乱入した場合、俺が姉さんと兄さんをどう止めるかと考えていました」
「ふふふ、ヴァーミリオンは後で覚悟するがよい」
「え」

 カイハクさんとクレールさん以外が思っていたという事を伝えると、スカーレット殿下は表情を変える事無くヴァーミリオン殿下を標的にした。……うん、この二人は仲良いからな。姉弟同士の親しいやり取りなんだろう、多分。

「ティーやフューシャまで巻き込んで……というかローズ姉さんまでなんでそちらで父上と一緒に戦う準備万端なんですか……」
「言っておくが戦うのは殿下息子達だけで、私は参加しない。そしてヴァーミリオン、お前もこちら側だぞ。王族として戦うんだ」
「えっ」

 ああ、うん。そうなるよな。あからさまに“王族対俺達!”っていう構図だし。国王が参加しないのは意外ではあったが。

「あの、一つお聞きしても良いでしょうか」
「クロ子爵か。許可する」
「ヴァーミリオン殿下がそちらにつく場合、殿下達六名に、俺達はヴァイオレットさんを含めたとしても五名です。クレールさんかカイハクさんを入れるのでしょうか」

 出来ればヴァイオレットさんにはこんな妙な事に巻き込みたくないのだが、戦いが出来なかった場合殿下達は後から面倒そうである。特にスカーレット殿下とルーシュ殿下。
 こういうのが苦手そうなローズ殿下かフューシャ殿下が棄権してくれればどうにか出来そうではあるが……ここに居る以上はそれも期待できないよな。

「そうだな。スカーレットと同じ年齢のカイハク伯爵を戦闘メンバーに入れても良いが……」
「え゛っ」

 カイハクさんが標的にされたという感じで物凄く冷や汗流している!
 だが俺達だって急な出来事なんだから、王族命令である以上は逃がしはしないぞ!

「彼女には補助に入って貰う。護身符の魔力装填などだな」
「りょ、了解致しました!」

 カイハクさんが内心で“免れた!”と叫んでいる気がした。
 ……まぁ別に良いか。彼女が王族と戦う羽目にならなかった事を喜ぼう。しかしそうなると、クレールさんがこちらに入るのだろうか?

「そして今質問にあった戦いの方法については……お前達の誰かが二人分働けば問題ないだろう」

 無茶言うなや。
 ローズ殿下とフューシャ殿下は知らないけど、全員全力出して勝てるかどうかの強者だぞ。

「冗談だ。そこについては今はそちらが気にする必要はない」

 ……? なんだろう、今国王が何処かに意識を向けた気がする。
 俺達でも、殿下達でも、扉でも無い何処かに……?

「ところでお父様、希望を言っても良いでしょうか?」
「どうした、スカーレット」
「もし戦う相手を自由に選べるなら――私はクロ君を指名したいです!」

 え、なに良い笑顔で俺指名しているのこの殿下。

「ほう、何故だ?」
「私はクロ君に負けっぱなしですし、今はなんだか調子良いですし……全力でクロ君に勝ちたいです!」

 待って。確かに勝ってはいるけれど、あくまで魔法無しの状態での模擬戦だ。しかも何度もヒヤリとしている。
 調子の良い状態で魔法とか使うスカーレット殿下相手とか、勝てる気がしないぞ俺。

「であればオレもクロを指名したいと思います」

 え、な、なんでルーシュ殿下まで!?

「理由を聞こうか、ルーシュ」
「先程の戦闘……彼らの戦いを見て一番戦いたいと心から願ったのが彼です。あの戦いをオレの全力を持って何処まで通じるか……試してみたい……!」
「あはは、モテモテだね、黒兄」

 ……………………。

「ヴァイオレットさん、すみません。手を握っても良いですか?」
「それでクロ殿を支えられるなら、いくらでも握ってくれ」

 急な言葉であったが、ヴァイオレットさんは了承してくれたので、白く綺麗で柔らかな手を握る。
 なんで俺と戦いたがるんだチクショウ。明らかに殿下達の中でも冒険者の中でもトップクラスの二人じゃないか。
 ……いや、こうなったら二人を相手して、勝ってヴァイオレットさんに良い所を見せてやるぞ! ……この状況に耐えられず、こっそりとねだって手を握っている時点で情けないとは言われそうだが。でも言われるかもしれないけど、こうして愛しの相手と触れ合いたかったのである。……よし、元気出て来た。

「気持ちは伝わった。しかし残念だが、戦う相手はもう決まっている」
「そうなのですか?」

 え、そうなの? ちょっと安心――でもないな。誰と当たっても戦い辛い事には変わりないだろうし。
 しかしここで疑問顔になる辺り、スカーレット殿下やルーシュ殿下も聞かされていなかったという事だが……誰と戦う組み合わせになるというのだろう。

「戦う組み合わせだが――まずはヴァーミリオン」
「はい」
「お前が戦う相手は、メアリー・スーだ」
「……メアリーと、ですか」
「私がヴァーミリオン君……いえ、ヴァーミリオン殿下と……」

 これは……互いに戦い辛そうな組み合わせだな。
 ヴァーミリオン殿下は勿論、メアリーさんも戦い辛いだろう。

「次、バーガンティー」
「はい!」
「お前はクリームヒルト・フォーサイスが相手だ」
「おぉ、私?」
「は、はい。頑張ります!」

 そしてこちらも戦い辛い相手同士だ。
 いや、この二人は戦いで加減をするのを好まなさそうだから、以外と良い試合になるかもしれない。なんか互いが互いに、相手に良い所を見せようとしあう感じがしそうだ。

「次にルーシュ」
「はい」

 しかしそうなるとルーシュ殿下達の相手は誰になるのだろう。
 ……さっきは嫌がったが、ローズ殿下やフューシャ殿下と戦うよりは戦いやすそうであるから、ここで呼ばれたほうが良いかもしれない。

「お前の相手は、ブロンド・フォン・アンガーミュラーだ」
「……え?」

 ……今、国王はなんと?
 言われていない俺達もルーシュ殿下のように呆気に取られてしまう。

「アンガーミュラー」
「……ワタシハ、ロボデス。ソノ家名ヲ名乗ル事ハ許サレテイマセン」
「ロボさん!?」

 そして急に現れたロボ……先程国王がチラリと見た場所から急に現れたロボ。
 突然の出現に俺達は驚愕の表情となる。

「そうか、すまないなロボ嬢。次、スカーレット。お前の相対するのは、エメラルド・キャットだ」
「はい?」
「……はぁ、なんで私が……」
「エメラルド!?」

 しかし国王は気にする事無く次の対戦相手を言う。しかもその相手も、俺達ではない名を告げている上、ロボと同じように急に現れた。

「さて、戦う前に言っておこう。私の愛する息子と娘達よ」

 国王は俺達がなにか言うよりも早く、次の言葉を続ける。

「お前達にとってこの場所は調子が良くなり、最も力を発揮できる場所だ。そのような状況で負ける事は王族として許されない」

 ……先程も感じたが、こんな時でも演説をしていると言うか、魔法も無しに惹かれてしまうようなカリスマ性を感じられると言うか。
 この御方の言葉には、不思議な力がある。

「お前達が負けた場合――負けた相手との婚姻は諦めて貰う」

 言葉をそのまま実行出来ると思わせる、力が。





備考:殿下達待機中のテンションランキング
1.スカーレット (公認で暴れられる!)
2.ルーシュ (あの強き者達と戦える……!)
3.バーガンティー (兄様達の戦闘を間近で見られる!)
4.フューシャ (戦えるのかな、私……)
5.ローズ (……キチンと熟して、終わったら夫と子供に癒されよう)

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