追放された悪役令嬢と転生男爵のスローで不思議な結婚生活
泰然で傍若
言われた俺だけではなく、凛々しい表情で俺への愛を語っていたヴァイオレットさんも体勢は綺麗なまま、表情だけが不意を突かれたような表情になる。
言われて表情が変わっていないのはローズ殿下とクレールさんのみ。とはいえこの両名は表情の変化に乏しいので、判断が付きにくいだけかもしれないが。
「さて、そうと決まれば謁見はここまでだ。ご苦労だったな皆の者。彼らの処遇は追って連絡させるから、各自持ち場に戻れ。解散だ」
しかし俺達の動揺も気にせずに、謁見は終了だと言うレッド国王。なんというか早めに部屋に戻って、着いて行くための準備をしたいというかのような様子に見えるのは気のせいではあるまい。
「レッド!」
「どうしたコーラル」
そんなレッド国王に一早く物申したのはコーラル王妃。放っておけば本当にこのままこの場を去ろうとしそうであったからだろう。あるいは長年の夫婦生活が夫の本気を感じ取ったのかもしれないが。
「どうした、ではありません。貴方は今からこの者達の処遇を決め、公務に戻るべき立場でしょう、なにを馬鹿な事を言っているのです!」
恐らく他の方々が思ったとしても、言えないであろう言葉で追及するコーラル王妃。止める立場が自分しかいないと思っての王妃としての発言なのか、あるいは妻としての言葉か。
しかしこの様子だと、コーラル王妃にとってもこの行動はやはり予想外という事か。
どちらにしろ、こういった言動だとローズ殿下辺りは止めそうであるが……
「…………」
やはりローズ殿下は表情を変えずにいた。我関せず、というよりは予想していた事で、止めるのは無駄だと分かっているような感じか。
あの殿下達兄弟が一番怖がっている、しっかり者のお姉さん殿下がこうとなると……説明はされていた、と言う所だろうか。
「ああ、処遇は決めるとも」
そしてコーラル王妃の言葉に応えるレッド国王。どうやら説明する気はあるようだ。
「現在対外的にはシキでの一件は反王国勢力による、我が子達へのモンスターを含む襲撃となっている」
余談だが、カーマイン指導の襲撃で協力していたクーデター組の方々、およびモンスター達にはカーマインの痕跡はほぼ残っていない。
シキでの一件を仕掛ける際……つまりはローズ殿下にバレそうになったので襲撃を仕掛ける際には、文字通り“後先考えない”行動であったので痕跡はあるにはある。
だがあの男はローズ殿下にバレる直前まで、狡い事にカーマインという名をほぼ使わずに準備を進めたのである。……それで俺の親しき相手を全員調べ、行動に移したんだ。しかも政務をきちんとこなした上で。アイツ本当に優秀だったんだな、と改めて思う。もっとマシに使えや。
「奴らは我がランドルフ家の王族魔法を利用した襲撃を仕掛けた。だが……」
「分かっています。王族魔法を使用したクーデターの凄惨な有様は、当時の被害者達によって語られているため封鎖は不可能のため」
「そう、結果として“扱いきれずに自爆”した。故にシキでの一件の者達は強力であり、王族の痕跡を残しながら暴走した」
……そういう事になっているのか。まぁ確かにカーマインによって使っていたから別に構わないが。
「さて、シキでの一件は軍部、騎士団、学園生、およびシキの領民の協力により抑えられた事になっている」
「はい。……もしやそれだけだと責任問題が起きるから、ですか?」
コーラル王妃は、そこでなにかに気付いたかのようにレッド国王に問いかける。……どうしよう、俺にはよく分からない。ヴァイオレットさんとかなら分かるのだろうか。
「そうだ。我が子達、殿下達を危険な目に合わせた領主としての、な」
「しかし管理不行き届きならともかく、事故や災害に近い、対処してもどうしようもならない事です。責任問題にするのは……」
「通常ならそうだが、ここ一年のシキでは他に追及される事も有るんだよ。それらを踏まえるとなにかしらの対応をしないと駄目になる。だが……聞けば、クロ子爵はとても強いそうじゃないか」
「……そういう事ですか。だとしても――」
……まただ。またレッド国王は“聞けば”と言った。
先程のはヴァイオレットさんの愛の言葉によってスルーしてしまったが……もしやレッド国王は俺達の状況を分かっているのかもしれない。
いや、それはそれとして……
「あの、ヴァイオレットさん。これってもしかして……」
「恐らくは……クロ殿個人の強さを証明させ、“クロ子爵だからこそ、その程度で抑えられたという事”にしたいのだと思われる」
「ですよね……」
会話に対して嫌な予感がしたので、俺はたまらず小声でヴァイオレットさんに尋ねると、ある意味で嫌な回答が返って来る。……ヴァイオレットさんのせいではないが「予想とは違うと思うぞ」と答えて欲しかった……
「――ですから、レッドが直接行かずとも、誰か別の者に行かせればよろしいでしょう!」
「直で見てみない事には、どの程度使えるかどうかも分かるまい。――なぁ、クロ子爵!」
「え、あ、はい、なんでしょう!」
国王達は夫婦で話していたのだが、唐突に呼ばれて戸惑いながら返事をする
「お前はヴァイオレット嬢との結婚生活を引き続き送る事を望んでいる、そうだな?」
「は、はい。そうです」
そして戸惑う中、気にせずに俺に近付いて来るレッド国王。
周囲の者達はさらにざわつくが、レッド国王は意も介さない。
「だが、カーマインの事情を知って居る者は“王族魔法と相対して大丈夫だったのは事実か”という評が有り、知らぬ者にはこのままだと“管理がなっていない弱き領主”となるだろう」
いや、管理はなっていないは有るかもしれないが、弱いという評にはならないんじゃないだろうか。
だとしても……そうか。事情を知っている者達からしても、俺は“王族魔法という強力な魔法を前にしても、カーマインを取り押さえる事が出来たそうだが、事実か”という疑問もあるのか。場合によっては他の誰かの功績を奪っているのではないかという疑問も……だ、だとしてもレッド国王自身が付いてくる必要はないのではないだろうか?
「だから私が直々に見て、強さを保証してやろう。さぁ、一緒に騎士団へと行こうじゃないか」
「いえ、ですが私には……!」
「まぁ、そう言うなクロ子爵」
だから俺はなにか言おうとするのだが、その前にレッド国王は俺の肩に手を置き。
「――俺もメアリーやクリームヒルト。エクルの他にクロ子爵にも興味がある。だから色々見せてくれ」
レッド国王の言葉に、俺とヴァイオレットさんは固まった。
……どうやら、逃げるのも断るのも無理そうだ。
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