追放された悪役令嬢と転生男爵のスローで不思議な結婚生活
イチャの攻&攻(:菫)
View.ヴァイオレット
部屋に着替えを取りに戻り、お風呂に入り。
いつもより綺麗に身体を洗った後、髪を乾かしセットした後。火照った身体がまだ冷めきれぬまま、執務室へと戻った。
「すまないな、クロ殿。仕事中にお風呂に入って」
「い、いえ。別に構いませんよ」
「しかしお風呂場にクロ殿も来て一緒に入ると思ったのだが、来なかったのだな」
「……来て欲しかったんですか? ヴァイオレットさんはエ、」
「来て欲しかったとも。さて、仕事を再開するか。クロ殿の言う通り仕事を終わらせてから続きをしないとな」
「え、えと……?」
「どうした?」
「いえ、なんでも、ないです……」
という会話をした後に仕事に戻る。
クロ殿は私の発言になにか言おうとしたのを先に言われ戸惑いを隠せずにいたが、ともかく仕事を中断させた分を終わらせねば。
――とはいえ、大体が終わっているのだが。
しかし仕事とはいえ急ぎの仕事は無い。
今日の仕事は大半が終わっているため、明日に回しても問題無い内容のモノしかない。緊急なモノでも入って来ない限り今日は仕事を終わらせても問題は無いだろう。
だが普段なら仕事中の時間なので、クロ殿の性格上時間内で出来るキリの良い所までは仕事を続けるだろう。
「クロ殿、すまないが聞きたい事があるのだが」
「なんでしょう」
「こちらの資料なのだが、税の複合具合を見ると、こちらの組み合わせよりは古いものを残した方が良いと思うのだが」
「ええと、軽減された仕組みではなく、古い組み合わせの………………。あの」
「どうした、クロ殿。よく見てくれ」
「見ますけど……何故俺の後ろから見せるんです」
ならば私はそれを利用しようという事で行動をした。
具体的には座っているクロ殿の後ろに回り、後ろから抱き着く形で腕を前に回して資料を見せて身体を密着させた。
今私はクロ殿よりも体温が高いお風呂上り。そして後ろから密着する以上私の胸も密着する。意識せざるを得ないはずだ。
昔からヒトより大きく、見られるのが嫌で良い面よりも悪い面の方が多かった女特有の胸の膨らみだ。こういう時くらいは役に立って貰わないと困る。
「は、はい、古い組み合わせの方が、得かと思われますが【レインボー】の場合は新たな方が良いですね」
そして普段は女性の胸について“服を作る上での見栄えが……”などと興味があるのか無いのか分からない反応をするクロ殿もしどろもどろに反応しつつ、答える。
ふふふ、効果があったな。やった甲斐があった。………………。
「ほう、何故だ?」
「ギルドと宿屋、酒場の併設ですからね。全ての恩恵に預かる事が出来るので」
「成程な。レインボーの主人はそう伝えておこう。助言感謝する、クロ殿――フゥッ」
「ヒャゥ!?」
しかしまだ受け答えする余裕があるようなので、クロ殿の耳に息を吹きかけてみた。
すると随分可愛らしい反応をする。ビクッと動いて可愛い声を出した。……耳、弱いのだろうか。
「……ヴァイオレットさん」
クロ殿は吹かれた右耳を抑えながら、一歩下がった私の方を椅子と一緒に座りながら振り返る。
その顔はどうにか平静を保とうとしているが、抗議の視線と羞恥が混じった目は誤魔化しきれず、私を見上げる形で見る。
「すまない、クロ殿、つい――うわっ!?」
流石に謝ったほうが良いかと思ったのだが、謝る前にクロ殿は私の腕を少々強引に引っ張って来た。
引っ張られて私は態勢を崩し、油断をしていたのでそのまま倒れ込み――
「よっ、と」
「っ!?」
そして倒れ込む前にクロ殿の華麗な腕裁きによって身体が回転し、私は天井を見る……仰向けの体勢となったまま、倒れ込んだ。
「ええと……」
「随分と可愛いイタズラをしますね、ヴァイオレットさん?」
……倒れ込んだ先はクロ殿の太腿の上。見上げる形の状態で、私はクロ殿を間近に見ている。
近くに見えるクロ殿はニッコリと分かりやすいくらいの作り笑顔を私に向け、まさに「よくもやってくれたな」と言わんばかりの表情である。
「えーい」
「ふにゅ!?」
そして可愛らしい掛け声と共に私の頬を優しく掴んで来た。
や、やめるんだ。ただでさえ近くで見られているのに、頬を掴まれて変な顔をしているのを見られたくない! だけど逃げるためにクロ殿に暴力も震えない。くっ、これがクロ殿の策略か……!
――っ! 隙あり――!
だが油断して頬を抑えた手が緩んだ。
私はその隙を逃がさず、身体を起こし逃げようとする――
「――んっ!? ――! ――んむっ!?」
が、頬が緩んだ代わりに口を塞がれた。
先程よりも近付いたクロ殿が、文字通り覆いかぶさる形で、唇で口を塞いで来たのである。しかも長い。
「――――ぷはっ」
「――はっ。――クロ殿、急に――んむっ!? ――!」
「―――――」
「――! ――、―――――!!!」
そしてようやく息継ぎが出来たかと思うと、私が文句を言う前にさらにもう一度塞がれた。
柔らかいと言うか、くすぐったいと言うか、いろんな感触が侵入して来ると言うか、息苦しさはあるけど心地良くて続いて欲しいと言うべきか――って、違う。
「――ふぅ」
「――はぁー、……ふぅ、はぁー……」
「大丈夫ですか、ヴァイオレットさん」
「誰の、せい、だと……!」
そして長い二回キスの後、クロ殿の太腿の上に体を預けたまま私は息が絶え絶えになる。
クロ殿は心配をするが、私はクロ殿と比べると体力はないし肺活量も少ないんだ。クロ殿は平気でも私は大きく息を吐くしかない。
だからこの手の事を運動面で満足するまで付き合ったら私が勝てる訳が無いだろう。
「すみません、近くにヴァイオレットさんが居ると思うと、ついキスをしたくなりまして」
「元々クロ殿がこの体勢にしたのだろう……!」
「はは、すみません」
「謝る気があるなら――隙あり!」
「え――、んっ」
「――――ふぅ。ふ、ふふふ、私がされるままだと思わない事だ……!」
全体で勝てる訳は無いが、やられっぱなしというのも性に合わない。だから局地的にでも勝とうと、油断した所を今度はこちらから近付いてキスをしてやった。
ふふ、どうだ。勝ち負け以前に、近くにあったので奪いたかったから行動しただけなのだが、そこは置いておくとして私もやる時はやるんだ。
「……ヴァイオレットさん」
「……なんだろうか、クロ殿」
「誘っているんですか」
「誘っているぞ」
そうでなければこんな恥ずかしい事出来るモノか。
後ろから抱き着くのも、胸を押し当てるのも、生憎と私はクロ殿相手でも恥ずかしくてしようがない。
だけど恥ずかしくとも喜んで貰えるかもしれないと思い、そう思うとやらずにはいられなかっただけだ。
「…………」
「…………」
そしてふと、無言の時が流れる。
チク、チク、チク、と。時計の音だけが部屋の空間を支配する。
その間、私とクロ殿は見つめ合って、互いに顔を逸らさない。
「髪、乱れていますね」
「急にされたからな。乱れてしまうのも無理は無い。……幻滅したか?」
「何故です。俺がする訳ないでしょう」
「クロ殿は私の外見や所作を綺麗と言ってくれるからな。乱れていては綺麗とは呼べまい。……それに、急にキスをしたり、大きく息を荒げたりもしたからな……嫌いになったかと」
「いいえ、ヴァイオレットさんは乱れても綺麗ですよ。どんな時でも、今も、これからも。この程度で嫌いになんてなりません。それに……」
「それに?」
「普段は佇まいが綺麗な人が、自分にだけ見せてくれる乱れというのは良いモノですよ」
「倒錯的だな」
「だって好きな相手が乱れて、素を見せてくれるんですよ。嬉しくなりますし、独り占めしたくなるでしょう?」
「――ふ、ふふふ」
「笑うなんてひどいですよ」
「ああいや、すまない。つい、な。クロ殿は独占欲が強いようだからな。その対象が私でつい嬉しくなってしまった」
「まったくもう……」
「拗ねないでくれ、クロ殿。だが私も分かる気もするよ。この光景を見て良いのは、私だけなのだと思う気持ちは沸き上がるモノだ」
「でしょう?」
「ならばクロ殿」
「なんでしょう」
私はそこで自然と綻ぶ口元のまま、クロ殿に告げる。
「私はクロをもっと独占したいのですが。受けてくれますか?」
私が告げた言葉に、クロ殿は「もちろんです」と答えてくれた。
今日は長い夜になりそうだ。
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