追放された悪役令嬢と転生男爵のスローで不思議な結婚生活
興味があるお年頃(:純白)
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目を開けると知らない部屋で、数秒経って僕が昨日までとは違う場所で寝始めた事を思い出した。
育った孤児院が火事が起きたため違う場所で寝るのがここ数日での習慣であったが、今日からはこの教会で寝起きする事を慣れなければいけない。それに生まれ故郷とは違う国ではあるが、同じ宗派の教会で今日から修道士になるための修行と仕事をする必要があるんだ。早く慣れないと。
――お祈りしないと……あ、そうだ。聖堂があるんだ。
日課である朝の祈りをやろうと思ったが、今日からは昨日までと違って聖堂がある。昨日のように部屋で独りで祈る必要は無いだろう。
――時間は……五時半か。
姉から貰った懐中時計で時間を確認すると、時刻は五時半であった。
本当はもう少し早く起きたかったのだが、日もまだ上っていないので大丈夫だろう。帝国と王国は同じ時間帯で時差が無いので助かった。
そう思いつつ、僕はすぐに服を着替えて修道士としての格好になる。
――早く祈らないと、迷惑がかかる。
修道士の朝の仕事は特になく、朝起きる時間は七時までに起きて来て欲しいと言われている。ただ今日の場合は八時までに起きれば良いとも言われている。
そしてその時間に朝食を全員で食べ、その後に今日する事を割り当てるとの事だ。
これは修道士とはいえ見習いであるし、帝国から来たので疲れているだろうと言う気遣いによるものだ。新たな生活に徐々に慣れて来てから本格的に教会での仕事をする。本格的とはいえ、そこまで長い事居るとは限らないのだけれど。
――誰も起きてない内に祈りを済まさないと。
僕はその話を聞いてこの時間には祈りを済まそうと思った。
何故なら、この時間ならば誰にも祈る姿を見られないだろうと思ったからだ。
朝の祈りの時間は強制ではない。
だけど日課でもあるクリア神に祈る行為を止めたくはない。
――しかし、僕が祈ると他の皆に不快な思いをさせてしまう。
クリア教の教えでは、下着の着用は禁止され、あまり装飾品を身に着ける事を推奨されておらず、祈りの時間となれば装飾品を外して行わなければならない。
けれどその祈りの方法だと僕の場合はとても困るのだ。
僕の外見は、見ると他者を不快にさせ、惑わし、集中出来なくさせる。だからとても困る。
――もしかしたらお姉ちゃんもこの外見のせいで……いや、今は祈りを優先させよう。
この時間なら誰も起きていない。
聖堂までの道は分かっているので、音を立てて起こさない様にしつつ、部屋を出る。
そして聖堂まで行って祈りを捧げ――
「あれ、ヴァイス君?」
「!?」
祈りを捧げようと聖堂に入ろうとした所で、突然声をかけられた。
女性の声であり、とても真っ直ぐな声。含みもなにもない性格が良いなと思ったこの声は……
「シ、シスター・シアン」
このシキの教会で唯一のシスターであるシアンさん。
紺色の髪がとても綺麗で、頼れるお姉さんの雰囲気が溢れるとても……とても、可愛く綺麗な女性。
そんなシアンさんがこんな時間に起き、聖堂に居る僕を不思議そうに見ている。
「あの、特に怪しい事をしている訳では無くてですね。こんな時間に目が覚めてしまったので、ちょっと部屋から出ただけというか、来てしまったと言うか……!」
僕はなにを言っているのだろう。
素直に祈りを捧げに来たと言えば良いモノを、慌てていては怪し過ぎるではないか。ただでさえこのシキは先日大きな事件があったらしいのでピリピリしているだろうから、下手な事をすれば捕縛すらされると言うのに。
だけどこの時間に祈りを捧げる、という行為を隠したかったのも事実だ。僕は他の方々よりも悪目立ちするのだから、僕の行動は目立たないようにしないといけない。
「では、これで失礼しますね!」
あまりこの姿を朝から晒すものでは無いと思い、僕は聖堂を去ろうとする。
怪しまれても、変に思われても良いので部屋に戻らないと――
「待って。私も祈りに来たんだ。ヴァイス君も祈りを捧げに来たんなら、一緒に祈ろう?」
戻らないと、と思ったのだけど。
去ろうとする僕の腕を掴んでシアンさんはそう提案した。
「え、でも……」
掴まれたので振り返ると、視界に見えたのは僕を安心させるように笑顔を向けるシアンさん。その笑顔からは邪心や不快感は感じられず、それが善い事であるからと提案しているような笑顔であった。
提案はありがたい事ではあるのだけど、僕と一緒に居てはシアンさんも祈りの邪魔になるだろう。厚意を無碍にして悪いが、ここは祈りを捧げに来たのではないと断りを淹れないといけない。
「ほら、先輩の言う事は聞きなさい!」
「え、ちょ、シスター・シアン!?」
しかし断りを入れる前に、シアンさんは僕を引っ張っていく。
足取りは軽やかで、握る場所を腕から手に替えて引っ張るその後ろ姿からは、まるで“祈る仲間が増えた!”というような嬉しさすら感じる。
「ほら、ここだと祈るのに丁度良い場所なんだ。そしてこの場所はヴァイス君に譲るよ!」
「あ、ありがとうございます……?」
そして聖堂の長椅子が並ぶ場所よりも前の、少し開けた所でそう提案してくるシアンさん。
僕はその事に困惑しつつも感謝の言葉を述べ、手が離された事を少し寂しく思いつつも言われたままにその場で祈る大勢をとる。
「それじゃ、私はここで祈るから。私の祈りは長いから、先に戻っても良いからね!」
「は、はい……」
シアンさんは僕の横、シアンさんの身長分くらい離れた位置に陣取る。
そして胸の前で両手を組み、膝を地面につけて祈る体勢をとった。そして僕も慌てて同じように祈る体勢をとる。ここまで来て帰るのは流石にクリア神にもシアンさんにも不敬だろう。
――綺麗。
祈る体勢をとる前に僕はシアンさんに対してそう思った。
昨日や先程までは、綺麗だとは思ったけれど年上の女性ながらも可愛い女性だと思っていた。同時に失礼ながらシスターらしくないとも思ったけれど。
だけど今のシアンさんはなんというか……お姉ちゃんのような、絵画を思わせる美しさがあったのである。
――この時間にいつも祈りを捧げに来ているのかな……?
他の修道士見習いの子達は不審な目で見る中、シアンさんは僕を始めて見た時もクロさんやスノーホワイト神父様のように特に気にせずに接してくれた女性だ。
明るくて元気で、シュバルツお姉ちゃんとは違ったお姉さん感がある女性。
もしもシアンさんがこの時間にいつも祈りを捧げているのならば、邪魔をしない様に時間をズラシて祈りに来なければ。
――僕の外見は他者に迷惑をかけるから。
僕の白すぎる肌は「吸血鬼のようだ」と悪魔扱いをされたり、「天使のようだ」と言われ、孤児院の先生に襲われかけたりした。
誰かの近くに居ると、自意識過剰ではなくよく見られもする。
お陰でシュバルツお姉ちゃんには迷惑を多大にかけ、大分嫌われた。血が繋がっていなければ、僕のせいで親に捨てられた上に転院する原因の僕をとっくに見放していただろう。僕と一緒に過ごさなかったのがその理由だ。
だから僕は目立たないよう生きなければならない。この教会でもそれは変わらず、細々と仕事を熟すようにするつもりではあったのだけど……
――明日からもこの時間に来ようかな……?
けれど、僕はそんな事を思ってしまう。
何故かは詳しく分からないけれど、もしこの時間にいつもシアンさんが起きて来て、彼女が今のように嫌な顔をしないのならば、これからもこの時間に起きて祈りをしたい。
ふと、そんな事を思うのであった。
――………………どうしよう。
けれど、一つ問題が発生した。
明日からも祈りをするとかそういう事以前に、今の祈りを忘れないようにせねばと祈りを開始したのだけど……
――さっき見えたアレが……
先程祈る体勢になり、祈る姿が綺麗だと思ったシアンさん。
しかしそんな思いを抱きつつ祈るのはクリア神に失礼だと思い、忘れようとしたのだけど……どうしても脳内に目を瞑る前に見えた光景が焼き付いている。
昨日シアンさんと出会った時、この人は本当にシスターなのかと思ったとある服の部分。
他の修道士も見まいとし、シアンさんが別の所を見ている時はつい見てしまっていた場所。
……そして、祈る体勢の時により見えてしまった太腿が――
――忘れるんだ、僕!
イケない。クリア教修道士としてこれはイケない事だ。
見習いとはいえ僕は修道士なんだ。こんな邪まな心を抱いたままの祈りなんてクリア神に失礼だぞ、僕!
シュバルツお姉ちゃんとは違う感じだからって、変に思ってはいけない。優しいシアンさんをそんな目で見てはいけない!
……そう思いつつ、気が付けば僕は一時間以上祈っていたのであった。
備考:必死に祈るヴァイスを感じたシアンの思い
(なんだか一生懸命に祈ってる……これは敬虔な修道士になる!)
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