追放された悪役令嬢と転生男爵のスローで不思議な結婚生活

ヒーター

ドキドキ


「やはり脱ぐしかないのだろうか」
「やはりってなんですか。温泉とかなら協力はしますが、ヴァイス君と普段のような事をしたらしょっ引きますよ。普段ですらしょっ引きたいのに、ギリギリだからしないだけですし」
「おや、普段は私のVIに見惚れて見逃していると思っていたのだが、違うのかな?」
「そうなのか、クロ殿?」
「違いますよ!?」

 シュバルツさんの言葉に慌てて否定をする俺。ヴァイオレットさんも冗談半分だとは分かるのだが、半分本気な気もしたので強めに否定しておく。
 それにシュバルツさんは見ていてもありがたく感じないと言うか、芸術を見ている感じになると言うか……違う、そこじゃない。

「しかし、ご兄弟で仲良くする方法、ですか」

 紅茶と珈琲を淹れ終え、先程までは黙って聞いていたグレイが言葉を発する。
 表情からして今までどうすれば良いかと悩んでいたのだろう。以前はシュバルツさんに敵対心が有り有りであった(当然と言えば当然)が、今はこうして仲良くなる手伝いをする心情ではあるようだ。

「グレイ君はなにかアイデアは無いかな。君より二つ上の同性だし、年齢が近いと感性も近いかもしれないからね」

 二つ上……となると十三歳か。
 シュバルツさんとは四歳ほど離れている事になるから……シュバルツさんが七歳の時に孤児になり、それ以降十年は弟のために頑張って来たという事になるな。
 それなのに結果が嫌われている扱いだと……うん、協力してあげたいな。

「私めの兄弟と言うと、アプリコット様やカナリア様になるのですが……」
「君達は今は仲良いけど、仲が良くなるキッカケとかどんなのがあったかな?」
「私めは引っ込み思案であったので、お二人が引っ張ってくれたので仲良くはなりましたが……アプリコット様の場合は、シキでの生活に慣れようとしている内に、ですね」
「ほう?」

 グレイとアプリコットの仲良くなったキッカケは、アプリコットが俺やグレイに警戒心を抱く中、領主生活に慣れない俺を二人が支える形で気付けば仲良くなっていた感じである。
 後からアプリコットに聞くと「料理もマトモに出来ない貴方達を放っておくと、なんだか貴方達が駄目になる気がしたのだ……」と言っていた。ようは「我がどうにかしないとだめなんじゃないか?」というやつである。……まぁ、あの頃は調理器具の扱いとか上手く出来ずに、大分雑であったから否定できない事ではある。
 後は……隠したいが、俺の中二病的な事を吹き込んだらアプリコットが気に入って、色々と話し合っている内に仲良くなったな。今ではすっかり黒歴史だけどな!

「確かにアプリコット君は男の子の心を掴む物言いをする事があるからね……クロ君、私にも教えてくれないか!」
「ごめんなさい、無理です」

 主に俺の精神面の問題で。

「なんであったか……直死TYOKUSHINO魔眼MAGANであったか? その類だろうか」
「ごふっ!? な、なんでヴァイオレットさんがその言葉を!?」
「クリームヒルトが言っていた。確か目も悪くないのに眼鏡をかけたり、コンテストで着たような和服WAFUKUに革のジャンパーを羽織っていた事があったそうだな? 他にも……模写トレース? が得意であったと聞いたぞ」
「私めもその時に聞きました。一部はカラスバ叔父様やクリ先輩からも聞きましたが」

 おのれクリームヒルト。今度会ったら覚えておけよ。
 バーガンティー殿下に工藤〇一の真似をしてシャーロキアンになろうとして、一冊目で読むのを止めた事とか吹き込んでやるぞ。

「まぁ、これ以上聞くとクロ君の精神面が持ちそうにないから置いて……は置かずに候補にしておくとして」

 するんかい。

「カナリア君とはどんな感じだったのかな?」
「はい、カナリア様も初めは怯えていたのですが、ゆっくりと話していく内に今の明るさになり、それ以降はよく遊んでくださいました!」
「成程」

 カナリアは俺とはシキですぐに元の関係には戻れたが、色々あって周囲に怯えていた。しかしグレイとアプリコットの優しさに触れたのですぐに仲良くなっていったな。
 従者として先輩風を吹かせてはいたのだが、すぐに追い抜かれて(一部既に抜かれていて)落ち込んだりもしていた。……まぁ、そのお陰で従者としてではなく、今のような関係に落ち着きはしたのだが。
 それにあの頃はシアンと仲が複雑であったのだが、カナリアのお陰で今のような関係になったとも言えよう。
 どちらにしろ重要なのは……

「やっぱり、何事も面と向き合っての会話が必要という事みたいだね……」

 シュバルツさんが紅茶を飲みながら言うように、会話することが大切という事だ。
 そもそもシュバルツさんの場合は真意や心情を少しでも伝えていればヴァイス君も“嫌われている”なんて思わなかっただろう。……まぁ、それも彼女の仕事の内容を考えれば仕様がない事かもしれないが。

「はい、私めも色々と話が出来た事で仲良く――いえ、一つ私めにアイデアがあります」
「む、なにかなそれは?」

 グレイはなにかを思いついた……というよりは、思い出したかのような表情になる。……なんだろう、嫌な予感する。具体的に言うと俺の黒歴史と関係している感じがする。

「グレイ、それはどういったモノだ? もしカーキーなどに吹き込まれたモノなら、辞めておいた方が良いぞ」
「いえ、ヴァイオレット様もお聞きになられたモノです。先程の特殊な目について聞いた時に」
「私も? …………ああ、アレか。確かに良いかもしれないな」
「そう、メアリー様が言っておられた、名付けて――」

 俺の嫌な予感を余所に、グレイは自信満々、そして良いとびっきりの笑顔で作戦名を言った。

「“ドッキリデート大作戦はーと”、です!」

 なんだか最近クリームヒルトもメアリーさんも、俺の敵なんじゃないかと思えて来た。

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