追放された悪役令嬢と転生男爵のスローで不思議な結婚生活

ヒーター

チョイスミス


「すまない、間違えた。弟と裸の付き合いをしてくれないか」
「絶対わざと間違えましたよね」
「ハハ、王国語は難しいからね。帝国語圏内の私ではよく言い間違えるんだよ」
「アンタ流暢に王国語話すでしょうが」

 思い返すとヴァイス君も流暢に王国語を話せていたなと思いつつ、俺は溜息を吐く。
 何処まで本気かは分からないが、シュバルツさんは真面目に(?)俺に頼み込んでいるようにも見える。
 裸の付き合い……ようはお風呂やサウナなどに入って会話しろ、という意味である。しかしこの場合は赤裸々に語り合い、弟の悩みを聞いてやってくれないかと依頼しているのだろうが。

「というか、それこそシュバルツさんの出番じゃないですか? 姉弟水入らずで語り合えば誤解も氷解するかもしれませんよ。よければ温泉を貸し切りますが」
「そりゃ私だってしたいさ。弟なら一緒にお風呂も入りたいし、ベッドで寝たい。姉弟なら恥ずかしがる必要も憚れるモノもない」
「ええ……」
「だがそれをいきなりしては駄目――む、なんだクロ君。弟に対して私はなにかおかしい事を言ったかな? 君だって弟や妹は好きだろう?」
「そりゃ好きですが……」

 カラスバクリも、前世でのビャクも好きではあるが、進んでお風呂とかベッドとかで寝ようとは思わない。カラスバならお風呂ならまだ良いかもしれないし、弱った時に励ます目的としてなら良いかもしれないけど、“したい!”と自らは望まないです。
 そういえばカラスバ元気かなー。結婚も済んで新婚生活始まっただろうけど、仲良くやれていると良いが。

「なんて言うか、シュバルツさんは弟と接する方法を根本的に間違えている気がしてきました」
、失礼な」

 あまり他人の兄弟間の関係についてとやかく言うものでは無いが、シュバルツさんの場合はツッコまざるを得ない程なにかが違う気がする。
 俺がヴァイス君と赤裸々にお互いの心の内を話す事が出来たとしても、シュバルツさんがこのままだと上手くいかない気もする。

「私の美しさが健在な以上は弟への愛は本物であり、接する方法も……すれ違っていただけで間違いでは無いはずだよ」
「そうですね……では、色々と聞いて回りますか?」
「なにをかな?」

 俺は提案をしつつ、壁に預けていた背中を離して歩く体勢をとる。
 シュバルツさんは疑問に思っているが、俺は教会とは逆の方面を指さし言葉を続けた。

「兄弟のいる領民に兄弟と接する方法を、ですよ」







「と言う訳でヴァイオレットさん、兄妹で仲良くする方法を教え下さいませんか?」
「頼ってくれるのは嬉しいが、私に聞くのは間違っていると思うぞ」

 そして我が屋敷にて。
 ヴァイオレットさんに兄弟間の仲良さの秘訣や関係性に聞いた所、そのような答えが返って来た。
 帰るとシュバルツさんと一緒に帰って来た事に驚いたヴァイオレットさんであったが、相談があると言うと仕事を切り上げて話を聞いてくれた。同時にグレイも紅茶を淹れ、相談する体勢は整ったのだが、あっさりと言葉を返されてしまったのである。
 ……うん、なんとなく想像は付いたけどね。

「シュバルツが悩んでいる内容は分かった。仲良くする協力は出来るのだが、兄弟間の接し方を私に聞かないで欲しい」
「あれ、でもヴァイオレット君はお兄さんが二人いたよね?」

 ヴァイオレットさんにはライラック、ソルフェリノと言う名の二人のお兄さんが居る。
 俺は見かけた事くらいならあるかもしれないが、まだ会った事はない。どういう性格かも特に聞いてはいない。

「……パーティー会場で業務的な内容以外は、六年近くまともに会話をしていない。実家ですれ違っても挨拶で終わる」

 ヴァイオレットさんは紅茶を飲みながら遠い目をしていた。

「……なんかゴメンね」
「気にしていない。私の実家はそういうものだ」

 公爵家になると兄弟間でもあまり会話は無いかもしれないが……バレンタイン家の場合は少し勝手が違うような気がする。なんというか“血が繋がっていようと他人なんだから信じるな”と言う感じがヒシヒシと伝わって来るからな……

「すみませんヴァイオレットさん、嫌な事を聞いて」

 一旦帰りたかったし、シュバルツさんに言われたので聞きはしたのだがヴァイオレットさんに聞くのは間違っていたようである。
 とはいえ、実は仲良い部分もあったのではないかと期待しなかったといえば嘘になるが。

「気にしないで良い。兄達が私に関心が無いのは慣れている。私もそれは当然だと思っていたからな」
「当然って……それは」
「そう思っていたんだシュバルツ。実績の無い私では認められないのは当然だとな」

 ……しかし、ヴァイオレットさんの実家の方は今の所良い印象があまり無いな。
 バーントさんとアンバーさんの話では「厳しくはあっても理不尽ではない」との事で、上に立つ者として立派に公爵家としての仕事を熟しているらしい。その事には尊敬もするし、ありがたくは思うのだが必要以上に関わりは持ちたくないなとも思う。
 ……まぁ、バレンタイン家が無ければヴァイオレットさんと俺が出会う事も無かったわけだ。それに関しては大いに感謝しよう。ありがとうバレンタイン家!

「大体、私に聞くよりは他の者に聞いたほうが良いのではないか?」

 内心で感謝していると、ヴァイオレットさんが俺達に聞いて来る。
 その意見は当然の疑問と言えよう。だが……

「いえ、ここに来る前に色々と聞いて来たんですよ」
「ふむ? では話は聞けて、話をまとめるために屋敷に戻り、最後に私に聞いた、と言う所だろうか」
「少し違いますね」

 色々と話を聞く事は出来た。
 あまり不特定に聞くとヴァイス君と出会ってしまったり、ヴァイス君に対して色眼鏡で見てしまうかもしれないので多くは聞けなかったが……

「俺らが聞いた内容は――」

 そして俺は今まで聞いた内容を話した。







「兄弟間で仲良くなる秘訣? そりゃ上が下に力関係を示せば良いんだよ。まずは首に首輪をつけて、夜に徘徊を――え、俺が首輪をしている理由? それを今から説明しようと思ったんだが」
「首輪……私の首には似合うだろうが、ヴァイスは喜ぶだろうか……」
「喜びませんしドン引くだろうんで止めてください」


「土に埋まって野菜の気持ちを知る事が第一歩だ」
「私は兄弟間って言ったのだけど……」
「野菜は家族であり兄弟だ! 良いか、まずは相手の気持ちを知る事が大切だ! だから相手と同じ立場になる――つまり、土の中に埋まって根を下ろすことが大切なんだ! 一緒に埋まりに行くぞ!」
「な、成程!?」
「やめてください、俺達は土の中では死ぬんです。そしてシュバルツさんも納得しないでください」


「やはり美しさを共有する事が良いですよ師匠! 互いに服を脱ぎ合い、正々堂々、清廉潔白を示しつつ美しさを高め合う事で姉弟の仲は深まるのです!」
「おお、それは良いね! 私もヴァイスも美しい。早速しようではないか!」
「おいコラ、それやる前に捕縛するぞ」


「まずは路地裏に連れ込むんだ」
「ほう」
「なんかいきなり凄いの来た」
「そこでドレスに着替え、数々のポーズをとる。弟は君の美しさに見惚れるだろう。そして互いにテンションが上がって来た所で――」
「所で……?」
「料理を振る舞い朗らかに会話をするのさ」
「待てや。路地裏に連れ込む必要もポーズも必要ないやろそれ」
「口調が変だぞ、クロ。同じ料理を食べるのは仲良くなる秘訣だろう!」
「そうだけど場所と前の行動がおかしいって言うとるんや、です」
「成程ドレスに料理……料理はそれなりに出来るが、ドレスの調達に時間がかかるな……よし、帝国に戻って良いのを複数買い付けようか」
「分かりましたよシュバルツさん。貴女ヴァイス君の事になるとポンコツになりますね?」


「オーキッド君に聞くのはどうだろう?」
「……確かにオーキッドに兄は居ますが、アイツに聞くのはやめたほうが良いです」
「何故だい? あの優しき彼なら、兄弟間の話も親身になって良いアドバイスをくれそうじゃないか」
「……シキの領民は大抵の人が知っているので言いますが」
「うん?」
「誰とも付き合った事のないオーキッドは生まれ故郷で十股している事になっていて、年の離れた兄の、その嫁さんは“このお腹の子はオーキッド貴方の弟の子だ!”と身に覚えがない事を言われた挙句錯乱し、兄は激怒し家庭崩壊が起きたので」
「……他に当たろうか」


「ハッハー! 兄弟間で仲良くなる方法は簡単だぜクロにシュバルツ! 俺の兄上と妹様が仲良くなっていた秘訣を今教え――待て、何故逃げるんだぜ!?」







「――という感じです」
「人選を間違えてはいないか?」

 否定はしない。

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