追放された悪役令嬢と転生男爵のスローで不思議な結婚生活

ヒーター

依頼と回帰_3(:淡黄)


View.クリームヒルト


 生まれ故郷に着いた時は既に夕方だったので、討伐モンスターの依頼内容を聞いた後、夕食を食べて明日に備えた。

「そういえば皆。皆はイケメンだから村の女の子達には刺激が強くてアピールされるかもしれないけど、行きずりの関係にならないでね?」
「ならんし手を出さんから安心しろ」
「あはは、そうじゃなくて……手を出されないでね?」
「そっちか……」
「うん。刺激が少ないと、突然の出会いに運命を感じて来る子がいるかもしれないからね……」

 夜にはこのメンバーだと割と本気で心配をしている内容の会話をしつつ眠り、次の日の朝。
 私は包帯を締め直した後にシークレットブーツで十センチほど身長を盛りシアンちゃんほどに。バストサイズをメアリーちゃんくらいに盛るなどして準備をして、討伐モンスターが目撃された場所へと歩いていた。

「では、ここで二手に別れましょうか。私はシャルくんと行きます」
「はい?」

 そして歩いていた途中で、エクル兄さんにそんな事を言われた。なにを言っているんだこの兄さんは。

「ええと、エクル兄さん。どういう事?」
「今回のモンスターの詳しい情報を手分けして探そうという事だよ」
「村の周囲を散策するのも良いだろうし、聞き込みも良い。手分けすれば効率が良いな、うむ」

 本当になにを言っているんだこの兄さんは。ついでにシャル君は。

「あのね、私はこの村の土地勘はあるけど、村では厄介者なの」
「そのようだな」
「だからバレない様に声は出せないし、バレるリスクは避けたいの。分かる?」
「分かります。では早速別れようか」
「聞いて」

 納得しておきながら早速別れて何処かへ行こうとするエクル兄さんとシャル君。
 なんだこれはイジメか。新手のイジメなのだろうか。
 まさかティー君が私と一緒になるために王族権限を使って二人を何処かへやろうと――いや、違うね。ティー君もなにを言っているんだと言う様子である。

「じゃあお昼に拠点に集合という事で。じゃあね!」
「ティーで――ティー、イッシキをよろしく頼むぞ!」
「あ、ちょっと!?」
「エクルさんにシャルさん!?」

 そしてエクル兄さんとシャル君は、まるで「頑張れよ!」と言わんばかりに私達を置いて走っていった。シャル君に頑張れと言われるのは正直複雑な気分だ。シャル君は人を応援するくらいなら自分の事を頑張ればいいのに。
 あとあっちに行っても森しかないと言うのに、なにしに行くと言うんだ。今回の討伐対象は水辺に居るんだよ。

「とりあえずエクル兄さん達は、帰ったらメアリーちゃんに行きずりの女を探しに行ったといってやる……!」
「やめてあげてください。ええと……どうしましょうか」

 どうしようかと言われても正直困る。
 確かに今一つ分かっていないモンスターの情報を村人に聞くのは良いかもしれないけど、私は声は出せないし、包帯塗れだ。
 例えティー君が爽やかフェイスで聞いたとしても、後ろに無口な包帯女が居たら警戒をするだろう。
 ……まぁ、でもティー君なら警戒はされても話を聞く事くらいは出来るだろう。明るい好青年という感じだし、彼なら話を聞くくらいは出来るはずだ。
 私は後ろに控えて話が終わったら土地勘がないティー君に対し、村を案内すれば良いだろう。

「では、行きますか!」
「え、ちょ、ちょっと!?」

 そう思っていたのに、ティー君は意を決したかのような表情の後、私の手をとって引っ張ろうとする。
 あ、結構大きくて固いな……雷神剣とか言う今背負っている剣を振っているんだな――って違う、そうじゃなくって!

「ティ、ティー君、なにを!?」
「せ、せっかく二人きりで貴女の生まれ故郷を見て回れるのです。私がエスコートをして歩いて回って引っ張っていかねば!」
「落ち着いて!」

 なんだかティー君がよく分からない感情のまま、文脈が滅茶苦茶な言葉を言って私を引っ張っていこうとする。
 引っ張る手は結構温かく、安心感のある手で、線は細くとも男の子だなと思う事が出来て――って違う!

「というか急に女の手をとって引っ張るのは紳士として良いの!?」
「包帯越しだからノーカウントです!」
「なにが!?」
「さぁ、行きましょうビャクさん! これが私達の初デートです!」
「仮にデートだとしてもこれで良いの!? ――あ、ちょっと!」

 私が包帯で巻かれた状態のデート。
 しかも場所は私が厄介者の故郷で、今は周囲に誰も居ないので喋れるが、上手く喋る事も出来ないだろうデート。
 手を握っても、包帯越しだから少し寂しいデート。

 …………こんなデート絶対に嫌だ!







 結局はデートという事ではないという結論が出た。
 のだが、それはそれとしてティー君が手を放してくれなかったので諦めて人が居ない村を案内する事になった。
 なんでも、

『貴女という素晴らしい女性が育った場所を知りたいです!』

 との事だ。
 ……これが学園の誰かであれば“厄介者扱いをされた故郷を案内させる”という嫌味に思えるのだろうけど、ティー君は純粋に知りたがっているだけのように思えるから不思議だ。人の機微に疎い私ですら感じるのだから相当なのだろう。

「あっちにあるのが湖だよ。結構綺麗だよ」
「そうなんですね。行ってみますか?」
「良いけど、この時期から夏にかけてだとお風呂代わりに水浴びに使う村人も居るかも。フューシャちゃんみたいにラッキースケベイ目指しに行く?」
「やめておきましょう」

 あ、でもモンスターが水辺に出るって話だから今は避けているかな……
 あの辺りはモンスター避けの効果はあるだろうけど、念のために行かない様にしているかもしれない。けど水辺なら……

「一応確認しに行こうか。水辺に出るモンスターだって言うし、利用者がなにか気付いているかも」
「……そうですね。女性が居た時はお願いします」
「私は声を出せないから、その時は諦めてティー君行ってね。結構開放的な場所だし、隠さずに堂々としているかもしれないけど、頑張って!」
「……誰か水浴びしていたら引き返しましょう」

 結果だけ言うと、誰も居なかった。
 やはり水辺は避けているのか、偶々誰も居なかっただけなのか。ともかく前回は来なかったので約一年振りの湖は、静寂が包み込んでいて私の記憶と変わらず綺麗なままであった。

「おー……綺麗ですね」

 誰も居なかった事に少し安堵しつつ、ティー君はこの湖を見て綺麗だという感想を抱いていた。

「飲み水としても使えるくらい綺麗だよ。自然がくれた恵みと言うやつだね。後は……」
「後は?」
「……いや、なんでもないよ。もし入るとしたら、足は付くけど中央の方は整備はあまりされていないから気を付けてね」
「? 分かりました」

 ここが私にとっての一年中のお風呂場であった事や、冬場だと氷はしないが、火魔法で温まらないと入っていられなくなるから、と言おうとしたけどやめておいた。今は春だし、ティー君には関係ない話だ。

「じゃあ次行こうか」
「はい!」
「…………」

 関係無い話をしそうだったし、ここは依頼とも関係無い。
 だから次に行こうとしたのだが、元気よく返事をするティー君を見て私は疑問に思う。

「……楽しそうだね」

 なんというか、ティー君が楽しそうに見えたのだ。
 別に水浴びしている女の子が居て裸を見れた訳でもないし、特に楽しい観光資源がある訳でもないのに、なぜこんなに楽しそうなんだろう。

「当然ですよ。好きな女性と一緒に居られるんですから!」

 そしてティー君の返事は、ある意味では予想通りとも言える内容であった。
 ……彼の性格を考えれば予想できるというのに、なんで私はわざわざ聞いたのだろう。…………。

「じゃ、次行こうか」
「はい! ……あれ、クリ――ビャクさん。どうかしましたか?」
「なにが?」
「いつもと様子が違う気がしたので」
「……あはは、さぁてね。じゃあ行こうか」
「? 分かりました」

 ティー君を引っ張る形で私達は歩いていく。
 ……先程こんなデートは嫌だと思ったけど、一つだけ良かったと思う事がある。

――顔を隠せれて、良かった。

 邪魔だと思っているこの包帯だが、この包帯のお陰で今の表情をティー君に見られなくて本当に良かった。
 何故かは分からないが、今の私はそう思ったのである。

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