追放された悪役令嬢と転生男爵のスローで不思議な結婚生活
王族姉弟の愛談話_1(:真紅)
View.ローズ
溜息を吐きたくなる。
己の心を律する方法は過去の教育で学んだため、私はあまり表に感情を表さない方だ。
元々感情の起伏が乏しいというのもあるのかもしれないし、長姉として責任感を持って行動しなければならず、動揺を見せず構えるべきだと考えたためなのか、私は心を律する方法には長けていた。
他にもスカーレットやヴァーミリオンの出生に関してゴタゴタも起き、少しでも周囲の負担を減らしたいという思いも起因しているかもしれないが、ともかく喜怒哀楽をあまり表に出さない方だ。
お陰で「ローズ殿下は手がかからず、王族として相応しい在り方だ」と幼少期から評されもした。多分弟達が大分ヤンチャだったのもあると思う。
……ただ、あまりにも笑わないので、七歳の時お父様に「ローズを笑わせるために公務を休む!」などと心配(?)もされた。そしてあの時の私は「国を動かすお父様が子を優先してどうするんです」と言い、一日笑わなかったのは申し訳ないと思う。当時はお父様の下半身のだらしなさとスカーレットとヴァーミリオンの母が誰なのかも含めて反発していたのもあるけれど。
ともかく、昔よりは喜怒哀楽もハッキリしてきた私ではあるが、動揺や弱い所をあまり見せ無いという方針はあまり変わっていない。
なので、人前で溜息を吐くという事は意識してしないようにしている。溜息は弱味であり、相手を威圧か不快にしかせないのだから。
――はぁ……
だが今の私は溜息を吐きたいので、内心で溜息を吐いていた。
というよりは、最近は溜息を吐きたい事ばかりだ。
暴走。事情聴取は報告でも“なにも答えないと”しか報告にあがらず、私自らしても「愛のため」としか言わない弟。
癇癪。普段は落ち着いていても、血の繋がった子供に関しては愛を捧げるお母様による、カーマインに対する愛。カーマインの扱いはお母様の癇癪でまだ上手く進んでいないと言っても過言ではない。
落胆。お母様は今はお父様が抑えてはいるが、お父様もお父様で色々と扱いに困っている。カーマインは不義の前と後……スカーレットとヴァーミリオンに挟まれた子のため、複雑な状況の子のため、お父様も今回の件は上手く処理しきれていない。
苦労。今回の件で、私達王族……レッド国王の子供達は多くの事に追われている。ただ、多くの事に追われる中でも、共通して優先している事は“シキ及びハートフィールド一家に累が及ばない、今ある環境を壊さない事”だ。
憔悴。カーマインの妻である、義妹のオール。……元帝国貴族の彼女は現在、夫の行動に対し、憔悴している。私達にはどうする事も出来ず、強い精神を持つ彼女も今は……周囲の方々がフォローをしている。
――責任と補填、褒賞……多くは有りますが……
今回の一件の責任をクロ・ハートフィールドに押し付けようという動きもある。主にカーマイン一派が行なっている。当然そのような事がならないにはしている。
同時に面倒なのが、今回の一件でハートフィールド一家の今までの罪が無くなる事だ。
正確には罪ではないのだが、あの一家はある意味カーマインの策略によって生まれた一家でもある。
クロ・ハートフィールドは罪では無いが貴族の立場を利用され、シキで領主をやり。
ヴァイオレット・ハートフィールドは、本来修道院にて幽閉のように扱われる所を、カーマインがバレンタイン公爵家と交渉し、クロ・ハートフィールドと夫婦になった。
ようするに、一連の出来事で“カーマイン第二王子の失脚により、貴族の立場が変わるかもしれない”のである。
――クロさんの扱いはあくまでも“領主不足の地への派遣、 学園を自主退学”。ヴァイオレットの扱いは“両家合意による婚姻”ですからね。
前者は功績やカーマインの失脚により、他の地への派遣や大きな領地を任される事もある。
後者は、カーマインの圧力が無くなったので、元婚約者であるヴァーミリオンとの関係も回復しつつある今では、バレンタイン公爵家がなにをするかは分からない。婚約破棄をさせ、別の家に……という事も無きにしも非ずだ。少なくともあの夫婦にはまだ実子はいないのだから。
――そうならないように、クロ・ハートフィールド夫妻に頼まれたとなると……私としては――いえ、私達としては今の彼らの生活を守る事を優先しなければ。
しかしそれを望まないのは、なによりもクロ・ハートフィールド夫妻だ。
あの夫婦はお互いをこれ以上に無いほど愛し合っている以上は、そのような事は望まない。
だから「褒賞よりも、今の生活を守れるようにご協力お願いします」と、今回の一件の後始末についてお願いしてきたのだ。
私としては然るべき褒賞を与え、楽にさせてあげたいものだが……本人達が望むのだから、私達はそれに応えるだけだ。
――それは疲れはするモノの、まだどうにかなりはしますが。
その辺りの話は、私と違って優秀な弟達が率先して約束を果たそうとしているのだ。今の所は良い方向に進み、着々と約束を果たせそうにはなっている。その辺りの今の所の問題はお父様とお母様くらいであり、余裕がある程だ。根を詰めすぎも良くないので、ヴァーミリオン達には少し休みを与えたほどである。
――それは、良いんです。
優秀な弟達の働きにより、カーマインとクロ・ハートフィールド一家の問題は良い方向にいき、良い報告が出来る兆しはあるのだ。
だが、今の私はその弟達のお陰で、溜息を吐きたくなっているのだ。
「オレはロボさん……ブロンドさんと婚約したいと思っているのです!」
「私はエメラルド……エメラルド・キャットと婚約を目指しているの!」
「俺はメアリー・スーと共に歩むためにこの場に居るのです」
「私はクリームヒルトさんと一緒に居たいと思うのです!」
「ええと……私は特にないけど……とりあえず……一緒に……」
私の前で、平民女性達との愛を叫ぶ弟達。
それを見ながら、聞きながら。
私は一つの問いかけをする。
「……それで、私になにをしろと言うのです、愛する弟達?」
『本気で認めてもらうために、まずはローズ姉様に想いを伝えようかと!』
「……はぁ」
そして私は、みっともなく溜息を吐いた。
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