追放された悪役令嬢と転生男爵のスローで不思議な結婚生活

ヒーター

男性陣のY談-生徒会-_1(:茶青)


View.アッシュ


「……ねぇ、キミ達。スケベな話でもしないか」
「春とシキの陽気くうきにあてられましたか」

 卒業式が終わり、学園が長期の休みに入った生徒会室にて。
 エクル先輩は重苦しい空気で私達におかしなことを言い出した。

「……そういった話は妄りにするものでは無いと思うが」
「というかアッシュ的にはシキの空気も含まれるんだ」
「……最近のアッシュの取り締まり具合を見れば仕様がない事だろう」
「えっと……仕事を任せすぎたかな……」

 今現在生徒会室に居るのは、明日には実家に一時帰省する私。
 カーマイン殿下の件で忙しい中、ローズ殿下から少し休む様に言われたヴァーミリオン。
 両親が忙しく実家の方に帰る意味が無いと言って、ずっと学園に居てクリームヒルトやスカイなどと鍛えるシャル。
 実家と呼べるものが無いので、アルバイトの合間を縫って仕事のために居合わせたシルバ。
 そして現在妙に疲れている様子で、生徒会室に入るなり妙な事を言いだしたエクル先輩に、生徒会長の計六名だ。
 恐らくメアリーやクリームヒルト、スカイという、いつもの生徒会メンバーの女性陣が居ないのでその話題を選んだのかもしれない。
 その手の話題に興味を持つ年頃ではあり、学園生の話題としては珍しくない話題選びかもしれない。
 この場合の……スケベな話がどの程度までの事を言うかは分からないが、貴族として相応しい話題ではない事は確かだ。……貴族であるからこそ色を好むというのも否定はしないが。

「一応理由はお聞きましょうか」
「聞くんだね」
「理由も聞かずに、ただ否定するのは良くありませんからね」

 とはいえ、聞かないで否定というのも本音だが、エクル先輩らしからぬ話題選びなので、何故その話題なのかも気になりはする。
 先日裏でやっていた事や、メアリー達と同じ前世持ちであるという事を知り。
 この世界とよく似ているという物語の登場人物のように振舞っていただけで、メアリーは愛してはいるが、女性いせいとして付き合いたい訳ではないという事も知ったエクル先輩。
 シキの調査から帰って来てから今まで、「今までの罪の分働かなくては」と、ただでさえ働き過ぎであったのにさらに“頑張る”様になったエクル先輩だ。
 そのフォーサイス家を背負っている在り方は今でも尊敬をしているので、彼がこの話題を選んだ理由がどうしても知りたかったのだ。
 理由も無しに彼がこのような事をするなど、考えられない。

「ははは、ただ男子学園生らしく、スケベな話で欲求を満たしたいのさ!」

 くそ、やはりシキの空気にあてられたか。
 ただでさえ最近学園生が野菜と会話をし出して怖いと苦情が来たり、スリットこそ至高と言いだした貴族仲間に、ショタとはなんぞやという問答を始めて苦悩したりと、追われる業務が多いというのに、大丈夫だと思っていた生徒会メンバーにも影響が出てしまった。また追われる内容が増えてしまった……!
 ……今更だが、何故私はそんな業務に追われているのであろうか。……気にしない様にしよう。貴族であり、クラスの長としての責務と思っておこう。

「……いや実はさ、最近思う事があるんだ。私達はキミ達と心を通わせていないんじゃないかって」

 私がエクル先輩を叩いて治すか、教会で浄化してもらうか、クロ子爵を呼び出して元に戻して貰うかを悩んでいると、エクル先輩は少し神妙な表情で私達に語って来た。

「こう言ってはなんだが、私は今まで演じてキミ達に接してきたモノの、素な部分では少しは仲の良い間柄とは思っている」
「うん、まぁ……エクル先輩は入学最初の方から、僕にも分け隔てなく接してくれたしね。先輩の中では慕っているよ」
「だが、そこにメアリー様が“善く”過ごそうとするために、利用していた事は否定出来ない。初めは私の罪が暴かれれば、大人しく退場する気だったが……」

 エクル先輩の言う「罪」は陰で行っていた事柄。
 私が知る限りでは、クーデター組や未認可の研究を行う団体、スカーレット殿下を誘拐した団体と通じていた事などだ。
 どれも明るみに出れば、力を持つフォーサイス伯爵家とはいえただでは済まないダメージを負う罪である。
 しかし被害を受けていたといえるスカーレット殿下や、クロ子爵などが「褒められた事では無いが、取り返しのつかない事はまだやっていない」という理由で、公に罪には問われていない。
 そして、元よりそういった団体とは途中から縁が切れていたのと、団体の後処理も行い、今後は行わないという制約の下で、現在はフォーサイス家の力を使って罪を償い中である。

「こうして私は恥ずかしながらも貴族、そして学園生を続けられている。だがふと思ったんだ。私は……キミ達を利用するがあまり、真に理解していないのかもしれないと」
「それで、先程の……」
「そう。――猥談さ」
「決め顔で言うな」
「エクルはこちらが素なのだろうか……」

 そして償い中のエクル先輩は、猥談をしようと、シャルが言うように笑顔で決め顔であった。ヴァーミリオンも以前の印象との違いに困惑中だ。

「良いじゃないかー。男子ってこういう話を堂々としても、女子程言われないじゃないかー。教室で“あの本屋、年齢制限かかっている本でも、学生服のまま普通に買えるぜ!”とか話しているじゃないか!」
「見た事あるか?」
「ないよ」
「ない」
「ないな」
「く、これがジェネレーションギャップ……本からデジタルに移行した弊害か……!」

 このエクル先輩はなにを言っているのだろうか。
 なんとなくだが、この場にメアリーやクリームヒルトが居れば、さらなる追い打ちをかけていると思うのは気のせいか。

「でもさ、私達の世代はこういった事に興味を覚える世代で、よく話すじゃないか。そしてこういった事を話すと妙な絆が生まれる。という事を私は前世で学んだ」
「前世での……シキサン、にも同じような事を?」
「いや、私はモテない女同士で“そんなものより、肉食わせろ”と、いかに少ないお小遣いで腹を満たすかで友情を深めていたよ。平日は運動で疲れたお腹を六十円でハンバーガーで満たしていたよ」
「おかしい、私の中でエクルの前後の文が繋がらない」
「シャル、誰もがそう思うが口にしなくて良いと思うぞ」

 多分今のエクル先輩は疲れているんだ。

「疲れていない。私は赤裸々に話したいんだよ。今まで演技を続け、距離を取っていた距離を近付けようと思うんだ。だが……」
「だが?」
「……生憎と私は男の学園生が、自然と話せる話題がよく分からなくて……楽しく話題をするとなると本や映画……いや、演劇とかの話題などはあるが、それは今までもしていたし、そうなるとこの話題が思い浮かんで……」
「エクル先輩……」

 なんだか自然に心を読まれた気がするが、ともかくとしてエクル先輩はエクル先輩なりに、私達と距離を縮めたいと本気で思っているようだ。
 ……これもメアリーやクロ子爵に言われていた「貴女は貴方らしく、生きて良いと思うんです」という言葉による影響か。
 戸惑いもあるが、これもエクル先輩なりの、仲良くしたいと思う相手との学園生らしい事なのかもしれない。……話題選びはもう少しどうにかして欲しいが。

「……分かりました。少しならば付き合いますよ」
「本当かい!? だが時間は……」
「まぁ僕も少しくらいなら……丁度アルバイトまでどうしようかと思っていた所だし」
「私も仕事が終わり、鍛錬まで時間があるから先に入ろうかと思っていた程度で、時間はある」
「……休憩中の歓談としてならば良いか。わざわざ否定する程の事でも無い」
「おお、ありがとう、皆!」

 私の言葉を発端に、シルバ、シャル、ヴァーミリオンの順に会話をしようという形になった。
 元より皆はエクル先輩にお世話になっている部分もあるし、今までのエクルの……苦悩にも気付かなかった事も有る。
 ならば悪い印象はあまり無いエクル先輩の、素らしい話題に付き合うのは良いかという気持ちになったのだろう。

「ええ。ですが、猥談は流石に――」

 しかし流石に話題は変えようと思う。
 万が一誰かに聞かれ、第三王子が猥談をしていたなんて広まればたまったものでは無いからな。

「猥談をするなら、メアリー様の男性に対する趣味や好きな部位などを話して良いと、メアリー様に許可は得たんだけど」
『よし、猥談だ』

 しかし私達は大いなる力の前に屈した。
 これはどうしようもない事なのである。

「……君達、メアリー君の事を本当に好きと言うか、楽しそうだねー……あと、私の存在忘れてないかな……」

 そして誰かの声が聞こえた気がしたが、多分気のせいだろう。





備考1:転生組の前世の生まれた世代
エクル:平成初期生まれ
クロ:平成一桁生まれ
クリームヒルト&メアリー:平成二桁生まれ

ようするにエクルの学生時代は、情報収集はまだ本が主流な時代である。


備考2:影の薄い生徒会長
生徒会長は「エクルやメアリー、クリームヒルトが前世持ち+この世界と似た世界が物語で語られている」を知っています。

知った経緯は以下の通り

スカイも含め、今までの事や物語の世界、今後起きる事を生徒会室で話し合う。

ある程度話し終える。
生徒会長「ええと……はは、なんかの冗談かと思うよ」

皆「え、居たんですか!?」
生徒会長「え!?」

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