追放された悪役令嬢と転生男爵のスローで不思議な結婚生活

ヒーター

女性陣のY談-シキ-_3(:菫)


View.ヴァイオレット


 アプリコットが突然いつもとは違う妙な事を言いだしたので、止めようとしたが手で制される。
 心配せずとも大丈夫だ、とでも言いたげである。……少し心配だが、アプリコットもそこまで変な事は言わないだろう。そう思った私はアプリコットに任せる事にした。

「ヴァイオレットさん。一つ聞きたいのだが、クロさんのエロ……特に好きな身体の部位はあるか?」
「手と胸板だな。……急にどうした」
「即答したな。ではそれを他の男性で魅力的に思った事は?」

 クロ殿以外で良いと思った手と胸板……鍛えられたという意味で良いと思った事はある。例えば性癖はアレだが、ブライの手は職人然として良いモノとは思う。しかしこの場合はそういった意味での魅力的ではない。

「芸術的な意味では良い、好ましいと感じた事は有るが、やはりクロ殿だからこそ魅力的に思うな」
「であろう。そしてシアンさん。例えばだが、シアンさんはクロさんを好ましくは思っても、そういった目で見ていないであろう?」
「まぁ……クロはそういった目ではね」

 何故だ。
 シアンがライバルでないのは嬉しい事だが、何故だ。

「ヴァイオレットさんとて神父様は好ましく思っても、そういった目では見ないであろう?」
「確かに」

 ……成程、そういう事か。ならば仕様が無いな。

「シアンさんは好きだからこそ、そういった目で見ている。ならば逆も然り。魅力的に思う異性で、好いているのならば、どうしても相手をエロい目では見るのだ」
「神父様が……わ、私を……でも私も……けど私は見られているの……? でもスリットを……うぅ……!」

 シアンが苦悩しているが……大丈夫なのだろうか。

「だが別に、それだけという事でもあるまいて」
「え?」
「今までシアンさんは神父様を好いては居ても、そういった目だけで見ていた訳では無かろう? それとも身体だけにはぁはぁする変態なのか?」
「違うよ!?」
「そうであろう」

 アプリコットはシアンの反応に納得したような表情をすると、屈みながら火に当たっているシアンに近付き、同じ目線の高さに屈む。
 ……アプリコットは偶に、こういった大人びた表情をするな。

「優しさが好き、格好良さが好き、可愛らしさが好き。一緒に料理を食べる時間が好き、一緒に居ても息苦しくない空気が好き、同じ好きを共有できる時間が好き。そういったものがあっただろう。大いなる欲求よりも、そちらを好む時間があったはずだ」
「……うん」
「その言葉が聞けて良かった」

 性的な欲求は生物として仕様が無い事だ。
 しかしそれが単なる欲求を解消するためでなく、神父様もシアンを大事に思って欲求を覚えている。だが、その欲求は覚えていても、それ以上に神父様はシアンと過ごす日常を優先したいと思っている。
 それは良い事では無いかと、アプリコットは口にせずとも表情で語っていた。

「良いか、シアンさん。神父様は貴女の事を好いている。それは分かるな?」
「え、あ、う、うん、そうだね」

 好いていると言われ照れるシアン。
 付き合っているという事実はあれども、改めて言われると恥ずかしいのか、頬に手を当てニヤけるのを抑えていた。こうしていると本当に可愛らしく、上手くいって良かったと思える。

「異性の身体に興味を持つのは仕様がない事。相手を好いていなくても意識はしてしまうモノだ。そして……大人で魅力的な女性いせいであるならば、男性として興奮は覚えるモノだ」
「まぁ、それはね。だからこそ不安になる訳だし……」

 性的な欲求は三大欲求としてあげられる程強いモノだ。そう簡単にコントロール出来るモノなら性犯罪など起きはしないだろう。
 故に私も魅力的な女性……例えば、メアリーなどが近付くと不安にもなる。
 先日心は離れないとは言ってくれはしたが、メアリーの同性でも美しいと思うほどの身体の前では、比較的欲求が薄いクロ殿も欲求は沸くだろうとは思う。
 もし責められでもしたら……心は私の所にあっても、身体の欲求に負けるのではないかと不安になる。シアンも似たような不安を抱えているのであろう。

「そして神父様にとってシアンさんは好き――魅力的に思う女性。そしてそれが最も魅力的に思うのならば、シアンさんはまさにエロの化身!」
「エロの化身!?」

 うむ……うむ?

「当たり前であろう、好きならば魅力的に思うという事、魅力的な相手はエロい。ならばシアンさんは存在がドエロの化身! エロス! スノーホワイト国の名誉エロティック大統領!」
「エロエロ言わないで!」

 エロの化身……クロ殿も私をそう思ってくれているのだろうか。
 ……この胸が大きくなり始めた時、周囲からそれに似た目で見られて不快で、嫌であったが、クロ殿にそう思われるのは……う、うむ、嫌ではない。むしろ来い、控えめかつ大胆に。
 …………雇わなくても二人じゃなくなる時が来るかもしれない、か。

「だが、シアンさんも先程言っていたではないか。神父様のガードが固くてエロさが足りないと」
「え、う、うん。そうだね」
「正直それは神父様をそういった目で見たいのであろう? というかガードが堅いと思うという事は、服を着ていても感じはするのであろう?」
「………………」

 確かにそういう目で見ようとしなければ、ガードが堅い云々という言葉は出て来ないかからな。

「だとすれば、どう足掻こうと神父様にとってシアンさんはドエロの権化なのだ!」
「ドエロの権化!?」
「神父様にとっての最高の女が身近に居るのだ。女性というエロがそのまま歩いていると言っても過言ではない」
「過言じゃない!?」

 アプリコットに言われたシアンは、驚愕の表情と共に何故か自身の胸などを隠す仕草を取った。
 恐らく一般的に女性の象徴……男性陣がそういった対象として見がちな部分を咄嗟に隠した感じなのだろう。

「シアンさんが仮にスリットを無くしても、全身モコモコで露出ゼロの防寒バッチリでも、全裸でも半裸でもロボさんの外装でも神父様にとっては、シアンさんだからというだけで興奮エキサイトするのだ!」
「そうなの……!?」

 いや、ロボの外装だと流石に興奮は……するのだろうか。
 私がロボの外装を着ればクロ殿も興奮……したとしても複雑だな、うん。格好良いとかいう意味でなら興奮はしそうだが。

「ならば今更変える必要はあるまい。どうせエロく思われるのならば、いつも通り過ごしても問題あるまい」
「そうなの.……かな」
「当たり前だ。シアンさんはいつもの状態でも魅力的と思われているのだ。それはエロい以外にも、可愛い、綺麗、格好良い……色んな事を思われている」
「そ、そうかな?」
「そうだとも」

 アプリコットはそこまで言うと、シアンの手をとりながら一緒に立ち上がる。
 身長も年齢もアプリコットの方が低いのだが、今はアプリコットが大人びて見えた。

「惚れた相手はなんでも魅力的に思うモノだ。その一部が性的なモノかもしれんが、それだけではない。一面だけ見て、それが全てだと思うのは愚の骨頂である」
「コットちゃん……」
「シアンさんが相談事の時によく言っている事では無いか。負の側面は拒絶ではなく、付き合い方を考えろ、と。それと同じで今更スリットをやめ、性的に見られぬように変に変えようとした所で、意味はない。と、我はそう思うぞ」

 もしもそれがよく考えての判断であれば、アプリコットも止めないだろう。
 だが今のように、後ろ髪が引かれた状態で変えるのは誰のためにもならない。アプリコットはそう思っているようであった。

「…………」

 シアンは一通りアプリコットの話を聞き、手を握られ、自身が今どうであったかを考えている。
 それは反省か、納得か、あるいは反発か。

「……そうだね、コットちゃん。私の方が年上で、立場的にも諭す立場なのに諭されちゃったね」
「別に構わぬだろう。偶にはそういった時がないと、我らとしては溜め込んでないかと不安になる。……それで、答えは?」
「うん、私は――」

 間を置き、自身の考えを纏める時間を経た後、シアンは前を向く。

「互いにエロい目で見ながらも、どうせ実行する勇気は互いにまだないから、隠れてエロを堪能するよ! なにせ全部が大好きだからね!」
『それが結論で良いのかシスター』

 そして同時に私達は突っ込んだ。

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