追放された悪役令嬢と転生男爵のスローで不思議な結婚生活
男性陣のY談-シキ-_2
「おかしい。普通なら女性の胸について話すのならば、こう……性的に興奮する的な話をするはずだったのに、何故俺は服を作る技術の話をしているんだ」
「それは俺が問いたいのだがな」
俺とて前世でR18的なゲームをやっていたし、女性の胸とか、そういったものに惹かれるかどうかと言われれば当然惹かれる。
なのに猥談をしようとしたはずなのに、別に人目を気にしている訳でもないのに。気が付けば服飾の話をしていた。
別に意識してしようとしたわけでもないのに、アイボリーの「巨乳と小さな胸の好き嫌いを言え」で自然と服飾だけの話をしているんだ。
くそう、これがズレているというやつか……!
「良いじゃないか、クロ。クロにとってはそれが重要なんだから、無理に変える必要はない」
「スノー、だが……」
「それに、クロは好みは多少あっても、好きになった相手のモノが全てひっくるめて好きになるタイプだからな」
「ああ、コイツは何々が好きだから相手を好きになる、のではなく、相手が好きだからそれも好きになるというタイプか」
「そういう事。だから昔は猥談の話になっても、性的な好きよりも服飾の好きが優先されたんだろう。好きな相手が居ないのだから、情熱の方を優先されていたという話だ」
「今もされたがな。……まぁコイツは“どんな胸が好き?”と尋ねられれば、真っ先にヴァイオレットの特徴を思い浮かべるような奴だろうがな」
「つまり猥談の好み話が、ヴァイオレットの話に帰結するのか」
なんだか冷静に俺の性癖を理解されると恥ずかしいな、これ。
だけど実際そうなのだろうか。確かにヴァイオレットさんの事はひっくるめてすべて好きであり、小さな事でも好きな所としてあげていく事なら、ずっと語っていられそうだが。
……うん、確かに俺が「どんな胸が好きだ?」と聞かれれば、あのヴァイオレットさんの胸を想像するな。
あれ、つまり俺が今猥談をするとなると、ヴァイオレットさんの……
「という訳でスノーホワイト。次の猥談はお前が話せ」
「ごふっ!? な、何故俺なんだ!?」
なんだかこのまま猥談を続けると、別の方面に心配しなければならない事が出てくるのではないかと頭を過ったが、アイボリーの言葉で思考が遮られた。
……うん、今考えようとした事はちょっと置いておこう。折角アイボリーが乗り気なのだ。偶にはこんな時間も良いはずだと思って猥談を続けよう。
「決まっているだろう。お前は神父という立場上こういった話題は出来ないだろう。偶には弾けてみろ」
スノーが弾ける……イカンな、怒る時は怒るスノーだが、普段の神父様ぶりを思うとあまり想像できない。怒る時も静かに怒るタイプだし、お酒を飲んでも飲まれないし、潰れる時は眠るタイプだからな、神父様は。
「それで、お前はどうなんだ。女は巨乳が好きか、ひん――小ぶりが好きか。あるいは形とか、色とかに拘る派か?」
「……お前、自分は興味なさげなくせに、ヒトの話を聞くのは意外と好きだよな」
「昔お前の様に教えられた上に、引きこもりを相手にしていた時期があったモノでな。相手にしている内に、話を聞く事に関しては好きになったんだよ」
普段は怪我をしていない相手には素っ気無いくせにな。
でも対応する時は対応しているし、怪我をしたら治すように、起きた出来事を楽しむ性格なのだろうがな。あとスノーと同じ教えとか、アイボリーが対応していたという引きこもりって誰だろうか。
「ほら答えろ。お前とて女に興味ないわけじゃあるまい。この場には男しかいないし、こっちを見ている者も居ないぞ? だから話せ、ほら」
「こ、こういう時は、ヒトに聞く前にお前から話すべきなんじゃないか?」
「そういわれてもな。俺は医者である以上、女の裸を見ようが一々興奮はせん。そもそもお前らだって、俺が“菫色髪の巨乳女が好きだ!”とか“紺色髪の健康的肢体の女が好きだ!”とか興奮していたら、俺に診せるの躊躇うだろう」
「……うん、まぁな」
確かに絶対に診せたくないな。そう考えるとアイボリーに対しての猥談は良くなかったかもしれないな。
まぁ実際にアイボリーが、ヴァイオレットさんと似た特徴を持つ女性が好きだとしても、仕事とプライベートは分けるから大丈夫だろうが。
「だからお前が話せ。話してクロの猥談をしたいという願望を叶えろ」
「いや、その、それはだな……」
「大丈夫だ、特殊でも聞いてやるし、あの修道女には内緒にしてやる」
「う、ええと……」
「アイボリー、そう責め立てるのも良くないぞ」
「クロ……!」
アイボリーがほれほれと言わんばかりにスノーを責め立てるので、俺は止めるようにとアイボリーを諫めた。
まったく、スノーに胸の好みを話しをさせるなんてなにを考えているんだ、アイボリーは。
「なんだ、クロ。お前が提案した話だぞ。だからそれらしい事を話そうとしているのに、それをお前が止めるのか」
「止めるさ。なにせスノーは――胸より太腿派だからな」
「クロ!?」
スノーが話したい内容は胸じゃない。
シアンのスリット入り修道服からチラチラと見せる事によって意識し初めていたが、律する事で気にしないようにしていた。
しかし、付き合うようになってから今まで以上に気になってしまい、好きな相手の特徴としてあげられる太腿がスノーは好きなはずだ!
「成程、話したい内容が違うという話か! 良いぞ、話せ!」
「アイボリー、お前もか!?」
「大声を出すと周囲から注目を――あ、なんでもないですよレモンさん。俺にジンジャーエールお願いします。……まったく、スノーが大声を出すからレモンさんに不思議がられたじゃないか」
「まったくだ。折角こっちが女の居ない中で話そうとしているのにな」
「お前ら……!」
俺達の言葉に手を額に当てるスノー。
うん、なんだかこの感覚は学園時代を思い出す。二十代の男が三人揃って、酒も飲まずに昼間からなにしているんだという話かもしれないが……結構楽しい。
「……良いだろう。話すが、シアンには内緒にしてくれよ?」
その楽しいもスノーが嫌がるのならば止めようとは思ったが、スノーは小さく呟き話すと言ってくれた。
おお、自分達で攻めておいてなんだが、本当に話してくれるのか。
今までであれば、シアンのスリットに関して「気にはなるし、出来れば辞めて欲しいがアレがシアンらしい活発さだからね」といって妹の冷えを心配するような見方でしか、見て無かったスノーは話すのか……!
「というか、正直言うと今この場で似たような事を相談するつもりだったんだよ」
「相談?」
「そういえば、スノーホワイトは薬を渡すついでに、ここで一緒に話をしたい、と言っていたな」
「そうなのか――あ、ジンジャーエールどうもです、レモンさん」
確かに、お昼時にスノーが【レインボー】に居るのも、受け渡しにこの場所を選ぶのも少し以外だとは思って開いたが。ただ食事のためにいるくらいしか思いはしなかったが……相談ってなんだろう。しかも似たような事って……
「ちょっと今、シアンと気まずくて……」
「スノーがまた、シアンの好きすぎて周囲がはよ気付やと思うなにかの気持ちに気付かず、妹扱いして怒らせたのか」
「シアンの必死のスノーホワイト以外が気付いて胸焼けするアピールに対してまた気付かず、異性扱いされていないと思われ機嫌を損ねたか」
「お前ら、俺をなんだと思ってる。またってなんだ」
『三年間のアピールに気付かない鈍感神父』
「くそ、否定が出来ないのが……!」
正直思い当たる節がありすぎて困る。
付き合う前であればシアンが陰で落ち込むだけであったが、今は付き合っているから少しは表に出すかもしれないし……だが、気まずいとはなにがあったのだろうか。
反応的に俺達が言ったような事ではなかろうし……まさかいつぞやの様に、シアンの服の中に顔を突っ込んだとかそんな感じなのだろか。
「で、なにがあったんだ。気まずいと今の話題が似通っているとなると……」
「……いや、実はだな。午前中、俺とシアンがグレイ達に授業をしていたんだが」
ああ、俺がしようと思っていたけど、忙しくてスノーやシアンに頼んだ性教育に関してか。
ついでにブラウンとか、シキのある程度の年齢の子供達を含めて授業をしたと聞いている。後で感謝をしないと思っていた所だ。
余談だが、性教育の授業の話を聞きつけたブライさんが凄い表情で苦悩し、「必要な事だからな……!」と答えを出し、現在武器をひたすらに打っている。
「その時になにかあったのか? シアンは普段から文字も教えているし、別に教える事やトラブル対応が下手という事でもあるまい」
「いや、それは問題無かったんだ。無かったんだが……その、グレイやブラウンに……」
グレイやブラウンに、と名前が出た瞬間に嫌な予感がした。
「……“普段神父様がシアン様の太腿を見ているのは、性的に興奮しているという事なんですか?”と質問されて……否定しきれず……」
「我が息子がごめんなさい、神父様」
俺はとりあえず神父様に謝った。
……だけど、性教育に対して“実演してみてください!”という類じゃ無くて安心したのは内緒だ。
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