追放された悪役令嬢と転生男爵のスローで不思議な結婚生活

ヒーター

七百話記念:あるいはこんなワンダーな世界


※このお話は七百話を記念した本編とはあまり関係のないお話です。
 キャラ崩壊もあるのでご注意ください。
 読み飛ばしても問題ありません。



















「わぁい、つぎはアプリコットちゃんがおにだー!」
「ぼくはおにじゃない、いだいなまほーつかいだ!」
「まほうつかいだーにげろー!」
「わぁぁあああん!」
「りょうしゅさーん、えめらるどちゃんをあいぼりーくんがなかせましたー!」
「ぼくはけがをなおしていただけだ!」
「せんせー、といれー!」
「かみさまにいのりをー!」

「え、なにこれ……」

 目が覚めたら俺を除いて周囲の皆が子供になっていた。
 自分でもなにを言っているか分からないし、なにが起きているかも分からない。
 ただ気付けばシキの皆が等しく保育園か幼稚園に通うような年齢へと変貌していたのだ。

「夢か。実際にこんな事がある訳――いや、やりそうなのは多く居るな」

 夢だと思い、目が覚めるまで適当にしようとも思ったのだが、ゴルドさん辺りだと「ゴメン、錬金した道具で皆若返っちゃった!」とか言いだしても不思議ではない。
 なんか今まで見た事のあるような気がする夢だと思い、俺が逃げて現実だった場合、取り返しがつかなくなる。
 とりあえずなんらかの解決策を探しに行きたいのだが……

「りょうしゅさーん!」
「せんせー!」
「くろさーん!」

 ……まずはなんだか慕ってくるこの子達の対応をしなくちゃな。
 振り払うには気がひけるし、それに……

――ああ、癒される……

 それにとても癒される。
 普段は変態性に全力疾走する輩が多い中で、とても可愛らしい見た目で俺に懐いて来る子供達。
 ……少しくらい、楽しんでも良いよね?







「クロどのー、クロどのー!」
「ヴァイオレットちゃん、どうしたのかな?」
「私は、おおきくなったらクロどのとけっこんするからね!」
「わぁ、嬉しいな。じゃあ待っているからね? ……不思議な感覚だな、これ」
「どうしたの?」
「なんでもないよ。じゃあ将来結婚するクロ殿と一緒に遊ぼっか、ヴァイオレットちゃん」
「うん! ……でも、クロどのはそうかんたんにけっこんを決めて、あそぶのはいいけど、せきにんは取れるの?」
「難しい言葉知っているね」
「こーしゃくけだもん!」
「わー偉いね、ヴァイオレットちゃん」
「えへん!」

 結婚している女性に、将来の結婚を申しでをされるという訳の分からない状況。元からよく分からない世界げんじょうではあるが。
 だがそれはそれとして、幼女のヴァイオレットさん可愛いな。……変な意味ではないが。
 小さいのに何処か気品があって、それでいて可愛い。将来俺達の子供が産まれて、ヴァイオレットさんに似た女の子だったらこんな感じなのだろうか。
 ……くそう、絶対に親バカになる自信があるぞ、俺。


「くろさーん! ふくがうまく着れなーい!」
「着れないって……クロさん的には、ちゃんと着れているように見えるけど、シアンちゃん?」
「だめ! ふくにスリットがないとかわいくない!」
「シアンちゃんはその年齢でもスリットに目覚めているのか……」
「したぎなしスリットはかわいいの極致!」
「シアンちゃんの年齢でそれだと条例が危ういかな……元の場合は法律が危ういが」

 必死に服を破こうとしている幼女シアン。しかし力が足りないのか服が伸び切っている。
 ある意味では可愛らしい行為なのかもしれないが、コイツはいつからスリットの可愛さに目覚めたのだろう。あと“極致!”だけなんか流暢だったなコイツ。


「ふふふ、りょうしゅよ。僕はかくされた力をゆうしているのだ……!」
「そうなのかい、アプリコットちゃん?」
「うん! それにあたらしい呪文もかんがえたんだ!」
「おお、すごいなー。領主さんにも見せてくれる?」
「いいよ、とくべつにね! ――コホン。滲み出す混濁の紋章。不遜なる狂気の器。湧き上がり・否定し――」
「それ以上はいけない」

 幼女アプリコットは可愛らしい表情で、流暢に何処かの破道にある九十番的な呪文を唱えようとした。
 成功しようがしまいが色々危うくなる前に止めた。あとなんで舌足らずな中、呪文だけが流暢なんだ。


「クロサン、ケンカヲ、トメテオキマシタ」
「うん、ありがとうなロボちゃん。なんか両脇に抱えられているキャメル君とレインボー君が、動いていないよう見えるけどありがとうな」
「フフフ、ドウイタシマシテ! ワタシ、ヤクニタツデショ! ナデテクダサイ!」
「うん、えらいえらーい。良い子良い子」
「エヘヘー」
「…………というか、外装も小さくなるんだな、ロボの場合……」
「ハイ?」


「ククク。ククク。クーククク」
「なにやっているの、オーキッド君」
「笑いかたの、れんしゅう。こうやっておけば、おんなのこたちに嫌われるかな、って」
「え。あれそれが理由で作っていたのか……? というかなんで嫌われたいの?」
「がいけんばかりで、僕をはんだんして、モノにしようとするからこわい……」
「ああ、うん……クロお兄さんが一緒に遊んであげよう。大丈夫だから。女の子、怖くないよ」


「くろ兄さん。なんで人はいきるのだろう。なんで僕はいきのこっているんだろう」
「ごめん、兄さんには難しい質問だ。けど、スノーホワイト君が生きる事には意味があるよ。だから一緒にあそぼっか」
「遊ぶということを享受するシカクが僕にはあるのだろうか……」
「スノーホワイト君、君本当に子供?」


「けがしてほしかったらぶきなんて捨てろアイボリー! それともこわいのか!」
「なんだと、エメラルドなんてこわくない!」
「ならこいよ、アイボリー! きょうこそ毒と怪我がどっちがつよいかをしょうめいしてやる!」
「いったなエメラルド、おまえなんざ素手でじゅうぶんだ! ――ヤロウぶっころしてやらぁ!」
「私はおんなだ、おらぁあ!」
「やめんかお前ら。何処の特殊部隊引退組だ」
「放せ! 僕はしょうらいのしんかんだよ!」
「放せ! 私はしょうらいのどくはかせだ!」
「なんか色々おかしいなお前ら」


「はい。私達パンダにとっては命とこの姿こそ真理であって48です」
「はい。私達忍びは使い捨ての道具であり36弦であるべきです」
「はい。私カーキー・ロバーツはメイドといもうとにはさからうことはできません」
「……この幼女と男児は闇が深い……というかウツブシさんとレモンさんはなんでこの年齢で言動が大人っぽいんだ……そしてカーキーになにがあった……」


「ぐー……ぐー……むにゃ……」
「……ああ、癒されるなぁ。成長した姿でも無垢で可愛いと思うのだから、こうして小さいとさらに可愛く思えて癒され――」
「すぅ……もっと食べるよ、せいちょうするよ―……! ……むにゃ」
「…………なんか身長伸びてきている。え。どういう仕組み……!?」


「キノコー、キノコー」
「ご機嫌だね、カナリアちゃん。キノコが上手く取れたのかな?」
「それもあるけど、キノコをよく知れたんだよー」
「そうなのかい?」
「キノコは菌だからね。つまりは自然の生物なんだよ、クロ。だけど面白いのが生物であっても生きてはいないとも言えるんだ」
「はい?」
「私はエルフの血が純粋だからね。森と共に生きれるエルフ、さらには稚児である内は生よりも死に近いとされている。ならばキノコについて成長した後よりも今の方が理解できるかもしれない。だから今出来る事を必死にすれば、私の好きなキノコを理解出来るかもしれないと――」
「よし、カナリアちゃん、ストップだ。それ以上は俺の知るカナリアに多大な影響を及ぼす」
「?」







 なんだろう、あまり癒されない。

 子供は割と好きであり、面倒を見るのは大変でも楽しいと思うタイプの俺であるが、なんだか癒されない。幼女ヴァイオレットさんには少し癒されたのだが。
 こいつらは子供の時からこんなだったのか、あるいは変な状況なので変なだけなのか。
 出来れば後者である事を祈りつつ、隅の方に居た“この子”を見た瞬間に早く解決しなければと動き始めた俺である。

「でもどうすれば良いのだろうか……」

 しかしどうすれば良いのだろうか。
 夢ならば目を覚まそうと頬を抓ったのだが、痛くはないのだが眼も覚めないという状況だ。
 今まではクリームヒルトによって起こされていた訳だが……まさか、クリームヒルトを探しだすまでこのままこの世界で過ごさないと駄目なのだろうか。

「お困りのようだね!」
「うぉう!? ……あ、こんにちはショタゴルドさん。貴方が原因なら容赦なく解決方法を吐かせますが」
「いやはや、最近の若者は怖いね」
「今は貴方の方が若いですが」

 しかし悩んでいると、少年の姿をしたゴルドさんが現れた。
 目の色が特徴的な事と、明らかに子供の中で浮いていたのですぐに分かったのである。

「でだ。この状況を簡潔に言うとね。この世界は夢の中なんだ」
「はぁ、なんとなく分かってはいましたが、そうなると貴方と俺はなんです」
「うん、まず私が望む夢を見る事が出来る錬金魔法の道具を作ったんだけど」

 さり気無く明晰夢を操る道具を作っているよこの方。

「確実性が無かったんだけど、とあるシキの人物が実験台になると言ってね」
「成程」
「しかし、実験は成功したようなのだが、この通り君を巻き込んでしまった。理由は分からないけどね」
「ほう」
「そして反応的に、この世界で一日過ごすと私達は一生この夢の世界から意識を覚まさない」
「待てや。……いや、説明は良いや。とにかくそういうものだと思っておきます」

 なんかとんでもない事をさらっと言われたが、この方がなにをしても“やりそう”で済むので、今は置いておこう。

「それでこの世界から脱出する方法教えに私が入って来た訳なんだが」
「はい。それで脱出手段はなんです?」
「この夢の持ち主がこの世界で気絶または寝る事だよ」
「分かりました。ちょっとブライさんを探して殴ってきます」
「まだ誰も実験台が彼とは言ってないよ」

 この世界を夢見たい人なんて、シキにはブライさん以外に居るモノか。
 早くブライさんを探して、この夢から脱出しなくては。
 そうしないと幼女ヴァイオレットさんに対して危うい扉を目覚めてしまう。具体的には一緒に遊びたい。あの可愛さは反則である。そうしたら一日なんてあっさり過ぎてしまう。
 それにこの子の事もあるし……

「ショタ、ショタァアアアア! 俺の夢のショタを愛でられる世界はここか! 初めは俺の家だったから、夢だと気付かず来るのに時間がかかったぞ!」

 そしてあっさりと夢の主は見つかった。
 よし、夢は覚めるモノだ。悪いが目覚めて貰おう。
 ……しかし、急に殴るのもアレだし、一応説明はしておくか。

「成程、クロ坊が居る理由も、脱出しないとマズい事も分かった」
「分かって頂けましたか」
「だが、俺はショタに囲まれる夢からまだ脱出する気はない!」

 どうしよう、無理矢理殴ろうか。
 でもそうしたら、現実世界でブライさんの恨みを買いそうである。

「最低でも……最低でも俺の天使である、グレイ君のさらなるショタ時代を見なければ覚められん! 天使がさらなる天使に……くっ、俺の心よ、持つんだ。持たなかったら夢から覚めるぞ……!」

 いっそ覚めて欲しいのだが。やっぱり恨まれても良いから殴って気絶させようか。

「どうするんだい。このままだと一生誰も成長しないワンダーなランドで過ごす羽目になるよ」
「さらなる天使を見たとして、あの調子だとこの世界に留まろうとしそうですからね」
「そうだろうね。……それとも君は、この世界の年齢の子にでもイケるから、このままで良いという感じかな」
「そのイケるの意味であの子達を好いた事は無いですが……まぁ説得は大丈夫ですよ」
「そうなのかい? なら任せるよ」

 俺はゴルドさんに任されると、ブライさんにの説得を開始した。

「ブライさん……実は、グレイは先程見つけたんですが……見ますか?」
「なんだって!? い、いや、落ち着こう。見る前に深呼吸だ、俺……! すぅ―……はぁ……よし、来い!」
「……正直見せたくなかったのですが。これも貴方の望んだ世界……恐らく、純粋に昔に戻った状態の姿をお見せいたしましょう。これも貴方が望んだんですから」
「おいおい、クロ坊。一体なにを――」

「ひぅ!? い、いやです、また殴られるんです! おおおお、お願いですから、主様あるじさまの所に連れて行こうとしないでください!」
「大丈夫、彼は違うよ」
「嘘です! だって主様と似た年齢で、わたしを血走った目で見ていて――いつかのように、ゴユウジンと一緒になってわたしを殴るんです!」

「おらぁ!!」

 この世界から目覚めたくなかったブライさんは、四十代以上の男性に怯える、前領主の奴隷時代のグレイを見て、躊躇いもなく己が額を岩に叩きつけて気絶をした。








「――はっ!?」
「どうした、クロ殿? 今日はまだ疲れているだろうから、寝ていても……もしかして嫌な夢でも見たのか?」
「ある意味ではそうですね……どのくらい寝てました?」
「十分程度だよ」
「そうですか。……もう一度寝ます」
「次は良い夢を見れると良いな」
「そうですね。おやすみなさい、ヴァイオレットちゃん」
「おやすみ――え」

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