追放された悪役令嬢と転生男爵のスローで不思議な結婚生活
※この後腕をつねられます
「……なんだか疲れた」
温泉から上がり、温泉の建物の外で女性陣を待つ中。
俺は火照る身体を外気で冷ましながら少々ぐったりとしていた。
本来なら疲れも癒され、程よい爽やかさと共にもう一仕事頑張ろうと意気込んでいるはずなのだが、今の俺は精神的に疲れていた。
「ククク……大丈夫かい?」
「大丈夫ー、クロお兄ちゃん?」
「ニャー」
そんな俺を見て一緒に男湯から上がったオーキッド、ブラウン、そして上がる時に一緒に出て来たウツブシさんは心配そうに声をかけて来た。
他の一緒に来た女性陣は、髪を乾かしたり、支度に俺達より時間がかかるという事もあるのでまだ温泉の中だ。後はスカーレット殿下がエメラルドに服を着せようとしたりとかで時間がかかっている。
「大丈夫だよ。ちょっと……未知の感覚に襲われて、未知の感情を得ただけなんだ。大丈夫、大丈夫……」
俺はぐったりしている理由を最大限の言葉を選んで答え、大丈夫と返す。
大丈夫と言っている俺自身が、大丈夫に見えないだろうと思ってはいるが、オーキッド達はそれ以上なにも言ってこなかった。
オーキッドは自分はなにも言わない方が良いだろうと思っているだろうし、ブラウンはよく分かっていない。ウツブシさんは鳴いてはいるが、なにを言っているかは分からない。
「……本当に大丈夫なのだろうな、クロ殿?」
ただ、温泉から上がる前あたりに来たヴァイオレットさんには心配そうに寄り添われ、声をかけられていた。
俺的にはもう少し寝ていて欲しかったというか、寝ているものと思っていたので急に来た時は驚いたものである。
「大丈夫ですよ。というかさっきは聞きそびれましたけど、温泉に慌ててきた理由は何故でしょう。あ、もしかしてヴァイオレットさんも温泉に――」
「いや、クロ殿が複数の女性と混浴をしに温泉に行ったと、邪の面なカーキーに聞かされて、慌てて来た」
「ええと……心配かけて申し訳ないです」
カーキーオルタのやつ、後で覚えていろ。いや、善意なのかもしれないし、勘違いさせた俺が悪いのだが。というかアイツは基本善意で生きているからな……
後、眠たかったはずなのに起きた理由は「虫の知らせ」との事だ。何故かは分からないが、急に目覚めてすぐに診療所を出たらしい。
「スカイの件もあったからな。クロ殿がここ数時間、女性陣にその……」
「ええと……はい、改めて申し訳ございません」
ヴァイオレットさんは俺がこの数時間、フューシャ殿下が引き起こしているようなラッキースケベイを引き起こしているのでより不安だったのだろう。そして具体的な言葉を言うのを避けたのは、ブラウンが居るからか。
本当に申し訳ない事をしたなと思う。……ある意味ではあっていたのかもしれないが。
「だが、オーキッドやブラウンが男湯に居ると聞いて安心したよ。入る時から居たようだから、変な事にはなっていない、とな」
ちなみにだがヴァイオレットさんは女湯の方に突撃している。男湯に突撃をするのは流石にマズいと思ったらしいし、俺が女湯にいるかもと思ったらしい。……もし居たらどうするつもりだったのだろう。
「ククク……僕が居ると安心なのかい?」
「家族以外のシキに居る男性で、オーキッドは特に信用できるからな。クロ殿と居れば間違いはあるまい」
「ククク……それは良かったよ」
「ヴァイオレットお姉ちゃん、僕は?」
「勿論ブラウンもだ。強くて格好良い、頼れる子だよ」
「良かったー」
そう言うとヴァイオレットさんは背伸びをしてブラウンの頭を撫で、ブラウンは嬉しそうに笑った。……良いな。
しかし、ヴァイオレットさんにとってオーキッドはそこまで信用できる存在になっていたのか。
実際信用できるのは間違っていないし、俺だって信用しているが、最初の頃は怪しさに慣れていなさそうだったからなぁ……俺もそうだったけど。
「ククク……ところで、ヴァイオレット君。殿下達の護衛は後は僕達がやっておくから、君はクロを連れて先に戻りなさい」
「え? だが、領主として殿下達を放って帰る訳には……」
「なに、クロは疲れているようだから、先に帰ったとしても彼女らも理解してくれるさ」
オーキッドはそう言うと、黒い靄を手の形にして、俺の背中を摩る様に労わった。
俺の先程の一連の様子を見ていたので気を使っているのだろうが……いや、なんだこの手。なんか呪われし手みたいで怖いんだけど。けど温かさがあって心地良い。けどなんだこれ。
「あと、クロは妙な気疲れをしているようだ。そういう時こそフォローしてあげるのが妻の務めというモノじゃないかな。夫婦で支え合う、と言うやつだよ」
「……それはそうだが」
「それに、彼女ら……メアリー君と大魔導士殿は今クロと会うと気まずいだろうからね。そんな気まずい空気に僕達を置かないためにも、連れて行ってくれるとありがたいんだよ」
うん、まぁ気まずいだろうな。
ヴァイオレットさんが乱入して感覚が途切れたのだが、俺が紙を剥がせるまで色々とあった訳だし、間違いなく気まずい。というかしばらく俺達息絶え絶えだったし。
……それにしても、俺達が気を使わない様にフォローをしてくれる辺り、流石はオーキッドと言うべきか。相変わらずの頼れる男である。
「確かに今のクロ殿は、いつもの風呂上りとは違う色っぽさと疲れが見えたが……」
え、色っぽ……?
「色っぽいなら良いんじゃない? シアンお姉ちゃんが神父様が色っぽい、って言ってはぁはぁして喜んでいるよ?」
「ニャー(その言葉、シアンには言わないであげなよ、ブラウン。可哀想だから。いや、他の子達にも言ったらダメだよ)」
「? 分かったよ、ウツブシお姉ちゃん」
シアンの場合は変態的な意味でのはぁはぁじゃないだろう。いや、アイツは隠れてしていてもおかしくはなさそうだが。
って、ブラウンはウツブシさんの言葉分かるのだろうか。カナリアもそうだったが、自然と一体化していると分かる感じなのだろうか。
「色っぽいのは良いんだ」
「ククク……良いのかい」
「うむ、良いのだ。だが今のクロ殿の色っぽさは……その、妻として危機感を覚えなければならない色っぽさというか……」
……それって、俺がなんだか危ない領域に行こうとしているとかないよな?
「それって誰かにとられるかもしれない、って事なの?」
「それはクロ殿が世界一の夫である以上は常に感じてはいるが、それとも違う危うさというか……」
「よくわかんない」
変な方向に目覚め掛けているとかないよな? ……そうだとしたらどうしよう。
俺的にもよく分からないが、無視して危機感の欠如した状態だとマズいかもしれないし、一考はしておいた方が良いだろうか。
「ともかく、クロ殿の心が何処か遠く行きそうな怖さがあるんだ。別の方面の目覚めを――」
「俺の心は貴女のモノなので、貴女が手放さなければ離れませんよ」
「えっ」
あの時は快感がどのこうよりも、未知の感覚に戸惑っていただけだから、俺としては変な所に行こうとしたり扉を開いている事は無いと思うのだが、ヴァイオレットさん的にはなにか感じているのだろうか……ううむ……。
「え、クロ殿今のは……」
「ううむ……あの感覚を払拭するために、いつもより激しめの運動でもしようか……そうすればきっと……」
「ええと……?」
シアンに頼んで模擬戦とかしたり、モンスター討伐に出て行ってみたり……いや、モンスター討伐は危険か。一人で運動できるモノの方が良いかもしれないな。
「クロお兄ちゃん、今のは本心をつい答えちゃったんだね。良かったね、愛されているよ!」
「うぐ」
「ククク……恐らくまだ君の心を繋ぎ止めておく自信は無くとも、君から離れるつもりはないんだね。良かったネ、愛されているよ」
「うぐ……!」
「ニャー……愛され続ける自信ではなく、相手を愛し続けると言う自信には満ち溢れている訳か……良かった、相思相愛の夫婦だ!」
「うぐ……! わ、わざわざ喋る程なのかウツブシ!?」
「おう!?」
うお、急にヴァイオレットさんが大声を出すから驚いてしまった。
一体何事――って、あれ、なんで皆俺の方を見て微笑ましそうな目で見るんだ?
それに……ヴァイオレットさんの顔が赤いような……?
「――はっ、まさか寝不足で熱が!?」
「違う、全部クロ殿のせいだ……!」
「うん、そうだねー」
「ククク……だろうね」
「ニャネ!」
「え、何故……!?」
何故かと問うたのだが、何故か誰も答えてくれなかった。
ただこんな時に思うのもなんだが、今のヴァイオレットさんは……うん、可愛いな。愛でたくなる愛らしさがある。
こんな女性をシッコク兄やウツブシさんのように離さない自信がある、と言えるように俺も頑張らねば。逆は心配ないのだが。
「見てオーキッドお兄ちゃん。多分今クロお兄ちゃんは……」
「ククク……うん、確実に今ヴァイオレット君を照れさせた言葉と似た系列の言葉を……」
「ニャー……考えているでしょうね」
え、なんなの。ウツブシさんがわざわざ話すほどの事なの?
……けど、今のヴァイオレットさんの愛らしさの前では気にしなくて良さそうだ。
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