追放された悪役令嬢と転生男爵のスローで不思議な結婚生活
黒だから特別扱い
「で、なんでエメラルドをひん剥こうとしていたんですか」
「ふふふ、それは今語るべき事ではない――」
「ローズ殿下呼びますよ」
「はい、語るのでそれだけは絶対にやめてください」
俺が聞き、何故かゲームの探偵キャラっぽい事を言いだしたので脅しをかけると素直に従った。
敬語まで使ってやめて欲しいと言う懇願に、メアリーさんは「そこまでなんですか……?」といった様子で俺達を見ている。
「まさかこれから恋の対象として見ていくと言ったエメラルドに、積極性を勘違いして襲ったとかじゃ無いですよね」
「それも無い事も無いけどね」
有るんかい。
「ほら、温泉施設の壁直ったでしょ?」
「はい? まぁそうですね。色々あってどうなったかはまだ直接見ていませんが……」
「エメラルド、励ましたのは良いけどまだ吹っ切れていない。で、そこで裸の付き合いをして、親睦を深めようとしただけ!」
聞けば、スカーレット殿下はエメラルドを元気付けたかったようだ。
自身の作った薬で血を吐いた父親とスカーレット殿下を見て、この世の終わりかと言うように落ち込んでいたエメラルド。
それを必死に自身は大丈夫だと励まし、時には寄り添ったスカーレット殿下とグリーンさん。
そして今回の事後処理でエメラルド手製の薬のお陰で症状が良くなった者も多く居り、感謝の言葉を伝えられる事でなんとか気持ちを持ち直したエメラルドであった。
だがどことなく辛さはあるようだとスカーレット殿下は判断した。しかし自身はもう首都に帰らなければならないので、帰る前に心身ともに曝け出し合い、リフレッシュも出来る温泉に一緒に入ろうとしたという事だ。
「そういう事だったのか……だとしても急に脱げ! と血走った目で言われたら、困惑もする」
「ごめんごめん、つい欲ぼ――じゃない、気持ちがロイヤル先走っただけ!」
「領主、そしてメアリーよ。これは有罪か?」
「……ギリギリ無罪かな?」
「ギリギリ無罪ですかね?」
「ロイヤル無罪だよ」
「その言い方だと、王族の権力を使って無罪にしているかのようですよ」
しかしスカーレット殿下は温泉を説明せずに服を脱ぐように迫り、身の危険を感じたのでエメラルドは逃げ出したようだ。
案外間違いでは無い判断だったのかもしれないが。
「そういう事なら、まぁ温泉に入らん事も無いが……元々汗をかいたから入る予定ではあったし……」
「本当に!?」
「……領主、そしてメアリー。もし時間があれば、私のために一緒に温泉に来て貰えないだろうか。なんか怖い」
「どういう事!? なにもしないって!」
「お前、今の自分の目を鏡で見ろ」
「はは……」
メアリーさんも多少なりとも事情を知っているので、困ったような笑いをしている。
スカーレット殿下、エメラルドに受け入れられる可能性があると思ってからなんだか吹っ切れてるなー。
同じ血を引くヴァーミリオン殿下とか大丈夫なのだろうか。似たような感じにならないよな? だとしたらメアリーさんとても困ると思うぞ。
「まぁ風呂は入っていないし、ちょっと屋敷には帰り辛いから、朝風呂ならぬ朝温泉も良いとは思うんだが……俺が行ってもエメラルドは守りにくいからな」
エメラルドの身を守るためになら、多少予定を詰めても付き合う事は構わないのだが、場所が場所だけに付いて行っても俺ではどうしようもない。
流石に女湯に入って守る事は出来ないし、外で待機するのも変な話である。
「別にお前に見られても構わんから、一緒に入ってくれ」
「エメラルドが良いなら私は良いよ? ロイヤルを味わってみる?」
「クロさん、私を身代わりにするなんて許しませんよ。それに皆で入った方が楽しいですよ!」
「アンタら一体なんなんだ」
エメラルドは羞恥心が少ないと言うか、右腕の傷さえ気にしない相手なら見られても気にしない対応である事は知っている。
スカーレット殿下は……多分、以前俺に抱いてくれとか言っていた位だし、俺に見られる事は、エメラルドと共に入れない事と天秤にかけると大丈夫だという判断したと言ったところか。
そしてメアリーさん、アンタは羞恥心を覚えろと言われたばかりだろう。エクル曰く「自分に価値を置けないタイプだから、羞恥心が希薄」というのは聞いていたが、恥じらいを覚えろ。多分これがヴァーミリオン殿下辺りであれば話が別なのだろうが、俺相手だとヴァイオレットさん以外に興味を持たないだろうという事で、友達と一緒に入る感覚なのかもしれないが。
「俺とて健康的な成人男性なんです。浮気をする気は有りませんが、嫁入り前の女性と一緒に入るなど……」
「まぁそう言わずに。その素晴らしき肉体を持って第二王女の護衛をしてもいいんじゃないかな? 一緒に入ってハーレムを楽しもうよ!」
「アンタは急に沸いて来てるんじゃないですよヴェールさん」
そして急に沸いて俺の肩に手を置いて来た肉体好き。
皆が急な登場に驚いている辺り、この方瞬間移動使って来たな。以前の追いかけてきた時といい、もっとマシな方法で使う気はないのか。
「良いじゃないか。第二王女の逢引の護衛なんて名誉な話だ。いずれ上手く行けば仲人として出席し、栄誉を貰えるかもしれないよ!」
「そんなんで貰っても嬉しくないですし、貴女が居ると俺の身の危険があるんですよ」
「大丈夫、触りはしないよ。濡れた美裸体見るだけで幸福さ!」
「くっ、こんな曇り無き眼で……! というか貴女が居れば護衛には充分だと思いますし、貴女が栄誉を貰えば良いのでは」
「え、君の肉体が無かったら私はやる気はないよ」
「おいコラ国直属の機関所属の大魔導士」
この方の場合、俺が行かないと本当に行かなそうだからな。
そしてヴェールさんの場合、俺と一緒に温泉に入るのは……多分俺の肉体を見るためなら自分の裸くらい構わない! と言った感じなんだろうな。
「というか貴女達、俺に見られる事は恥ずかしくないんですか」
「ロイヤルな私に恥ずかしい部分など無いよ。あとクロ君なら別に良いかなーって」
「お前は私の身体の傷を気にしないからな。それに、お前が見られても恥ずかしくないなら良いし……お前なら良い」
「クロさんは(友人として)大切な方ですし、むしろ裸の付き合いをしてみたいです」
「若い子達と比べるとアレだが、見苦しくない程度には鍛えているし、クロ君ならむしろお願いしたいよ」
……これって見られる事自体恥ずかしくとも、俺なら大丈夫という、俺がモテモテな扱いなんだろうか。
信用してくれるのは嬉しいのだが、俺だって性欲はあるし、眉目秀麗な女性陣に囲まれれば生殺しにも程かあるぞ。そして多分その後ヴァイオレットさんを見たら色々マズくなる。我慢が出来なさそうだ。
『“乙女ゲーム世界に転生した攻略対象ではない俺がハーレム作ってます!?”的なタイトルなんでしょ?』
いかん、クリームヒルトの余計な言葉が脳内に溢れ出した。
なんだかここ数時間桃色なイベントが多いから余計変な事を考えてしまう。
それに俺はハーレムを作れる気はしないし、この女性陣は俺を男として意識はしても、好意を持っている類じゃ無いからな。一名程俺の身体が目当てだが。
――こうなると誰か別の女性を……
こうなったら俺やメアリーさん、そしてヴェールさんが居なくとも信用の出来る相手を呼んだ方が良いだろうか。
シアンとかスカイさんとか……いや、スカイさんは先程の事もあるし呼び辛い。アプリコットは今はやめた方が良いし、クリームヒルトは今バーガンティー殿下の所だ。
ロボは温泉は現在NGで、シュバルツさんは今頃カーマインの策略によって火事が起きたので(ローズ殿下によってある程度防がれはした)、不安で帝国に向かっているからシキには居ないし……
「まぁまぁクロ君、これは君にも悪くない話なんだよ。四名の美少女が良いと言ってくれて、さらにはロイヤルな私が――」
「いえ、悪い話です。俺のヴァイオレットさんに不義を働く可能性がある訳ですから」
「お、おおう。うん、そうだね。なんかごめん」
「コイツ、“俺の”って言ったな」
「まぁ間違いでは無いですからね」
「愛されてるねー。若いとは良いね」
ヴァイオレットさんを起こすのは悪いし……ううん、やっぱりここはメアリーさんにお願いして、どうにかしてもらうしかないかな……
「ま、クロ君。一緒に入るかはともかく、来てはくれないかな?」
俺が考えていると、ヴェールさんが耳元に顔を近付けてこっそりと耳打ちしてきた。
他の方々は……なんか「愛されるって良いよね」的な話をして俺達から注意が外れているが、何故今その話題をしているのだろう。
「壁越しに居ろという事ですか?」
「それもあるけどね」
「ですがそれだと俺が居る意味が……」
「-――――の、――について、少し話したい事があってね」
「…………」
「あの場所はここよりも監視の目が薄いからね。出来れば皆で一緒に温泉に行く、というカモフラージュがあると良いんだけど」
…………。それを言われるとな。
それにヴェールさんは護衛として学園生と一緒に帰る訳だから、今のタイミング以外だと……はぁ。
「……分かりました。俺は男湯に入りますから、皆さんは――」
「後に続いて男湯に入れば良いのかい?」
「成程、羞恥に悶える私達を楽しむ訳ですね……」
「ロイヤル羞恥……良いね!」
「良いのか。私は羞恥はないのだが……」
「素直に女湯に入ってください。壁越しに会話くらいはしますから」
この方々の羞恥心はどうなっているんだ。
「あ、エメラルド。もしかしたらこれは覗かれるかもしれない感覚を覚えるためだよ」
「ああ、確かそういうプレイがあるとは聞くな」
「イケない事をするからこそ燃えると言うやつだね。私の夫のような相手だとよく聞くよ」
「え、そうなんですか?」
「線引きは重要だが、抑圧された真面目タイプほど意外にはまるんだよ」
「お、おおー……」
…………俺が行く意味あるのかな。
既にすごく居辛いんだが……うん、途中で誰かを巻き込もうかな。
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