追放された悪役令嬢と転生男爵のスローで不思議な結婚生活
即オチ
「そうですか、無理ですか……」
「申し訳ありません。私にも何故今のような状態になったか見当もつかなくて……」
「いえ、こちらこそ無理な相談をしてすみません。今のカーキーに少し戸惑っていまして……」
「そうですよね、戸惑いますよね。……元に戻ると思いますか?」
「はい? まぁ放置が得策ですね。いずれ戻るでしょう。もしくは聖水をかければきっと戻りますよ」
「クロさんもそう思われるんですね」
メアリーさんが微妙な反応だったので聞いてみたのだが、シアンや神父様も同じ事を考えていたらしい。
うん、やっぱりそう思うよな。アイツは今の状態が邪の面だろう。普段が光の面かと言われれば悩むが、光りすぎると逆に迷惑的なヤツだ。
「ところで、クロさんはこれから見回りなんでしょうか」
「見回り……というよりは確認ですよ」
「確認ですか?」
「馬車の手配や、軍や騎士の方々状況や、怪我による薬の補充や、素材の流通や冒険者の補償などです」
「……領主も大変なんですね」
「慣れですよ」
どれもこれも全部俺がする訳ではないが、最終的な責任は俺に来るから俺がある程度関わった方が楽なのですると言うだけだ。これでも他の方々が代わりをやってくれているのでマシというモノだ。
「それに、俺がなにかやろうとしても“代わりにやるからお前は休め”と言って、俺に気を使いますからね。思ったよりは大変じゃ無いですよ」
「慕われているのですね」
「メアリーさんほどじゃないですよ」
「ふふ、ありがとうございます。ですが私は学園生と仲良い人が多いだけですよ」
……いや、多分シキの領民も、俺よりメアリーさんの方が慕っている方が多いんじゃないのだろうか。声をかけただけで聖女のように士気をあげるなんて俺には出来ない。
というかこの調査期間でも、軍や騎士の面子を「平民の学生風情が!」から「おはようございますメアリーさん!」とかになっている辺り、この方はなにか特殊なフェロモンでも発しているのかと思うほどである。
ただ、恋焦がれるというよりは、慕っている者が多いというのが救いだろうか。多分アレが恋の類だったら比喩ではない戦争が起きる。……まぁそれでもメアリーさんは大変な事になるだろが。
「では、少しでも私が確認作業手伝いますよ。学園生として役に立てる事は有るはずですっ」
「やめてください俺が刺されます」
「はい?」
いかん、つい本音が出てしまった。
メアリーさんと一緒に二人きりで過ごすというのも、シキの連中には揶揄いはされても勘違いはされないだろうが、学園生達に嫉妬の視線に晒される事は間違いないだろう。下手すれば本当に刺されかねない。
「ごめんなさい、なんでもないです」
「は、はぁ、そうですか?」
「ええと、学園生の取り次ぎをメアリーさんにお願いするかもしれないので、それ以外では学園生の方をお願いします。私には学園生のケアは難しいですから」
「分かりました……?」
俺の刺される発言に疑問は持ったようだが、メアリーさんはとりあえず納得してもらえたようだ。
……これで多くの方々を魅了している自覚がないのはなんと言うか、天然って恐ろしいと言うか自覚を持てと言いたいと言うか。
「そういえば結局シアンなどには、私達のこの世界の認識について説明をしていないのですが……」
「その辺りは俺がやっておきますよ」
「申し訳ありません、押し付けてしまって……あ、なんでしたら今の内に私が説明をしますが」
「いえ、その辺りは俺の責任ですから、メアリーさんは気になさらなくて大丈夫です。ではまた用がある時か、学園の方々とかが馬車でシキを去る際にでも――」
とはいえ俺がどうこう言う資格は無いので、一先ずここでは別れようとした所で。
「りょ、領主! それからメアリー・リー、助けてくれ!」
「惜しい、メアリー・スーです」
唐突に声をかけられた。
この名前を微妙に間違え、最初の頃俺の名前を覚えられないからと領主と呼び続け、覚えた今でも呼び続ける失礼な感じは……エメラルドか。
「どうした、エメラルド?」
声のした方を向くと、そこにいたのはやはりエメラルドであった。
珍しく走ってこちらに来ており、ぜーはーと息を荒げている。
「あ、逢引中に、申し訳ない、が、力を貸してくれ」
「そういう事を言うと力貸さねぇぞコラ」
「ま、まぁまぁ。そう言わないで上げてくださいクロさん」
俺達の前に来ると、両手を膝において息を荒げつつ大きく身体を上下させるエメラルド。言葉からしてあまり力を貸したくないのだが、若気のいたりと思ってスルーをしよう。
「で、どうしたんだエメラルド。力を貸すにしても、状況が分からないと力は貸せんぞ」
それに……エメラルドは精神面が心配であるので、必要なら力を貸す必要がある。
なにせエメラルドは、カーマインの策略によって、手製の薬を飲ませた事で血を吐かせるという状況に陥れられた。
その時の精神的ダメージは計り知れないだろうし、スカーレット殿下やグリーンさんに励まされて復調はしているのは見たが、なにか問題はあるかもしれないからな。
「あ、ああ……説明すると長いが、切羽詰まった状況だけを言うと……」
「言うと?」
「見つけた!!」
「ひっ!?」
そしてエメラルドが説明をするよりもはやく、とある女性が現れた。
その現れた女性にエメラルドは珍しく恐怖して俺の背後に隠れた。なんというか家名通りで猫のようである。
というか現れた女性は……
「なにやってんですかスカーレット殿下」
「あ。クロ君にメアリー。逢引中にゴメンね」
「違う、はっ倒すぞコラ」
「ク、クロさん!?」
は、いかん。睡眠不足の影響と、ヴァイオレットさんへの気持ちが疑われている気がしてつい荒い口調になってしまった。
いかんな。まずはこの状況を把握して、冷静にならなくては。
「で、エメラルド。お前がスカーレット殿下に怯えている理由はなんだ?」
「あ、アイツに性的に襲われそうなんだ!」
「よしスカーレット殿下。現行犯です。弟と一緒に首都に送り返します」
「おおう、すぐ様のその判断。ロイヤルな私にも容赦ないね」
「ク、クロさん。まずはスカーレット殿下の話も聞いてあげましょう!」
それもそうか。
同意を得るなら同性同士だろうと構わないが、強制なら容赦をするつもりはないのでつい戦闘態勢になろうとしてしまった。
エメラルドが誇張して行っているかもしれないし、双方の話を聞かないとな。
「そ、それでスカーレット殿下。何故エメラルドを追いかけているんです?」
「ロイヤルに言うとね、メアリー。エメラルドの服を剥いで一緒に裸の付き合いをしようかと……」
「よしクロさん、取り押さえましょう。大丈夫、いざとなれば私達にはヴァーミリオン君の後ろ盾があります」
メアリーさんも戦闘体勢になった。そして地味に自分に惚れた弱みを使っているな。意外と強かかもしれない。あるいはヴァーミリオン殿下の俺に対する申し訳なさを利用しているのかもしれないが。
「ふふふ、現役冒険者かつ、ルーシュ兄様と対を成す現在の殿下最強格の私を倒せるかな……!」
「なんでアイツは抵抗する気満々なんだ」
そして何故か天地上下の構えをとるスカーレット殿下。どうやら俺達から無理矢理にでもエメラルドを奪い、襲う気のようだ。
ならば手加減は要らない。エメラルドを守るために少し本気を出させてもらおう。
「ふふふ、普段は負けっぱなしなクロ君に、あらゆる方面に優れたメアリー。普段なら勝てない二人だろうけど、怪我をしている状態で私に勝てると思わない事ね!」
◆
「はい、ごめんなさい調子に乗りました」
そしてスカーレット殿下は俺達の前で反省をしていた。
大丈夫かな。殿下相手に不敬にならないだろうか。……まぁ良いか。今居るのは冒険者レットだしな! ……大丈夫だと思っておく事にしよう。
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