追放された悪役令嬢と転生男爵のスローで不思議な結婚生活

ヒーター

分からず屋共(:偽)


View.メアリー


「――さて、以上ですが、なにかご質問は有りますか?」

 私は話しました。
 この世界を私達――私がどう認識していたのかを。今までの私の言葉がどのようなモノであったのかを。展開という名の未来をどう思っていたのかを。
 皆さんが知らない秘密を話してみたり。隠された秘史を語ってみたり。今までの行動の起源を語ってみたり。

――少し、喉が渇きましたね。

 一通り話して考えた事は、誰がどう思うかなんて事よりも、そんな今世になってから初めて感じた、水分の不足による喉の渇きでした。
 上手く話せたかは私には分かりません。
 ただ分かる事と言えば、思ったよりもスラスラと話せた事。話さなくては駄目だと思った事は話せた事。そして、無理して言わなくても良いとエクルさんやクロさんに言われた事を、必要だからと話した事です。

――無責任ですね。

 私は今、話終わって相手がどう思うかよりも、私がどうであったかを考え、私がどうであったかを確認し終わった後も相手の気持ちを考えないようにしています。
 これでは私が抱えていた重荷を、私が解放されたいからと放り出したのと変わりありません。

『それで構わないんだ。俺はメアリーの重荷を共に背負えて嬉しく思うよ』

 ふと、ヴァーミリオン君の言葉を思い出します。
 今日上手く話せたと思う事が出来るための前哨とも言える、教会の地下に初めて行った時にヴァーミリオン君に告白した時にもらった言葉。
 いつもとは少し違った口調で、今まで見た事がなかった微笑みで言われた優しい言葉。それでもなお受け入れると言ってくれた、私が救われた言葉です。

――その時に私は彼を……

 ……ですが、そのような優しい言葉を全員が投げかけてくれるとは限りません。
 彼らが優しい事は知っています。しかし優しいだけの、都合の良い期待はしてはいけません。
 彼らは生きて、自分で考える人間なのですから。

「……そっか。アレって僕が見た夢じゃなかったんだ」

 元から自分から言葉を発する気はないヴァーミリオン君とエクルさん。アッシュ君は口元に手を当て考え、シャル君はずっとはめ殺しの窓の外を見ながらの中。
 一番に言葉を発したのはシルバ君でした。

「シルバ君、見たというのは?」
「うん。シャトルーズやインが見た……というか受けた? 魔法はね、僕も見たんだよ」

 シルバ君が言うには、操られていた前後は記憶が曖昧だそうなのですが、私の話を聞いていく内に思い出した事があるとの事です。
 それはその魔法の実験として受けた記憶。
 シルバ君は王族の魔法と相性が良い、つまりはカーマイン殿下はシルバ君を操り感覚を共有できるので、受けたらどうなるかを確認したそうです。
 それを何度も何度も受け、今回の一件で利用するための実験をしたそうです。

「その後に多分……言霊魔法で記憶が消されたけどね。なんとなくだけど思い出したよ」

 そして証拠を消す、つまりは元の日常に戻っても他人が違和感を持たない様に記憶を消したそうです。
 ……カーマイン殿下は、シルバ君をなんだと思っているのでしょう。クロさんも彼に腹を立てているでしょうから、一緒にこっそりと一発殴りにいきましょうか。

「……すまない。弟として、兄さんの代わりに謝罪をしよう」
「ヴァーミリオンが悪い訳じゃないよ。でもその言葉だけは受け取っておくね」

 ……いえ、やめておきましょう。
 私は殴る資格は有りませんし、ヴァーミリオン君にも迷惑をかけそうです。

「シルバ。貴方も見たのですね、その……」
「女性を対象にした“火輪かりんが差す頃に、朱に染まる”というゲームですよ、アッシュ君」
「……その、ゲームの光景を」
「うん、曖昧だけどね。僕もアッシュもクリームヒルトと恋人になったり、夫婦になったり、ドラゴンライダーになったりしたよ」
「そうですか……え、ドラゴンライダー?」

 あ、錬金魔法の材料を採りに行ったら、いにしえのドラゴンに出会って一緒に乗ったイベントですね。
 最期の力を振り絞って空をかけ、降り立った後に絶命したイベントは良い話でしたね……。

「それでメアリーさん」
「はい、なんでしょうシルバ君」
「あの光景がメアリーさんの言うゲームの世界だとして、この世界もだとして、その行動通りにした事で僕達の今があるんだよね」
「はい」

 私は感情を出来る限り込めずに、ただ頷きます。
 ……私の感情でシルバ君の言葉が変わってはいけませんから。

「だとしたら、やっぱりメアリーさんは悪くは無いよ。むしろ感謝しなくちゃ」

 そして言われた言葉は、とても優しい言葉でした。

「僕は学園には居る頃には世界が全て黒く見えた。けど、メアリーさんに会う事で明るく見えたんだよ」
「ですが私は貴方達を……」
「それの源流がなんであれ、僕は救われたんだよ。そこは否定しないでよ、メアリーさん」

 …………やっぱり、そう言うのですね。
 何処かで期待していて、何処かで否定したかった夢見るような言葉。
 誰かのために行動をしたかったという願いは、既に叶っていたのだと分かる事が出来る台詞です。
 ……私は本当に嬉しくて、環境に恵まれた幸せな女ですね。

「それは僕達を知っていたとしても、必ずしも可能じゃない事なんだから。だからメアリーさんが悪いなんて事はないんだよ」
「シルバ君……」
「だから悪いとしたら僕の方なんだよ」
「いいえ、私の方が悪いんです。そこは譲れません!」
「なんで!?」

 環境に恵まれ、誰かを幸福にするという私の願いは果たされていますが、そこは譲れません。なにせここで悪くないと認めたらシルバ君達が悪い事になってしまいますからね!

「分かりますか、私はヴァイオレットを救われる道が無いと思って見捨てた女。貴方達を人間扱いしていなかった女。ほら、私の方が遥かに悪い女です!」
「め、メアリー様?」
「いいや、僕の方が悪いよ! 僕が実験台や操られなければ今日この日ほどシキで騒ぎは起こらなかった。だから僕の方が悪いんだよ!」
「シ、シルバくん?」
「私の方が悪いんです!」
「僕の方が悪いんだよ!」
「いいえ、私です!」
「僕だよ!」
「お、落ち着いて二人共、どういう言い争いなんだい!?」

 くっ、なんて分からず屋なんでしょう。私の認識の行動が許される事なんて無いと言うのに!

「シルバ君は善い子じゃないですか! 私こそ悪い女です、悪女です!」
「メアリーさんは善い子だよ! 僕の方こそ悪い男、悪男わるおとこだよ! ……この言い方合っているのかな」
「どうなんでしょう。悪女は聞きますが、悪い男性はなんと言うのでしょう……チョイ悪オヤジ?」
「ちょいじゃないし、オヤジって年齢じゃないかな……? いや、僕の年齢で子を持つ人はいるだろうけど」
「そうですね……どう思います、エクルさん」
「何故そこで私にふるんです」
「だってチョイ悪オヤジって、エクルさんにとっての前世で流行っていた言葉なんですよね? 私は聞いた事なかったですけど」
「……いや、確かに中学生の頃とかに流行った単語ですけどね。……そっか、聞いた事ないよねぇ……」

 あれ、エクルさんが何故か遠い目をしています。なんででしょう。

「というか話それてないか、これ?」
「俺にふるなアッシュ。ところで、そういうお前はどうなんだ?」
「私? ……悪男わるおとこ、だろうか」
「そこじゃない。メアリーの話を聞いて、お前はどう思うんだ?」
「ああ、そちらか」

 シルバ君と言い争い、どう表現すべきかと三人で悩んでいると、そんな会話が聞こえて来たので、私達はアッシュ君の方を見ます。

「メアリー。私は混乱しています。正直言うならば貴女以外から聞けば、荒唐無稽と思うほどの話でした」

 私達に見られた事に気付いたアッシュ君は、ヴァーミリオン君達のみに話す口調からいつもの丁寧口調に戻りながら私を見据えます。

「ですが、ヒトの言葉を後から同意するなんて情けない話ですが、私が言いたい事はシルバと同じですよ。貴女に救われた事に変わりはなく、私は貴女を愛す気持ちに変わり有りません」

 そして言われた言葉は、やはり優しく理想とも言える言葉でした。
 ……いいえ、“やはり”というのは相応しくないですね。私の行動のお陰で現状があるのだと、私は認められたのだと喜ぶべきなのでしょう。

「シャル。先程から黙っているが、お前はどうなんだ。口下手とはいえ、黙っていては伝わらんぞ」
「……私は。私が言いたい事は」
「ああ」

 間違いは多くありました。ですが認められる事もあったのだと喜ぶべきで……

「私はメアリー・スーと距離を置こうと思っている。……以上だ」

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