追放された悪役令嬢と転生男爵のスローで不思議な結婚生活

ヒーター

事後処理


『そのとある物語――ゲームについて、私に話すと約束してもらえるか?』

 ゴルドさんにそう言われた後、カーマインの見張りや運びなどをゴルドさんに任せて閉じ込められた空間を脱出し、シキでカーマインが起こした一連の解決に向かった。
 ゴルドさんに協力をお願いしようとしたが、なんでも彼は、

『生憎と私は降りかかる火の粉は払うが、興味がある事以外はあまり関わるつもりはないんだよ』

 との事で、依頼分はこなすがシキの今起きている事の解決の手伝いは行う気はないらしい。
 それなら依頼をしようかとも思ったが、この場合ゴルドさんの言いたい事は「手伝いし過ぎると堕落する」という事だ。自分に起きた事は自分達で解決しろと言いたいのだろう。
 どちらかと言うと興味をひかない事には関わらない、という感もあったが。

『という訳でカーマインの扱いは任せろ。その間に私の馬鹿弟子達でも救ってこい』
『分かりました』
『ヴァーミリオン。怪我をしているようだからこれを持て。塗れば回復する治療薬だ』
『感謝する』
『クロもこれを持て。対象を捕縛する生きた鎖だ。あと精神を抑え込む必要があるなら対象を眠らせる爆弾だ。ダメージはなく、光を浴びたモノを眠らせる』
『え、あ、はい。ありがとうございます?』
『火傷を負っているようならこちらの――』

 ……しかし、なんだかクリームヒルトとメアリーさんに関して異様に心配していたようにも見える。以前見た時は錬金魔法を使えたからそれなりに面倒を見ている、程度だと思っていたのだが、意外と師匠馬鹿だったりするのだろうか。一応はある程度貰った所で動きが鈍くなるので断りはしたが、多分あのままだったら売れば平民家族数年分は余裕で暮らせる魔道具を大量に渡された事だろう。

「火事及びクーデターの被害があった方々は宿屋に行って下さい。そちらにグリーネリー卿とオーキッドが――」

「あ、はい。教会が今は解放されているので、女性はそちらで身を洗って下さい。男性は宿屋に――」

「軍の方々。あまり被害にあっていない方々はクーデター組の見張りを――」

「え? 騎士の方々が文句を言っている? 分かりました、威を借り権力を使うというのならば、それ以上の権力で黙らせます。王族の威を借りましょう――」

「はい。今日の宿泊場所はあちらの建物を――え? あんな建物あったかって? 火事が終わった後にシキの職人が作りましたよ。ええ、一時間で建てました――」

 ともかくとして、俺は今シキでの問題解決にあたっていた。
 あの後俺とヴァーミリオン殿下はそれぞれが互いに大切にしている相手の所に向かい、互いに出来る事を行った。

――思ったよりも楽に終わって良かった。

 カーマインは巧みな話術や心身掌握術で複数のクーデター組をそそのかし、シキに居る者達を最終的には壊滅させようとしていた。その数は使役したモンスターなんとシキの総人口よりも多く、本来ならただで済むような事では無かっただろう。
 しかし悶着はいくつかあったのだが、想像よりはシキでカーマインが起こした事は早めに終息した。
 分隊のトップを除く者達にはカーマイン自身が全員に言霊魔法で操っていたため、自身の意志をほとんど持っていなかったのだ。
 さらには己の魔力を持っている相手の対象を“並列処理”して、“相手が傷付くような”一定の行動をしていたらしい。
 その情報はゴルドさんから情報を受け取ったインに聞いたのだが、最初はよく分からなかった。そこで少し詳しく聞いてみると、なんでも、

『軽く調べたそうなんですが、どうもこのシキの地脈と王族、特にカーマインは相性が良いんです。だからこのシキを王族の魔力くうきで満たせたらしいのです』
『そういえばクリームヒルトも似たような事言ってたな。確か言霊魔法で操った者達を発信機……もとい、発信用の媒体として使っていたとか?』
『ええ。その特性を利用して、言霊魔法の影響を受けた者達を全てを意志を持って操っていたそうなんです』
『……はい?』
『“自身の魔力が満たされているのなら、自身の魔力を持っているのは実質自分だ!”的な感じで、言霊魔法で皆様を直接リアルタイムで操っていたようです』
『ええー……』

 との事だ。
 詳細全てを操っていた訳では無いだろうが、状況を判断して相手を傷付けるために行動を行って――命令していたのはカーマイン自身との事だ。

――だからピンポイントに嫌がらせを出来ていたのか……

 やけに相手のトラウマなどを抉ったり、シルバやハクさんを操る事が出来ていたのだと理解はした。
 だからカーマインを捕縛し魔力を封じた後は、クーデター組の人員もモンスターも動きが鈍り捕縛も楽で、火事は消火活動のお陰で大事には至らなかったのだろう(あの火事は魔法による火事であったため、魔力がきれれば消化出来たのである)。
 理解はしたのだが……

――そこまでしてやった事が、俺の絶望顔を見たいからだからな……

 そこまでの苦労や苦痛を味わってした目的が俺には納得できない。
 相性が良いとは言え、個々人の状況を理解し、命令し、行動をさせた。
 その行為が“一度命令をすればその行動に対して、操られた者達が実行できるよう判断する”というものであるかもしれない。
 だが負荷は相当なモノだろう。数人ですら脳がショートしそうな行動を、カーマインは一人で千数百人近くやってのけたのだ。

――恐らくはあの空間の画面が消えた辺りで操るのはやめ、俺に集中したのだろうけど……アイツ、才能は本当にあったんだなぁ……

 色々と思う事は有るし、例えどんな理由があったとしてもアイツを許すつもりは無い。
 だがカーマイン・ランドルフという男について思う事。それは、

「バカだろう、アイツ」

 という事である。
 その才能を別の所に活かせば、王族として王国の繁栄に導けたものを……俺なんかのために行動するとは馬鹿な男である。

「なにが馬鹿なのだ、クロ殿?」
「おわっと!?」

 俺がある程度皆に対する命令が終わり、各々がある程度行動し始めて少し休憩に入り、物陰でカーマインについて振り返り独り言を呟く中。
 背後からとても愛しい声が聞こえて来た。

「……ヴァイオレットさん」

 振り返った先に居たのは、綺麗で可愛くて美しくて愛おしいヴァイオレットさん。
 ……うん、シュイも腕を上げたが、やはり本物の輝きには及ばないな。
 …………。

「なんでもありませんよ。どうされたのですか?」
「そうか? では報告なのだが、大まかな治療関係は終わった。医療品が不足する事は無いだ、ろう……」
「そうですか。報告ありがとうございます」
「……クロ殿。心配してくれるのは嬉しいが、首を触られると流石にこそばゆいのだが」
「あ」

 気が付けば俺はヴァイオレットさんの綺麗な首を触っていた。
 いかん、あれはシュイだとは分かっているのだが、どうしても確認してしまう。

「すみません、すぐに離しますね」
「あっ……。……事情は聞いている。心配する気持ちも分かるが、私はこうして生きているよ」
「……はい」

 俺とヴァイオレットさんは、先程も会っているし、事情も理解している。とはいえ落ち着いて話すのはあの空間の後は今ここが初めてだ。
 先程の空間から脱出する前にヴァイオレットさんの所在を聞いたのだが、その場所はグレイ達の場所であり、真っ先に向かって合流した。
 そしてグレイ達を助け、アプリコットの治療とハクさんの保護を含めた事をヴァイオレットさんに任せてその後は互いに色々と事態の収束にあたっていたのである。

――死者が出なかった事は不幸中の幸いではあったが。

 それだけは本当に良かったとは言えるだろう。しかし、不安な事は多くある。
 シキと言う地で立て続け起きている、王族を巻き込んだ事による責任問題とかは正直どうでも良い。そっち方面をつついて来る連中も居るだろうが、どうにかなるレベルではある。
 ただ、アプリコットやメアリーさん。ローズ殿下にバーガンティー殿下といった外傷がある者達は後遺症が心配だ。
 カナリアも怪我はしていたが(この件に関しては後でもう一発アイツをこっそり殴る)、後遺症の心配は大丈夫そうであったし、ローズ殿下も……一応は大丈夫だ。
 腹を割かれたと聞いたので安否が不安だったのだが……

――なんか無事だったんだよな……

 ローズ殿下は俺が容態を心配する頃には何故かシキで色んな指示を行っていたのだ。
 初めは腹を割いたというのはカーマインの嘘情報だと思ったのだが、本当に腹を割かれたとの事だ。
 何故大丈夫だったのかを聞きはしたが……よくあんな事したなとは思う。

――それより不安な事があるんだよな。

 ローズ殿下に関しては本人は大丈夫だと言っているし、「弟が申し訳ない事をしました」と丁寧に頭も下げられた。落ち着いたら正式に謝罪をすると言っていたし、その時に改めて話すべきだろう。
 それよりも不安なのは、外傷はあまりなくとも精神的に傷を負った者達だ。
 外傷の方はアイボリーやグリーネリー先生を始めとした優秀な医療軍団により不安は少ない。
 だが精神面に関しては不安が残る。なにせカーマインは的確にそれぞれの精神が傷付く方法を選んで、トラウマを抉ったり作ったりしてきたのだから。
 その中でもグレイやクリームヒルト、シルバ、ハクさんなどが特に不安である。
 俺がどうにかしたいと思うが、それぞれが心配する者達の所に行ったのもあるし、なによりも――

「…………」
「どうした、クロ殿?」

 なによりも、俺は俺でどうにかしなければならないと思う人が一人いる。
 今までは忙しくてどうにか精神を誤魔化せたが、今は……喧騒からちょっと外れた場所で、落ち着いて話せる状況に居るのだ。

「あの、ヴァイオレットさん。お聞きしたい事が有りまして」
「どうした?」

 だがここで逃げてはいけない。
 元々話す予定ではあったんだ。
 それが予想と違う形で伝わり、そして……見せられたであろう内容が俺の想像に及ばない方法であったとしても、俺は逃げてはならない。
 だからこそ。

「……見たんですよね。俺が――俺達が、この世界をどう認識しているかを」

 そう、問いかけた。

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