追放された悪役令嬢と転生男爵のスローで不思議な結婚生活

ヒーター

サクッとな(:偽)


View.メアリー


「国の将来を……知っている?」
「……それは占術による未来予知のようなものだろうか?」
「違います。未来予知には近いかもしれませんが、占術とは別物です」
「……私達、というのは」
「私とエクルさん。それに……」
「俺とクリームヒルトですよ」

 ヴァイオレットの問いに対し、私とクロさんは迷わずに答えます。
 本当は皆さんが集まった時にまとめて説明する予定でしたが……少し前後しただけです。元から話すと決めていた事に変わりは有りません。

「この後話す事があると言っていたが、それと関係する事なのだな」
「イオちゃんが私と同じシスターになったり、シキがそのドラゴンの被害跡地になる事ともね」
「はい」

 私達は話す事に決めたのです。
 私達にとってこの世界がどういう認識だったのかを。
 その認識の中でヴァーミリオン君達はどういう存在だったのかを。
 知らないはずの事を何故知っていたのかを。
 エクルさんは私を幸福とするための動きにどのような意味があったのかを。
 特に私がしていた、卑怯な行動の根拠を。
 ……話す事に、決めたのです。

「……その話は、皆が揃ってからの方が良いだろうか」
「今でも構いませんよ。この話をするべき相手は多いですから、多くを相手するよりは少数の方が相手を見れますから」

 相手を見る。いつかクロさんに言われた事です。
 悪役令嬢ヴァイオレットはヴァイオレット・ハートフィールドであり。
 設定資料だけのスノーホワイトはスノーホワイト・ナイト神父様であり。
 名無しの主人公ジョン・ドゥはクリームヒルトで。
 メイン攻略対象エトワールはヴァーミリオン・ランドルフ君です。

「省略する事無く、面倒くさがらず。何度も、何度でも。真摯に相手を見て話します」

 他にも多く勘違いはあります。
 ですが、その勘違いで救えるものがあるかもしれないのです。
 この本にあるような封印されたモンスターに関わる事を始めとした、皆が死なないような世界。

「……ヴァイオレット、スノーホワイト神父、そしてシスター・シアン。メアリーの言う言葉は信じられるモノでないかもしれない。だが、嘘偽りの無いモノとして聞いてくれ」
「ヴァーミリオン殿下。やはり貴方は……」
「ああ、以前に聞いた」

 大丈夫です。全ての相手に受け入れられる事で無い事は確かでしょう。
 ですが全てに拒否される訳では無いと私は信じています。
 ならば私は――

「メアリー・スー!」
『っ!?』

 私達は皆さんに話そうとしようとした瞬間、突如大きな声で私の名を呼ばれ一同が驚いてその声の方へと向きます。
 いくら集中や緊張をしていたとはいえ、気付かなかったなんて一体誰が――

「ハクさん?」

 私を呼んだのはハクさん。ある意味ではこれから話す内容の中でも重要な、私が持つ本の真偽を裏付ける、前世のクリームヒルトと同じ姿をした女性。
 そんなハクさんは、明るくないこの場所で私を探して周囲をキョロキョロとしていましたが、私の声に反応すると私を見て慌てるように近付いてきました。

「すぐに来てくれ、私達ではどうすれば良いか分からないんだ!」
「え、ま、待ってくださいハクさん。急に言われても困ります!?」

 ハクさんは私の腕を掴むと、説明もないまま何処かへ連れて行こうとします。
 なにがなんだか分からず、私だけではなく普段は冷静な皆さんも落ち着かせるべきかどうかを悩んでいるようで――

「シルバの魔力が暴走した!」
「っ!? ――どこですか!」

 私はその言葉を聞き、ハクさんに場所を聞きます。私だけでなく、その言葉には皆さんも意味を理解して先程までとは違う深刻な雰囲気になります。
 ですが、シルバ君の魔力が暴走? 一体なにが起きているのですか……!?

――私の教えた抑え方に問題があったのでしょうか。
――シルバ君ルートにあるような暴走でしょうか。
――なにか別の要因が混ざった結果によるものでしょうか。
――とはいえ、私に出来る事は――ですが今すぐ――この場所は――

 落ち着くのです、いえ、落ち着いていられません。いますぐ行動に移してシルバ君の元に駆け付けなくては。ですがこの場所で、考えて、いえ、そんな暇は、

「メアリー、早く行け!」

 ――――

「ごめんなさい、行かせて頂きます! ハクさん、場所は!」
「アプリコットの家だ!」

 私はヴァーミリオン君の言葉に余計な思考は無くなり、考えるより行動に移すという、以前通りの私を実行します。

――そうです。今困っているシルバ君を助けられずして、なにがこの国の将来ですか。

 私はそれ以降は余計な事を考えず、この地下を出るための階段を駆け上がっていきました。







「ヴァイオレットさん、グリーンさんの所へ行って、グリーンさんかエメラルドを」
「了解した」
「クリームヒルトと神父様はアイボリー、オーキッド、グリーネリー先生のいずれかを見つけ次第連れて行って下さい」
「分かった」
「私はグリーネリー先生の所に行くね」
「ヴァーミリオン殿下はメアリーさんに付いて行ってあげてください」
「すまない。先に行かせてもらう――はっ。俺はあの少女の家を知らない……!」
「大丈夫、私も行くから。もしかしたら私の浄化系も役経つかもしれないし」
「感謝する」
「その前にシアン」
「なに? あ、聖水系は裏手だから、クロが――」
「嘘は無かったか?」
「嘘?」
「ハクさんの行動言葉に違和感は?」
「…………ない。間違いなく。でもなんで急に――」
「…………」
「クロ?」
「なんでもない。皆、絶対に二人一組で行動をお願いします。俺はヴァイオレットさんと行きますから、クリームヒルトは神父様と行動してくれ」
「クロ殿、一体どうしたんだ?」
「なんでもありません。行きましょう」







「ここだよ、早く!」

 私はハクさんに連れられ、教会を出てアプリコットの家へと来ていました。
 以前も来た事は有りますが……前回来た時より心なしか綺麗になっているような感覚はありますが、特に変わった様子は有りません。
 シルバ君の魔力が漏れ出ている様子も、暴走した事による騒ぎなども見られません。

――という事は、アプリコットが抑えているという事に……!

 ならばいち早く、かつ扉の開閉による集中力散漫を防ぐために早くかつ静かに中に入らなくてはならないと思い、家の扉に手をかけ、開けると私の目に飛び込んで来たのは――

「メアリーさん、そんなに急いでどうしたの?」

 飛び込んで来たのは、こちらを不思議そうに見るシルバ君の姿でした。
 手にはアプリコットが作ったであろう魔道具を手にしており、特に変わった様子は見受けられません。

「アプリコットなら今グレイを連れてクロさんの屋敷に行っているよ。なんか教育に悪い可能性が高いから、寝かしつけるとか言ってたけど」
「えっと……シルバ君はなにを……?」
「僕? 僕は留守番。なんかこの魔道具を買いに来る業者さんがメモを残していたらしくて、入れ違いにならない様にって頼まれたんだ」
「魔力の暴走は……?」
「暴走? はは、なにを言っているの」

 あれ、どういう事でしょうか。ハクさんが嘘を吐いていたという事なんでしょうか。もしそうだとしたら、質が悪いイタズラだと言わなければなりませんが……

「暴走ってなんの事かな。僕はいつだって正常で、暴走なんてした事ないよ」

 パタン、と。私の後ろで音がしました。
 扉の方を見ると、そこにはハクさんの姿はなく。閉められた扉があるだけです。

「ねぇ、メアリーさん」

 そして再びシルバ君の方を見ると、いつの間にか近付いて来たシルバ君がいました。
 身長差から自然とシルバ君は見上げる形となり、まるで私を覗き込んでいるようで。そして――

「メアリーさんって、綺麗だね」

 手に持っていた魔道具に隠した包丁で、私のお腹を刺しました。

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