追放された悪役令嬢と転生男爵のスローで不思議な結婚生活

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幕間的なモノ:とある弟の観察(:烏羽)


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 幕間的なモノ:とある弟の観察レポート


 私はとても珍しい方々と食事を摂りました。

 多くの武勲を誇り、武器である十字双剣から神の代行者と称される第一王子。
 燃え盛る拳であらゆるモンスターを屠る、紅き堅牢たる貴婦人の第二王女。
 あらゆる方面で才覚を発揮し、神童と謳われた孤高の赤い獅子である第三王子。
 第三王子の右腕と称される、相手を静かに追い詰める策略家である侯爵家の長男。
 第三王子の懐刀と称される、寡黙に敵を寄せ付けない騎士である子爵家の長男。
 良くも悪くも真っ直ぐで、雷系魔法に関しては歴代一の才覚を誇る第四王子。
 幸運に愛された、女神の生まれ変わりとも言われた不運な第三王女。
 第四王子、および第三王女の剣であり鎧である女騎士子爵家長女。
 兄の妻である、地域によっては王族以上に力を持つ公爵家所属の冷徹な長女。
 流通などに通じ、王国内で多大な影響力を持ち既に実権を握っている伯爵家の長男。
 
 他にも珍しい方々と食事は摂りましたが、大きな権力を有する方々だけを上げてもかなり多く居ました。
 恐らく今後これ以上の権力者達と食事を摂る事は無いでしょう。そう断言できるほどの食事会でした。

――けど、あまり緊張しなかったんですよね。

 本来であれば少しの粗相をしようものなら、我がハートフィールド家が滅んでしまう事を危惧しなければならない程緊張せねばならないのですが、特に問題無く……というよりは、楽しく食事を食べる事が出来ました。
 なんと言いますか……王侯貴族の方々と食事をしたというよりは、学園の先輩後輩の仲で食事を食べた、という感じでした。
 これも恐らくはそれぞれが好きな相手が居て、私と同じようなヒトとしての悩みを抱えたり表に出していたせいかもしれません。
 ……本当に不思議な体験でした。

――まぁ、私がパールに見惚れていたので、集中していなかったのもあるのですが……

 不思議な体験でしたが、隣に座ったパールがとても綺麗で見惚れたという記憶が大きく、正直な所王侯貴族と食べた実感がわかないのも確かですが。お父様に知られたら怒られそうです。色んな意味で。

――ですが、クロ兄様はどうされたのでしょうか。

 パールに見惚れていたのが私の先程の記憶の大半を占めていますが、もう一つ気になる事もありました。
 それはクロ兄様の様子がおかしかった事です。
 食事も食べ終わり、片付けを行い、解散した私達ですが、クロ兄様はこの後なにかをしようとしている……というよりは、クロ兄様達はなにかを話そうとしている様子が見受けられました。

――隠しているようですが、バレている……いえ、バレても問題無いように振舞っている、という感じでしょうか。

 なにかを話す相手に現在私は含まれていないようですが、恐らく私がなにかを隠しているのか問えば、話を聞く相手に参加出来るような雰囲気とでも言いましょうか。
 一応隠してはいますが、対象者以外には無理に聞かせる話でも無いという感じです。
 ただ、クロ兄様達が話そうとしている事は話そうとしている方々が“不安で怖がっている”ように見えた事です。
 今まで築いて来たモノが壊れてもおかしくなく、同時にそれでも話そうとしている、という感じです。

――私は、待ちますか。

 クロ兄様達はなにに不安を覚えているかは分かりません。
 重要な事かもしれませんし、先程こっそりと話していた聞き覚えのない言語に関する事かもしれません。
 ですが私に対し無理に話す事では無い。それだけは確かです。
 意地悪で内緒にし、私を貶める様な事をクロ兄様はなさらないでしょうから、私に話さないのはクロ兄様の考えがあっての事なのでしょう。ですから私はクロ兄様の皆様に話そうとしている事について問い質す気は有りません。

――それにクロ兄様は……

 ふと、ある事を思い出しました。
 色々な夫婦を取材してきた私ですが、(良い意味で)一番記憶に残ったのはクロ兄様夫婦です。
 最後に取材をした、というのもあるかもしれません。しかし私にとっては一番“羨ましさ”を感じたのは、仲睦まじいクロ兄様とヴァイオレット義姉様達でした。
 ただ、一つ聞いたのは羨ましく思えたクロ兄様達も、仲良くなるまでには紆余曲折あったという事。直接は聞いていませんが、偶に聞こえる情報の断片を総合すると、夫婦としてあった日のいわゆる初夜はクロ兄様がヴァイオレット義姉様を想って断り、キスまでは四ヶ月近くかかったという事。
 けれど今は家族仲睦まじく、互いが互いを想い合うような、私としては理想の家族になっている事です。

――ですから、大丈夫でしょう。

 クロ兄様はなにに不安を覚えているかは分かりません。
 重要な事かもしれませんし、先程こっそりと話していた聞き覚えのない言語に関する事かもしれません。もしかしたら国の危険にかかわる事かもしれません。
 ですがクロ兄様がなにか秘密を抱え、それを明かしたとしても、あの家族や友人関係が壊れる事は無いでしょう。

 私は強く、そう思うのです。





「カラスバカラスバ! 料理は美味しかったし、楽しかったな!」
「はい、そうですねパール。まさか王子様、王女様達と食事をすることがあるとは思いませんでしたね」
「そうだな。だが私にとってはクロ義兄様と一緒に食事をするのが緊張した」
「クロ兄様と?」
「うん。私はクロ義兄様がシキに来る原因となった場面を見ていたんだが」
「そうなんですね。私は見ていなかったのですが……」
「あの時のクロ義兄様は怖かった。強いとは思ったが、とにかく怖かった。だから緊張した」
「成程……」
「あ、だが気になる事が一つあるんだ」
「気になる事、ですか?」
「うん。あの時の試合なのだが、実は――」

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