追放された悪役令嬢と転生男爵のスローで不思議な結婚生活

ヒーター

表情が違う


「『なになにー、日本語でこっそり話して、異世界エロ服談義? 私も混ぜて!』」
「『その話題で喜んで入って来るなよ』」
「『女の子の健康的なエロは男女問わず喜ぶんだよ』」
「『健康的なエロってなんだ』」

 いつの間にか俺達の所にやって来たクリームヒルトが日本語で話しかけて来た。
 内容的に思春期男子とかが馬鹿話で話している内容なのだが、クリームヒルトの場合は前世でそういった類のコスとか作ったり見たり、高校時代には同じ部活内の男女でそのての話題も語っていたので俺的には今更ではあるが。

「『メアリーちゃんが着るならナントカを殺すシリーズとか、逆バニーとか良いんじゃない? なんでか知らないけど殺す方は実際にハクが着てたりしてたし、存在するでしょ』」
「『あ、そのナントカを殺す服は私が経営している店で、冗談で商品として並べたら人気が出たんですよ』」
「『あれエクル先輩の店のモノだったんだ……だからやけに見た覚えがある服があったんだね』」
「『というか、逆バニーって前回クリームヒルトに見せて貰ったアレですよね。露出が激しいですし無理です。というか私が着る話では無くてですね――』」

 ……逆バニーってなんだ。普段は女性が着るバニーを男が着るとかそんなんだろうか。でもメアリーさんが着ると言っているし……え、どういう事?

「『なるほど、異世界エロ服はそういう事だったんだね。エクル先輩、こればかりは仕様がないんだよ』」
「『仕様がない、ですか』」
「『うん、昔の絵画を思い出して。天使とか女神は布一枚だったり、聖女とかも片乳出して先導するスタイルだったりするんだから、女性に布のヒラヒラでエロを着せるのは古代からの性癖なんだよ……』」
「『確かにそうですね……!』」

 昔の絵描きさんに謝れ……と言いたい所だが、あまり否定できないような気もする。確か昔は礼拝を積極的にさせるために、裸婦画とか裸婦像とか教会に立てたとか聞くし……。
 ……日本でも葛飾北斎あたりで触手とかあったのだし、エロに対する変態性は昔から存在していたのだろう。
 ところで逆バニーってなんだろう。後ろ前に着るのだろうか。

「『というかエクル先輩って日本語だと敬語になるんだね』」
「『ハウスキーパー的な仕事でしたからね。普段から敬語の方が楽で、そのまま……という感じです』」
「『成程……あ、でもずっとメアリーちゃんのお世話してたんだっけ?』」
「『ええ、短大卒業してすぐに任されて。初めはなんでと思っていましたけど、結局は一緒に漫画読んだり、ゲームをしているのを見たり、映画を一緒に見たり仲良くなりましたよ』」
「『映画かー。エクル先輩、映画好きなの?』」
「『ええ、大好きです! 大学時代はよく映画館とか家とかで見てましたね。……それだけに、この世界で見れないのが残念なんですよね。本は結構面白いのが多いんですが』」
「『アニメとかも無いしねー。あ、どんな映画が好き? メ〇ルマンとか?』」
「『はい、その映画好きですよ。面白いですよね』」
「『マジでか』」
「『? 後は吸血原〇蜘蛛とかプラ〇9フロムアウ〇ースペースとか……クリームヒルトさんはどんな映画がお好きですか?』」
「『え? えーと……ワイルドス〇ードシリーズとか、ミッションインポッシ〇ルシリーズとか……かな?』」
「『良いですよね! どちらもシリーズを通して面白いですよね!』」
「『良かった……!』」
「『?』」

 と、逆バニーについて気にしていると、いつの間にやらクリームヒルトとエクルはなんだか映画談義みたい話を始めた。初めはクリームヒルトはエクルがマイナー映画マニアなのではないかと不安だったようだが、クリームヒルトも知っている話題で話せて安心しているようだ。
 てかメ〇ルマンを素直に好きと言えるのはある意味凄いな。

「『……ふふ』」
「『どうされました?』」
「『いえ、懐かしいな、って思いまして。昔は私も一緒に淡黄(シキ)さんのオススメの映画を見て、一緒に語っていたなぁ……って』」
「『懐かしき思い出、というやつですか』」
「『ええ。……本当に懐かしいです。外見はあの“エクル先輩”なのに、今は私の知っている淡黄(シキ)さんであり、エクルさんにしか見えないので不思議です』」

 そう言いながらメアリーさんはエクルを微笑ましく見ていた。
 確かにそこに居るのはお兄さんのような“エクル先輩”ではなく、肩の力が抜けたような、今まで見て来たエクルとは違うが好きなモノを語れて嬉しそうなエクル・フォーサイスという一人の男であった。
 今までのエクルを否定する訳では無いが、懐かしいと言う辺り、今の楽しそうな表情の方が素なのかもしれない。

「『……クロさん』」
「『なんでしょうか』」
「『先程の異世界エロ服談義もそうなんですが、つまりはこの世界もある意味ファンタジー、という事なんですね』」
「『そうかもしれません』」

 メアリーさんがエクルを懐かしむ様に見ながら、改めて決心をしたかのように俺に語り掛けてくる。
 あと異世界エロ服という言葉はどうにかならないだろうか。真剣でも真剣じゃない様に聞こえてくる。

「『というより魔法がある時点でファンタジーです』」
「『ふふ、確かに。……本当に、ファンタジーなんですよね』」
「『……ええ。ですが現実です』」
「『はい。……だからこの後、私はどんな結果になろうと、私は結果から“善い”選択が出来るように頑張りますから』」
「『……そうですか。ただ、俺もどんな結果だろうと、俺なりに善い選択を手伝いますから』」
「『……ありがとうございます』」

 メアリーさんが言う結果とは、この後に話す内容の結果として、誰にも感謝されなくなっても、皆に嫌われようとも、悪い事になるのが見逃せないという善意によるものだろう。
 これが彼女の強さであり、弱さでもある。
 ……俺も頑張ろう。

「『そういえばクロさんも映画お好きですよね!』」
「『え!? ええと、まぁ好きですが……何故そう思われたのです?』」
「『ほら、オッテンドルフの数列知ってたじゃないですか。あれって映画知識かなーって。あまり聞かない数列ですし』」

 オッテンドルフの数列……ああ、ローズ殿下がクーデター組の秘密暗号として使っていたヤツを俺が言ったヤツか。確かに映画知識だが……ていうか俺がその会話をしたのをなんで知っているんだ。アレか、暗躍していた頃にこっそり聞いていたとかか。

「『クロさんはどんな映画が好きですか?』」
「『基本はクリームヒルトが言ってたやつですよ。派手なアクションかコメディが好きです』」
「『というか私が好きなシリーズは黒兄の影響だしね』」
「『ちなみにメアリーさんはなにがお好きですか?』」
「『アニメを除くとマー〇ル系とかハリーポ〇ターシリーズですかね』」
「『おお、鉄板だね。親愛なる隣人! ウィンガーディアム!』」
「『エクスペクト!』」
「『パトローナム! ……これ以外覚えてないや』」
「『俺もだ。あ、ところで吹き替えと字幕どっち派ですか?』」
「『そうですね、私は――』」

 俺達は日本語のまま映画談義を続けた。
 エクルは俳優ではジェイ〇ン・ステ〇サムが好きで出演作全部見ているとか。
 俺やメアリーさんが亡くなった後に日本の映画興行収入一位が更新されたが、まさかの映画でメアリーさん共々驚いたり。
 
 今世では映画を見れないけれど、それでも語る事が出来るモノはこれからもあるだと思うと、楽しく思ったり。
 ともかく俺達転生組は日本語で楽しく語り合ったのであった。




「…………むぅ」
「イオちゃん、可愛く嫉妬しているね。その可愛さをクロの前に出せばクロも照れてくれるんじゃない?」
「……あんなに楽しそうに会話しているのに、邪魔する訳いかないじゃないか。なにを話しているか分からないし……」
「所々王国語が出て来るのはなんでだろう。というかさっきから私がなんか不条理な象徴として扱われている気がするんだけど。どう思う、コットちゃん」
「……我も日本NIHON語を全て分かる訳では無いからな。分からん」
「あ、その反応は分かっているね。吐け、吐くんだコットちゃん!」
「わ、分からぬと言っているだろう! というか早口で本当に分からぬのだ!」
「ありゃ、そうなんだ。残念だったねイオちゃん、クロの話している内容は分からないってさ」
「……楽しそうだな、クロ殿。笑顔になるのは良いのだが……むぅ、私はこんな嫉妬深かったのだな……自制せねば……夫の幸福を喜ばない妻でどうするんだ。……ああ、でもやはり可愛いな、クロ殿は……」
「聞いてないね」
「聞いておらんな。というかこれは嫉妬というより、見惚れている類では無いだろうか」
「だね」





備考:クロとメアリーが前世で亡くなったのは2019年設定です。多少の知識のおかしさの誤差はご容赦頂けると幸いです。

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