追放された悪役令嬢と転生男爵のスローで不思議な結婚生活

ヒーター

第三者の方が言葉にしなくとも察する


「何故!? 私のこの溢れんばかりのアピールが何故駄目なんだ!」
「落ち着いてくださいパールホワイトさん」

 慌てているのか焦っているのかは分からないが、俺に対しての敬語が外れて詰め寄って来るパールホワイトさん。一応体に触れない様に距離は取る。
 恐らく彼女的には、好きで強い相手には積極的に子孫を残していく事が常識なのだろう。
 貴族としても間違っていないのかもしれないが、カラスバに対してだと上手くいっていないのだろう。カラスバは婚前交渉とかしなさそうだし。あと二日前に夫婦の取材と言って俺達の所に来た時、上手くいっていないような事を言っていたのもあるが。

「パール、言っただろう。カラスバとのすれ違いを無くすためには、その積極的に行く言葉を減らさないと」
「言葉にせずして伝わるモノも伝わるか!」
「お、落ち着けパール」

 俺がヴァイオレットさんに「好き」の一言をキチンと言わずにいてすれ違っていた時もあったように、言葉にしないと伝わらない事もあるし、神父様の言うように言葉にしない事でより伝わる事もあるのも分かる。
 ようはアピールの問題なのだが……俺としてアドバイスできることは有るだろうか。

「それにスノー兄さんやクロ義兄様だって、相手が居るなら自分色に染めるようなエロい事をしたいでしょうが!」
『ごふっ』

 まずい、巻き込み事故を誘発してきたぞこの子。
 それにさっきのヴァイオレットさんの言葉も含まれているから俺に余計にダメージを喰らった。
 神父様まで喰らうのは少し意外だが、神父様もシアンのスリットはよく気にしていたしさもありなんと言う所か。

「ひ、否定は致しません。ですがパールホワイトさん。カラスバは性関連は表立って言われるのは苦手なタイプです。言葉や行動は慎みがある方が良いかと」
「むぅ……クロ義兄様がそう仰るのなら前向きに検討する方向で善処いたします」
「それ改善する気ありませんね? それと神父様。神父様だって、シアンに告白されなきゃ好意に気付かぬままだったし、言葉にするのは大切だと思うよ」
「…………」
「スノー。シアンへのエロ妄想をしている所悪いが、聞いているか?」
「き、聞いているしそんな妄想は……すまない、していた。ちょっと煩悩を消すために滝にうたれてくる」
「何処まで行くつもりですか。もうすぐ夕食ですよ」
「スノー兄さん、あのシアンって子本当に好きなんだね……」

 神父様は否定しようとして、嘘を言うのは良くないと判断したのか正直言う事を選んだようだ。正直なのは良い事だが、この場にシアンが居たらどうなっていたんだろうか。……両者照れた後逃げて終わりそうだな。

「と、とにかく。確かに言葉は大切だな。俺もシアンに告白されたから好意に気付けた訳だからな」
「うーん、でもスノー兄さんとシアンの姿を見ていると、言葉は無くとも通じ合っている感があるし、行動を抑えるのも手なのかなぁ……うーん」

 とりあえず二人共自身の意見に少し悩みは始めたようだ。
 ……ふと思ったのだが、恋愛雑魚な俺達が恋愛のアプローチ方法を考えた所で解決策が思い浮かぶのだろうか。
 ていうか俺の身の回りで恋愛強者って誰になるのだろうか。
 カーキーは少し違う気がするが、アピール方法は間違いなく上手いと言うか強い。だが頼りたくはない。というか方法自体は今のパールホワイトさんとそう変わらないし。
 後はヴェールさん……はやめておこう。肉体の良さしか語りそうにない。
 ローズ殿下……あの方はやめよう。絶対にこの手の話と相性が悪い。
 ……うーん、誰だろう。

「そういえばスノー兄さんって、さっき騎士っぽい服を着てたよね?」
「ん、ああ。流石に夕食時は汚れるから着替えたが」
「コンテスト……だっけ? クロ義兄様も出たんだよね」
「え、ええ。俺も来客対応に伴い着替えましたが」
「それを着て出た時、相手の反応は良かった?」
「俺の時はともかく、シアンが出た時は最の高を見た」
「俺の時は分かりませんが、ヴァイオレットさんの時は尊さの極致を見ました」
「ああ、うん。さよですか」

 俺達の感想にパールホワイトさんはなんとなく「この二人の扱いが分かった気がする」みたいな反応を示していたのは気のせいだろうか。気のせいだな、うん。

「私もいつもと違う服を着ればアピールになるかな……オープンガーターシースルーとか……」

 そしてこの子の性格も分かって来た。
 控えめにすると言っても、結局はストレートとかイジングキャ〇ンとかしか投げないタイプだ。

「あ、折角だしスノー兄さんも着てみる? さっきのシアンとは逆にそれを着て押し付ける感じで」
「お前は俺になにをさせる気だ」
「でもさ、さっきシュバルツのお陰でちょっといい雰囲気になったじゃん。今度はこっちからアピールしてみたら?」
「アピールか……確かになぁ……」

 む、神父様とシアンになにかあったのだろうか。
 そういえば屋敷に戻る前に教会に来た時、神父様とシアンが妙な空気になっていた気がする。具体的には先程のヴァイオレットさんのイタズラじみた微笑みを見た感じであった。
 だがアピール……うん、まだ時間もあるし、折角なら……よし。

「パールホワイトさん、メイクとかやってみます?」
「メイク?」
「ええ、普段とは違うメイクをすればカラスバも意識するかもしれません」
「成程、そして夕食でなくて私を食べてという訳だな!」
「違います。意識をさせようと言っているだけです」
「なんだ……だが、私はメイク……化粧は苦手なんだが」
「俺で良ければ教えますよ」
「クロ義兄様は女性用の化粧が出来るのか?」
「ええ、一通りは」

 前世ではプロ級では無いが、それなりに知識はあるし実践も出来る。この世界であればそんなレベルも世に通用するくらいにはなるだろう。
 問題はそんな事が出来る男の俺に難色を示さないかだが……

「であれば是非お願いしたい。生憎と身近に出来る者は居なかったし、興味は薄かったのだが、カラスバに意識される可能性があるのならばやりたい!」

 良かった、その手の偏見は無い子のようだ。
 そして良かったな、カラスバ。お前の嫁さんはお前の事が大好きだぞ。

「クロ、俺も良ければ教えて貰えるか? シアンのために知識として知っておきたい」
「構わないけれど……神父様は別の事をやってみません?」
「別の事?」
「そう、神父様もメイクをしようか!」
「俺になにをさせる気だ」
「いや、本気で言っている」
「……え、本気で俺に?」
「うん、本気で神父様に」

 神父様は俺の発言をボケだと思ったのかすかさず突っ込んだが、俺は本気である。

「メンズメイクというやつですよ、さ、さ、やりましょう! お風呂場とか使います?」
「構わないが、なんだか乗り気だな、クロ」
「ええ、服飾もメイクも離せないモノですし、結構楽しいですよ」
「クロは自分にメイクするのか?」
「ははは、ほぼしないです」
「おいコラ」
「まぁ俺は自分がするより誰かに――っと?」

 誰かにして着飾って貰った方が嬉しいと言おうとして、簡単なメイク術を教えようとお風呂場でも借りようかと思っていると、ふと袖を引っ張られた。

「…………」
「あれ、ヴァイオレットさん?」

 誰に引っ張られたかと思いつつ振り返ると、そこに居たのは料理の準備をしていたはずのヴァイオレットさん。
 何故だか不安そうな表情である。

「どうされました?」
「……クロ殿。その……メイクを教えるとの事だが」
「はい。あ、ヴァイオレットさんも聞きますか?」

 とは言え今回教えるのは基礎とかなので、以前から何回か教えた事しか教えられないのだが。だが基礎は重要だから、何度聞いても良いモノではあるが。

「――――でくれ」
「え?」
「……メイクを教えるという事は、彼女の顔に触れるという事だろう?」
「え。ええ、そうなりますかね」

 勿論極力触れないようにはするが。

「……私も聞く」
「構いませんが、準備は大丈夫なのでしょうか」
「私の担当は終わったから大丈夫だ。さぁ、やろう!」
「え、わ、分かりました」

 よく分からないがヴァイオレットさんもメイクの説明を受けるようだ。何故だか妙に張り切っているのは気のせいだろうか。
 ……まぁヴァイオレットさんが居た方がテンションが上がるし、居てくれるのなら大歓迎である。早速始めるとしよう。





「……うん、アレはクロ義兄様気付いていないよね、スノー兄さん」
「……だな。ヴァイオレットはクロにあまり知らない女性とお風呂場で一緒に居て欲しくないんだろうな」
「みたいだよね。やっぱり言葉にするって大切だよね、さっきも言葉にして彼女は嬉しそうだったし」
「まぁそうだな――ってさっき?」
「あれ、気付かなかった? 彼女さっきからそこに居たよ。出るに出れなくて隠れてたみたいだけど」
「いつからだ?」
「クロ義兄様が彼女にエロい事をしたいという事を認めた辺りから」
「……それ、クロには言ってやるなよ?」
「なんで?」
「なんででも、だ」
「分かった?」

コメント

コメントを書く

「恋愛」の人気作品

書籍化作品