追放された悪役令嬢と転生男爵のスローで不思議な結婚生活
あ、ここ前世で予習した所だ!(:偽)
View.メアリー
「――くしゅん」
何故か遠い目で皆さんがエクルさんの前世の弟さんを思っていると、ふと私はくしゃみをします。
……いけませんね、先程までは隠れたり避難したりとしていて身体が温まっていましたが、今はちょっと冷えたようです。
祭事用のこの服は制服などと比べても布地が薄いというのもありますが、なによりも……
「めめめめめ、メアリー様、まさか風邪ですか!? どこかお加減が!? 寒いのならばどうぞ私の上着を羽織りなさってください! いえ、全部被りますか!?」
「お、落ち着いてくださいエクルさん!」
「……エクル先輩を見ていると冷静になるな」
「……そうだな」
私がくしゃみをしただけでこの騒ぎよう。
どうも今まで内心で思っていただけの事を言うようにしているようですが、流石に過保護がすぎます。
「エクル先輩。心配なのは分かりますが、そこまで過剰に反応せずとも……」
「心配で仕様がないんだよ。メアリー様の前世は病気に苛まれていた。前世と違うとは分かっていても、いつあのように戻るかと思うと……」
「エクルさん……」
……そう言われるとなにも言えなくなるじゃないですか。
エクルさんは私の病気の事を誰よりも傍で見て来た方です。目を逸らさず、どうにかならないモノかといつも考えてくださっていた方。
それでいて最期の最期まで私を友達の女の子として見てくれた、前世での一番の家族。
「私は大丈夫ですからね? ただちょっと冷えてくしゃみが出ただけですから。それに私を心配して貴方が体調を崩しては私が困るんですよ」
「メアリー様……」
「大丈夫、今の私は健康優良児ですから」
だからこそ私は大丈夫だと安心させてあげたい。そう思わずにはいられません。
「しかし、その服を着ていると冷えるかもしれませんね。着替える前のメアリーの制服は?」
「ええっと……あ、学園生用の宿舎の所ですね」
確かステージ裏で着替えたとしたら結果発表待機中はステージ裏で待機しなければならないので、着替えをステージ裏に放置したままでは恥ずかしいという事で皆さんはそこで着替えたのでした。
そして対応していたりしている内に取りに戻る機会がないままここに来たので、放置したままですね。
「そうなると女学生用部屋の中か……私達では取りに戻れないな」
「取りに戻って、近くの女学生などに取りに行ってもらうのが良いだろうか」
「メアリー様が戻れない以上はそれが良いだろうね。悪いがメアリー様、それまではなにか羽織るかして温まっていてくれ」
「ええと……」
「どうかしましたか、メアリー」
ええ、それが一番でしょう。
私が下手に外に出られない以上は、この場に居る皆さんの誰かがこっそり戻り、着替えを取りに帰るのが一番です。
一番なのですが、それには一つ問題があるのです。
「あと、その……下着を……」
「え?」
「この服、教会関係者用なので下着着用を想定されて居なくて……着こなすために今、下着を着て無くて……その……」
そう、今の私はこの服の下はなにも着ていません。着こなすためには付けないのが一番の着こなしだと言って着けて居ないのです。見えない様にはなっていますが、正直心許ない事この上ないです。この状態であのスリットを入れているシアンがある意味凄いと再認識中です。いえ、下着の有無無しにあの服での戦闘ではない日常生活を過ごすのはある意味凄いですが。
「着替えとなると下着も持ってきてもらわねばならないので、それを皆さんに持ってきてもらうのは、その……」
このままも恥ずかしいですが、下着を持って来て貰うのも恥ずかしいと言いますか、私のような女の下着を触れさせるなんて申し訳ないと言いますか。
ともかく困るのです、色々と。
「それは、ええと……こ、困りましたね」
私の言葉にアッシュ君達も理由を悟り、困ったような表情になると同時にあまりこちらを見ない様にし始めます。
う……こういう風に今の衣装について意識されるのが恥ずかしかったので、あまり言いたくは無かったんですがね……
「で、では、運動着のみを持って来て、その後残りはメアリーに持って来て貰うという形が良いでしょうか」
「そ、それが良いな、うん。制服だと困るからな」
「そ、そうですね!」
アッシュ君の意見に私も含め賛同します。学園指定の運動着ならば下着無しでもまだ防御は固いのでどうにかなります。制服だとスカートで下着無しになるので、それはとても心許ないです。
……ですが制服に下着無しだと、――――のようで少し、こ――
「しなくても大丈夫なんだよ!」
『!?』
と、私の中に妙な思考が過ろうとしていると、唐突に第三者から声をかけられました。
「って、ミズ・カナリア、いつの間に……?」
「やっほー、えっと……イケメントリオ!」
「名前忘れてましたね。アッシュです」
私達に声をかけたのはキノコ大好きな珍しい純エルフのカナリア。相変わらず元気でハツラツとして憧れる女性です。
しかしどうやってこの屋敷に……そして気配を感じなかったような気がしましたが。あと軍服から着替えたようです。
「鍵を使って勝手に入らせてもらいましたよ! 掃除とかでよく入るからね!」
「成程。だが気配を感じなかったが……」
「エルフだからね」
エルフは関係無いと思いますが。
「ともかく、大丈夫と言うのはなにがです?」
「あ、うん。はいメアリー。これ」
「はい? あ、私の着替え……?」
カナリアは質問に対し、来た理由を思い出して私に手に持っていた荷物を渡します。
中を確認すると、そこにあったのは私の制服。下着も含めて一通りそろっています。
まさか私が困っているのを分かって、取りに行ってくれたのでしょうか。ともかく感謝を伝えなければ!
「あ、ありがとうございます! お陰で着替える事が出来ます!」
「ううん、私はクロに言われただけだから……あ」
「クロさんに?」
「エ、エルフだからね! この位気付いて当然なんですよ!」
「カナリアくん。その見栄は流石に無理があるよ」
「う……ごめんなさい。本当はクロに言われて持って来たんだけど、クロには“男性に下着とかを気を使われたとなるとなにか思うかもしれないから、黙っていてくれ”と言われていたのでした……」
そう言いながらカナリアは長い耳をしょんぼりとさせます。……感情に起因して動くのでしょうか、あの耳。
というかクロさん、色々と気を使っていてくれたんですね……
「……私が気が付いていればもう少し出来たかもしれないのに……彼に先を越されるとは……」
「……俺も見惚れてたとはいえ、悔しいが女性の扱いはアイツが上なのか……?」
「まぁ君達も若いからね。これから気遣いも分かって来るさ。私はメアリー様に見惚れていたお陰ですっかり失念していたけどね!」
「なんでお前はそんな偉そうなんだ」
「でも君達だって恥ずかしそうに服を抑えるメアリー様を“なんか良いな”とか思っただろう? そういう事さ」
どういう事なんです。
エクルさんはフォローのために汚れ役を担っているのか素なのかがよく分かりません。
「ともかく、持って来て下さりありがとうございます、カナリア。クロさんには……それとなく感謝を伝えておきます。勿論カナリアが話した事は言いません」
「……ありがとうございます、メアリー。お礼に自立稼働するキノコをプレゼントしますね」
「興味はありますが、お気持ちだけ受け取っておきます」
「じゃあこの食べると謎の赤い液体が中から飛び出る、私命名“赤濁液キノコ”を差し上げましょうか。液体は無害で美味しいですよ!」
「その名前はやめた方が良いと思いますよ。……ですが、錬金魔法の材料として使えそうですね」
なんだかマンドラゴラのようなおどろおどろしい外見ですが、大丈夫なのでしょうかこれ。お師匠様とかが興味を持ちそうなレベルです。
「では、これを――ぬわっっちょ!?」
「え――?」
その赤……い液体が出るキノコと着替えを受け取ろうとして、私が手を差し出した瞬間。
カナリアが奇声を上げたかと思うと、私の方へ勢いよく倒れ込んできて――
「わぁっ!?」
「ふべい!?」
『メアリー(様)!?』
そのまま互いに倒れ込む形になり、さらには、
「いたたた……あ、大丈夫ですかカナリア!?」
「なんだか私は持っていないクッションがあったので私は平気です……メアリーは?」
「私も大丈夫です……あれ?」
「うわ、なんだかべとべとします……!?」
全身になにかヌメリ気のあるモノが私とカナリアの全身にかかりました。
これは先程の赤い液体が出るキノコが潰れて……周囲に飛び散ったのでしょうか。それが私やカナリアにかかったようです。
先程の言葉を信じるならば無害なんでしょうが……うう、全身が汚れて――はっ、このシチュエーションは!
「こ、これは知っています! 前世でよくある謎の粘着質な液体がかかると世の男性が何故か喜ぶというシチュエーション!」
主に白いモノだと喜ばれる奴です!
意味は良く理解できませんでしたが、なにかと何故かよくあったシチュエーションです! 不思議とエロく、個人的には男性にかかった方が良かったですが、女性でも良かった記憶があります!
「メ、メアリー。なにを急に訳の分からない事を――」
「確かにあったね。私には良さが分からなかったシチュエーションだけど。眼鏡汚れるし」
「あったのですか!?」
「あったよ」
「……シャル、やはり日本というのは……」
「ああ……変――特殊な国なのだな……」
「待ちたまえキミ達。その認識は訂正したいのだが……いや、それよりもメアリー様。思いがけないシチュエーションに喜んでいる所悪いけど……」
「どうしました?」
「……赤い液体だから、なんだか殺人現場みたいだよ。着替えは無事みたいだから、お風呂にでも入って来た方が良い」
「あ、はい」
そうですよね、よく考えれば喜ぶシチュエーションじゃ無いですよね。
何故喜んでいたんでしょう、私。
「タオルは用意しておくから。クロさんには後で言っておこう」
「はい……」
「私も入る……ごめんなさい……うう、私エルフなのに……」
「あ、謝る必要ないですよ。一緒に入りましょうね!」
こうして私達はお風呂に一緒に入る事になったのでした。
……温泉とは違う、お風呂場で女同士の洗いっこ……これもよくありましたし、良いですね! ……あれ、なんだか今日の私、魂がオッサンぽく無いでしょうか。……考えない様にしましょう。
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