追放された悪役令嬢と転生男爵のスローで不思議な結婚生活

ヒーター

別に悪くは思っていない(:淡黄)

View.クリームヒルト


「よいしょ、と」

 コンテストも終わり、私は漢服を着替えて元の学園しての運動着に戻る。あのままの服でも良いのだけれど、流石に遊ぶには動き辛い。
 そして着替え終わるころには観客も盛り上がったまま、各々の行動をし始めていた。
 良かったと仲間内で感想を言い合うグループや、参加者に直接素晴らしかったと感想を言うグループ。
 見る事が出来なかった相手にいかに素晴らしかったかを語る者や、素晴しさを表現するために絵や彫刻や刀を作成するシキの皆。なんだかコンテストの表現のはずなのにクトゥルフ的なモノを作っているのは何故だろう。

――参加者の皆も、色々とやってるなぁ

 他にも使用した服はルーシュ殿下のご厚意で進呈との事なので、新たな服に喜ぶカナリアちゃん。なおすぐにコケて汚れて破れた使い物にならなくなった。黒兄に直して貰うかと思ったが、服をキノコの苗床にするらしく家に帰った。……どう苗床にするのだろう。
 その服のままナンパをするカーキー君。軍部の女性に対して表面上は断られていたが、こっそり袖に紙を入れていたので今夜は彼女と過ごすのだろう。
 あのまま顔を晒していた所、女性陣に囲まれかけたのですぐに姿をくらましたオーキッド君。でも格好良かったな、彼。あらゆる女性陣(一部男性)を魅了していた。シキの皆は知っていたので「久々に見たなぁ」ってだけだったけど。
 着た服に見合う美しさを仕上げると言って教会で祈りを捧げると言ったシュバルツさん。なんの祈りを捧げるかと問うたところ、己自身に祈りを捧げるらしい。よく分からない。
 まぁともかく色々とお祭りの興奮も冷めやらぬまま、シキがいつもと違う活気に包まれていた。

「いやー、服を着るって難しいね。服なんて変化させればどうにでもなるから、隠せるモノも隠している風を装えば良いもんだと思ったけど、認識が改まったよ!」
「……そう」

 そしてこちらはコンテストの優勝者発表の後、ステージからはけた後。服の着方を教えてくれと熱心に何故か私に迫って来たハク。服を脱いで「一度着させてくれ!」と言いだした時はどうしようかと思った。私の前世で裸にならないで欲しい。

「そう言われてもね。私は碌に服なんて与えられていなかったし、服の価値はよく分からないんだよ」

 さらりと重い事を言わないで欲しい。確かに過去を考えればそういう扱いでもおかしくは無いだろうけど。

「それに服は自意識混濁関係無く変身できる部分だったからね。普段君達が見ている私は全裸なんだよ。だから別に肌を見られても恥ずかしくない。というか普段も肌を見られている感覚だし」
「そうかもしれないけど……」

 以前男女の境界が曖昧かつ自己が曖昧なので裸でも平気とは言っていたが、初めて会った時に制服に着替えた様に自由に姿を変えられるので服に見えるのも彼女の裸なので、常に裸を晒しているようなモノなのだろう。だから先程のコンテストのような“もったいない”結果になったのだろう。
 だけどある程度の一般常識は有しているので、一応服を着ているように見える感じにはしている。単純にその方が紛れ込みやすいから服を模している、というだけだ。

「服に関しては私より黒兄とかの方が詳しいし、私はこれから用事があるから」
「用事?」
「うん、友達と遊ぶ用事。……なんなら一緒に遊ぶ?」
「え、良いのかい? 私だよ? 君、私の事嫌いじゃ無かったのかな?」
「そう思っていたのにさっきの事を私にやってたんだ……」

 私は服装を整えながらハクを遊びに誘う。
 元々ティー君やフューシャちゃん、スカイちゃんやシルバ君。そして真の妹クリ先輩と遊ぶ予定だったのをこのコンテストの参加で遮られていた。そろそろ戻って学生としての思い出作りでもするとしよう。そしてその中にハクが居ても別に構わないだろう。
 そう思い誘ったのだが、ハクはとても意外そうな表情をする。予想外……ではあるのだが、元々用事に付いて行こうと提案しようと思ったら、先に提案された、と言うような感じだ。

「別に良いよ。あくまでもそっちが良ければ、だけれど」
「そうかいそうかい! いやー、そう言われちゃ仕様が無い! 私も遊びに参加するとしよう!」
「……嬉しそうだね」
「ふふ、生まれて初めての遊びだからね! ここ数日はヴェール氏の調査とか一般常識の学習とかで忙しかったし、私の自由なんて、研究所内か戦場の中だけだったからね……」

 急な重い話やめて欲しい。けど彼女にとっては本当に遊びは無かったんだろうなぁ……。
 ……それにしても本当に嬉しそうな表情だ。こうして見ると……私の前世と同じ姿だけど、表情の変わり方が違うと分かって来る。
 段々とハクが私と全く無関係だと感じて来た。前世の私が前世の美少女扱いされるのはなんか複雑だけど、ハクも気に入っているし今の私の姿とも関係無い。ならばそろそろ割り切った方が良いかもしれない。

「でも男の子と遊ぶんだよね。ここは喜ばれるために露出過多な服を……いや、いっそ服に擬態せずに遊べば良いという事だね!」
「遊べるのは嬉しいのは分かるけど、まずはその裸が異性を喜ばせるからするという発想をやめようか」

 ……うん、割り切るとはいえ、これは流石にやめて欲しいけど。

「ところで気になる事が一つあるんだけど」
「なに?」

 ハクはそこまで言うと、ある方向に顔を向けてなにかを見る。
 私もつられてそちらを見ると、そこに居たのは……私がアピールのためだと言って着せたミニ浴衣にストッキングを履いたスカイちゃん。着替えもせずボーっと座っている。
 この組み合わせはスカイちゃんが黒兄の天然ジゴロな発言に照れてステージ裏に来てた後、私に文句は言ったが褒められた事にニヤニヤと乙女のように喜んでいた。このままの浴衣でいたいと思ったが、足を晒すのは恥ずかしいという事でストッキング(のようなタイツ)を履いたのである。

「あの子、発表の後からずっとああだけど、大丈夫? なにかあったの?」
「……あはは、ええと……」

 ともかく、スカイちゃんは先程からあの調子だ。
 いつものように黒兄以上にピシッとした服に着替える事無く、ミニ浴衣にストッキングのままボーっと何処か虚空を見ている。
 その理由は……うん。

「スカイちゃんって意外と乙女なんだなーって感じだよ」
「うん?」
「ようは……何処かの待機中にずっとイチャイチャしていたバカ夫婦に当てられた感じかな?」
「ああ、あの一族の末裔がずっと顔が赤い状態で抱きしめられていたヤツか。そういえばあの時からなんかずっと見てたね」

 黒兄がヴァイオレットちゃんを逃がさない様に、膝の上にのせてずっと後ろから抱きしめていた。それはもう周囲が顔の赤いヴァイオレットちゃんに気を使って見ないようにしていたほどだ。スカイちゃんはずっと見てたけど。……うん、見てたけど。
 褒められて嬉しそうにニヤニヤしている中のあの光景だったので、今日二度目の打ちひしがれている、というやつだ。

「スカイちゃんのあの状態をね」
「私の時代では脳が破壊されると言われていたが、当世風に言うとなんと言うんだい?」
「……当世でもそんな感じだよ」

 ……昔の人も同じような事を考える人が居たんだ。
 どの世界でも似た思考をする人は居るって事かな。

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