追放された悪役令嬢と転生男爵のスローで不思議な結婚生活

ヒーター

聖女_彼女 に感謝を


「あぁ、ヴァイオレットさん……可愛い……尊い……好き……」
「すまない、シキ在住の方々。クロ子爵を正常に戻したいんだが、どうすれば良い」
「ククク……それが正常だから大丈夫だよ」
「それはそれで問題なのだが」

 ヴァイオレットさんの美しく可愛らしい姿を見れた事に感謝しつつ。あのような女性が嫁であるめぐり合わせに感謝していた。
 なんだかそのせいで前世の同級生的な発言をしてしまっている気がするが、そうとしか言えない所が辛い所である。

「さぁ、凛とした少女の可愛らしい一面を見れた所で、次に行きましょう! 残るは二名ですが、皆が期待している女性達です。楽しみですかー!」
『いえーい!』
「うんうん、盛り上がってくれて司会の私も満足だ!」

 ともかく、ヴァイオレットさんが全方面で優勝が確定した事や、今すぐステージの裏に行ってヴァイオレットさんを感情のまま抱きしめたいという欲望はある。

「――ふぅ。……よし」
「戻ったか」
「なんの事でしょう。俺は常に正常です」
「よく言えるな」
 
 だがこのままだと暴走してしまいそうなので、抑えなくてはならないと思い審査員として役割を果たそうと気を落ち着ける。
 終盤であるし、投票した後駆け付けるまでに時間はそうかからない……ん、後二名?

「……あれ?」
「どうしたんだ、クロ子爵」
「あ、いえ。確か謎の枠でゴルドさんとシュイとインが二次予選に居て、結構票を入れられていたと思ったんですが……」
「謎の枠の時点で妙ではあるが、そういえば居たな」

 クリームヒルトやメアリーさん曰く「珍しく滞在している」との事だが、ゴルドさん一行はまだシキにいる。
 なにを企んでいるかとメアリーさんは疑っているようだが、捕まっている間にクリにこっそり会わせてくれたり、身代わりになってくれるのを協力してくれたり、悪い女性(?)では無いと思うんだよな……いや、ヴァイオレットさんとかに化けさせていたのはアレだが。

「……まぁゴルドは元男。シュイとインは性別不詳だ。このミス・ミセスコンテストには不都合があったのではないか?」
「そうかもしれませんね」

 ともかく、ゴルドさん達ならばノリノリで参加しそうだと思っていたが。あるいは俗世間は好かないと言って参加しないかもしれないが。
 謎の枠としてハクさんが居た様に、ゴルドさん達も二票以上入ってとりあえず二次予選の枠組みには入っていたが、今回のコンテストの目的とは少々違ったので外れた……のかもしれない。

「あるいはレモンさんの様に辞退したかもしれません」
「レモン氏か。そういえば何故彼女は辞退したんだ?」
「“四肢が絡繰りである以上は如何様にも身体を変えられる。身体全体の美しさを競うコンテストに私が参加するのは他の参加者に申し訳ない”との事で、頑として首を縦に振らなかったそうです」
「成程な。彼女らしくはあるか」
「あ、レモン様なら“夫がカーキー君から貰った本で楽しもうとしていたから、対応をしないと駄目だ”と仰っていましたよ」
「……そうか」
「……情報ありがとう、グレイ」

 その情報はあまり聞きたくなかったな。確かにレインボーの主人ならこのコンテストに今騒いでいるカーキーと同じように騒いでいるはずなのに居ないなぁとは思っていたが、いつものようにレモンさんのお仕置きを受けていたのか。……南無。
 ちなみにだが他にも参加するに相応しいが参加していない者は居る。
 フューシャ殿下は存在を隠しているので参加していない。
 ローズ殿下も居る事を知られていれば参加していたのだろうが……いや、あの御方の場合は居たらコンテスト自体が無くなりそうだな。
 アイボリーは興味ないというのもあるのだろうが、なんだか絶対に外せない用があるとかで不参加。
 ブライさんは渋めの外見で人気はあったらしいのだが、「こんなイベントに出るモノか」と断固拒否。グレイが出た時観客に居たような気はしたが。
 カラスバやクリも参加できるほどだと思うんだけど……あいつらは学園ではあまり目立たない動きをしているらしいので、票が上手く集まらなかったようである。

「ヴェール様も滞在していることが知られて居れば、参加者として出場出来ていたでしょうに」
「あ、いや……ノワール学園長が票が入ったから出場させたいから、説得に行ったんだけど……断られたんだよ。まだ居る事を隠していないと駄目だってな」
「そうなんですね」

 あとはヴェールさん。審査員は全員居る事は知ってはいるが、フューシャ殿下同様滞在が機密扱いの女性。なんか俺が出た時叫んでいた気がしたけど。
 彼女であれば出てもおかしくはないし、何故か二次予選に出る分には票は入っていた。
 だが……

「(クロ子爵。言い淀んだが、なにかあったのか? もしや調査になにか進展が……?)」
「(いえ、その……伝えに行ったんですが。最初は冗談かと思っていたようなんですが、本当だと伝えると感謝の言葉の後に……。ええと……)」
「「後に?)」
「(“私はね、十六歳の息子が居るんだよ? 想像して見なさい。自身の実の母親が、私は美しいんだとコンテストに着飾って出る姿を”と遠い目で言われまして……)」
「(……そうか)」

 ひそひそ話で聞いて来たヴァーミリオン殿下は、ヴェールさん自身が選ばれて出場する事に疑問は持たないようだが、そう言われてしまっては出場辞退に納得するしかないと俺の説明に大人しく引き下がった。
 ……実際に息子であるシャトルーズも出ている訳であるし、観客として今見ているシャトルーズが、メアリーさんの出場を楽しみにしている中で母親が出たら……やめよう、想像するだけで可哀想になって来た。一応母親としてはヴァイオレットさんも出ている訳だが、それとは違うだろうし。

「ではエントリーナンバー10。赤い髪、紫の瞳。並び立つ王族の中でも彼女の明朗闊達かつ奔放自在を現した姿に初恋を奪われた者も多いのではないのでしょうか!」

 と、それは良いとして、次の出番は……スカーレット殿下か。メアリーさんはヴァーミリオン殿下のように投票トップだったろうから最後に真打登場というやつなのだろう。実際の真打はヴァイオレットさんであるが。
 というかスカーレット殿下大丈夫だろうか。このコンテストの前もそうだが、先程の司会の時も所々でおかしかった。前世の小学生の頃のビャクのように取り繕いは上手いので大丈夫かもしれないが、不安がある。

「ではご登場願いましょう。スカーレット・ランドルフ君です!」
「ふふふ、真の真打。ロイヤルな王族ロイヤル。国家を象徴する姫にして王女な私の登場に慄くが良い賢国民共!」
『わああぁぁぁあ!!』
「ふ、声援ありがとう!」

 不安であったが。なんだか頭痛が痛いみたいな台詞と共に、スカーレット殿下はクリームヒルトやアプリコットと同じような幻想的な仙女服と共に登場した。
 偶に見せていた暗い部分はなく、普段と同じような明るい様子である。

「そして見なさい、ロイヤルな脱衣を!」

 いや、違うのだろうか。ハクさんの影響を多大に受けて変な方向に行っていなかろうか。

「ちょっと待ちなさい。脱衣は流石に――」
「ふっ!!」
『おお!?』
『一瞬脱いで――ユカタに!?』
「お、おお。流石に下を着ていたんだね」
「ふふふ、ロイヤルな演出にはロイヤルさが必要なんだよ」
「君の言うロイヤルさは学園の頃から分からないけど……とりあえず聞きましょうか。この演出にはどういった狙いが?」
「柔らかく幻想的な服で登場の後、ピシッとした浴衣でギャップを演出をね。あ、ノワール学園長先生。手伝って貰って良い?」
「手伝う?」
「はい、この帯を引っ張って。勢いよく!」
「え、それをしたら脱げるんじゃ……」
「それで良いんだよ。このユカタはそうするモノだと聞いたから! 俗にいう“良いではないか!”あるいは“男の浪漫!”」

 違うとツッコミたい。
 浴衣だと帯が短くて出来ないんだが……あとそれ言ったヤツはクリームヒルトとメアリーさんのどちらだ。

「と、エクル君にアドバイスを貰ってね。やられる際には“あーれー”と言うのがマナーだとか」

 あの野郎。王女になにを吹き込みやがってる。
 それにその感覚は世代が俺より少し上の感覚じゃなかろうか。

「ともかく引っ張って!」
「わ、分かりました。――とう」
「あーれー!」

 あんな色気が無くて勢いが強いあーれーを初めて見た……って。

「ふぅ!」
『おお!』
「おお、さらに下から――」
「ワンピース! 最後は布地少な目でサービスだ喜べ賢国民!」
『おおおお!』
『スカーレット殿下ー!』
『格好良いー!』
『綺麗ー!』

 帯が全部取れ、肌が見えそうになるのではないかと思うほど緩んだ所で回転したまま浴衣を上に脱ぎ捨てる。
 すると中には薄手のフレアワンピースを身に着けていた。
 回転したまま器用に脱いだのでワンピースの裾部分がフワッと舞い、太腿を若干見せつけたのは演出のためか。それが上手く功を成し観客達は盛り上がっている。

「つまり三着も着ていたんだね。いやぁ、どれ一つとっても素晴らしいのに三種とは恐れ入った」
「ふふ、お褒めに預かり恐悦至極」
「最初は緩い仙女のような服、それなら下に浴衣のような服を誤魔化して着せるし、その最後のワンピースだと薄手だから締めればバレにくい、という事ですね」
「その通り。別に一種だけ着る訳じゃないからね。ならば最大限生かそうと思った訳。――ふはははは、どうだい皆。私は綺麗か!」
『綺麗です!』
「美しいか!」
『美しいです!』
「ありがとう、皆! ふふふふふ、ロイヤルな光景を見れた貴方達は幸運だよ。さぁ、コンテストを最後まで盛り上がっていこーう! いえーい!」
『いえーい!』

 演出は上手く行ってるし、スカーレット殿下も盛り上げている。
 その様子は俺が学園に通って居た頃と変わらないような、イベントを心の底から楽しもうとしているような様子であるし、見ているとちょっと懐かしくも感じる。

「あれは……」

 しかし、俺とヴァーミリオン殿下はその様子を見て複雑な感情を抱いていた。
 グレイは観客一緒になって演出に目を輝かせて声援を送っている。
 オーキッドも楽しそうにウツブシさんと共に拍手をしている。
 スノーホワイト神父様も演出に感心し、同じく拍手を送っている。
 ルーシュ殿下は妹の様子を始まる前は心配していたが、今の様子だと大丈夫だと安心して拍手を送っていて気が付いていない。

「……姉さん」

 だけど、過去に似たような存在が近くに居たから気付いた俺と、両親が同じヴァーミリオン殿下はスカーレット殿下の“無理”を感じ取っていた。
 同じようにクリームヒルトや、機微に敏感なシアンも気付いているだろう。

――そしてこれをローズ殿下も気付いていたのだろうか。

 そう思いつつ、スカーレット殿下のアピールを見ていた。







「さぁ、ミス&ミセスコンテストも最後の参加者の登場だ! 君達も期待して待っていたのではないだろうか!」

 スカーレット殿下の出番も終わり、最後の参加者登場の前振りをノワール学園長が始める。
 そしてその言葉と同時に観客達も歓声を上げ、一部は息を飲む声が聞こえ登場を待つ。

「……っ、メアリー……!」

 それと同時に冷静だったヴァーミリオン殿下が明確にそわそわしだした。今にも身を乗り出しそうである。
 はは、先程まで優勝を疑っていなかったりと冷静沈着な感じがあったが、やっぱり楽しみだったんだな。こうしているのを見ると微笑ましく見える。
 ……ん、なんだろう。グレイ以外の他の審査員に「お前もあんなだったぞ」的な視線を受けた気がする。気のせいだろうか。

「メアリーの登場ですね。ついにこの時が……!」
「私が審査員だったら、もっと近くで見れたのだが……!」
「ヴァーミリオン殿下は審査員だけでなく好きな服を選択できるなんて……羨ましい……僕もメアリーさんのドレス姿とか指定したかったなぁ」

 それはともかく、ヴァーミリオン殿下だけでなくミスターコンテストの服のままのアッシュ達も身を乗り出さんばかりの勢いで観客席で話しているのが見え、聞こえて来た。

「でも、誰かに指定できる訳でもありませんし、ドレスの類は無かったようですからね」
「そうだっけ? そういえばやたら派手な教会関係者の服はあったけど、なかったような……」
「エクルが日本NIHONの知識を活かして様々な種類の服がある実験店舗に近い形であったからな。それにドレスはルーシュ殿下が――む?」
「どうしました、シャル」
「いや、今までの服は合わせても五種類しかないな、と思ってな」
「ええと……ワンピース、軍服、仙女のような服、ユカタ、頭のおかしなセーターの組み合わせ……そうですね、五種類ですね」
「頭のおかしい、って……ともかく誰かが指定した服を誰も選んでいない訳だね」
「あの観客の喜び具合から見て、選ばれていないのはヴァーミリオンだろうか」
「ああ。……ですが、どれにしろメアリーならば――」
「うん、絶対似合うね!」
「素晴らしいモノになるだろうな!」
「そうですね!」

 ……ああして楽しみにしているのを見ていると、普段は貴族らしくしていたり大人びて見える事は有るが、好きな相手の登場を待つ年齢相応の男子高校生、という感じだ。
 とはいえ、メアリーさんに関わるとあのメンバーはあんな感じにいつも初恋に戸惑う男、いう感じではあるけれど。

「メアリー様ー! メアリー様ー!! 私は貴女の登場を悠久の彼方から持っておりましたよメアリー様ー!!!」

 いや、なんか変なヤツが一人居るな。

「お、落ち着いてくださいエクル先輩、まだ登場していないです! というかその横断幕は何処から!?」
「決まった瞬間に作ったに決まっているでしょう。私は、私は――えぐっ」
「な、何故泣くのです!?」
「だってあの病弱だったシロ様が……学園祭で演劇しただけでなく、このような場に立ててその存在を認められるなんて、淡黄(シキ)は嬉しゅうございますよー!!」
「貴方はこの領地シキのなんなんですか!?」

 学生服に着替えた白髪の眼鏡の変態が“彩瀬白様”と日本語と“Ms.Mary”と書かれた横断幕を持って狂喜乱舞したり涙ぐんだりしている。以前のお兄さん感は何処行った。
 そしてそれをアッシュがどうにか抑えようとしている訳だが……アッシュにとってまた面倒を見る相手が増えた訳か。
 ……今度アッシュに日本製の技術的なストレス発散出来る健康器具でも渡そうかな。クリームヒルトに錬金魔法で作ってもらおう。

「はーい、皆。楽しみなのは分かるが、そこまで騒がしいと彼女も委縮してしまう。少し静かにして、登場したら大声で称えてやってくれ」

 エクルの盛り上がりもそうだが、観客達の盛り上がりも高まって司会の声が聞こえ辛かったので抑えるようにノワール学園長が静まるように言う。

「では紹介といこう。エントリーナンバー11! 彼女の美しさは誰もが認める存在であり、二次予選トップ通過の金髪赤眼の少女!」

 そしてある程度静まった所で紹介を続ける。
 というかやっぱりトップ通過だったんだな、メアリーさん。軍や騎士連中だけでなくシキの連中も多く居る中でのトップ通過。学園人気だけでなく多くの相手を魅了しているのは、やはり彼女自身の魅力は本物という証拠なのだろう。

――だが、大丈夫だろうか。

 メアリーさんはこのコンテストの前はあまり乗り気ではなかった。
 審査員をしていた時はステージの裏から見た限りではクリームヒルトとなにやら熱く語っていたようではあるが、参加自体は乗り気ではなかった。
 学園祭の劇の時と違い、今はあらゆる事を認識して意識するとポンコツ気味な所が見えるメアリーさんだが、大丈夫なのだろうか……

「では登場願いましょう――メアリー・スー君の登場です!」

 不安を覚えつつ、俺はメアリーさんの登場を待ち――

「――こんにちは。メアリー・スーです」

 そして俺の心配は、単なる上から目線の余計なお世話でしかなかった事を知る。
 簡潔な言葉で登場。
 盛り上がっていた観客は静まり返る。
 指定された教会関係者が祭事で着る服で歩いて来ているだけ。
 それもコンテストという場には相応しくない。

――だけどそれらがマイナスになっていない。

 今の彼女に余計な言葉は不要であり。
 盛り下がったのではなく全員が見惚れ。
 聖女の如き白き服は、歩くだけで絵画の如き幻想を垣間見る。
 クリームヒルトが登場した時の様に、いや、それ以上に誰もが声援をあげる事すら勿体ないと思う程に見る、聞く、感じる事に集中しているのだ。
 そうしなければ勿体ないほどに、今の彼女はこの場を支配していた。

――ああ、彼女は本当に。

 貴族と平民関係無しに学園生だけでなく。
 ヴァーミリオン殿下が。アッシュが。シャトルーズが。シルバが執心し。
 エクルが前世から渡って慕うのが分かる程。

――魅力的な女性なんだな。

 ミス&ミセスコンテストの最後に相応しいのだと、そう思わずにはいられない程に今の彼女は美しい存在であった。





備考1:選んだ服
クロ:浴衣
グレイ:仙女服(いわゆる漢服のようなもの)
スノーホワイト:フレアワンピース
ヴァーミリオン: 教会関係者祭事用白のドレス(漫画などで聖女が着る服をイメージください)
オーキッド:背中開きホルターネック+黒シャツ+スカート
ルーシュ:軍服(黒)


備考2:この後クロは(でもヴァイオレットさんの方が……}という何処かで見たような思考をしますが、カットしてあります。

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