追放された悪役令嬢と転生男爵のスローで不思議な結婚生活

ヒーター

六百話記念:あるいはこんな悪役令嬢逆行もの(:菫?)


※このお話は六百話を記念した本編とはあまり関係のないお話です。
 キャラ崩壊もあるのでご注意ください。
 読み飛ばしても問題ありません。



















View.ヴァイオレット?


 気が付けば私は学園入学当初に戻っていた。

 理由も理屈も不明である。ただ私は“馬鹿な事をする前の学園生に戻った”という事だけが色々と調べて分かった事である。
 久々に袖を通す黒い学生服に懐かしさを感じつつ、戻ったのならば私はなにを出来るか落ち着いて思考する。

――入学当初に戻ったという事は……破滅はしていない訳か。

 学園に入学し、ヴァーミリオン殿下と同じクラスである事に喜び、メアリーに惹かれる殿下を見て嫉妬し、私にも優しくしてくれたクリームヒルトが貴族平民問わず仲良くするのを煩わしくも思い、それらが受け入れられていく学園が堕ちていくものだと信じていた。
 だから私の醜い嫉妬心を殿下や学園のためであると言い訳を作り、自信の行動を正当化して――破滅してバレンタイン家からも見捨てられた。
 恐らくではあるが、殿下達にはまだ好かれてはいないだろうが排斥される程嫌われてもいないだろう。
 ならばあの時のような悪じみた行動をしなければ良い。

――大人しくすれば学園も去る事も無いだろう。

 そうすれば、私は破滅の道を辿る事も無いのだから。







「という訳でヴァーミリオン殿下。私と婚約破棄してください」
「突然どうした」

 大人しくすればバレンタイン家と学園内での破滅は免れるだろう。
 だけどそれではクロ殿と会えなくなってしまう。
 そんなものは望んでいないので私はヴァーミリオン殿下に婚約破棄を申し出ていた。メアリーとまだ深く関わっていないためなのか、昔のような冷たさを感じる殿下である。

「久々に会い、話があると言うので聞いてみれば……婚約破棄をして欲しい、だと? 本気で言っているのか?」
「はい。私のような愛想も無く、一度たりとも異性として好きとなった事のない女と婚約者なんて殿下も嫌でしょう」
「……そのように思ってはいない。それと生憎と婚約破棄をする気はない」
「嘘です! 今すぐこんな女と切れるならば切ってみたいと思うのが私の知るヴァーミリオン殿下のはずです!」
「お前は俺をなんだと思っている」
「今なら互いに良き関係のまま切れるのですよ! ならば婚約破棄をしましょう!」
「ならば、ではない。……なにが目的だ」

 く、何故ヴァーミリオン殿下は嬉々として婚約破棄をしないんだ。決闘で私に対し一度も好いた事はないと言っておいて何故渋る。
 それに目的……? そんなものクロ殿と一緒になりたいからである。クロ殿は婚約者を持っている相手には引いてしまうような性格であるから破棄したいだけなのである。だがそれを説明していると、クロ殿の良さの説明も含めて数時間に及ぶので難しい所だ。

「まぁ良い。お前の戯言に時間を割く余裕などない。入学したてで違った方法で俺の気を引こうとしているのかもしれないが、そのような事に対応する気はない。それにお前は――」
「殿下、今私の目的を戯言と言いましたね?」
「――っ!?」

 ヴァーミリオン殿下は今クロ殿の事を戯言扱いしたのか。
 だとすれば許す事は出来ない。気付けば私は去ろうとする殿下の肩を力強く掴んでいた。

「私にも譲れないラインがあるのです。そのラインを超えたからには殿下を逃がす訳にはいきません」
「お前のライン越えやす過ぎやしないか」
「私はこれでも寛容になっています。ですが寛容でも――ゴホッ、ゴホッ!」

 私はヴァーミリオン殿下に時間をかけようとも説得しようと心に決めていると、ついはしたなく咳き込んでしまった。
 しまった、落ち着いたとは思ったが、まだヴァーミリオン殿下を探すために走り回った影響が残っていたか。

「大丈夫か? 先程からお前の調子がおかしいから、早めに打ち切ろうとでも思ったのだが……疲れているのか?」
「え、ええ。ちょっと身体の変化を忘れていまして……」
「変化?」

 私の記憶の最新のシキに居た頃記憶の時と比べると、今の私の体重は数キロ単位で違う。これでも決闘の時と比べるとマシではあるのだが、健康的になってきた時の動きのままで動き回ったのだ。身体がどうしてもついてこなかったのである。

「身体の変化といえば……年始の時もそうだが、お前は痩せ過ぎだ。食に興味は無くとももっと栄養を摂れ。見目麗しくともそれで倒れては意味が無いだろう」

 食に興味はない?
 ……そういえば昔、好き嫌いの話で私は「特に好き嫌いは無い」と会話を打ち切ったのであった。その話をしているのだろうか。思い返すとあの時はまだヴァーミリオン殿下も私と会話をしようとしていてくれたな……

「そうですね。婚約破棄の件は一旦置いておくとして、食事でも摂る事にします」
「そうすると良い」
「殿下もどうですか? ポトフでも食べましょうか、お好きだったでしょう?」
「……お前に俺の好物を話した事あったか?」
「? 確かポトフが好き……なんですよね? あ、大丈夫ですよ。少々猫舌気味なのは知っていますから、適温に致しますから」
「何故そこまで知って……!?」

 確かそこまで苦手という訳では無いけれど、熱々は無理なので出来立てをそのまま食べれないという悩みがあるのですよね、知っています。私の悪行を水に流す話し合いの場において貴方から聞きましたから。

「押し付けるだけと思っていたが、意外と見ているのか……? いや、そうではない。俺も忙しくてな、食事は……また今度という事にしておこう」
「はい、その時に婚約破棄の話を!」
「それはしないが」
「くっ、何故です……!」
「何故ですではない。早くしておけ、お前の口に合うかは知らないが白き薔薇園は今日は終了してしまうぞ。だがお前なら……」

 碧の薔薇園(※貴族がよく行く食堂)か。確かに今日のこの時間だと終わっている可能性があるな。
 まだ公爵家である私が行けば、気を使われ終わりかけでも営業を延長するだろうが……

「大丈夫ですよ。お気遣いありがとうございます。ですが今からでも私は大丈夫ですよ」
「……そうか。あまり無理を言うものでは――」
「私はそちらにはいきませんので」
「は? ……つまりもう一つの食堂に行くと? お前が?」
「はい。あ、そういえばあの食堂は厨房を使える食堂でしたよね?」
「あ、ああ、そうだな。許可を得れば厨房は使える。冒険帰りに新たな食材を見つけた者が使うとは聞くが……」
「ではそちらで作りましょう。そちらの方が安いですし」
「……え、お前が作るのか?」
「ええ、私が作るのですよ?」
「…………………………ええー……」

 ヴァーミリオン殿下は何故かたっぷり間をおいて、珍しいリアクションをとっていた。







「すまないな。つい癖で三名分の料理を作ってしまってな。食べてくれると助かるんだ」
「い、いただきます……?」
「……いただきます」

 食堂にて。
 いつもの癖でクロ殿とグレイ……つまりは家族分の食事を作り、食堂に取っておく事も出来ないのでどうするかと困っていた所を偶然シャトルーズとシルバと遭遇。せっかくなので誘って食べて貰う事にした。

「……でも良いの? 僕なんかと食事を摂って。おま――貴女、公爵家の偉い生徒……なんだよね」

 入学したてで噂や自身の魔力の事も有り、避けられている上に自身も他者を避けているシルバは私を警戒しながら尋ねてくる。
 どうやら初めはエプロンをしていたため私が貴族だと気付かない上に、食堂の勝手がわからなくて困っている所に食事にありつけそうなので座ったまでは良かったようである。だが、私が席に着いた後に私が貴族と気付き、髪を纏めるのに借りていた帽子を外し私だと気付き警戒しているようだ。

「僕みたいな変な噂がある平民と一緒に食事なんか摂ったら……そっちも変な噂が立つよ?」
「気にするな。噂は噂だ。なにを言われようと良い。その程度の事を気にするより、食べ物を粗末にする方が良くない。口に合うと良いのだが」
「……そう」

 だが私が勧めると、シルバはなにかを考えてから食事に手を付け始めた。
 ……シルバはこの時の警戒心がある時の方が男らしさがあるな。この状態が続けば、メアリーに弟扱いはされないのではないだろうか。

「シャトルーズも食べると良い。色々あってまだ食べて無かったんだろう?」
「……はい。貴女の食事、ありがたくいただきます」

 貴女……? あぁ、そういえばシャトルーズはこの時は私を貴女と呼ぶか、レデイと呼称していたな。……何故か凄い違和感があるな。
 まぁ今更気にしていても仕様が無い。それよりも気になる事を相談しなくては。

「――という事が先程殿下との間にあったのだ、どう思う」
「……ええっと……婚約破棄とかは僕はよく分からない、かな……?」
「……婚約破棄もだが、貴女が料理をする事に驚いたのだろう」

 むぅ、やはりか。
 私はこの学園生時代は「料理なんて貴族のする事では無い!」と公言していたからな。少し前の私を知るシャトルーズにとってもとても奇妙に映るのだろう。

「料理は楽しいのだがな……食べさせれれば殿下も見方が変わるだろうか。そして婚約も……」

 もぐ、もぐ……むぅ、やはりシキの食材の方が美味しいな。鮮度が違うというやつか、あるいは育て方が違うのか……もぐ。

「(ね、ねぇ。貴族の風評云々は僕には分からないんだけど、この婚約の話ってかなり大事おおごとなんじゃない?)」
「(……とても大事だな)」
「(なんでこんな風に普通に話してるの? この女の人っていつもこんな感じなの?)」
「(いや、以前はこのような感じではなく、全てが敵だと思うような、平民を見下している女であったはずだが……料理が楽しいとは絶対に言わない女だ)」
「(そうなの……?)」

 もぐ、もぐ……ぐっ。やはり上手く食べられないな。
 先程の殿下を探していた時や、料理している時も思ったが体力が落ち食事もあまり喉を通らない。というよりは受け付けない、という感じだ。
 せめて甘いモノならば大丈夫だろうか……?

「そうだ。シャトルーズは甘いモノが好きであったな」
「え。……な、なんの事でだろうか」
「隠す必要は無い。食事の終わりには甘いデザートも用意してあるからな。遠慮せずに食べると良い」
「……それも貴女が作ったの?」
「? ああ。甘いモノを食べると、とても喜んで貰いやすいからな。それを思うとつい作りすぎてしまうんだ。……ふふ、好きな相手の笑顔には負けてしまうんだ」

 クロ殿やグレイは甘いモノが好きだからな。食べ過ぎは駄目と分かっていても、あの喜ぶ顔のためならつい作りすぎてしまう。
 ……まぁ好きとは言っても、クロ殿もグレイも意外と節制しているから太る心配はないんだがな。

「(ね、ねぇ、本当にこの人婚約破棄を狙ってるの!? 僕には好きな人のために料理を頑張っている女の子にしか見えないんだけど!?)」
「(し、知らん! それにこの女がこのように微笑むなど……!?)」
「(でも、良いなぁ……料理が上手くて、誰かのために頑張ってくれる……母性がある女性って、良いなぁ)」
「(!? 落ち着け、セイフライド! あの女は――!)」

 む、なにかシャトルーズ達が話しているような……まったく、私の前で内緒話など……あ、そうか。

「安心しろシャトルーズ」
「な、なにがだ?」
「入学当日で色々疲れただろう? それでお腹が空いてお代わりが欲しいのなら、私がまだ作ろう。だから遠慮せずに食べてくれ」
「あ、ああ……そういう訳では無いのだが……そういえばまだ食べて無かったな。――もぐ……もぐ……っ!? う、美味い……!?」
「ふふ、そう言って貰えると嬉しいよ」

 シャトルーズとは入学前から知り合いではあったが、学園も含めあまり話さなかった。理由は無口な男だと思っていたからだが……単純に口に出すのが下手なだけであったのだな。
 この食べっぷりはグレイが外で全力で遊んできた日の晩御飯を彷彿とさせるな。

「(……なんだかすごく母性に溢れた微笑みで見られてる……お、落ち着け、あの女がこのような、このような……! ……美味い)」
「(うん、美味しい)」







 一週間経ったが婚約破棄を出来ない。

 くっ、何故だ。メアリーに会って少しずつ惹かれ始めているのは知っているんだぞ。何故だ、何故婚約破棄をしないんだ。何故だというんだ……!

「やはりメアリーを虐める必要があるのだろうか……だが、それをするのは心が痛む……」
「……なにを言っているのです、貴女は」
「む、アッシュか。なにをしている?」
「いえ、偶々通りかかっただけなのですが……」
「そうか。ところで殿下と婚約破棄をしたいのだが、なにかアイデアは無いか」
「なにを言っているのです貴女は」

 私がやはり殿下達の愛するメアリーを虐めるしかないのか。しかし虐めるなんて嫌であると悩んでいるとアッシュが話しかけて来た。
 偶然通りかかったとは言うが、その手にはなにか本が……

「……ああ、これですか。没収したモノですが、女性である貴女にお見せするモノではありませんよ」

 そういってアッシュは本を後ろに隠し私に見せないようにした。
 ふむ、チラリと見えた感じと、アッシュの言い方からして男性が好む、成人指定の……

「ちょっと見せて貰えるだろうか」
「え」

 私が提案すると、少しアッシュに近付いてアッシュが手にしている本を持たせてもらう。
 ……ふむ、やはり成人指定の女性の裸体に近い、あるいは裸体な絵が書かれた本か。

「ふむ……」
「え、よ、読むんですか!?」
「ああ、少し興味があってな」
「興味が!?」

 うむ、とても興味がある。なにせこの手の本は読んだ事ないからな……む、なんだこれは。この女性の身体のバランスおかしくないか。

「貴女ならてっきり汚らわしいモノを見る目で“そんな低俗な本を読む者が居るとは、学園も堕ちたモノだな”とでもいうものとばかり……!」
「校則違反はいただけないが、男性である以上こういった方面に興味を持つのは仕方あるまいよ。むしろ健全な証拠と言えよう」
「え、ええー……!?」

 今も変わらずこういった方面を弁えもせず堂々とするのは苦手であるが、男性である以上はこういった本に興味を持つのは仕様が無い。興味を持ってしまうのは健全と言えよう。
 そう、健全な証拠なんだ。
 一つや二つ、こういった本に興味を持つのも仕様が無い事のはずだ。はずなんだ。

――だが何故かクロ殿はこういった本の形跡が一切無い……!

 もしもそれが私で満足しているため、処分したなどであれば嬉しい事だ。
 だが、クロ殿は以前からこういった本を持っていた形跡が無いのだ。隠し上手などではなく、グレイに気を使っていたなどではない。本当に無いのだ。
 他の女性にうつつを抜かさないのは嬉しい。
 だが、私は避けていたとはいえ、三大欲求の一つを満たす形跡が無いとなると……色々と不安になるのである。

「今度夫の好きそうな色んな種類の本を買って、寝室に置いておいた方が良いのだろうか……」
「それはやめてあげてください。…………」
「どうした?」
「……いえ、貴女も否定から入るのではなく、相手を想い、喜んで欲しいと願うのですね。方法はともかく」
「それはそうだろう。好きな相手が喜んで欲しいと思うのは不思議だろうか?」
「……いえ、特には」
「? まぁアッシュも好きな相手には積極的にな。身分差に悩む事無く、好きを貫くと良いと思うぞ」
「…………貴女にそれを言われるとは思いもよりませんでした」

 アッシュは私の言葉に驚きつつ、視線は学園に居た頃の敵を見るような目ではなく……何故か公爵家として敬っているような視線を感じられた。……何故だろうか。
 そういえばアッシュだけでなく、ヴァーミリオン殿下やシャトルーズ、さらには学園で接点があまり無かったシルバとも以前より話している気がする。
 …………何故だろう。私は婚約破棄をしたいだけなのに。

「アッシュ。一つ聞きたいのだが――」
「あ、居ましたヴァイオレットくん!」

 と、私がアッシュに聞こうと思った時。
 誰かから声をかけられた。
 この声は……エクルか。そういえば学園に戻ってから(?)一度も会って無かったな。

「どうしたエクル――っ!?」

 そう、そこにいたのはエクルであった。
 貴族用の黒い制服に身に纏って――はおらず。

「布一枚――!?」

 そう、“ついさっき”見た布一枚のみを纏ったエクルで――






「――はっ!?」
「メアリーちゃん、どうしたの?」
「い、いえ……なんだか悪役令嬢逆戻り物で、没落ルートを目指そうとしたら何故か栄華を極める物語を見ていたような……?」
「あはは、なにを言っているのかよく分からないよ。――そんな事を言うなんて、面白い女だね」
「まさにそんな感じです」





備考1:学園の食堂
学園には安めの食堂と少し値が張る食堂があります。
貴族などは基本値が張る方に行きます。味は一級品です。
安めの食堂の方が気軽に行けたり、量が多かったり、厨房も借りれるので学外・冒険からの帰りや平民が主に利用します。


備考2:クロにとってこの世界の成人指定な絵は、絵柄が合わないため持っていませんし興味が持てない状態です。

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