追放された悪役令嬢と転生男爵のスローで不思議な結婚生活
ミスターコンテストの始まり(:菫)
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「そろそろ語り合いは止めておけ、二人共。そろそろ始まるらしいぞ」
「む、名残惜しいですがここまでですね」
「あはは、そうみたいだね。メアリーちゃんの狩衣とピッチリ黒インナーの親和性に関してはまた今度ね!」
王国語であって王国語でないようなよく分からない言葉で、クリームヒルトとメアリーが語り合いをしている内にミスターコンテストとやらの準備が整ったようだ。同時にそんなに語れたなとも思う。
気が付けば会場(?)は観客もそれなりにおり、盛り上がる前かのような熱気に溢れたざわつきが広がっている。シキの皆々もそれなりに居るようだ。……男性陣のコンテストだからなのか、妙齢の女性陣が多いな。まぁ妙齢の男性陣が興奮して見ていても困るが。
「いえーい、皆乗っているかーい! ロイヤルな私が司会に登場だぜ!」
『おおー!?』
……なにをやっているのだろうかスカーレット殿下。
先程まで元気が無かったり、無言であったりと妙であったのだが、今はステージに立って盛り上げる司会役をやっている。口元には魔法陣が浮かんでおり、どうやらアレで声を大きくしているようだ。
――明るくは振舞ってはいるが、やはり……
しかし元気よく振舞い先程の妙な感覚は感じさせないが、以前のような様子に戻っている。
以前王宮などで見かけた時には気付かなかったのだが、その時ような演じている、とでも言うような明るさに似ている。エメラルドなどを前にした時の楽しそうな雰囲気とは違う。
「……ふーん?」
「…………」
そしてそれを感じ取ったのか、シアンやクリームヒルトも不思議そうにスカーレット殿下を見ていた。やはりなにか思う所があるようだが……私と同じで今はどうしようも無いという感じか。
なにをもってあのようになっているかは分からないが、私達で出来る事を――
「美しき者に惹かれるのは自明の理。そして今、この地で最も美しき男は誰なのか! それが知りたいか者ども!」
『おー!』
「聞こえない、そんなんじゃ中止するぞ! もう一度聞く、知りたいか者ども!」
『おー!!』
「いいでしょう、ならば教えてあげる。ではミスターコンテストをロイヤルな司会の元、始めるぞ観客の愛すべき賢国民共!!」
『おおー!!』
……いや、私の勘違いだろうか。あの勢いは無理に上げているのかどうかよく分からない。
「一次テスト参加は誰かが二票以上入れれば参加可能。その中から再び投票し、七名以上入れば二次テスト合格! そして今から始まるは真の美形を選ぶ最終ミス&ミセス&ミスターコンテストの内のミスター版! それぞれが審査員が選んだ服を着て出てきて、アピールをするよ!」
私達が選んだ服……それは誰がなにを選んだかは隠されている。
私はルーシュ殿下に提供してもらった服から、クロ殿が着て欲しいと思った服を選んだわけだが……クロ殿は着ていてくれるだろうか。少し不安だ。
「ちなみに審査員はミス&ミセス最終コンテストにも選ばれたご覧の美少女達! 間近で美少年を見れる事を条件に引き受けてくれた女性陣!」
その言い方だと私達が見境ない女のようだから止めて欲しい。確かにクロ殿やグレイを身近で見れる事は楽しみだが。
「基本的な流れは、紹介と共に参加者が出てきて、軽い質疑応答、アピール、審査員か観客、他の参加者に言葉を貰うと言う流れです! よくノリで前後するでしょう。ちなみに! アピールタイムで特定の審査員に愛を叫んだりするのは禁止とさせて頂きます!」
なんとなくだが、今のスカーレット殿下の発言に裏で待機している参加者の何名かが項垂れた気がする。
特にヴァーミリオン殿下とかアッシュとかシャトルーズとかエクルとかシルバとか。本当になんとなくだが。
「そして最後に観客と審査員が投票して一位を決めさせて頂きます! 審査員は二十票分になります! では、はじめましょう――ミスターコンテスト、インシキ! 開始!」
……そういえば今更だが、私達って誰が出るのかも順番も知らないな。
まぁグレイや他の参加者には悪いが、クロ殿が一番である事は確定だ。順番はクロ殿が出る時を楽しみにするとして、誰が出て来るかを私も楽しむとするか。
「あ、それと審査員の皆さんは恋人関係や夫婦間、息子などに投票は禁止ですのでご了承くださいねー」
『えっ!?』
そんな衝撃的な内容を受け、ミスターコンテストは始まったのだった。
◆
「エントリーナンバー01! なんと学園長が突破し参加! 年齢最年長、しかし見た目は他と変わらない魔性の男ノワール・アルベール!」
「どうも、若い子達の中で恥ずかしいけど、参加するにはやるよ!」
「はい、その意気込みは素晴らしく、実際貴方はトップ争いをしてもおかしくは有りません! そして貴方が一番最初に出たのも他の参加者の緊張をほぐすためでしょう。ですが一つ言いたい事があります」
「なにかな、スカーレット君」
「何故女装しているんです」
「ふ……美形はなにをしても美形という証明のためだよ。私が参加者ではなく審査員なら、この服装を入れていたというのに……! 皆も見たかったし、私は似合うだろう!?」
『おおー!!』
「やはりね!」
「何故か盛り上がっていますが服装違反で退場でーす。ロボちゃんお願いしまーす」
「あ、こら待ちたまえ、放してくれ! 折角最初ならステージの上で――」
「はいはい、退場でーす」
◆
「気を取り直してエントリーナンバー02、今度は最年少! けど180越えの高身長! あどけない顔達の褐色美男子、ブラウン君7歳!」
「むにゃ……なんだかよく分からないけど、きがえて参加したよ? なにをすれば良いのかな、レットお姉ちゃん」
「うーん、趣旨を理解していませんが、見た目大人でこうして子供っぽく接させるといけないなにかに目覚めそうです。というか投票した子達はこの子の年齢分かっていたのかが疑問ですね」
『知っているぞー! だから良いんだよ!』
『外見大人な無恥シチュって良いよねー!』
「はい、今叫んだ観客は今後のために今すぐ監視をつけたい所です」
「イオちゃん、あのシチュって言った子危険。多分夜的な意味で狙ってる」
「シアン、アプリコット。あの学園生をマークだ」
「うむ、絶対近付けさせん」
「……クリームヒルト、あの叫んだ女性達は実は日本出身のの転生者だったりしません?」
「あはは、何処の世界でも同じ趣味を持つ子は居るって事じゃない?」
「ではアピールを……って、あれ、ブラウン君。その服、魔導士服だけど……」
「? うん、きなきゃダメって聞いたからきたよ? 指定いがいはダメだから、このとおりシアンお姉ちゃんみたいに下着もつけずに――あ、上手にきれなくて緩んできちゃった」
『おおお!?』
「わー、捲くらないで、ここで着直そうとしないで!! カラスバ君、今すぐ回収して下着を履かせて着せてあげて! というかアンタら見れそうになって喜ぶな! あとなんで男の声もあるの!」
『男の子相手だからだよ!』
『無知のたくし上げほど良いモノは無いだろう!』
「あの観客達捕まえて、危険!」
『「クリームヒルト、実は日本出身の転生者って多かったりします?」』
『「ええと……あはは!」』
『「笑うだけは止めて下さい」』
◆
「き、気を取り直してエントリーナンバー03! 謎多き男、顔が分からないのに何故か参加を決定した――」
「ククク……緊張するけど、よろしく頼むよ」
「え、あ、よろしくお願いします!?」
「え、誰ですあの私が指定した白いスーツを着ている黒い髪の爽やかな美形の方」
「あはは、見た事ない男の人だね。ヴァーミリオン殿下とかと変わらない爽やか美形だね! でも誰だろう?」
「この私があのような美しさを見逃していた、だと……!? 馬鹿な、蘭色の瞳の彼は一体……!?」
「なにを言う、オーキッドじゃないか」
『え』
「うわー、懐かしいなオー君の素顔」
「オーキッドさんは基本素顔は見せんからな」
「確か美形故に女性に囲まれ過ぎて、トラブルが多発したから隠すようになったと聞いたが」
「そのようであるな。我も最近ウツブシさんに聞いたのだがな」
「……衝撃の事実だね」
「で、ではアピールをどうぞ!」
「ククク……特定の審査員……つまり特定の誰かに対するアピールは禁止だったね?」
「あ、はい、そうですね」
「では――」
『おお!?』
「おおっと、ウインクからの投げキッス!? 普段の彼からは想像つかない軽快なアピールです! これは多くの女性に特攻です!」
「ククク……僕は信じている事があるんだよ」
「なにをでしょう?」
「今のキスは誰かの名前を言って行われたモノではない。つまりは対象はこれを見た者全てと言えるだろう」
「そうですね?」
「だが、僕がこのキスを届けたい相手はこの世でただ独りの愛する女性のみだ。僕にはそれが届いていると信じている」
「お、おお、ルール違反に近いですが凄まじい愛です! ですが何故わざわざ今言ったのでしょうか。言わなければかなりのプラスポイントだったのに……」
「ククク……決まっている。僕の愛は貴女のためだけにあると、言葉にして伝えたかった。それだけだ」
「内面も含めた美形が現れた! 愛を受ける彼女とやらが羨ましいですね! …………」
◆
「エントリーナンバー04。女性男性問わず喜びを与え続けた愛を・与える者! カーキー・ロバーツ!」
「あ、はい、こんにちはカーキー・ロバーツです。よろしくお願いしますぜ」
「え、なんでそんなローテーションなの。いつものように弾けないの?」
「いえいえいえ、貴女様司会である以上、俺は真面目に参加しているだけですぜハッハー」
「あんなテンションの低い“ハッハー”を始めて見たよ」
「何故か知らぬが王族相手には丁寧であるよな、カーキーさん」
「むぅ、このままじゃ……あ、審査員のシュバルツさん、質問があるのですか?」
「ああ。……カーキー君。君はそれで良いのかい?」
「な、なにをだ美しきお嬢さん」
「君が王族相手に引き目を感じている理由を私は知っている。だが、それならば盛り上げるために君の美しさを存分に発揮させるべきではないか!」
「な、なにを――」
「君は美しい! 外見も内面もだ。なにせ帝国で児童誘拐事件の元締めへ単身で挑み、改心させたと男だ! 両方があるからこそ君に多くの女性が惹かれて来たのだろう!」
「貴女の様な美しい女性に言われるのは嬉しいが、俺は……!」
「大人しくしている方が失礼だと言っているんだ! いつも通りに愛を、美しさを語るんだ!」
「……そうだな、俺が間違っていた。すまないスカーレット殿下。そして観客の美しき皆! 俺はカーキー! 誘われれば誰でもいつでも受け入れる事が出来る男さ! ――俺に投票した子達には、良い夢を見せるぜハッハー!!」
「はい、元気が出たのは良いですが、そういった発言は控えてください」
「あ、はい。ごめんなさい」
「児童誘拐の元締めを改心させたとは……そんな事をやったのですね、凄いです」
「私は夫が居るのを知った上で初対面で私を誘うような軟派男という印象がどうしても強かったが……」
「あはは、私も最初に誘われたなぁ、懐かしい。でも正義感も強かったんだね!」
「我も知らなかったな……シアンさんは知っていたか?」
「ああ、うん知ってたよ。“無理矢理行為を強要するとは言語道断、その苦しさを分からせてやるぜ!”って言って、無理矢理はしないと言うカー君の信念を曲げて、元締めの男に苦しさを分からせた後目覚めさせた、という意味の改心だよ」
『? …………っ!?』
「うん、皆気付いた? そういう事」
◆
「普段の優しい笑顔に骨抜きされた女性は多く存在する! 白い髪が素敵な神父様が、白き騎士服を身に纏い登場だ! エントリーナンバー05。スノーホワイト・ナイト!」
「は、はは……普段黒い修道服しかきないから、似合うかどうか不安だな。それに俺がここに居るのは場違いなような……」
「なにを言うのです神父様。貴方は結構な票を集めて進出したのですよ? それに似合いますって!」
「そう言って貰えると嬉しいが……」
「ほら、神父様アピール!」
「え!? え、ええと……票をくれた皆、ありがとう。ここに来れたのも、皆のお陰だよ?」
『キャー!』
『神父様―!』
「おお、手を振っただけでこの騒ぎぶり。凄い人気ですね、神父様! モテモテですよ!」
「あ、あはは……嬉しいけど、俺、彼女いるからなぁ……」
「そういえばその件の彼女が静かですね。普段とは違う服装にもっと騒いで喜ぶと思ったのですが」
「シアン。しっかりしろシアン!」
「返事をするのだシアンさん!」
「おや、彼女はどうしたんだい?」
「神父様を見た途端、フリーズして動かなくなったんだ!」
「これは……感動のあまり情報が処理しきれていないようですね」
「なにもかも見える……なにもかも感じる……だけど神父様の良さがいつまで経っても完結しない……情報が流れ込み続けてくる……!」
「シ、シアン!? 大丈夫か!?」
「あはは、神父様。貴方が駆け寄るとシアンちゃんはさらに戻らなくなるから離れてねー」
「…………。はい、では次に行きましょうかー」
……なんというか、まともに進む事が無さそうだな、このミスターコンテストとやらは。
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