追放された悪役令嬢と転生男爵のスローで不思議な結婚生活

ヒーター

烏羽は数日で夫婦を理解した(:菫)


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「…………」
「……大丈夫か、クロ殿。クリームヒルト達と別れてから疲れているようだが」
「え、ええ、大丈夫ですよ」

 クリームヒルト達と別れ、クロ殿となにやら静かなスカーレット殿下と共に領主の仕事を再開して歩いていた。
 しかし別れた後、というよりはバーガンティー殿下の相談の後、横を歩くクロ殿が妙に疲れていたので心配をして顔を覗き込む。

「疲れているのなら無理はしなくて良い。ローズ殿下の頼みは聞けなくなるが、体調不良ならあの方もなにも言うまい」
「いえ、大丈夫ですから」
「そうか? もし気になる事があるようであったら遠慮なく言ってくれ」
「ありがとうございます」

 殿下の相談事という重要事項なので内容は聞く気はない。むしろ疲れていても触れない方が良いのだろうが、どうしても心配になったので変に気負わない様にと伝えておく。
 そもそもローズ殿下の頼みの内容が今一つハッキリしていないのだ。達成が分からない以上は頼みを聞くもなにも無いのだから、殿下の頼みとは言え無理をする必要も無い。

「…………」

 そして件のスカーレット殿下も先程から妙な感じがある。クリームヒルトとバーガンティー殿下の様子を見てから、今まで以上になにかを思っているようだ。
 この状態では教えるもなにも無いのではないかと思う。

「次の仕事は……ええと」
「学園の代表者への連絡だ」
「そうでした。代表は学園長ではなくって、確か――」

 しかし、なにを持って黙って居るか分からない以上は先程のクロ殿以上に下手に触れられない。
 クロ殿も同じように思っているようで、目配せだけをして私達は気にはかけつつも仕事を続ける事にした。

「クロ兄様、大変です!」
「え、カラスバ?」

 続けようとしたのだが、突如クロ殿を見る目にスカイやヴェールさんと同じ波動を感じる義弟であるカラスバさんが私達に慌てて駆け寄って来た。
 彼がこのように慌てるとは珍しい。私の記憶では大抵は冷静でいて、常に周囲の事を考えている方なのだが。

「どうしたんだ? またメアリーさんにナンパした騎士と殿下達でトラブルでもあったか?」

 ちなみにメアリーを巡ってのいざこざはこの調査期間で二桁に及んでいる。
 原因は、“美しいと評判だが所詮は学園の諸子で、大人の良さを分からせる”や“庶子ならば貴族相手に逆らうな”や“学園でどのような扱いか知らない軍部が下手に触れようとする”といった、頭が痛いモノが多い。
 ようするに大人である事と、身分を鼻にかけた身勝手な暴走。今までそれで通じていた事があったので、今回もそれが通じると思っての事なのだろう。
 当然行き過ぎならば法にのっとって処罰したが。隠れているとはいえヴェールさんや学園長が居るお陰で事はスムーズであった。

「クロ殿、流石にもうそれは無いだろう」
「ですかね。ならシキの領民がなにかした感じですね」
「その可能性が高いな」
「兄様方はもう少し信じてあげましょうよ……じゃない」

 だがそれも今では収まりかけている。ならば別の事、シキの領民がなにかしたのではないかと思う。カラスバさんは信じるようにと言うが、信じいるからこその判断である。
 ともかく私達はカラスバさんの言葉を待つ。そして、

「美しさを競ってミス&ミスターコンテストが始まろうとしています」
「なにを言っているかよく分からないんだが」

 クロ殿は言葉そのものの意味が分からないかのように問い返した。私も分からない。

「どういう意味だ?」
「はい、まず誰が一番魅力的かを言い争っていたのですが」
「その時点でなにかおかしいが、それで?」
「学生の間ではメアリー・スーが一番美しいという事で満場一致すると殿下達は仰っていたのですが」
「なんだかその光景が目に浮かぶよ」
「ですね」

 そしてなんとなくだが、その時のメアリーは平然を装うとしているが顔を真っ赤にしていたような気がする。

「ですが謎の美しき商人の方や謎の白髪の少女の方が綺麗だと言う生徒が居て、それが火種となりました」
「あー……」
「そちらも想像はつくな」
「ですねー……」

 シュバルツは言動こそ妙ではあるが、私はどうやっても叶わないと思うほどには美しい外見であるし、前世のクリームヒルトの外見であるらしいハクもタイプの違った絶世の美しさだ。
 三者が三者とも美しいので、あとは好みの問題である。そうとなれば争いが起きてもおかしくは無い。ヴァーミリオン殿下達は特にメアリーを推すだろう。そしてさらにメアリーの顔が赤くなっていそうだ。

「そして並び立つ美しさを誇るのは誰かという話になり、美しさを競ってミス&ミスターコンテストが始まろうとしているのです」
「そこが分からない」

 そして理由を聞いても分からずにいた。私も分からない。

「ええと、ノワール学園長が……」







「美しさを絶対的には決められず、押し付けるのは愚の骨頂だ。しかし! アゼリア学園生たるもの、あらゆる面で頂点を目指そうとする者を尊重している!」
「おお、それはつまり!」
「当然美しさの頂点も尊重する! ならば私が指揮をとろうではないか! ――ここに、シキ調査におけるミス&ミセス&ミスターの開催を宣言する!」
『おおー!』
「おや、ミセスも含まれるので?」
「件の謎の人物が婚姻済みの可能性もあるからねアッシュ君。という訳でメアリー君。頑張ってくれたまえ」
「待ってくださいノワール学園長、私は強制参加なんですか!?」
「事の発端だからね」
「私が発端という訳じゃないのに……!」
「参加は自ら、他薦を問わない。というよりはまずは投票をし、そこで二票以上入れば参加とする。では開始だ! 投票締め切りはお昼!」
『おおーー!』







「――と、言った感じに煽りまして。領主の弟という事で私がクロ兄様にお伝えする事になりまして……」
「なにやってんだあの学園長……」

 あの我が息子を変な目で見ている若作り学園長め。シキでなにをしているんだ。
 だが、現場は見ていないがあの学園長の事だ。煽るに煽ってもう止められない所に来ているに違いない。
 というより、ミス&ミセス&ミスターコンテストか。そんな事せずとも――

「あ、それとクロ兄様、ヴァイオレット義姉様。言っておきますが“そんな事せずとも一番美しいのはクロ殿、ヴァイオレットさんであるのに”という言葉は無しでお願いします」
「何故分かった」
「カラスバさんは心を読めるのか?」
「いえ、この数日でクロ兄様達がどんな夫婦か理解した。それだけです」

 何故かカラスバさんは私達の思考を読み、少し疲れていたような表情であった。

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