追放された悪役令嬢と転生男爵のスローで不思議な結婚生活

ヒーター

真実は説明しづらい


「……ティー殿下。フュ……エフさん。よろしいでしょうか」

 一通り仲良さそうな行動を見ると、そろそろ入っても良いと判断したスカイさんが呼び方に気を使いながら話しかける。恐らくクリが居るので気を使っているのだろうが、フューシャ殿下が先程普通に兄様とか言っていたし今更な気もするが。

「お二人共、クリームヒルトと仲良くなられたのですね」
「はい、お陰様で。あ、ええと……」
「見咎めるつもりはないので大丈夫ですよ」

 クリームヒルト達が仲良く色々とし、王族らしからぬ気軽に接している事を注意したいと思ったが、それでも好きな人や友達を相手に楽しそうにしている事を見守り、何処か嬉しそうに見える。小さな時から一緒に居ると言っていたし、姉の様な感覚で嬉しいんだろうなと思う。
 同時に見た事のないクリームヒルトの表情に戸惑いつつも、そのような表情を作れている事に友としても嬉しそうに見える。
 とはいえ、悟られぬようにあくまでも仕事の様に引き締めた表情だけど。

「それと残念でしたね、スカイ……」
「? なにがでしょう」
「クリームヒルトさんが勝者という事は、スカイはクロさんの妹には……」
「私は参加していませんよ」
『えっ!?』
「何故エフさんまで驚かれるんです」
「だってクロさんの妹ですよ?」
「……うん……妹なんだよ……?」
「……確かにそうですけど」

 なんでバーガンティー殿下達は俺の妹だとスカイさんは参加する前提で、スカイさんまで「そう言われると……」みたいな反応なのだろう。俺の妹ってなんなのだろう。

「というか僕やヴァイオレットが居る時点でおかしいと思ってよ」
「シルバさんも妹になりたいものかと……」
「……うん……普段から……可愛いから……ついに……」
「どういう意味!?」

 この二人は色々と素直で心配になるな。可愛いと評してはいるが、グレイの様に邪気が無い言葉と言うべきか。だから余計にシルバは困っているのだろうが。
 あとシルバと殿下達が親しげに話せているのは……まぁバーガンティー殿下は誰とでもある程度仲良くなれる性格だし、フューシャ殿下と仲良くなっているのは……色々と周囲から言われて居た者同士でシンパシーでも感じたのだろうか。

「僕だって男らしくなるよう鍛えているのに……」
「申し訳ありません、シルバさん。無神経な事を言ったようです」
「……ごめんなさい……」
「構わないけどさ……」

 そして邪気の無い言葉にシルバは落ち込み自身の二の腕辺りを触っていた。頼れる男になるよう筋肉をつけたいと思っているのだが、上手くつかない感じなのだろう。
 メアリーさんに少しは意識されているとはいえ、あの面子の中では一番の小柄なので気にしているのだろうが……色んな相手に格好良いではなく可愛いと評されるのは、もっと別の所にあると思うのだが。

「あはは、そういえば今日はどうしたの? 二人でお散歩?」
「いえ、今日は学園生は自由日であり、私にとっても最終日なので貴女を誘おうかと思ったのですが……」
「……宿泊場所に行ったけど……見つからなくて……」
「おー、良いね。じゃあ皆で遊ぶ?」
「う……うん……皆で……遊ぼう……!」
「おー、エフちゃんが意気込んでいる! 黒兄や先輩達もどう?」
「僕は別に良いけど……」
「私も構いませんが……」
「……わ、私も……?」
「黒兄達は?」
「俺は一応領主の仕事があるから無理だ。ヴァイオレットさんは……」
「折角の誘いだが、私はクロ殿と一緒に居る。学生同士で楽しんでくると良い」
「そっか。じゃあさ、これから――」

 クリームヒルトの誘いに、皆々が俺やヴァイオレットさん以外は戸惑いつつも了承する。
 デートの誘いに近いモノに一緒に居て良いのだろうか、というような複雑そうなものだが、フューシャ殿下の事情を知っている組が“フューシャ殿下は皆と遊ぼうとしている”という事に協力しようとしているようにも見える。

「じゃあ俺達はここで……」
「あ、その前にクロさん。少しだけで良いのでお時間よろしいでしょうか? ちょっとお話したい事が有りまして……」
「え、はい。構いませんがどうされました、バーガンティー殿下?」

 俺とヴァイオレットさん、そしてスカーレット殿下はここで皆と別れようとしていると、その前にバーガンティー殿下が思い出した、というよりは最初の目的を果たそうと俺に話しかけて来た。
 なんだかとても重要そうな話をしたそうに見える。

「クロさんとだけお話をしたいので、少々お借りしますね、ヴァイオレットさん」
「私は構いませんよ。ごゆっくりどうぞ」
「ありがとうございます。すいません、皆さん。遊びに行くのは少々お待ち頂けますか?」
「あはは、良いよー。その間唯一の男子であるシルバ君を女子達でイジってるから!」
「僕に恨みでもあるのか!?」
「えー、でも男の子扱いして欲しいんでしょ?」
「そういう意味じゃない!」
「ほらほらー、ハーレムだよ! 友達と友達といえるかどうか微妙な間柄の異性に囲まれると言う、陽キャじゃなきゃ空気に徹するしかないような気まずいハーレム空間だよ!」
「よ、陽キャ……? 確かに気まずいけど……!」
「ですが逃げると男が廃るというやつですね」
「……ええと……囲めば良いの……?」
「……ハーレムの中に美少年。……うん、良いね。でも私は遠くから眺めたい。けどシチュエーションのために私も囲むよ」
「なんで皆で包囲網を築くの!?」
「カバディカバディ!」
「……そこまでにしておけ皆。特にクリームヒルト」

 俺達が少し離れようとすると、シルバが変わらずイジられていた。
 頑張れシルバ。だけどかつての敵であったヴァイオレットさんが唯一の味方をするという感動的なシチュエーションだ。その幸福を存分に味わってくれ。
 とは言えあまり行きすぎるようなら注意はするが……まぁアレはシルバ自身も分かっているようだから大丈夫な範囲か。行き過ぎそうだったらスカイさんが注意はするだろう。

「なんでしょうか、私に話とは」

 ヴァイオレットさん達から話が聞こえなくなるほど距離をとり、俺はバーガンティー殿下に用件を聞く。

「話と言いますか、相談と言いますか……」
「相談となると、クリームヒルトの件ですか?」
「……はい」

 煮え切らない言葉を言うバーガンティー殿下に俺が予想すると、バーガンティー殿下は顔を少々赤くする。年齢相応の恋する少年、という感じである。
 こういうのを見ていると応援したくなってしまう。それにクリームヒルトもなんだか好感触の様に見えるし、頑張ってもらおう。

「俺で良ければ相談には乗りますよ。以前のようにどうぞお話しください」
「いえ、今回は以前とは違いまして。自分でも卑怯だと思うのですが、今日を逃したら首都に戻り聞く機会がなくなるので、どうしても聞かずにはいられなくなりまして」
「どうしても、ですか」
「はい。クロさんは前世でクリームヒルトさんのお兄さん……だったんですよね」
「はい、そうですね」

 バーガンティー殿下とフューシャ殿下には俺達が前世の記憶があり、前世での兄妹であった事は話してある。
 ハクさんの外見の事で、あの姿が前世のクリームヒルトの姿であると話したのでその際に話したのだ。話した時は驚いてはいたが、先程の様子とかを見る限りではそこまで気にしても居ないようである。
 だが、その言い方だとクリームヒルトに関する事で俺が知っている特別な事を知りたい、という事だろうか。
 だが俺が知っている情報となると……クリームヒルトが好きな服装とかだろか。燕尾服に白い手袋の格好が好きと話せば良いのだろうか。

「彼女の初恋の相手……に関してです」
「え」

 え、初恋?

「以前、彼女の初恋の相手の名前を聞きまして。ただその時は盗み聞く形になってしまったので、忘れようとしていたのですが……どうしても気になりまして」
「は、はぁ……」

 クリームヒルトの初恋の相手って……誰だ?
 幼少期の先生とか、中学の先輩とか、高校の部活の同級生とか……だろうか。
 けどアイツが初恋というか恋をしていたら分かると思うのだけど……実は俺が気が付かなかっただけだったり、俺の死後に恋でもしたのだろうか。誰かと付き合う事は無かったようだけど……

「分かってはいるのです。彼女は魅力的な女性。彼女に恋をする者も居れば、逆に恋も多くするでしょう。そして……初恋というのは、時に苦くも印象的な恋になります。今私自身絶賛味わい中です」

 うん、俺も絶賛味わい中だよ。とても幸福だよ。

「彼女の初恋相手はとても波乱万丈な人生を送っているというのです。そんな……」
「初恋の相手を聞くなんて不躾であるとは理解しているけれど、初恋の相手よりも素晴らしい男だと思ってもらうためには、相手を知らなくてはならない。という事でしょうか?」
「……はい。格好良い事でないとは分かっては居るのですが……」

 けれど気になってしまう。
 あくまで予想だが、初恋の相手の簡単な情報は知っているが、どういったタイプの男かは分からない。そしてどのようなタイプの男が好きか分かれば、それを目指してクリームヒルトに好印象を持たれたい……という所か。
 気にし過ぎであろうし、バーガンティー殿下はバーガンティー殿下の良さがあるので下手に真似をしても意味は無いと思うが……まぁ気になって仕方がないのだろう。

「良いですよ、答えられるのなら答えましょう。勿論クリームヒルトには内緒にしますので。ただ……」
「ありがとうございます。ですが、ただ、なんでしょう?」
「……いえ、情けない話ですが初恋の相手が誰か分からなくて。アイツが誰かに恋していたなんて……」
「そうなるとクロさんと前世で別れた後に恋したか、今生での出会いなのでしょうか……? ですがあまり聞いた事のない発音の名前だったんですよね」
「名前を聞かせてもらっても良いですか。聞けば分かるかもしれません」
「はい。ええと……」

 聞いた事のない発音という事はやはり前世での日本の名前なのだろう。
 俺も出来るだけ答えようと、クリームヒルトの好きそうな相手の心当たりを頭の中で探す。……一番可能性があるのは高校の部活友達のあの子だろうか。それとも――いや、まずは名前を聞くか。
 そう思い俺はバーガンティー殿下から言われる名前を聞こうとし、

「ク〇ウ・シンイチなる男性だそうです」

 その言葉に頭を痛めた。
 ……どう説明しよう。

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