追放された悪役令嬢と転生男爵のスローで不思議な結婚生活

ヒーター

書いた本物


「まぁ俺の事はともかく、今はこの扉の事だよ」

 シュイが俺の代わりをしている件は置いといて、今はこの扉……影に関してだ。
 この場所は以前、昔シキでモンスターの研究をしていた研究者が活動していた施設の場所だ。
 その施設自体は発見後俺やカナリアといったメンバーで探索したが、自爆装置で自壊した。その後片付けをし、放置していた。

「封印された場所と聞いて、ふとモンスターを研究していたこの場所を思い出してな」
「で、一応確認をと思ってきたら丁度あの時だったと」
「そういう事」

 勿論エクルの向かった先という情報もあったのだが、モンスター関連で思い出すと言ったらやはりここであった。
 そして当たっており、エクルが身を犠牲にする所であったので思い出せて良かったと――うっ、研究施設……探索……触手……全身を絡められ……駄目だ、思い出すな。思い出すと俺が苦しむ事になる。

「どうしたの、大丈夫?」
「大丈夫だ。ともかく、エクルはこの場所を知っていた。何処まで知っていたかは分からないが……」
「少しでも知っている者が居るなら、見逃したという恩を作って協力させるつもりって事?」
「恩を作った気はないが……まぁそういう事になるか」

 エクルが陰で手に入れた情報が役に立つとは思うのは確かだ。それを後ろめたさを利用して聞き出し、情報収集役として利用する、と言うのも良いかもしれない。当然シキの皆が許したらの話ではあるが。
 というか詳しく話していないのに見破って来るシアンが怖いな……いや、これくらいは普通なのだろうか。状況的に予想できる事なのかもしれない。

「じゃあさ、一つ聞きたいんだけど」
「なんだ?」
「なんでエクル君はこの扉の事を知っていたん?」
「と言うと?」
「この扉は危険だと知っていたから、エクル君は事前に来てどうにかしようとしていたんでしょ」
「そうだな」
「エクル君はなんで“今”危険だと思って、このタイミングでそれを実行したのかな、って」
「それは……」

 それはこの時期が封印の前哨が起きる時期であるからだ。
 あの乙女ゲームカサスのルート通りに進めば起きる事象イベント。その事を把握していたが故にエクルは行動をした。
 だけどその説明は難しい。どう説明して良いモノか、と一瞬悩んだが、ここは無難に分からないと答えた方が良いと思い答えようとする。

「そもそもローちゃんの戦力を削いで調査団を向かわせるきっかけを作ったり、この影の対処方法も知っていたっぽいよね」

 しかし答える前にシアンは自身の言葉を続けた。

「クロの様に過去の研究結果みたいなものを持っていたのなら分かるけど……メアリーちゃんを幸福にするために、行動した。けど、行動がまるで未来を知っているかのような行動ばかりなの?」
「考え過ぎじゃないか、と言いたいが、何故そう思うか聞いても良いか?」

 シアンの予測……いや、この場合はなにか確信めいたものを感じた。
 むしろ今まで感じてはいたのだが、敢えて深くは聞かずにいた事。鋭いシアンならば持ち前の洞察力があれば、俺達に追及すれば何故俺達がそういった予測が出来たのかを知る事が出来たがしなかった事。
 それを今シアンは聞こうとしているのだろう。
 俺は何故そう思ったのかを順に聞いていって、もし誤魔化しがきかないようであればあの乙女ゲームカサスの件を話そうと思っていた所で。

「メアリーちゃんがイオちゃんを退学に追いやった、という所が最初の違和感だけど……。…………」
「どうした?」
「……クロ。質問に質問で返して、さらに質問を返すようで悪いけど、聞いて良い?」
「なんだ?」

 シアンは先程までとは少し違う声色で質問の前置きを言ってくる。
 このような前置きをするという事は真剣なモノなのだろう。大切な友人であるシアンに対し、俺はどんな事であろうと真面目に回答しようと思い、心を引き締める。

「クロが今まで言ったイオちゃんを惹き付けた言葉は、書かれたモノではないクロにとっての本物だった?」

 そして聞いて来た質問は、そんな質問であった。
 先程までエクルに関して言っていたにも関わらず、突如俺を対象とした質問であり。
 さらには扉とか未来予測行動とも関係のない質問。
 しかし質問に含まれる“本物”という言葉の中には、シアンの中で特別な意味が含まれているのが分かる。
 同時に“未来予測行動”と“扉”の質問の延長線上にこの質問はあるものだと、シアンの声色と表情から予測が出来た。

――シアンは俺も……俺達が、なにを持って行動しているのかを勘付いている。

 何処まで正確に予想しているのかは分からない。
 ゲームとかまでは予想できるとは思えないが、この質問は俺達にとって“ヴァイオレット・バレンタイン公爵家令嬢”がどのような認識から始まったかを理解しかけているからこその質問だ。
 でなければヴァイオレットさんに言った言葉を“書いたモノ”なんて表現はしないだろう。

「……そうだな、内心で色々と思ったのは確かだが」

 このような質問をする、気付いたキッカケは今回の騒動か、エクルの行動ゆえなのか。
 気になりはするが、俺が答えるべき回答はこうだ。

「俺が言った言葉は確かにヴァイオレットさんが好きだから自然と出た言葉だよ」

 初めはどうであれ、出来事イベントについて思う事は有りこそすれ、“書かれたモノ”を利用した事も有るが、どう思ってどう行動したかは俺の判断であり俺が見出した言葉だ。そこは本物と言っても問題はないだろう。

「ふーん、なら良いや」
「良いのか?」
「良いの。ここで“なら証明しろ!”とか言ったら、惚気とかどこが好きだとか私に延々と力説するつもりでしょ」

 何故分かった。
 流石は洞察力に優れたシアンと言った所か。

「それに、今の答えでエクル君とかが扉について知っていたかが分かった気がするし……あ、でも」

 シアンは俺の回答でエクルの未来行動に関して理解を得ると、ふとなにかに気付いたかのような仕草をとる。
 俺はその行動に疑問を持っていると、俺の方へ身体を向けて俺の顔をジッと見て来た。……なんだ?

「クロの言っていた言葉が本物なのは分かったけど、想いは本物なの?」
「どうした急に」
「クロはイオちゃんを愛しているのかって事」
「愛しているに決まっているだろう」
「即答かい」

 なにを突然当たり前の事を言っているのだろうか。
 雪が降れば寒い、というほどには当然の帰結ではないか。そんな事も分からないと言うのか。
 愛しているという言葉は言うのは恥ずかしいし、多く言葉にすると軽くなるとは思うが何度か口には出している。なにせ留めていたら溢れるからな!

「でも本当に愛しているんだよね?」
「当たり前だ」
「イオちゃんを愛している、と。ふーん?」

 先程からシアンはなにを言いたいのだろう。
 あまり疑われるのは気分が良くないのだが。

「愛しているんだね?」
「愛している」
「本当に愛している、と」
「本当に愛している」
「愛しているんだね!」
「愛している」
「聞こえない!」
「愛している!」
「クロはイオちゃんを愛していると!」
「俺はヴァイオレットさんを愛している!」
「ワンスモア!」
「俺はヴァイオレットさんを愛している!!」
「イエス!」
「イエス! ……じゃない」

 疑われた事に少しむっとしたせいなのか、シアンの大きな言葉に対して負けない様にしたせいなのか、少し大きめに声をはってしまった。
 いかんいかん、大声を出してしまってはグレイを起こしてしまったり、メアリーさん達の会話の邪魔をしてしまう可能性がある。というか聞こえただろう。
 大事な話中に大声を出してしまい申し訳ないとメアリーさん達に仕草で謝ろうとすると――

「……あ、ありがとう、クロ殿。とても嬉しいのだが……大声で言われると、その……」

 ヴァイオレットさんが、居た。
 顔が赤いのは寒いせいなのだろうか。あるいは別の理由だろうか。
 ……………………うん、とりあえず。何故ここに居るのだろうかとか、後ろに居る俺をニヤニヤと見ているクリームヒルトが何故血に塗れているのかとか、何故か居るスカーレット殿下が落ち込んでいるのかとか疑問はあるけれど。
 とりあえず確認しないと駄目な事があるな。

「シアン」
「なにかなクロ殿」
「お前がその呼び方で呼ぶのはやめろ。……知ってたな?」
「なにを?」
「ヴァイオレットさんが近くに居たの」
「うん、当然だぜ」

 そのサムズアップやめろ、腹立つ。

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