追放された悪役令嬢と転生男爵のスローで不思議な結婚生活

ヒーター

目の前でするな!by紺(:偽)


View.メアリー


 私がシアンに追いついた時には既にシアンと神父様の姿をした相手をシアンが詰め寄っており、逃げようとしたので一旦私達が囲んで動かないようにした所。

「神父様……こうなっては逃げられません。ですが最後に口づけを!」
「ああ、分かったシアン!」

 と、私達の前で熱い大人なキスをしようとしたので、

「やめなさいコラ!」

 とシアンが叫んだ後、今まで見た中でも一番早い動きで間に割って入りました。
 その後も相手はどうにか愛し合おうと抵抗し、相手は普段こちらのシアンだと動きのお陰で見えない所も見えそうになり……というか「愛し合うのを邪魔しないで」と言わんばかりに見せつけようとしたりしました。
 流石にこのままでは埒が明かないと思い、相手が誰だか分からない中で申し訳ないのですが私達も捕縛に周り、錬金魔法で簡易的に作成した紐で手を後ろに結んで拘束させて頂きました。拘束が完了する頃には雪も止んでいました。

「ぜー……はー……で? 貴方達は何者なの?」

 そしてシアンが疲れや興奮が混じった表情で、どうにか自身を落ち着かせようとしながら相手に聞きました。

「何者か、と問われても……こんな扱いをしている相手に言うと思う? というか、コットちゃんやレイちゃんはなんでそっちの味方なの!?」
「え!? な、何故シアン様によく似た御方が私めの呼び名を……? ま、まさか私めの視界が防がれている間に、入れ替わって……!?」
「弟子よ、落ち着け。我達と居たのは縛られていない方のシアンさんだ」
「私もシアンだって! そうですよね、神父様!」
「ああ、勿論だ。それに俺もこうして縛られている理由が分からないのだが……そちらのシアン? は俺達になにか恨みでもあるのか?」
「その格好良いお顔と声を私に向けるな偽者め!」
「神父様の格好良さはいつだって本物であり最高でしょうが!」
「シアン!? 言って貰えるのは嬉しいが――」
「それは認めるけど!」
「こっちのシアンも!?」
『ええい、私がシアン・シアーズだ! ……マネするな!』

 ……なんでしょう、ややこしくなってきました。
 声がまったく同じなので、もしも同じ服で並ばれたら見分けがつかない程です。間近で見ると雰囲気まで似ていますし……シュイやインの様な“なにか違う”が有りません。

「ど、どうするべきなのでしょうアプリコット様! ――はっ、ここは両者が神父様を引っ張りあうというやつをするべきなのでは! 愛を試すというやつです!」
「落ち着いてくれ、弟子よ」

 大岡裁きですか。……シアン同士がやったら神父様大変な事になりませんかね、それ。
 実際にやったら神父様に危害を加えられないといってすぐに放すか、折角掴んだ手を離したくないというか分かりませんが。

「弟子よ、これは一つの試練なのだ」
「試練、ですか?」
「そう、今シアンさんは岐路に立たされているのだ。己が似た存在と会う事で、己が存在と向き合うという岐路にな!」
「そ、そうなのですか!?」
「うむ、我は汝、汝は我。互いと同一存在の会合という一世一代の状況なのだ!」

 え、ペル〇ナですか?
 もしや自身の受け入れがたい側面が顕現して、受け入れないと暴走する敵なアレですか?
 ……ですが言っている事は同一存在っぽい感じですし、自身の見たくない黒い部分という事はないですね。……先ほどの色々な未遂は置いておきますが。

「どう思う、メアリー?」
「汝、己が双眸を見開き、今こそ発せよ……」
「急にどうした。……ああ、目を逸らすなと言いたいのか」
「違います。ええと、なんでしょうかヴァーミリオン君」

 私はつい思考につられて言葉が出てしまいましたが、気を取り直して小声で聞いて来るヴァーミリオン君に対し小声で問い返します。

「あの偽物達についてだ」

 偽物。
 なにをもって偽物と評するかは曖昧ですが、この場合では、ヴァーミリオン君は今縛られている相手を“よく似た境遇と外見の他人”ではなく、“シアンや神父様に化けている”という風に考えている訳ですか。

「なにか思い当たる節はあるか?」
「そうですね……」

 思い当たる節……と言われると、想像つくのはやはりお師匠様絡みでしょうか。
 なんかやりたかったからやった。思いついた事をやってみた。のノリで凡人が数十年かけて出来るかどうかな代物をあっさりと実現させる方です。
 それでインとシュイを生み出したり、女体化するような方ですし。ですので……

「シアンと神父様のDNAを採取して、同一存在と言えるクローンを作った、という感じでしょうか」
「ディーエヌエー?」
「あ、えーと……いわゆる遺伝子です。身体の設計図の事ですね。ともかく、そしてクローン同士子供が出来たらどうなるか、みたいな実験をしていたとか……」
「倫理面と技術面で危うそうだが……」
「お師匠様ならやりそうなんですよね……」

 実際にやっていたら止めますし叱責しますが、やったとしたら“いつかやると思っていました”としか感想が出て来ないお師匠様ですし。……悪い方では無いので、しないとは思いますが。……思いたいですが。
 ……それになにもしてない今の状況が不安になるくらいですし。

「ヴァーミリオン君はどう思います?」
「俺は……例の影ではないかと思うのだが」
「影、ですか」

 先程話そうとして話せなかったやつですね。
 ヴァーミリオン君には教会の地下(あまり思い出したくない部屋です)で説明はしましたが……それと関係すると見ているのでしょうか。
 しかしあのモンスターはそういったモノとは違う存在です。

「ですがアレは封印されたモンスターに化けるもので……化ける?」
「そうだ」

 私は自身の言葉の途中で自身の言葉に引っ掛かりを覚え、ヴァーミリオン君は私の引っ掛かりが正しいモノかと言うように肯定の意を示しました。

「まさか……いや、でも……」

 そして私は否定はしきれませんでした。
 カサスにおける、封印の緩みの影響の一つとして出てくる影モンスター。正確には魔力の塊。
 模倣魔物ドッペルゲンガーのような存在のそれは、封印された大型竜種ドラゴンの影響を多く受けるためドラゴンの姿になります。ですがあくまでも影響に過ぎないので、強さも大きさも本来のドラゴンほどではありません。
 そして……

「もしも影響を受けた存在が、ドラゴンではなく特定の誰かなら……」
「あのようになる可能性もある……とは思えないか?」
「……有り得ますね」

 というよりはそうとしか思えなくなってきました。
 当然決めつけは良くないのですが、答えとして見るには充分と言え――あれ、待ってください。

「仮に彼女が影として、もしそうだとするならば……」
「どうした?」

 もしも今もどちらが神父様を素晴らしく思っているかと言い争っておるシアンに似た彼女が影だとして、その影響が出ているという事は影が外に出ているという事です。
 つまりそれは私達が今探している――

「――と、雪が降ってきたな」
「え? ……あ、本当ですね」

 私がある結論に辿り着こうとしていると、ヴァーミリオン君の言葉に思考が遮られました。
 降っている雪は先程のような吹雪ではなく、しんしんと降っているような雪です。……綺麗ですが、降るのならば行動を変えないと駄目ですね。

「シアン、そろそろ――」

 言い争うよりはもっと別の方法で解決するか、一旦保留にして捜索を開始しようかとシアンに声をかけようとした所で。

「ぐ、うぅううううぅうぅぅぅうう!」
「――え?」

 シアン……シスター服を着て縛られた方のシアンが、何故か苦しんでいるのが見えました。
 呻き声を上げ、身体は黒い魔力に覆われて――いえ、これは黒い魔力というよりは、

「影――!?」

 そう、まるで影のような存在が、縛られたシアンの周囲に漂っていました。
 いえ、アレは集まっていると言えるような漂い方です。一体なにが――!?

「――皆様、その影から一斉に離れてください!」

 そしてその言葉が聞こえました。
 その声は私達が探していた相手であり、疑いをかけている相手。

「エクル!?」

 エクル・フォーサイス先輩。
 白い髪に眼鏡をかけた、私達の頼れる先輩。
 その先輩が私達の前に突然現れ、離れるように告げます。そしてその言葉に咄嗟に従い、縛られたシアンから距離をとります。ヴァーミリオン君だけは縛られた神父様を抱えて距離をとりました。

「ヴァーミリオンくん、その神父様も離して!」
「エクル、お前なにが起きているのか分かるのか!」
「良いから離してください!」
「っ――」

 ヴァーミリオン君は混乱しつつも、抱えた神父様を縛られたシアンからも距離をとった所で怪我をさせない様に丁寧かつ素早く放します。
 放すと神父様からも距離をとり、私の傍に庇うように立ちました。
 そして再びエクル先輩に問いかけようとした所で、

「シアン!!」
「おい待て!」
「ヴァーミリオンくん、あのスノーホワイト神父は偽物だ。それに下手に手を出さない方が良い!」

 神父様が縛られた状態でシアンへと駆けて行きます。
 それを見てヴァーミリオン君は神父様を止めようとしますが、エクル先輩によって止められました。

「っ――分かっていても同じ顔の方が――エクル君! 貴方、状況分かっているんでしょ、説明して!」

 自身ではなく、縛られているシアンに駆け寄る事に、偽物だと分かりつつも何処か苦しそうにするシアンは気を紛らわせるようにエクル先輩に問いかけます。

「詳細は省きますが、彼女は対象に変化できる魔力を持ったモンスターの一部です!」
「一部? という事は他にもあのような存在が?」
「ええ、そうだよメアリー……くん。そしてその他の魔力が討伐されてこの場所に戻って来た! その行き場のない魔力が何故か彼女に集まっている!」
「集まっているとどうなるの!」
「分からない。だが、下手に手を出すと良くない事が起こるのは確かだ。抑える事に集中するべきなのだが、今は暴走しているから抑えれない。どこかのタイミングで抑えるべきなんだが……」

 抑えるべきだが、今はその時ではなく下手に手を出せば逆に荒れてしまう。
 続きの言葉は発しませんでしたが、今目の前で起きている事を考えればそう言おうとした事は分かりました。
 ……何故そのような状況などを知っているのか。という問いは、今はするべきでは無いでしょう。
 今は目の前の状況に集中すべきで――

「シアン、落ち着いてくれ! そんな魔力に負けるな!」
「神父様……どうか、私に触れてください……そうすれば……!」
「ああ、こうか!」
「もっとです」
「こ、こうか!」
「もっとです!!」

 集中、すべきで……

「もっと近寄ってください抱き着いてください! 貴方の温もりを感じないと、この魔力には勝てないのです! へいカモン! 胸に飛び込んできてください! 彼氏なんですから遠慮なさらず!」
「わ、分かった! ――行くぞ!」
「あっ……神父様、激しい! 好き!」
「お、俺も好きだぞ!」
「私の胸がですか! イオちゃんほど大きくないですが……!」
「胸だけではなく、シアンの全てがだ!」
「私もです!」

 …………。

「本当に放っておいて良いんだよね! こうなると分かって距離をとるよう言ったんじゃないよね! そうだよねエクル君!」
「すみませんこうなるとは思ってもいませんでした!」

 シアンの顔の赤いツッコミに、エクル先輩も顔を赤くして返答しました。
 ……この化けている(?)両名は影が暴走した故にこうなっているのでしょうか。案外本人もそうなのでしょうか。出来れば前者だと信じたいです。

「…………我はどうすれば……!」
「?」

 そしてこの状況でグレイ君の目を塞ぐべきなのか。と、アプリコットは苦悶の表情になっていました。
 グレイ君はよく分からずにいましたが。どうも仲良く抱き着いているようにしか見えていないようです。

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