追放された悪役令嬢と転生男爵のスローで不思議な結婚生活

ヒーター

寒いのに暑い(:偽)


View.メアリー


 雪が降っている。

 雪が降る前に雷が鳴り響き、その音を聞いてシルバ君が怖がっていないだろうかと心配をしつつ。私達五人は木々の間を歩いていました。

「吹雪いてきましたね」
「そうだな。メアリー、この――」
「私が寒いだろうと思って上着を脱いで掛けようとするならば、私はお礼に全力で私のスカートを履かせますからね」

 私が吹雪いて来た事を告げると、ヴァーミリオン君が制服の上から羽織っているコートを脱いで私にかけようとしたので、私は自身のコートの上からスカートに手をかけようとするとヴァーミリオン君は大人しく引き下がります。
 気持ちは嬉しいのですが、動き辛くなりますしヴァーミリオン君が冷えては意味がありませんからね。

「何故メアリーは偶に分からん方向に全力を出そうとするんだ……」
「私自身の防寒対策は大丈夫という事ですよ。それに私が暖まってもヴァーミリオン君が寒くなったら私の心が寒くなります」
「……偶には俺にも格好つけさせてくれ。俺が寒くなる事よりも、お前の身体が冷える事の方が耐えられんのだ」
「? ヴァーミリオン君はいつも格好良いのですから、わざわざ格好つける必要が無いのでは?」
「…………。そういう事を言うのか。いや、だが格好は付けたいのだ。男児たるものな」

 そういえばこういう時は男を立てて素直に厚意に甘んじるべきだ、と言うのを聞いた事がありますね。……言っていたのが神父様に対して恋が叶って居ない時のシアンなので信憑性は曖昧ですが。シアンもその時が来たら神父様を心配して断りそうですし。
 あとヴァーミリオン君の顔は赤いです。やはりヴァーミリオン君も寒いのですね、断って正解ですね。

「顔が赤いぞ第三王子サード殿下アリア? 普段は強気の癖に、責められると弱いのだな」
「ニヤニヤするなアプリコット生徒会役員候補」
「ふむ、照れているを否定はしない所は好感は持てるな――って待て、なんだその情報は。初めて聞いたぞ」
「お前は優秀であるから学園長先生も入れるかもしれないという話が上がっていた、という事だ」
「ほう、あの学園長キング・ジョニーも見る目があるという事であるな!」
「……ジョニーという単語は何処から出てきた」

 ……それってグレイ君を入れるための……い、いえ。アプリコットは優秀ですからね。生徒会に入ってもおかしくは無いはずなのです。きっとそうです。

「……それと、お前はニヤニヤする余裕もなくなるぞ」
「む、それはどういう――」
「アプリコット様、失礼致します!」
「どうわっ!? な、なにをする弟子よ! ち、近いといういうか、抱き着き……!?」
「私めも上着をかけようとしたのですが、アプリコット様もメアリー様と似たような事を仰り断れると判断し、ならばお互いに脱がなくて良いように私めは温かさを共有するために抱き着きました!」
「や、止めるのだ! 歩き辛いだろう!?」
「あ、そうですね……失礼致しました……」
「あ――。少しくらいは……い、いや、今は良くない。良くないのだぞ、我……!」
「……ふっ」
「貴様、鼻で笑ったな」
「先程の仕返しだ」
「器が知れるぞ第三王子サード殿下アリア!」
「人の名をマトモに呼ばん奴に見せる器などあるものか」
「器が狭いぞ!」

 アプリコットはそう言うと杖で軽く小突こうとし、ヴァーミリオン君はそれを避け、「避けるな!」と叫ぶと今度は避けずに受け止め、杖を無刀取りのように奪い、取り返そうと躍起になっていました。
 これは……意外ですね。ヴァーミリオン君がこのような行動をするとは。いえ、幼少期に戻った……と言うような感じでしょうかね?
 ともかく先程の抱き着き、照れ、後悔へのコンボも含めて私が思う事があるとすれば……

「尊いですね……」

 という事か。
 彼らを見ていると、先程までエクル先輩……淡黄シキさんを探そうと色々駆けずり回っていた時のような切羽詰まった感が薄れます。ヴァーミリオン君達が追いかけてくれたお陰で、会う前に心の余裕が出来ました。……まぁ見つけなくては意味が無いのですがね。

「……私はイチャイチャを見せられて複雑……いや、尊いのはなんとなく分かるけどね」

 そして追い駆けて来たのではなく、途中で温泉にて合流したシアンはなんだか胸焼けがするとでも言いたげな表情で呟きます。いつものシスター服で無いのが新鮮です。ついでにスリットが無いのも新鮮です。

「神父様と帰ったら思う存分イチャイチャすればいいじゃないですか」
「したいに決まっているでしょう! ハッキリ言うなら温泉上りにメアリーちゃん達に会っていなかったら、こっそり教会に侵入したかったのに!」

 侵入してなにをする気なのでしょうね。ですが聞いてもあまり良い返事は聞けなさそうなので、聞かないでおきましょう。
 それに今は下手に関わらない様にと、シアン・シアーズはシキの外に出ている、ということになっていますから、変に戻れないのも分かっていますし。

「侵入してどうするのですか、シアン様?」

 くっ、天然は強いです。物怖じせずに聞きました。

「………………なにをすれば良いんだろう。なにをすれば神父様喜んで貰えるんだろう」
「考えて無かったんですか」

 ある意味シアンらしいですが。多分会いたいという気持ちしかなかったんでしょう。

「神父様、多分寝ている所に薄着で侵入しても、“風邪ひくよ? あ、眠れないのなら温かいモノでも淹れようか?”と言うだろうし」
「いえ、流石にそこまでされれば神父様も――」
「ああ、二年前のシアンさんの誕生日一週間前のヤツか……」
「あったんですか!?」
「うん、あった。夜ずっと話せて楽しかったよ!」

 シアンにとっては良い思い出なんですかね、それ。満足そうならば良いのですが、それだけでも嬉しかったんでしょうね……

「であるが、それは二年前の話であるぞ。今は好意アムールを自覚し、恋人クピードなったのであるから、違った反応エロースを見られるのでは?」
「……ねぇリオン君。寝間着で透ける様な薄着と冬用のモコモコな女の子っぽい可愛い服とどっちが男性は喜ぶ?」
「そのどう答えても俺が変態にしかなりかねない質問をやめろ。あの神父なら厚着で安心させた方が会話にも集中出来、行動にも移しやすいだろう。下手に薄着だとお互いに緊張で話せなくなるし、まだお前らには早かろう」
「成程、確かに!」
「というか答えるのだな」
「恋の駆け引きに対する辛さは理解しているつもりであるからな。質問されれば答えるさ」
「私めも分かります! 好きな気持ちは私めの心を躍らせるのですが、同時にふとした時に常に考えてしまい、思考を占領されて困る事が私めも有りますから!」
「弟子!?」

 グレイ君が強いです。駆け引きもなにも無いど真ん中ストレート。何処かのシゲ・ノゴ〇ーさんレベルの真っ直ぐ一本です。……個人的には寿吾派です。懐かしいです。淡黄シキさんは確か――

「よく分かるぞグレイ! 常に思考を惑わす気持ちは捨てるべきかと悩む。だが失う事の方が辛く、会っている間は辛さ以上の幸福が得られるからな!」
「ヴァーミリオン君!?」
「私めも同様です!」
「で、弟子、止めぬか!」

 く、こっちもストレートです。火の玉ストレートです。
 ちょっと昔の論争を思い出していたなかであったので、防御無しに受けてしまいました。

――……落ち着きましょう、私。落ち着くんです……

 と、そのような会話をしつつ、私達は内心で落ち着こうとしながら歩き続けます。
 先程までは走っていたのですが、流石に雪道や吹雪いている中走るのは私はともかく追いかけてきた皆さんが危険なので(特にグレイ君達)、安全を考慮し歩いています。
 ……本当は今すぐにでも走り出したくはあるのですが……

「メアリー。焦る気持ちは分かるが、急いては事を仕損じる。気を緩めるべき、という訳では無く、適度な緊張感で事に及ぶべきだ」

 というヴァーミリオン君の言葉により、慌てずに淡黄(シキ)さんを探しています。
 確かに探し始めた時の気持ちで淡黄(シキ)さんに会ったとしたら、なにをするか分かりませんでしたからね……今も気を使ってくれているヴァーミリオン君には感謝しないと駄目ですね。

「今の会話は適度で済ませて良いのであろうか……」
「コットちゃん、ツッコんじゃダメ」

 ……まぁ内心ではアプリコットと同じ感想なのですがね。

「ふふ、ありがとうございます、ヴァーミリオン君。追いかけてくださったのもそうですが、先程も緊張をほぐすために冗談を言って下さりましたし、本当に感謝したりません」
「冗談……? いや、メアリーに言った言葉に冗談は一つもない、全て俺の本心だが」

 ……雪が降っている。

 そう、雪が降って寒いはずなのです。
 ですが今の私は何故か、寒さを感じず暑いくらいでした。
 ……何故でしょうね。

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