追放された悪役令嬢と転生男爵のスローで不思議な結婚生活

ヒーター

相容れない三人の意見が一つとなった(:淡黄)


View.クリームヒルト


「ああ、失礼。男性が居る中、女性の姿で裸体と言える姿を晒すのは駄目か。……うむ」

 目の前に現れた、前世の十八程度の私とよく似た姿をした女……影女は、惜しげもなく前世の私の裸体を晒しながら常識がある事を言う。
 そして私の後にスカーレット殿下を見て、再び私に視線を戻し観察すると、黒い影が覆われて私と同じ服、制服を作った着た

「うむ、これで良いかな、少年?」
「え、ええ……」

 影女は服を翻してエクル先輩に確認をとる。
 不審な相手なので視線を逸らさずにはいたが、見るのを躊躇っていたエクル先輩ではあるが、今なら見ても大丈夫だと判断したようだ。同時にどのように服を着たのかは不思議がっていたが。

「君達は先程から居るようだから見ているだろうが、この姿自体は私自身の姿では無くてね。溶け込む分にはこの姿形に似合うに越した事はないんだけど……似合うかな?」
「は、はぁ……似合うかと思いますが……?」
「そうかい、良かったよ。……ああ、だが当世風の女性のように着こなすのならパンツやブラ? なるものが必要なんだったか。見えなかったから上手く作れなかったんだが、どういうモノが当世風なんだろうか」
「スカート捲くらないでください、見えてます!」
「良いじゃないか。私の判断では美少女であり綺麗な身体だぞ。男としては見れて嬉しいモノだろう! 私だったら嬉しい」
「誰かの借りモノの姿ならその人に失礼ですから止めてあげてください!!」
「えー」
「えーじゃないです!」

 影女は履いていない状態で制服のスカートを捲くり、色々と見える状態になる。そして再びエクル先輩は慌てふためいた。
 エクル先輩は失礼だと言うが、その姿を借りているだろう過去の私は、似ているとはいえ裸体とはいえ別に私としては見られても構わないのだけど、あの姿のままだとエクル先輩が動揺しそうだったからなにも言わないでおこう。
 というかエクル先輩の前世って女性だったみたいだけど、今は男性だからどっちに興奮するのだろう。あるいは両方になるのだろうか。どちらにしろ前世で見慣れていたりしないのだろうか。

「それはそうと、貴女は何者です」
「何者もなにも、分かっていて君達は来ているのではなかったのか?」
「生憎と私の知っている情報とは違っているのですよ。貴女のような美しき麗人が出て来るなど予想外です。……大型竜種ドラゴンでも出て来ると思ったのですが」
「ドラゴン? そんな存在を迎え撃つのにこの人数なのか。舐めているのか、楽観的なのか。あるいは君達は相当な――ん?」

 影女は自身の身体をならすかのように身体を伸ばしたりしながら、エクル先輩との会話に応じている。
 そして私達を改めて見ると、なにかに気付いたように興味深そうに見始めた。

「ほう、これは奇妙な運命を追った者達だ。全員妙なモノが混じっている。……だが、そうなるとこの身体は一体なんなのだろうか」
「貴女は選んでその身体になったのでは?」
「生憎と私の性質はそんな便利なモノでは無くてね。運良く美少女になれたのは良いが……美少女だよね? 私の基準と今代の基準が違っているという事は無いよね? ね? そうだよね?」

 ……なんなのだろうか、この女は。
 突然現れて私の前世の姿になったと思ったら、自身の姿に自信を無くして私達に聞いてくる。しかも今代とか当世風とか言っているし、なんだか昔の人かの様な言い方である。

「そっちの男の子!」
「え、あ、そうですね。私が最も信仰するメアリー様には及ばずとも、私が見た限りでは最上級かと」
「別の女の名を出すのは良くないが、良いという事だね! そっちの小柄!」
「…………」
「無反応! そっちの赤髪!」
「……う、うん、綺麗……ね」
「やったね!」

 挙句には外見を気にし、影女は外見を褒められた事に対し、よっしゃとガッツポーズをして喜んだ。
 というか前世とはいえ私の顔でころころと表情を変えないで欲しい。なんか妙な感じだ。

「ともかく、私が何者かだね。答えてくれたお礼に答えよう――スカートを捲くった方が良いかい?」
「いらないんでさっさと答えてください」
「ふむ、たくし上げは今世には不評、と。じゃあ答えようか」

 たくし上げ云々は単純に場にそぐわないだけだと思うが。黒兄とか好きだろうし。

「私はこの地に居た――ん?」
「どうされました?」

 影女は答えようとすると、なにかに気付いたかのように扉……正確には開かれた扉の中へと続く中を見る。
 開かれた扉は先程のような妙な気配も黒い影も無いが――いや、

「ああ、これはちょっと面倒な事になったね」

 影女が扉の方へと視線を向けた瞬間、扉の中から湧き上がる圧力オーラが再び強まった。
 その気配に気付き、私達は再び戦闘態勢を取る――って、何故かスカーレット殿下だけは構えていない。何故か影女をずっと見ている。

「さて、私の復活に立ち会った少年少女。私の特性を説明しよう」

 影女は私達の事をあまり気にせず、扉を見たまま説明を開始する。

「私は対象とした相手の記憶を読み取って、対象の姿になる事が出来る。正確には“記憶にある期間が長い身体で過ごした身体”ではあるが、まぁ変異体のような姿形をころころ変える生物でも無ければそのままの対象の姿になる」

 ああ、だからその姿になっているのか。
 私にとっての最も過ごした記憶が長い身体は、二十五年生きたその身体だからその身体になったのか。

「まぁ昔はドッペルゲンガー、などと呼ばれた模倣……改造人間だ」
「改造……人間?」
「うん。その説明は追々ね。そして色々あって私は封印されたんだが、一緒に色々封印されたんだ。それがアレ」

 アレと言って指した先には、影……とは違う、靄の様なものが漂っていた。
 先程までより存在が曖昧というか……魔力がそのままそこにあるような感じがあると言うか……

「あ」
「あ? ……!?」

 そしてその靄のようなモノは、何処かへ飛び立った。
 霧散したや消え去ったのではない。文字通り何処かへと飛び立ったのだ。

「ええと、影……ドッペルゲンガーさん!」
「私の事はハクと呼びなさい」

 ハクと名乗った影女は、飛び去った靄を見て「やっぱりこうなったか」と言うような表情で頭を掻く。
 ……私ってあんな表情だったんだ。なんだか妙な感じである。

「ハクさん! 今の靄のようなものはなんですか!?」
「簡単に言えば、私の特性を持った魔力だよ」
「特性? ……つまり誰かを模倣する魔力ですか?」
「そういう事。時に君達、この近くに人里はあるかい?」
「え、ええ。ありますが……」
「どの程度の規模? 万人くらいは居る?」
「千にも満たしているか満たしていないかですよね、スカーレット殿下」
「…………」
「スカーレット殿下?」
「え、あ、うん。そうだね、そのくらいだったと思うよ」

 それにしても先程からスカーレット殿下の様子がおかしいのは何故だろうか。
 私は場合によっては問答無用でこの影女……ハクを消すつもりなので戦闘態勢だが、スカーレット殿下はなんだかハクをずっと見ていて心ここにあらずといった感じだ。……エメラルドちゃんを見ている時と似ているのは気のせいか。

「うーん、微妙な所か……」
「ハクさん。なんなのでしょうか。ハッキリ言って下さいませんか?」
「ああ、ゴメン。簡単に言えば、あれは長年私の影響を受け続けて特性を得た魔力――モンスターに寄生して私と同じような特徴に変化するモンスターだ」
「なっ――!?」

 ……寄生してハクと同じような特徴に変化するモンスター?
 それってつまり……あの靄に当てられたモンスターは、“対象の記憶にある期間が長い身体で過ごした身体になる”ドッペルゲンガーになるという事だろうか。
 そんな靄が飛び去ったとなると――!

「住民に化けるモンスターになるという事ですか!?」
「ああ。そうだ。とはいえ安心したまえ」
「なにを安心しろというのですか!」

 ハクは私達の方を見て、そこまで慌てふためいてない様子を見せる。
 他人事のよう……というよりは、慌てる方が事を大きくすると言いたげな余裕な感じだ。……元の自分の顔ながら、その余裕綽々な表情が腹立つ。
 というかなにを安心しろと言うのか。住民に化けるモンスターなど、油断した所を襲われれば大惨事ではないか。
 そんな事が起きたら黒兄が……!

「戦闘能力は模倣はしないんだよ。戦闘力も元々取り付けるような弱いモンスターよりもさらに弱くなるくらいになるんだ。まぁ街の住民の戦闘力に化けた所でたかが知れているだろうけど」
「ですが、貴女は戦闘力はありそうですが……」
「私は元だから、自我を持ってそれなりに戦闘力を有しているだけ。ただ面倒なのは対象をそのまま模倣するから、性格とかその辺りは対象と同じになるって事だけど……」
『えっ』

 え。

「まぁそこは犯罪者にでも化けない限りは大丈夫だろう。街に住まう住民ならば基本は善良だろうし。問題は私以外の全部を片付けるまで扉は開きっぱなしで、どんどん溢れてくるから誰かがここで押さえないとという事だけど――どうしたの、少年少女」

 性格は対象と同じになる。
 ………………………………………………うん。

『大変だ!?』
「おおう!?」

 黒兄が大変になるのも確かだが、別の意味でも大変になりそうである。

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