追放された悪役令嬢と転生男爵のスローで不思議な結婚生活

ヒーター

笑顔は本来(:淡黄)


View.クリームヒルト


 エクル・フォーサイス。
 短いが綺麗と言える天然の白い髪に、琥珀みたいに綺麗な黄褐色の瞳。
 私の一つ上の、眼鏡をかけた貴族の先輩。しかも伯爵家なので相当偉い。
 だけど身分を鼻にかける事は無く、私達平民相手だろうと基本優しい。が、優しさだけではなく、時には厳しくして甘やかさない。
 そして好きだと公言しているメアリーちゃんに敵対している相手には明確な敵意を示す。
 喜怒哀楽、飴と鞭、好意と敵意を適切に使う大人な先輩。
 勉学と運動も優秀。特に魔法に優れ、教師からの信頼も厚く、気配りも出来て生徒会の仕事も難なくこなす隙の少ない学園内外から人気のある先輩だ。
 そんな彼は剣と魔法の乙女ゲー“火輪かりんが差す頃に、朱に染まる”だと、攻略対象ヒーローの一人として攻略できるキャラである。
 攻略対象ヒーローの中では唯一の年上キャラであり、弟のように可愛らしい担当がシルバ君であるとすれば、反対に頼れるお兄さんのような存在。
 そういった役割を担っているせいか、スチルはお姫様抱っこであったり、頭を撫でたり、年上の包容力があるモノが多い。
 ただストーリーを進めていくと私室……私生活は結構だらしない事が分かり、主人公ヒロインが世話を焼くようなシーンが増えてくる。そんな主人公プレイヤーにだけ見せてくれるギャップが人気のキャラだ。
 ついでに言うと他の攻略対象ヒーロー達のルートが、王族の責務がありながら生まれに負い目を感じる王子や、力の暴走を秘めていたり、ルートに入ると親がモンスターに襲われ死んだりといった生死が関わる中、エクルルートは比較的平和であり裏が少ないのでファンの間では「癒しだ」「私を夢女子にするとは大したもんだ」などと高く評されている。……まぁ選択肢によっては普通に死ぬけどね。

――とはいえ、それはあくまでも乙女ゲームにおいてのエクル・フォーサイスだ。

 私の知るエクル先輩は、首都に来て多く見て、学園で近く接するようになった貴族の対応に対して割と嫌に感じていた頃でも、優しく接してくれた先輩だ。
 笑顔が眩しくて、ちょっとスチルっぽいなと思ってあの学園に来たのだと実感して、眼鏡が何故かキラーンとよく光って、色々と教えてくれた先輩。
 ……ヴァイオレットちゃんに対しての決闘の件に関してはあまり好きではないけど、それでも決闘の当事者の中では比較的優しい対応をしていたと思えた、貴族の先輩では好意的に思える先輩だ。

――エクル先輩が、仮面の男……

 そんなエクル先輩が仮面の男の可能性が高いという話を聞いた。
 メアリーちゃんの前世の知り合いで、メアリーちゃんを幸福にするために動いていた。
 そして恐らくメアリーちゃんも勘付いてはいただろうが、あの乙女ゲームカサスにおいてのストーリーをメアリーちゃんに歩ませるために行動している。
 ……もしかしたら私に話しかけて来たのは、思い返すと私が主人公ヒロインと同じ外見をしていたから、探りを入れていたのかもしれない。
 優しくしていたのも、色々と教えてくれたのも。メアリーちゃんがイベントを熟すのに邪魔にならないように遠ざけていたのかもしれないと思えてくる。

――今はどうでも良い。

 今重要なのは仮面の男がなにをしようとしているかを問い質すという事だ。
 そしてその問いただすべき相手がエクル先輩の可能性があるというならば私はエクル先輩を探し出し、問い付けるだけだ。
 ……なんでも、仮面の男はクリ先輩に「申し訳ない、この償いはちゃんとする」と、黒兄に伝えるように言ったそうだ。
 他にも以前から暗躍していたという話を黒兄から何度か聞いたが、その際にロボちゃんに危害を加えた。
 つまりそれは黒兄が捕まった原因を知っているのではないか。
 このシキでなにを成そうとしているのか。
 危害を加えたという事は、メアリーちゃんのためになら私なんかの友達になってくれている皆を傷つけることに躊躇いが無いという事では無いのか。
 メアリーちゃんも友達ではあるが、もしも――

――もしも。黒兄を傷つけるというならば。

 容赦はしない。
 シキを踏み台に、壊そうというのならば容赦はしない。

――二度とは失わない。

 だから私はエクル先輩を探して、情報を得て、駆ける。
 勘違いならそれでいい。むしろそうであって欲しいと願う。
 だが“あの時”の様に終わってからでは意味が無い。
 知らない場所で死んでいたなんていう馬鹿な事が起こらないように。
 遠くに行ってしまわないように。
 黒兄がせっかくビャクという呪縛から解かれ、シキの領主として幸福な結婚生活を送っていたんだ。
 それが失われてはいけない。
 だから可能性があるのならば私はかけようと思う。

――気付いた時にはもう終わっていた、なんて事が無いように。

 こんな私にもあった、誰かを思う少ない気持ちを守るために。

「――見つけた」

 とある場所で見つけて、声をかけ、エクル先輩は振り返る。
 同時に何故か隣に居たスカーレット殿下も私を見る。
 エクル先輩は驚愕と戸惑いが見える。
 スカーレット殿下は警戒心が見える。
 ああ、そうだ。こういう時は――

「あはは! エクル先輩、スカーレット殿下こんばんは!」

 笑顔を見せて、友好的に行かないとね!

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